回復手段が独占された世界に転移した悪徳霊能者。「身体が整う水」としてポーションを売り出す

フーツラ

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第29話 ゴブリンキング②

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「ツボタ。これで見てみ~」

 アミラフが渡して来たのは双眼鏡だ。何処かの落ち人が開発したのだろう。地球の双眼鏡と非常によく似ている。

 アミラフは自前の身体強化魔法で視力を強め、鋭い目つきで各隊の戦いを見つめていた。

 俺たち第四小隊は森の小高くなったところで待機中だ。ここからだと各小隊の動きが掴みやすい。俺は双眼鏡を顔にあて、覗き込んだ。

 とたん、ゴブリンの頭が宙に舞う場面だった。やはり雑魚は雑魚。歴戦の騎士や冒険者には敵わない。

「なんか変やな」

 アミラフが呟くと、近くにいたミハエルが反応した。

「どうかしましたか?」
「うーん。ゴブリンが逃げないんよなぁ」
「それはゴブリンキングの存在によって狂乱状態になっているからでは?」

 首をふり、アミラフは続ける。

「狂乱状態になってたら、巣穴にはこもってない筈なんよ。まだスタンピードは発生してない。なのに逃げずにワラワラと巣穴から殺されに出てくる。これはなんか変──」

 ドンッ! と下から突き上げるような振動。第四小隊に緊張が走る。

「地震か……!?」

 誰かの声。それを否定するようにまた激しい振動。何度も連続する。

「こんな地震ないやろ! なんか来るで!」

 小隊から五メートルほど先の地面に異変があった。土が盛り上がっているのだ。その山は振動を重ねる度に大きくなる。

「構えろ!」

 ミハエルの声に騎士が剣を抜いて構えた。冒険者達もそれに続く。

 ドドンッ! とこれまでで一番大きな衝撃。黒い塊が地表を突き抜けて中空に身を踊らせた。

「あれは……」

 その威容にミハエルの声が震えている。

「ガアアァァァ……!!」

 雄叫びをあげたのは体長三メートルを超えるような真っ黒な肌をした、怪物。

「ゴブリンキングや! 来るで!」

 第四小隊と正対したゴブリンキングは紅い瞳を輝かせた。途端、黒い巨体がブレる。

 前衛の騎士の身体が幾つも宙を舞った。黒い疾風が第四小隊を突き抜ける。

 ゴブリンキングの通った後には何もない。トラックがノーブレーキで群衆に突っ込んだように。そして、ねじ曲がった人の身体がゆっくりと地面に落ちてくる。

「ぐっ……」

 後方から何かに耐えるような声がした。振り返ると、ミハエルが顔を歪め、息を乱している。

「ミハエル様、腕が……!!」

 護衛の騎士の悲痛な声。赤い液体が地面に広がる。

 ミハエルは、その右腕を失っていた。
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