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ダンジョン攻略①

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 ダンジョンは岩の洞窟といった趣で、壁自体がほんのりと光っている。横幅は大人五人が並べば塞がるぐらいで、天井は剣を振り回しても問題ない程度に高い。

 ──ジリッ。ジリッ。

 早速モンスターの気配。パトリシアは剣帯から短剣を抜き、ヨハンの前に出る。

「見えた。ハイゴブリンだよ」

 何の魔法だろう? ヨハンはまだ視界には入っていないモンスターを判別してみせる。

「なら問題ないわ。ヨハンは見ていて」

 暗がりの向こうに紅い光が浮かび上がる。人間への敵意が篭ったモンスターの眼だ。

「グギャギャギャッ!」

 ハイゴブリンが棍棒を大上段に構えながら飛び込んでくる。ゴブリンとは違って素早く力強い動きだ。しかし──。

「破ッ!」

 ──パトリシアの一閃。ハイゴブリンの体だけが前に進み、その首はポトリと後へと落ちる。やがて体も地面に倒れ、煙になって何かが残った。

「あれ? チェンジストーン?」

「そうみたいだね」

 通常、ダンジョンのモンスターは魔石や素材をドロップする。しかし、マッチングダンジョンは違うらしい。

 チェンジストーンを拾い上げ、パトリシアは困った顔をする。自分にはもう必要のないものだ。ヨハンを引き当てたのだから。

 振り返ってヨハンを見ると、笑っている。

「ふふふ。どうしたの? 眉間に皺を寄せて」

「私にはもうチェンジストーンはいらないから……」

「奇遇だね。僕にも不要だよ」

 ヨハンの言葉を聞いて、鼓動がはやくなる。ヨハンは自分のことを気に入っている。このままダンジョンを攻略すれば、彼と結ばれる。そんな想像がパトリシアの胸を熱くした。

「今度は顔が赤いよ?」

「なっ、なんでもないの! さっ、先へ急ぎましょう!」


#


 まずい! もう一体来た!

 パトリシアが二体のハイオークを相手しているところにもう一体、槍を持ったハイオークが現れた。槍のハイオークは隙間を縫って突きを放とうする。駄目だ。やられる──。

 ガチンッ! と槍の穂先は何かとぶつかってパトリシアの身体には届かない。

「えっ? 何?」

 オークの攻撃を躱しながらパトリシアはヨハンに視線を送る。

「パトリシアには指一本触れさせないから、安心して戦って」

 ヨハンの魔法だろうか? 彼女の周りに透明な板が幾つも浮かんでいた。

 ガチンッ! とまた板がオークの攻撃を防ぐ。ヨハンに守られているという事実がパトリシアを強くした。

「破ッ! 牙ッ! 突ッ!」

 守りを気にしないパトリシアは闘気を身体に漲らせ、あっという間にハイオーク三体を屠った。見事な剣捌きにヨハンが感嘆の声を漏らす。

「凄いよ、パトリシア! 一人でハイオーク三体なんて」

「ヨハンのおかげよ。あんな魔法、見たことないわ」

 パトリシアの言葉にヨハンは得意げな表情を見せた。

「僕はね、攻撃魔法が使えない代わりにそれ以外の魔法はほとんど使えるんだ。あまり、世の中に知られていない魔法も」

「凄い……。そんな魔法使い、聞いたことないわ」

「凄くないよ~。だって僕一人ではモンスターの一体も倒せないんだから」

 そう言って頭を掻くヨハンの姿が愛おしい。まだ出会ったばかりなのに、パトリシアは完全に恋に落ちていた。
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