マッチングダンジョン! 〜許嫁に婚約破棄されたので課金して真実の愛を見つけます!!〜

フーツラ

文字の大きさ
上 下
6 / 10

ダンジョン攻略②

しおりを挟む
「グルァァァァァァ!!」

 双頭の巨大な犬──オルトロス──の吐いた焔がパトリシアに迫る。このままでは直撃をさけられない。

「させない」

 パトリシアの前にワッと霧が広がり、凶悪な焔をこともなさげに霧散させた。ヨハンの魔法だ。

 オルトロスは合計四つの紅い目をぱちくりとさせて驚いている。チャンス──。

「破ッ! 滅ッ!!」

 一足で自分の間合いにしたパトリシアは一拍の間に二度、闘気を纏わせた短剣を振るった。ヨハンに見えたのは青白く輝く、二筋の線のみ。

 パトリシアが短剣をしならせて、汚れを払う。

 ──ズルリ。ズルリ。一つ、また一つ。オルトロスの頭は胴体からずり落ち、煙となる。そして最後に体が朽ちて煙になると、ボス部屋が大きく揺れた。

「何が起きるの?」

「ボスを倒したから、道が開けるんだよ」

「次のフロアに行けるってこと?」

「たぶんそうだよ」

 ボス部屋の壁の一部が崩れ落ち、通路が現れる。パトリシアは慎重に中の様子を窺う。このまま進んで大丈夫だろうか? 罠でもあるのではないか? ここまで順調だったことがかえって彼女を不安にさせた。

 振り返るとすぐ後ろにヨハンがいた。「どうしたの?」と眉を動かす。ヨハンがいるから大丈夫。何かあっても守ってくれる。そう思い直し、パトリシアは通路へと踏み出した。


 通路の奥は岩で出来たドーム状の部屋だった。真ん中には数字の「二」と書かれた石柱がある。そして入ってきた通路の逆側には扉があった。

「パトリシア。疲れたでしょ? 今日はここまでにしよう」

 パトリシアはヨハンの言葉に不満を覚えた。マッチングダンジョンの外に出ればヨハンと離れてしまう。もっと一緒にいたい。そんな思いで胸がいっぱいになる。

「ふふふ。大丈夫だよ。そこの石柱に二人で触れれば、出会いの神様に覚えてもらえるらしいから。なんて言ったかな? えーとそう、"セーブポイント"だ。また七日後、一緒にダンジョンを攻略しよう」

 そういえば、法衣の女にそんな説明を聞いた気がする。「マッチング!」や「チェンジ!」にばかり気を取られていたけど……。

「ほら、パトリシア。手を」

 ヨハンがスッとパトリシアの手を取る。そして二人で石柱に触れると、部屋に鐘の音が響いた。祝福されたような気分になる。

「じゃぁ、パトリシア。七日後にまた会おう」

「うん。私は朝から待ってるから」

「僕も朝から来るよ」

 次のダンジョン攻略の約束をし、二人は同時に「リタイア」をしてダンジョンの外に出た。


 外はもう暗い。しかし、パトリシアの表情は明るく晴れやかだ。

 どうやって察したのか? 神殿の中から法衣の女が出てきてパトリシアに話し掛ける。

「どうやら、上手くいったようですね」

「はい! 素敵な方とマッチングして、ダンジョン攻略に進めました。"二"と書かれた石柱のところまで行きました」

「それは素晴らしい。では、次回からは"続きの間"に案内しますね。そこから転移すると、今日の続きからダンジョン攻略を再開出来ますから」

 では、七日後。そう言って法衣の女は神殿の中に戻っていった。

 次のダンジョン攻略が待ち遠しい。ヨハンは時を進める魔法を使えないのかしら? そうすればすぐにでも会えるのに。

 驚くほど軽い足取りで、パトリシアは屋敷へと帰るのだった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。

みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。

処理中です...