5 / 10
ダンジョン攻略①
しおりを挟む
ダンジョンは岩の洞窟といった趣で、壁自体がほんのりと光っている。横幅は大人五人が並べば塞がるぐらいで、天井は剣を振り回しても問題ない程度に高い。
──ジリッ。ジリッ。
早速モンスターの気配。パトリシアは剣帯から短剣を抜き、ヨハンの前に出る。
「見えた。ハイゴブリンだよ」
何の魔法だろう? ヨハンはまだ視界には入っていないモンスターを判別してみせる。
「なら問題ないわ。ヨハンは見ていて」
暗がりの向こうに紅い光が浮かび上がる。人間への敵意が篭ったモンスターの眼だ。
「グギャギャギャッ!」
ハイゴブリンが棍棒を大上段に構えながら飛び込んでくる。ゴブリンとは違って素早く力強い動きだ。しかし──。
「破ッ!」
──パトリシアの一閃。ハイゴブリンの体だけが前に進み、その首はポトリと後へと落ちる。やがて体も地面に倒れ、煙になって何かが残った。
「あれ? チェンジストーン?」
「そうみたいだね」
通常、ダンジョンのモンスターは魔石や素材をドロップする。しかし、マッチングダンジョンは違うらしい。
チェンジストーンを拾い上げ、パトリシアは困った顔をする。自分にはもう必要のないものだ。ヨハンを引き当てたのだから。
振り返ってヨハンを見ると、笑っている。
「ふふふ。どうしたの? 眉間に皺を寄せて」
「私にはもうチェンジストーンはいらないから……」
「奇遇だね。僕にも不要だよ」
ヨハンの言葉を聞いて、鼓動がはやくなる。ヨハンは自分のことを気に入っている。このままダンジョンを攻略すれば、彼と結ばれる。そんな想像がパトリシアの胸を熱くした。
「今度は顔が赤いよ?」
「なっ、なんでもないの! さっ、先へ急ぎましょう!」
#
まずい! もう一体来た!
パトリシアが二体のハイオークを相手しているところにもう一体、槍を持ったハイオークが現れた。槍のハイオークは隙間を縫って突きを放とうする。駄目だ。やられる──。
ガチンッ! と槍の穂先は何かとぶつかってパトリシアの身体には届かない。
「えっ? 何?」
オークの攻撃を躱しながらパトリシアはヨハンに視線を送る。
「パトリシアには指一本触れさせないから、安心して戦って」
ヨハンの魔法だろうか? 彼女の周りに透明な板が幾つも浮かんでいた。
ガチンッ! とまた板がオークの攻撃を防ぐ。ヨハンに守られているという事実がパトリシアを強くした。
「破ッ! 牙ッ! 突ッ!」
守りを気にしないパトリシアは闘気を身体に漲らせ、あっという間にハイオーク三体を屠った。見事な剣捌きにヨハンが感嘆の声を漏らす。
「凄いよ、パトリシア! 一人でハイオーク三体なんて」
「ヨハンのおかげよ。あんな魔法、見たことないわ」
パトリシアの言葉にヨハンは得意げな表情を見せた。
「僕はね、攻撃魔法が使えない代わりにそれ以外の魔法はほとんど使えるんだ。あまり、世の中に知られていない魔法も」
「凄い……。そんな魔法使い、聞いたことないわ」
「凄くないよ~。だって僕一人ではモンスターの一体も倒せないんだから」
そう言って頭を掻くヨハンの姿が愛おしい。まだ出会ったばかりなのに、パトリシアは完全に恋に落ちていた。
──ジリッ。ジリッ。
早速モンスターの気配。パトリシアは剣帯から短剣を抜き、ヨハンの前に出る。
「見えた。ハイゴブリンだよ」
何の魔法だろう? ヨハンはまだ視界には入っていないモンスターを判別してみせる。
「なら問題ないわ。ヨハンは見ていて」
暗がりの向こうに紅い光が浮かび上がる。人間への敵意が篭ったモンスターの眼だ。
「グギャギャギャッ!」
ハイゴブリンが棍棒を大上段に構えながら飛び込んでくる。ゴブリンとは違って素早く力強い動きだ。しかし──。
「破ッ!」
──パトリシアの一閃。ハイゴブリンの体だけが前に進み、その首はポトリと後へと落ちる。やがて体も地面に倒れ、煙になって何かが残った。
「あれ? チェンジストーン?」
「そうみたいだね」
通常、ダンジョンのモンスターは魔石や素材をドロップする。しかし、マッチングダンジョンは違うらしい。
チェンジストーンを拾い上げ、パトリシアは困った顔をする。自分にはもう必要のないものだ。ヨハンを引き当てたのだから。
振り返ってヨハンを見ると、笑っている。
「ふふふ。どうしたの? 眉間に皺を寄せて」
「私にはもうチェンジストーンはいらないから……」
「奇遇だね。僕にも不要だよ」
ヨハンの言葉を聞いて、鼓動がはやくなる。ヨハンは自分のことを気に入っている。このままダンジョンを攻略すれば、彼と結ばれる。そんな想像がパトリシアの胸を熱くした。
「今度は顔が赤いよ?」
「なっ、なんでもないの! さっ、先へ急ぎましょう!」
#
まずい! もう一体来た!
