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第2章~逃げ出したい気持ち~
離れる決意
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「すみません、よろしくお願いします」
ひとつ見つけたシェアハウス。
そこの人にぺこりと頭を下がる。
燿くんは、うちに来るといいと言ってくれたけど。
さすがにそんなことをするわけにもいかず。
昨日1日は、昔住んでいた施設にお世話になった。
家に帰ってきていないあたしに気づいたのか、学くんから着信が鳴り止まなかった。
だから、スマホの電源を切って。
学くんが仕事に行ってる間に荷物を取りに行って、手紙を置いてきた。
この先、会うなんて無理だから。
指輪と一緒に。
急に寂しくなった薬指。
でも、昨日まであった指輪はなんの意味もなかった。
〝これ以上一緒にはいれません。ごめんなさい〟
と書いて置いてきた手紙に、学くんは何を思ったかな。
あれだけ俺のものと言ったのにと激昴してるかもしれない。
でも、結婚してないんだからあたしは誰のものでもない。
まだあたしは独り身なのだから。
あたしの自由にさせてもらっても罰は当たらないはずだ。
ポケットに手を入れるとカサっとなる紙の音。
「持ってきちゃった……」
どうするんだろう。
こんなものただの紙切れだ。
学くんも隠すのなら隠し通せばよかった。
葉菜さんに言うくらいなら初めからやめておくべきだったんだ。
「あれ?キミ新しい子?」
食堂で婚姻届を見てるあたしの肩を誰かが叩く。
「わっ!」
あまりの突然の出来事にびっくりしてしまう。
「ふーん、鈴野ちとせちゃんっていうんだ?」
「あ……」
婚姻届を見られたことに気づいて、慌ててポケットにしまう。
「俺、環っていうんだ」
満面の笑みであたしの向かいに座る。
「あ、環……さん」
どことなく、学くんに似てる環さん。
ただ、性格は全然違う。
学くんはどちらかというと静かなタイプ。
俺様ではあるけど。
環さんみたいな底抜けの明るさは持っていないと思う。
「タマでいいよ。みんなそう呼んでるからさ!」
「あ、でも年上……」
あたしより年上だと思われる環さんを気軽にあだ名で呼ぶのはなんだか申し訳なくて、尻込みしてしまう。
「いいじゃんいいじゃん!年齢関係なくみんなそう呼んでるよ?」
「じゃあ……タマ……」
「ん?小さいなぁ」
恥ずかしくて、つい声が小さくなってしまったあたしにタマは耳に手を当てて、聞こえないというポーズをする。
「タマ、意地悪」
「はは、ごめん。ごめん。ちとせがなんか可愛くて」
「なっ……」
初対面でそんなことを言われたことに思わず顔が赤くなってしまう。
「照れてるー。可愛いー」
ニコニコしながらあたしの頭を撫でる。
「からかわないでよ……」
「からかってないよ。ちとせが本当に可愛いんだよ」
ニッコリ笑ったその顔に、もしも学くんが思いっきりわらったらこんな感じなのかなと考えてしまう。
どうやっても学くんのことを忘れられない。
「ん?俺の顔になにかついてる?」
呆然とタマの顔を見ているあたしに首を傾げる。
「あ……いや、ちょっと知り合いに似てて」
タマと一緒にいるのは危険かもしれない。
「俺に似てるのって、その紙に書いてた相手でしょ?」
「……っ」
あたしのポケットを指さすタマに言葉が詰まる。
「あはは、図星なんだ」
面白そうに相変わらず笑っているタマ。
「もう、笑いすぎ」
「なんかワケあり?俺でよかったら話聞くよ。あんまり知らないやつになら話せたりするんじゃない?」
優しい眼差しで見つめられる。
「結婚したと思ってたら結婚してなかったみたい」
こう言葉を紡いでみても、まだしっくりとこない。
学くんがなぜこんなことをしたかったのか。
その理由がわからないからしっくりこない。
でも、弱いあたしはその理由を聞くこともせずに逃げている。
聞きたくない現実からは目を背けたくて。
「相手が出してなかったってこと?」
「みたい。一緒に出しにいったはずなのに」
「え?どうやって出さなかったの?それ」
タマが首を傾げる。
「あの同級生……」
「は?同級生?」
同級生だといってた大塚さん。
あたしを少し待たせて、先に大塚さんと話してた。
あの時に頼んでたのだろうか。
帰り際〝くれぐれもよろしくな〟と大塚さんに頼んでた。
あれは、婚姻届のことだったのだろう。
「たぶん、市役所にいた同級生に頼んでる」
「なるほどね。なかなかの計画的犯行だね」
「はぁー。仕事も行かなきゃなぁ……」
ため息ついて、テーブルに顔を伏せる。
「仕事かー。同じ会社にいるのかな?」
「うん……」
「行きにくいけど、頑張れ」
ボンッと背中を叩かれる。
「タマ、力強い!」
「このくらいのほうが元気出るだろ!」
ガハハと笑うタマは本当に底抜けに明るい。
「ありがとう。タマ」
タマの明るさはたしかに人を元気づける。
