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新しい幸せ

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「ロメロはわざわざミーニャとかいう女を呼んで、私の前でイチャイチャして!!」
「私なんて、お茶会の席で! 沢山の人の前で婚約破棄されたのよ!」
「私なんて私なんて! 濡れ衣を着せられて、婚約破棄されたの!!」

 一人が口火を切ると、もう止まらない。

「ロメロとは幼馴染だったのに! それをポッと出の男爵家の娘に横取りされるなんて!」
「私なんて、結婚式の日程まで決まっていたのに!」
「私なんて私なんて! 今年二回目の婚約破棄よ!!」

 あれ……。なんだか自分の境遇がマシに思えてきた。

「もう! 絶対男なんて信用しないわ!」
「私も! 今度は私から婚約破棄してやるわ!」

 自分より怒っている人を見ると、冷静になってしまう。

 ふとカウンターの中を見ると、店主と目が合った。切長の目を軽く瞑り、小さく頷く。

「もう行きない」と言われた気がした。

 一杯のワインには充分な額をカウンターに置いて、立ち上がった。

 二人はまだ「如何に酷い目にあったか」について競いあっている。

 私はすっかり軽くなった心で『失恋茶房』を後にした。


#


 婚約破棄されてから一年と少しが経った。私は伯爵家の嫡男と結ばれ、今はもう実家を出ている。

 夫は優しくて仕事もでき、何より私を愛してくれる。

 ロメロに振られた時はこの世の終わりのように感じていたのに、人生とは分からないものだ。

「ここで止めて頂戴」

 声をかけると、馬車がゆっくりと止まった。

「どうなさいました?」

 侍女が不思議そうに尋ねる。

「この近くに素敵な茶房があるの。ちょっと寄ってもいいかしら?」
「なるほど。そういうことですね。お供致します!」

 甘いモノに目がない侍女が嬉しそうに客室から飛び出す。茶房と聞いて、ケーキを期待しているのだろう。

 路地裏に入ると、懐かしい看板が見えた。相変わらずセンスのよい外観をしている。

「ライラ様、どうぞ」

 侍女に促されて中に入ると──

「えっ!?」

 ロメロに婚約破棄されたあの日と同じ二人の貴族令嬢がいる。一体どういうこと……!?

「ふふふ。いらっしゃいませ。二度目の来店ですか?」
「はい……。何故、それを」
「随分と驚いた顔をなさっていたので」

 店主は切長の目で笑う。

「あの、カウンターのお二人は?」
「当店のスタッフですよ。失恋した時、一人で立ち直るのは大変なんです。でも、同じような境遇の人が周りにいると、不思議と頑張れます」

 やられた……。でも、怒る気にはなれない。むしろ、感謝の気持ちが湧いてくる。

「本当、そうですね。私もすぐに立ち直ることが出来ました。それに新しい幸せも……」

 店主に促され、カウンターに着く。

「新しい幸せって、もしかしてご結婚なさったんですか?」
「いーなー! どんな方と?」

 奥の二人が人懐っこい笑顔で尋ねてくる。

「ええっと──」


 それからしばらく、私達は美味しいケーキと会話を楽しんだ。
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