パトリシアが二体のハイオークを相手しているところにもう一体、槍を持ったハイオークが現れた。槍のハイオークは隙間を縫って突きを放とうする。駄目だ。やられる──。
ガチンッ! と槍の穂先は何かとぶつかってパトリシアの身体には届かない。
「えっ? 何?」
オークの攻撃を躱しながらパトリシアはヨハンに視線を送る。
「パトリシアには指一本触れさせないから、安心して戦って」
ヨハンの魔法だろうか? 彼女の周りに透明な板が幾つも浮かんでいた。
ガチンッ! とまた板がオークの攻撃を防ぐ。ヨハンに守られているという事実がパトリシアを強くした。
「破ッ! 牙ッ! 突ッ!」
守りを気にしないパトリシアは闘気を身体に漲らせ、あっという間にハイオーク三体を屠った。見事な剣捌きにヨハンが感嘆の声を漏らす。
「凄いよ、パトリシア! 一人でハイオーク三体なんて」
「ヨハンのおかげよ。あんな魔法、見たことないわ」
パトリシアの言葉にヨハンは得意げな表情を見せた。
「僕はね、攻撃魔法が使えない代わりにそれ以外の魔法はほとんど使えるんだ。あまり、世の中に知られていない魔法も」
「凄い……。そんな魔法使い、聞いたことないわ」
「凄くないよ~。だって僕一人ではモンスターの一体も倒せないんだから」
そう言って頭を掻くヨハンの姿が愛おしい。まだ出会ったばかりなのに、パトリシアは完全に恋に落ちていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい
冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」
婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。
ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。
しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。
「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」
ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。
しかし、ある日のこと見てしまう。
二人がキスをしているところを。
そのとき、私の中で何かが壊れた……。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
「悪役令嬢は溺愛されて幸せになる」というテーマで描かれるラブロマンスです。
主人公は平民出身で、貴族社会に疎いヒロインが、皇帝陛下との恋愛を通じて成長していく姿を描きます。
また、悪役令嬢として成長した彼女が、婚約破棄された後にどのような運命を辿るのかも見どころのひとつです。
なお、後宮で繰り広げられる様々な事件や駆け引きが描かれていますので、シリアスな展開も楽しめます。
以上のようなストーリーになっていますので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
【1/1取り下げ予定】妹なのに氷属性のお義兄様からなぜか溺愛されてます(旧題 本当の妹だと言われても、お義兄様は渡したくありません!)
gacchi
恋愛
事情があって公爵家に養女として引き取られたシルフィーネ。生まれが子爵家ということで見下されることも多いが、公爵家には優しく迎え入れられている。特に義兄のジルバードがいるから公爵令嬢にふさわしくなろうと頑張ってこれた。学園に入学する日、お義兄様と一緒に馬車から降りると、実の妹だというミーナがあらわれた。「初めまして!お兄様!」その日からジルバードに大事にされるのは本当の妹の私のはずだ、どうして私の邪魔をするのと、何もしていないのにミーナに責められることになるのだが…。電子書籍化のため、1/1取り下げ予定です。1/2エンジェライト文庫より電子書籍化します。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる