上 下
20 / 47

ほうび

しおりを挟む
 マルス領の作戦本部跡にはコボルトキングの頭が晒されていた。それは黒焦げで、経緯を知らない者にはなんの魔物か分からないだろう。

 あの日。コボルトキングは足元から突然生えた大樹に打ち上げられて宙を舞い、ローズの【フレア】によって倒された。その後、テトが首を刈って自分の手柄にしようとしたのはご愛嬌だ。

 コボルトキングの討伐は成功した。しかし、冒険者側に被害が出なかったわけではない。新米冒険者が何人も命を落とした。

 それでも、今回の作戦は大成功したと辺境伯には評されているらしい。それは言葉だけではなく。しっかり報酬として今回の討伐隊に参加した者に与えられる。

 つまり、論功行賞が行われているのだ。

 作戦本部跡には冒険者達が集まり、期待に満ちた目でボーワダッテ……を見つめている。既に第四功までの発表は終わり、俺の護衛や城壁での指揮を務めたザック、今も負傷者の治療を続けているチキが表彰されている。ちなみに、ローズは辺境伯側ということで対象外らしい。

 そしていよいよ、第三功。

「第三功、【風魔術師】ブロウ!」

「はい!」

 緑の髪に羽帽子の男が前に出た。

 ブロウという名前だったのか。今回のコボルトキング討伐作戦において、偵察・伝令を一手に引き受けた男の働きは素晴らしかった。

「ブロウ君がもたらした情報により、討伐隊は適切な行動をとることが出来た。その功に対し、辺境伯から金百万シグが贈られる」

 ボーワダッテ……の言葉に冒険者達がわいた。通常の報酬とは別に百万シグかぁ。確かに嬉しい金額だ。

「第ニ功、【首刈り猫】テト!」

「ミャオ!」

 テトが俺の腕から降りてボーワダッテ……の前に出た。猫にどんな報酬を与えるつもりだ?

「テトはその能力によって、難敵であるコボルトジェネラルを葬った。コボルト達の戦意を奪う、素晴らしい一撃であった。その功に対し、辺境伯からマッドボアの干し肉が百頭分贈られる」

 ──ォォオオオ! と冒険者達から声が上がる。百万シグの方がいい気がするが、そうでもないのか? 冒険者の価値観は分からないな。そしていよいよ第一功──。

「第一功、【レンガ職人】マルス!」

「はい!」

 ボーワダッテ……の前に出ると、冒険者達から視線が集まるのを感じた。それは決して嫌なモノではなく、どこか暖かい。

「マルス君はまさに討伐隊の要だった。君のスキルがなければ、今回のような戦い方は出来なかった。コボルト禍の被害を最小に抑えることが出来たのは君のおかげだ。その功に対し、辺境伯より金三百万シグが贈られる」

 割れんばかりの歓声がマルス領に響く。

「ありがとうございます」

「もう一つあるのだよ」

 ボーワダッテ……が意味あり気に髭を扱く。

「もう一つ……ですか?」

「どちらかというと、こちらが本題だ。このマルス領だが、辺境伯より正式に所有が認められた。本来、魔の森の土地は農地として開拓した場合にのみ、所有権が認められるのだが、特例がおりた」

 うっ……。知らなかった。住んでしまえば勝手に自分のものになるかと思っていた……。

「ありがとうございます……」

「ただし!」

「ただし?」

「一つ条件がある。辺境伯軍の人員を一名、駐屯させること」

 なるほど。お目付け役ってことか。やろうと思えばマルス領は簡単に広げることが出来る。辺境伯としてはそれは見過ごせないだろい。仕方がない。

「分かりました。受け入れます。で、どんな人が駐屯するのですか?」

 ──静寂。なんだ? なぜ緊張が走った?

「はーい!! ローズちゃんがマルス領に駐屯しまーす!!」

 えっ……!?