それに救われている自分がいる。
今日出会ったばかりだけど、底抜けに明るい彼がいまはありがたい。
ひとつ見つけたシェアハウス。
そこの人にぺこりと頭を下がる。
燿くんは、うちに来るといいと言ってくれたけど。
さすがにそんなことをするわけにもいかず。
昨日1日は、昔住んでいた施設にお世話になった。
家に帰ってきていないあたしに気づいたのか、学くんから着信が鳴り止まなかった。
だから、スマホの電源を切って。
学くんが仕事に行ってる間に荷物を取りに行って、手紙を置いてきた。
この先、会うなんて無理だから。
指輪と一緒に。
急に寂しくなった薬指。
でも、昨日まであった指輪はなんの意味もなかった。
〝これ以上一緒にはいれません。ごめんなさい〟
と書いて置いてきた手紙に、学くんは何を思ったかな。
あれだけ俺のものと言ったのにと激昴してるかもしれない。
でも、結婚してないんだからあたしは誰のものでもない。
まだあたしは独り身なのだから。
あたしの自由にさせてもらっても罰は当たらないはずだ。
ポケットに手を入れるとカサっとなる紙の音。
「持ってきちゃった……」
どうするんだろう。
こんなものただの紙切れだ。
学くんも隠すのなら隠し通せばよかった。
葉菜さんに言うくらいなら初めからやめておくべきだったんだ。
「あれ?キミ新しい子?」
食堂で婚姻届を見てるあたしの肩を誰かが叩く。
「わっ!」
あまりの突然の出来事にびっくりしてしまう。
「ふーん、鈴野ちとせちゃんっていうんだ?」
「あ……」
婚姻届を見られたことに気づいて、慌ててポケットにしまう。
「俺、環っていうんだ」
満面の笑みであたしの向かいに座る。
「あ、環……さん」
どことなく、学くんに似てる環さん。
ただ、性格は全然違う。
学くんはどちらかというと静かなタイプ。
俺様ではあるけど。
環さんみたいな底抜けの明るさは持っていないと思う。
「タマでいいよ。みんなそう呼んでるからさ!」
「あ、でも年上……」
あたしより年上だと思われる環さんを気軽にあだ名で呼ぶのはなんだか申し訳なくて、尻込みしてしまう。
「いいじゃんいいじゃん!年齢関係なくみんなそう呼んでるよ?」
「じゃあ……タマ……」
「ん?小さいなぁ」
恥ずかしくて、つい声が小さくなってしまったあたしにタマは耳に手を当てて、聞こえないというポーズをする。
「タマ、意地悪」
「はは、ごめん。ごめん。ちとせがなんか可愛くて」
「なっ……」
初対面でそんなことを言われたことに思わず顔が赤くなってしまう。
「照れてるー。可愛いー」
ニコニコしながらあたしの頭を撫でる。
「からかわないでよ……」
「からかってないよ。ちとせが本当に可愛いんだよ」
ニッコリ笑ったその顔に、もしも学くんが思いっきりわらったらこんな感じなのかなと考えてしまう。
どうやっても学くんのことを忘れられない。
「ん?俺の顔になにかついてる?」
呆然とタマの顔を見ているあたしに首を傾げる。
「あ……いや、ちょっと知り合いに似てて」
タマと一緒にいるのは危険かもしれない。
「俺に似てるのって、その紙に書いてた相手でしょ?」
「……っ」
あたしのポケットを指さすタマに言葉が詰まる。
「あはは、図星なんだ」
面白そうに相変わらず笑っているタマ。
「もう、笑いすぎ」
「なんかワケあり?俺でよかったら話聞くよ。あんまり知らないやつになら話せたりするんじゃない?」
優しい眼差しで見つめられる。
「結婚したと思ってたら結婚してなかったみたい」
こう言葉を紡いでみても、まだしっくりとこない。
学くんがなぜこんなことをしたかったのか。
その理由がわからないからしっくりこない。
でも、弱いあたしはその理由を聞くこともせずに逃げている。
聞きたくない現実からは目を背けたくて。
「相手が出してなかったってこと?」
「みたい。一緒に出しにいったはずなのに」
「え?どうやって出さなかったの?それ」
タマが首を傾げる。
「あの同級生……」
「は?同級生?」
同級生だといってた大塚さん。
あたしを少し待たせて、先に大塚さんと話してた。
あの時に頼んでたのだろうか。
帰り際〝くれぐれもよろしくな〟と大塚さんに頼んでた。
あれは、婚姻届のことだったのだろう。
「たぶん、市役所にいた同級生に頼んでる」
「なるほどね。なかなかの計画的犯行だね」
「はぁー。仕事も行かなきゃなぁ……」
ため息ついて、テーブルに顔を伏せる。
「仕事かー。同じ会社にいるのかな?」
「うん……」
「行きにくいけど、頑張れ」
ボンッと背中を叩かれる。
「タマ、力強い!」
「このくらいのほうが元気出るだろ!」
ガハハと笑うタマは本当に底抜けに明るい。
「ありがとう。タマ」
タマの明るさはたしかに人を元気づける。
それに救われている自分がいる。
今日出会ったばかりだけど、底抜けに明るい彼がいまはありがたい。
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