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解決
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王都の大通りにある立派なレンガ造りの建物。パウロ商会だ。一階には武具が並び、二階には雑貨や珍しい食品等がある。三階は事務所だ。
私は鎧を脱ぎ捨て、普段は着ないワンピースと例の魔道具を身に付けて、閉店間際にそこに訪れていた。私の他には客はいない。
「ねぇ店員さん。この剣って本当に純ミスリル製かしら?」
「お客さん。当たり前でしょ? この輝き、どう見ても純ミスリル製」
壁に偉そうに飾ってある長剣について尋ねると、パウロ商会の店員の顔が赤く光った。嘘をついている証拠だ。
「あら? 私には偽物に見えるけど」
「ちょっとお客さん! いい加減にしてくれよ! 商売の邪魔をするつもりかい?」
「だって偽物でしょ──」
ドンッ! とカウンターを叩く音。二階から降りて来た目付きの鋭い男がこちらを睨んでいる。
「商会長! この客がウチの商品にケチをつけてきて困っているんです!」
この男がパウロ商会のボスか。
「お客さん。どこの商会の回し者だい?」
「私はただの客よ? 貴方達、随分と悪質な商売をやっているわね?」
「はははっ! パウロ商会はお客様第一の精神でここまで発展したんだ! 馬鹿なことを言わないでくれ」
商会長の顔は真っ赤に光っている。とんでもない嘘つき野郎ね。
「はいはい。嘘ばっかりね。ここにある武具のほとんど、偽物じゃないの……!?」
声を張ると、商会長の顔色が変わる。
「つまみだせ!」
指示された店員が勢いよく突っ込んでくるが、捕まる私ではない。半身になって躱し、足を引っ掛けて倒す。
店員は顔を真っ赤にして起き上がると、ポケットから小さな小瓶を取り出して中身を飲み込んだ。雰囲気が変わる。
ダンッ! と鋭い踏み込み。人が変わったように店員は素早く動く。まさか、あの小瓶の中身が関係している?
「何を飲んだの?」
「お前に関係ないだろ!」
血管の浮き出た顔で怒鳴り、突進してくる。動きは出鱈目だが、とにかく速い。一般人の身体能力ではない。
店内を動き回って大立ち回りを演じていると、何事かと上階から人が降りてくる。その中には──。
「おい、ライラ! ここで何をしている!」
──ガランドだ。本命が現れた。
「それはこっちの台詞よ。なんで騎士団長様が商会にいるの? 騎士団の宿舎にいるべきじゃないかしら? ふんっ!」
突っ込んできた店員を蹴飛ばし、ガランドにぶつける。ガランドは難なく店員を受け止め、背後に逸らした。
「ライラ。俺の女になりたくてここまで追って来たのか?」
「そんなわけないでしょ!? 貴方の秘密を暴きに来たのよ! 最近、急に強くなったのは、その店員と同じ薬を飲んでいるからだったのね」
「馬鹿なことを言うな! 俺は鍛錬を重ねて強くなったんだ! 薬なんて知らねえ!!」
ガランドの顔は真っ赤に光る。タネは割れたわね。
「貴方……もしかして、ロメロにも何かした?」
「何もしてねえよ! あいつが勝手に病気になっただけだろ……!?」
またしてもガランドの顔が赤く光った。ロメロに手を出したなんて、許せない……!!
手頃な剣を壁から取り、構える。
ガランドはポケットから小瓶を取り出してグビグビと飲み干し、同じく剣を取り構えた。もはや、隠すつもりはなさそうね。
「後始末は頼むぜ! パウロさんよぉ!」
そう言いながらガランドは剣を大上段に構えたまま突進してくる。さっきの店員とは比べ物にならない迫力。しかし──
「なんで当たらねえ!!」
──ガランドの剣は悉く空を斬る。私にとって、技のない剣を躱すのは容易い。ただ速いだけで、筋がバレバレなのだ。
「模擬戦では当たったのに!」
まだ言っている。手を抜いたって教えてあげた筈なのに。愚かねぇ。
「破っ!」
「甘いわ」
ガランドの横薙ぎを頭を下げて躱し、すれ違いざまに膝の裏に剣を滑らせる。
「なっ……!」
ガクリと膝を落とすガランド。腱を斬られたのだ。立っていられない。
傷口を押さえて蹲るガランドの首筋に、剣の刃当てる。
「死ぬか。全てを話すか。選びなさい」
ガランドは生き恥を晒すことを選んだ。
#
「再び、ハーゲラン騎士団を率いることが出来、嬉しく思う!」
練兵場にロメロの軽やかな声が響いた。回復した彼は模擬戦を勝ち抜き、再び団長の座に就いたのだ。
ガランドは騎士団宿舎の料理長を脅して、ロメロの食事に筋力を落とす薬を混入させていたらしい。筋力の衰えは目にも影響する。それで、ロメロは速く動くものを捉えられなくなっていたようだ。
「帝国との国境では不穏な噂も流れている! この国を守るのは我々だ!」
驚いたことに、パウロ商会には帝国の息が掛かっていた。一時的に筋力を強化する薬は、帝国で開発されたものだったそうだ。ただ、中毒症状が酷くて長期間服用すると身体はボロボロになってしまうので、使用禁止の劇薬扱いだったらしいけれど……。
「ライラ!」
急にロメロに呼ばれた。
一体何事だろう? 列の先頭に居た私のところに歩いてくる。
「何かしら?」
「私と結婚して欲しい!」
「あら、貴方と私はまだ婚約したままよ」
「そうなのか? 私は君に婚約破棄を言い出したと言うのに……」
「あんなの無効だわ。だって……」
ロメロに身体を寄せる。