「やっぱりマルス領の所有は認めてもらわなくていいです!」

「なんでよ!!」

 ここは、上手く切り抜けなければ……。

「ローズさんは可愛過ぎます。だから俺は緊張してしまうのです。誰か別の人にしてください」

「うんうん! そーだよね! マルスちゃんは素直だな~。でも、マルスちゃん家とは別の家を建ててくれれば問題ないでしょ? まさか、一緒に住むつもりでいたの?」

「そ、そんなことはありません……!!」

 ボーワダッテ……がニヤニヤ笑っている。

「マルス君。辺境伯のご厚意だぞ?」

 諦めろってことか……。ここで下手にゴネてマルス領が取り上げになるのは正直痛い。

「はい。わかりました……」

「決まりね!! マルスちゃんにどんな家を建ててもらおうかなぁ~。楽しみ~」

 はぁ……。

「ミャオ~」

 俺の腕に戻って来たテトが、憐れむように鳴くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者の兄にありふれた魔術師と呼ばれ宮廷を追放されたけど、禁忌の冴眼を手に入れたので最強の冒険者となります

遥 かずら
ファンタジー
ルカスはバルディン帝国の宮廷魔術師として地方で魔物を討伐する日々を送っていた。   ある日討伐任務を終え城に戻ったルカスに対し、賢者である兄リュクルゴスはわざと怒らせることを言い放つ。リュクルゴスは皇帝直属の自分に反抗するのは皇帝への反逆だとして、ルカスに呪いの宝石を渡し宮廷から追放してしまう。 しかし呪いの宝石は、実は万能の力を得られる冴眼だった。 ――冴眼の力を手にしたルカスはその力を以て、世界最強の冒険者を目指すのだった。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

地球にダンジョンができたと思ったら俺だけ異世界へ行けるようになった

平尾正和/ほーち
ファンタジー
地球にダンジョンができて10年。 そのせいで世界から孤立した日本だったが、ダンジョンから採れる資源や魔素の登場、魔法と科学を組み合わせた錬金術の発達により、かつての文明を取り戻した。 ダンジョンにはモンスターが存在し、通常兵器では倒せず、ダンジョン産の武器が必要となった。 そこでそういった武器や、新たに発見されたスキルオーブによって得られる〈スキル〉を駆使してモンスターと戦う冒険者が生まれた。 ダンジョン発生の混乱で家族のほとんどを失った主人公のアラタは、当時全財産をはたいて〈鑑定〉〈収納〉〈翻訳〉〈帰還〉〈健康〉というスキルを得て冒険者となった。 だが冒険者支援用の魔道具『ギア』の登場により、スキルは大きく価値を落としてしまう。 底辺冒険者として活動を続けるアラタは、雇い主であるAランク冒険者のジンに裏切られ、トワイライトホールと呼ばれる時空の切れ目に飛び込む羽目になった。 1度入れば2度と戻れないその穴の先には、異世界があった。 アラタは異世界の人たちから協力を得て、地球との行き来ができるようになる。 そしてアラタは、地球と異世界におけるさまざまなものの価値の違いを利用し、力と金を手に入れ、新たな人生を歩み始めるのだった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界でのんきに冒険始めました!

おむす微
ファンタジー
色々とこじらせた、平凡な三十路を過ぎたオッサンの主人公が(専門知識とか無いです)異世界のお転婆?女神様に拉致されてしまい……勘違いしたあげく何とか頼み込んで異世界に…?。  基本お気楽で、欲望全快?でお届けする。異世界でお気楽ライフ始めるコメディー風のお話しを書いてみます(あくまで、"風"なので期待しないで気軽に読んでネ!)一応15R にしときます。誤字多々ありますが初めてで、学も無いためご勘弁下さい。  ただその場の勢いで妄想を書き込めるだけ詰め込みますので完全にご都合主義でつじつまがとか気にしたら敗けです。チートはあるけど、主人公は一般人になりすましている(つもり)なので、人前で殆んど無双とかしません!思慮が足りないと言うか色々と垂れ流して、バレバレですが気にしません。徐々にハーレムを増やしつつお気楽な冒険を楽しんで行くゆる~い話です。それでも宜しければ暇潰しにどうぞ。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

処理中です...