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another story ~あの彼の小話~
好きですよ
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「おつかれー!」
カチンっと合わさるビールジョッキ。
「今日さ、一課の菅原さん、本当にムカついた!」
ビールを一気に飲み干して、ドンッとテーブルに置く。
「たまってんねー。すいませーん、ビールお代わり」
あたしの言葉に相槌を打って、飲み干したビールのお代わりを頼んでくれるデキた男。
今日は、一課の菅原さんがエクセルのマクロを壊したとかで、仕事にならなかったらしくあたしたちSEに助けを求めてきた。
菅原さんの担当している仕事のマクロを作ったのがあたしだったので、マクロの修正をしていたのだが、どんなふうにやればこんなに壊れるのかと思うほど、エクセル内の計算式がほぼ全部壊れていた。
「まぁ、仕事が滞るからなんだろうけど.......自分で壊しておいて、こっちに当たるのは間違ってるよなぁ」
「ほんと.......文句言いたいのをグッと我慢したよ」
ありえないくらいグチャグチャにしたのは、菅原さんのくせに「こんなのもすぐにできないなんて、給料泥棒だ」なんて、怒り出したんだから。
それでも、我慢して高速でマクロを直していったあたしをほめてほしいものだ。
そんなあたしを「飲みにいこう」と誘ってくれたのが、霧島さん。
あたしたちがお互いの仕事の愚痴を言い合って飲むようになってからもう1ヶ月が経っていた。
霧島さんと一緒に過ごすのは、気兼ねなくて、そんなふうに彼も思ってくれていたら嬉しい。
「お疲れさん」
ポンポンっとあたしの頭を撫でてくれる。
年下なのに、あたしを安心させてくれる存在で。
ついついいつも甘えてしまう。
✱✱✱
「.......っ!?」
またやってしまったと起き上がって感じる既視感。
今日もまた、飲みすぎて気づけば、霧島さんの家だった。
「あ、起きた?」
「毎度毎度ごめん」
霧島さんの前だとどうも安心をしてしまって、飲みすぎてしまう。
そして、一緒に飲む度に、目覚めると霧島さんの家なのだ。
「べつにいいって、気にすんなよ」
あたしを安心させるように、頭をまた撫でてくれる。
あたしは、この手が大好きだ。
「霧島さんは、送り狼にはならないんだね」
「なに、なって欲しいわけ?」
「そんなんじゃないけど.......」
べつに襲われたいわけはない。
でも、こんなに一緒にいて、同じ部屋にふたりでいても何も無いのは、あたしに魅力がないからなのかなって。
「興味ある」とは言ってくれたけど、それがどういう意味の興味なのかがわからない。
あたしと同じ気持ちとも限らないわけで。
「酔っ払って寝てるやつを襲っても仕方ないだろ?」
「うん」
「べつに、魅力がないから襲わないとかでもないら」
「うっ」
考えを読まれていて、なんだか恥ずかしくなる。
「霧島さんは、モテそうだよね」
「そう?出会いもそんなないしモテたこともないよ」
彼はこういうけど、現にうちの会社内でモテている。
本人に自覚がないだけだ。
「噂では、彼女がたくさんいるって話になってたりしたよ」
モテるから独り歩きする噂なのだろう。
なぜか、そんなとこも素敵だとか言われていた。
「なにそれ、そんな経験ないんだけど、俺」
あたしの話にプッと噴き出す。
「最初は、女の子に興味がなさそうでチャラくないからいいなんて言われていたのに最近は、本当は彼女がたくさんだけど、隠してるっていう噂に変わってるよ」
噂っていうものは信じられない速度で回るのがはやい。
「こっわ。誰にもそんなこと言ってないのに」
「で?本当のところどうなの?」
「なわけないだろ。本気で好きだったのもひとりだけだわ」
フッと優しく笑う霧島さん。
「その人とは、別れちゃったの?」
「そもそも付き合ってもいねーよ」
付き合ってもいないのに、本気で好きだと言うほど、その人のことを好きだった。
その事実に胸が痛くなる。
それは、あたしが本気でこの人のことを好きになっていっているから。
「霧島さんなら、付き合えそうなのに」
「ぜーんぜん。そいつは俺のこと眼中にもねーよ」
テーブルの上のコップに入った水をゴクリと飲み干す。
「そっか。その人もったいないね」
こんなに、素敵な人におもわれているのに、それに気づかないだなんて。本当にもったいない。
あたしにその権利を回してほしいくらいだ。
「で、なんでこんなこと聞くわけ?」
「え?」
「有岡さん、俺のこと好きなの?」
あたしの目を筒抜けでいきそうな、鋭い霧島さんの目。
その時点で気がついたことがある。
霧島さんの「興味ある」は、そういう意味じゃなかったってこと。
「好きですよ」
でも、あたしはひとつの賭けをする。
あたしがこう告げても、霧島さんはこのままあたしと一緒に過ごしてくれるのだろうか。
そんな感情を持った女は御免だと、距離を置かれてしまうのだろうか。
「おお、直球だね。なかなか」
あたしの言葉に一瞬、動きがとまって、でも直ぐに動きだす。
「あたしは、霧島さんと出来れば恋人になりたいななんて考えてる」
恋人になったって、関係はきっと変わらない。
