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最終章~ずっと一緒に
どんな立場でも
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「おはよ……みんな揃ってんのか」
コンコンと社長室のドアがノックされたかと思えば、ドアが開いて聞こえてくる大好きな人の声。
「ちとせ、大丈夫だったか……ってなんでお前泣いてんだよ!?環になにかされた!?」
横にきた学くんがあたしの顔をみて、慌てたようにタマを睨みつける。
「あれ……」
学くんに言われて、頬を触ってみれば生暖かい感触。
「気づいてなかったのか?」
「うん、お母さんのことで久しぶりに泣いたかもしれない」
お母さんが亡くなって、親戚に引き取られて。
そこでお母さんのことは忘れろといわれた。
お母さんの話題を出すことも、泣くことも禁じられた。
だから、いつしかお母さんのことで泣くことはいけないことだと思い込むようになっていた。
「母親のことか」
少し眉を下げて、複雑そうな学くん。
「あ、ごめんなさい」
学くんのことを傷つけてしまったかもしれないと、慌てて謝る。
「なんで謝んだよ」
フッと笑って、あたしの頭に触れる。
「だって……」
「もう、恨んじゃいねぇよ。今では逆に感謝してるくらい」
「え?感謝?」
お母さんに会ったことも、話したこともないはずの学くん。
つい最近まで、ずっと恨んでいた存在だったのに。
「ちとせを生んでくれたこと。俺にちとせと出会わせてくれたこと。感謝してもしきれねぇよ」
「まな、ぶ……くん」
学くんの嬉しい言葉に胸の奥が熱くなる。
「ラブラブなところ、水を差すようで悪いけど。学、結婚はいつするの?」
「は?」
あたしたちが知ってるとは思っていない、学くんが怪訝な顔になる。
「だって、学とちとせ結婚してないでしょ?」
「は?なんっ……」
〝なんで知ってるのか〟
そう言おうとしたのだろう。
言葉の途中で、ハッとしたようにあたしを見る。
「あたしも知ってるから大丈夫だよ」
横に置いていたカバンから婚姻届を取り出す。
「え、なんでそれ……」
「葉菜さんが」
「あいつかよ……」
はぁっとため息をついて、自分の顔を覆う。
「うーんと、どういうことかな?」
この中で唯一、その事実を知らなかった社長が首を傾げる。
「親父、俺……婚姻届出してないんだ。ごめん」
社長に向かって頭を下げる。
「うーんと、結婚発表もしたよね?」
社長の顔はあたしに向けてくれていた、暖かい笑顔ではなくて。
笑っているけど、奥の方ではナイフでも持っているのではないか。
そんな顔をしていた。
「ごめん、普通に考えてありえないことをしたと思ってる」
「それが、俺に対しての復讐か?」
「まぁ……そんなとこ」
「まぁ、そんな事実はどうにでもなる。だが、学。謝るべき人間を間違っているんじゃないか?」
社長の瞳があたしを見据える。
「ちとせ……」
社長の視線を追うように、学くんもあたしを見据える。
「だよな……」
そう、小さく呟いて頷く。
「えっと、俺……「ごめんね、もう仕事の時間。プライベートは仕事後にしてくれるかな」
学くんの言葉を遮って、社長がわざとらしく机の上の資料を束ね出す。
「やられた……。まぁ、いい。仕事戻ります」
盛大なため息をついて、社長に背を向ける。
「ちとせも行くぞ」
歩き出すときにあたしの手を取って。
「父さん、俺は?俺は?」
「お前はなにもわかんないだろ。今日はここで色々教えるから」
社長もため息をつきながらも、なんだか嬉しそうにしてる。
「ずっと一緒にいられたタマが羨ましいな」
あたしには与えられなかった、父親という存在。
「いや、あそこでちとせが来てたら俺ら恋してねぇよ」
「そう?」
「まぁ、どんな立場でもお前のこと好きになれる自信はあるけど。でも、兄妹なわけだから気持ちは隠すんだろうなー」
「学くん……」
〝どんな立場でも〟