「貴方が婚約破棄したのは、私の残像だもの」
それからしばらくの間、「もう逃さない」とロメロにしっかりと抱きしめられるのだった。
私は鎧を脱ぎ捨て、普段は着ないワンピースと例の魔道具を身に付けて、閉店間際にそこに訪れていた。私の他には客はいない。
「ねぇ店員さん。この剣って本当に純ミスリル製かしら?」
「お客さん。当たり前でしょ? この輝き、どう見ても純ミスリル製」
壁に偉そうに飾ってある長剣について尋ねると、パウロ商会の店員の顔が赤く光った。嘘をついている証拠だ。
「あら? 私には偽物に見えるけど」
「ちょっとお客さん! いい加減にしてくれよ! 商売の邪魔をするつもりかい?」
「だって偽物でしょ──」
ドンッ! とカウンターを叩く音。二階から降りて来た目付きの鋭い男がこちらを睨んでいる。
「商会長! この客がウチの商品にケチをつけてきて困っているんです!」
この男がパウロ商会のボスか。
「お客さん。どこの商会の回し者だい?」
「私はただの客よ? 貴方達、随分と悪質な商売をやっているわね?」
「はははっ! パウロ商会はお客様第一の精神でここまで発展したんだ! 馬鹿なことを言わないでくれ」
商会長の顔は真っ赤に光っている。とんでもない嘘つき野郎ね。
「はいはい。嘘ばっかりね。ここにある武具のほとんど、偽物じゃないの……!?」
声を張ると、商会長の顔色が変わる。
「つまみだせ!」
指示された店員が勢いよく突っ込んでくるが、捕まる私ではない。半身になって躱し、足を引っ掛けて倒す。
店員は顔を真っ赤にして起き上がると、ポケットから小さな小瓶を取り出して中身を飲み込んだ。雰囲気が変わる。
ダンッ! と鋭い踏み込み。人が変わったように店員は素早く動く。まさか、あの小瓶の中身が関係している?
「何を飲んだの?」
「お前に関係ないだろ!」
血管の浮き出た顔で怒鳴り、突進してくる。動きは出鱈目だが、とにかく速い。一般人の身体能力ではない。
店内を動き回って大立ち回りを演じていると、何事かと上階から人が降りてくる。その中には──。
「おい、ライラ! ここで何をしている!」
──ガランドだ。本命が現れた。
「それはこっちの台詞よ。なんで騎士団長様が商会にいるの? 騎士団の宿舎にいるべきじゃないかしら? ふんっ!」
突っ込んできた店員を蹴飛ばし、ガランドにぶつける。ガランドは難なく店員を受け止め、背後に逸らした。
「ライラ。俺の女になりたくてここまで追って来たのか?」
「そんなわけないでしょ!? 貴方の秘密を暴きに来たのよ! 最近、急に強くなったのは、その店員と同じ薬を飲んでいるからだったのね」
「馬鹿なことを言うな! 俺は鍛錬を重ねて強くなったんだ! 薬なんて知らねえ!!」
ガランドの顔は真っ赤に光る。タネは割れたわね。
「貴方……もしかして、ロメロにも何かした?」
「何もしてねえよ! あいつが勝手に病気になっただけだろ……!?」
またしてもガランドの顔が赤く光った。ロメロに手を出したなんて、許せない……!!
手頃な剣を壁から取り、構える。
ガランドはポケットから小瓶を取り出してグビグビと飲み干し、同じく剣を取り構えた。もはや、隠すつもりはなさそうね。
「後始末は頼むぜ! パウロさんよぉ!」
そう言いながらガランドは剣を大上段に構えたまま突進してくる。さっきの店員とは比べ物にならない迫力。しかし──
「なんで当たらねえ!!」
──ガランドの剣は悉く空を斬る。私にとって、技のない剣を躱すのは容易い。ただ速いだけで、筋がバレバレなのだ。
「模擬戦では当たったのに!」
まだ言っている。手を抜いたって教えてあげた筈なのに。愚かねぇ。
「破っ!」
「甘いわ」
ガランドの横薙ぎを頭を下げて躱し、すれ違いざまに膝の裏に剣を滑らせる。
「なっ……!」
ガクリと膝を落とすガランド。腱を斬られたのだ。立っていられない。
傷口を押さえて蹲るガランドの首筋に、剣の刃当てる。
「死ぬか。全てを話すか。選びなさい」
ガランドは生き恥を晒すことを選んだ。
#
「再び、ハーゲラン騎士団を率いることが出来、嬉しく思う!」
練兵場にロメロの軽やかな声が響いた。回復した彼は模擬戦を勝ち抜き、再び団長の座に就いたのだ。
ガランドは騎士団宿舎の料理長を脅して、ロメロの食事に筋力を落とす薬を混入させていたらしい。筋力の衰えは目にも影響する。それで、ロメロは速く動くものを捉えられなくなっていたようだ。
「帝国との国境では不穏な噂も流れている! この国を守るのは我々だ!」
驚いたことに、パウロ商会には帝国の息が掛かっていた。一時的に筋力を強化する薬は、帝国で開発されたものだったそうだ。ただ、中毒症状が酷くて長期間服用すると身体はボロボロになってしまうので、使用禁止の劇薬扱いだったらしいけれど……。
「ライラ!」
急にロメロに呼ばれた。
一体何事だろう? 列の先頭に居た私のところに歩いてくる。
「何かしら?」
「私と結婚して欲しい!」
「あら、貴方と私はまだ婚約したままよ」
「そうなのか? 私は君に婚約破棄を言い出したと言うのに……」
「あんなの無効だわ。だって……」
ロメロに身体を寄せる。
「貴方が婚約破棄したのは、私の残像だもの」
それからしばらくの間、「もう逃さない」とロメロにしっかりと抱きしめられるのだった。
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