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第一章~悪魔との同居~

自分の気持ち

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「あ、おい!」



悪魔から離れて一ヶ月。
幾度となく、社長の元にくる悪魔。
すれ違うたびに呼び止められるあたし。

後ろから呼び止められる、その声に振り向きたい衝動にいつも駆られる。
でも、振り向いてはまた同じことの繰り返しだと。



「なに、あれ?王子のこと無視?」


「王子を無視するなんて何様よ」


「いい度胸よねー」



お局たちの声が毎回聞こえる。

この人たちのすごいところは、あたしには聞こえるようにいうくせに悪魔には決して聞かせないこと。

こんなことに関心してる場合ではないんだけど。



「あ、心海」


「音哉」



あたしは一ヶ月たったいまも、音哉の家でお世話になってる。



「今日さ、残業だから先に寝ててな」


「わかった。残業頑張ってね」


「さんきゅ」



ニコッと笑って、あたしの頭を撫でて、歩きだす。



「今度は三課の恩田くんなんでしょー?」


「そうそう。うちの会社のイケメンハンターなのかしら?」



また聞こえてくるお局たちのそんな会話。



「イケメンハンターって……」



たまたまなだけで。
そんなつもりないし、音哉とは付き合っていない。

悪魔だって実際はあたしじゃなくて、あたしを通してほかの人を見てるんだから。
ハンターになんて値しない。



「今週も終わりだし、今日は早く帰ろう……」



月曜から金曜まで働いてきて、今週の仕事は今日で最後。
一週間の疲れかひどいから早く帰って寝たいという気持ちでいっぱいだった。



「茅ヶ崎、これやってくれるか?」



部署に戻ると、御堂さんが書類を手に持ってあたしを呼んでいる。



「はい、わかりました」


「そろそろ、茅ヶ崎も一緒に営業にいくこと考えてるからさ」


「本当ですか!?」



ここは営業一課で、あたしはいつもデータ入力的なことばかりやってきていた。
けど、早くみんなと同じように営業に行きたいと思っていた。



「茅ヶ崎の資料、よくまとめてあって使いやすいんだ。企業についてよく調べてくれてるからそのへんも営業に使えると思う」


「ありがとうございます!」



いままで、少しでも営業に行く人の役に立てればと頑張って来たことが認められてすごく嬉しい。



「最近、暁とは……?」



戻ろうとしたあたしをその声が引き止める。



「もう関係ないので」


「茅ヶ崎はそれでいいの?」


「……え?」



いいわけなんてない。
離れても離れても、あたしから悪魔が消えることはなくて。
ずっと避けて、まともに顔も見ていないのにどんどん好きが強くなる。

一緒にいた頃の悪魔との楽しい日々が蘇って。
どんどんその思い出が美化されていく気がする。



「暁のこと好きなんじゃないのか?」


「……っ」


〝好きじゃない〟
そう言ったらいいのに、その言葉が出てこない。


悪魔と強い繋がりのある御堂さんには嘘をつかないとならないのに。

〝好きじゃない〟
その言葉を言うことができない。

それは

──……好きだから。



「自分の気持ちに嘘はつくなよ」


「……はい」


「ま、仕事はしっかりな」



ニコッと笑ってぽんっとあたしの頭を叩く。


どうするべきなんだろう。
自分の気持ちに嘘はつきたくないけど、嘘をつかないと心が保てない。
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