それは、この先何度だってあたしに恋をしてくれるってことで。
あたしは、浮き足立つ気持ちを抑えながら医務室に向かった。
コンコンと社長室のドアがノックされたかと思えば、ドアが開いて聞こえてくる大好きな人の声。
「ちとせ、大丈夫だったか……ってなんでお前泣いてんだよ!?環になにかされた!?」
横にきた学くんがあたしの顔をみて、慌てたようにタマを睨みつける。
「あれ……」
学くんに言われて、頬を触ってみれば生暖かい感触。
「気づいてなかったのか?」
「うん、お母さんのことで久しぶりに泣いたかもしれない」
お母さんが亡くなって、親戚に引き取られて。
そこでお母さんのことは忘れろといわれた。
お母さんの話題を出すことも、泣くことも禁じられた。
だから、いつしかお母さんのことで泣くことはいけないことだと思い込むようになっていた。
「母親のことか」
少し眉を下げて、複雑そうな学くん。
「あ、ごめんなさい」
学くんのことを傷つけてしまったかもしれないと、慌てて謝る。
「なんで謝んだよ」
フッと笑って、あたしの頭に触れる。
「だって……」
「もう、恨んじゃいねぇよ。今では逆に感謝してるくらい」
「え?感謝?」
お母さんに会ったことも、話したこともないはずの学くん。
つい最近まで、ずっと恨んでいた存在だったのに。
「ちとせを生んでくれたこと。俺にちとせと出会わせてくれたこと。感謝してもしきれねぇよ」
「まな、ぶ……くん」
学くんの嬉しい言葉に胸の奥が熱くなる。
「ラブラブなところ、水を差すようで悪いけど。学、結婚はいつするの?」
「は?」
あたしたちが知ってるとは思っていない、学くんが怪訝な顔になる。
「だって、学とちとせ結婚してないでしょ?」
「は?なんっ……」
〝なんで知ってるのか〟
そう言おうとしたのだろう。
言葉の途中で、ハッとしたようにあたしを見る。
「あたしも知ってるから大丈夫だよ」
横に置いていたカバンから婚姻届を取り出す。
「え、なんでそれ……」
「葉菜さんが」
「あいつかよ……」
はぁっとため息をついて、自分の顔を覆う。
「うーんと、どういうことかな?」
この中で唯一、その事実を知らなかった社長が首を傾げる。
「親父、俺……婚姻届出してないんだ。ごめん」
社長に向かって頭を下げる。
「うーんと、結婚発表もしたよね?」
社長の顔はあたしに向けてくれていた、暖かい笑顔ではなくて。
笑っているけど、奥の方ではナイフでも持っているのではないか。
そんな顔をしていた。
「ごめん、普通に考えてありえないことをしたと思ってる」
「それが、俺に対しての復讐か?」
「まぁ……そんなとこ」
「まぁ、そんな事実はどうにでもなる。だが、学。謝るべき人間を間違っているんじゃないか?」
社長の瞳があたしを見据える。
「ちとせ……」
社長の視線を追うように、学くんもあたしを見据える。
「だよな……」
そう、小さく呟いて頷く。
「えっと、俺……「ごめんね、もう仕事の時間。プライベートは仕事後にしてくれるかな」
学くんの言葉を遮って、社長がわざとらしく机の上の資料を束ね出す。
「やられた……。まぁ、いい。仕事戻ります」
盛大なため息をついて、社長に背を向ける。
「ちとせも行くぞ」
歩き出すときにあたしの手を取って。
「父さん、俺は?俺は?」
「お前はなにもわかんないだろ。今日はここで色々教えるから」
社長もため息をつきながらも、なんだか嬉しそうにしてる。
「ずっと一緒にいられたタマが羨ましいな」
あたしには与えられなかった、父親という存在。
「いや、あそこでちとせが来てたら俺ら恋してねぇよ」
「そう?」
「まぁ、どんな立場でもお前のこと好きになれる自信はあるけど。でも、兄妹なわけだから気持ちは隠すんだろうなー」
「学くん……」
〝どんな立場でも〟
それは、この先何度だってあたしに恋をしてくれるってことで。
あたしは、浮き足立つ気持ちを抑えながら医務室に向かった。
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