いままでみたいにお酒を飲んで愚痴をいいあって、そうして過ごしていけばいいんだから。
カチンっと合わさるビールジョッキ。
「今日さ、一課の菅原さん、本当にムカついた!」
ビールを一気に飲み干して、ドンッとテーブルに置く。
「たまってんねー。すいませーん、ビールお代わり」
あたしの言葉に相槌を打って、飲み干したビールのお代わりを頼んでくれるデキた男。
今日は、一課の菅原さんがエクセルのマクロを壊したとかで、仕事にならなかったらしくあたしたちSEに助けを求めてきた。
菅原さんの担当している仕事のマクロを作ったのがあたしだったので、マクロの修正をしていたのだが、どんなふうにやればこんなに壊れるのかと思うほど、エクセル内の計算式がほぼ全部壊れていた。
「まぁ、仕事が滞るからなんだろうけど.......自分で壊しておいて、こっちに当たるのは間違ってるよなぁ」
「ほんと.......文句言いたいのをグッと我慢したよ」
ありえないくらいグチャグチャにしたのは、菅原さんのくせに「こんなのもすぐにできないなんて、給料泥棒だ」なんて、怒り出したんだから。
それでも、我慢して高速でマクロを直していったあたしをほめてほしいものだ。
そんなあたしを「飲みにいこう」と誘ってくれたのが、霧島さん。
あたしたちがお互いの仕事の愚痴を言い合って飲むようになってからもう1ヶ月が経っていた。
霧島さんと一緒に過ごすのは、気兼ねなくて、そんなふうに彼も思ってくれていたら嬉しい。
「お疲れさん」
ポンポンっとあたしの頭を撫でてくれる。
年下なのに、あたしを安心させてくれる存在で。
ついついいつも甘えてしまう。
✱✱✱
「.......っ!?」
またやってしまったと起き上がって感じる既視感。
今日もまた、飲みすぎて気づけば、霧島さんの家だった。
「あ、起きた?」
「毎度毎度ごめん」
霧島さんの前だとどうも安心をしてしまって、飲みすぎてしまう。
そして、一緒に飲む度に、目覚めると霧島さんの家なのだ。
「べつにいいって、気にすんなよ」
あたしを安心させるように、頭をまた撫でてくれる。
あたしは、この手が大好きだ。
「霧島さんは、送り狼にはならないんだね」
「なに、なって欲しいわけ?」
「そんなんじゃないけど.......」
べつに襲われたいわけはない。
でも、こんなに一緒にいて、同じ部屋にふたりでいても何も無いのは、あたしに魅力がないからなのかなって。
「興味ある」とは言ってくれたけど、それがどういう意味の興味なのかがわからない。
あたしと同じ気持ちとも限らないわけで。
「酔っ払って寝てるやつを襲っても仕方ないだろ?」
「うん」
「べつに、魅力がないから襲わないとかでもないら」
「うっ」
考えを読まれていて、なんだか恥ずかしくなる。
「霧島さんは、モテそうだよね」
「そう?出会いもそんなないしモテたこともないよ」
彼はこういうけど、現にうちの会社内でモテている。
本人に自覚がないだけだ。
「噂では、彼女がたくさんいるって話になってたりしたよ」
モテるから独り歩きする噂なのだろう。
なぜか、そんなとこも素敵だとか言われていた。
「なにそれ、そんな経験ないんだけど、俺」
あたしの話にプッと噴き出す。
「最初は、女の子に興味がなさそうでチャラくないからいいなんて言われていたのに最近は、本当は彼女がたくさんだけど、隠してるっていう噂に変わってるよ」
噂っていうものは信じられない速度で回るのがはやい。
「こっわ。誰にもそんなこと言ってないのに」
「で?本当のところどうなの?」
「なわけないだろ。本気で好きだったのもひとりだけだわ」
フッと優しく笑う霧島さん。
「その人とは、別れちゃったの?」
「そもそも付き合ってもいねーよ」
付き合ってもいないのに、本気で好きだと言うほど、その人のことを好きだった。
その事実に胸が痛くなる。
それは、あたしが本気でこの人のことを好きになっていっているから。
「霧島さんなら、付き合えそうなのに」
「ぜーんぜん。そいつは俺のこと眼中にもねーよ」
テーブルの上のコップに入った水をゴクリと飲み干す。
「そっか。その人もったいないね」
こんなに、素敵な人におもわれているのに、それに気づかないだなんて。本当にもったいない。
あたしにその権利を回してほしいくらいだ。
「で、なんでこんなこと聞くわけ?」
「え?」
「有岡さん、俺のこと好きなの?」
あたしの目を筒抜けでいきそうな、鋭い霧島さんの目。
その時点で気がついたことがある。
霧島さんの「興味ある」は、そういう意味じゃなかったってこと。
「好きですよ」
でも、あたしはひとつの賭けをする。
あたしがこう告げても、霧島さんはこのままあたしと一緒に過ごしてくれるのだろうか。
そんな感情を持った女は御免だと、距離を置かれてしまうのだろうか。
「おお、直球だね。なかなか」
あたしの言葉に一瞬、動きがとまって、でも直ぐに動きだす。
「あたしは、霧島さんと出来れば恋人になりたいななんて考えてる」
恋人になったって、関係はきっと変わらない。
いままでみたいにお酒を飲んで愚痴をいいあって、そうして過ごしていけばいいんだから。
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