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第14話 カーチスと低級ポーション
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ヘルガートの街の外れにあるカーチス武具店に俺は来ていた。壺を抱えて。
壺には低級ポーションを百倍に薄め、砂糖を加えた液体が入っている。
何故、ただでさえ低級のポーションを更に薄めたのか? それはポーションを別のカタチで売り出す為だ。
この世界の人々は怪我をした時だけ、回復魔法やポーションの世話になる。
逆に言うと、自分が怪我をしたと認識しないと、ポーションを飲んだりしない。
しかし、これは大きな間違いである。
人間の身体は日々ストレスにさらされ、あちこちが炎症を起こしている。
つまり「怪我をしている」のだ。
この身体の内部の小さな小さな怪我を治すには、低級ポーションすらオーバースペック。
自分の身体で検証した結果、百倍に薄めた低級ポーションを毎日飲み続けることで、体内の炎症を抑えることができ、非常に体調がよくなることが分かった。
そして今日、俺はこの百倍希釈ポーションをヘルガートの街に浸透させるために、カーチス武具店にやってきた。
『よし。ニンニン、グラス。俺のやり方をよーく見ておくんだ』
『また、適当なこと言ってカーチスさんから武具を巻き上げるだけでしょ!?』
『ウォンウォンウォン!?』
こいつら、分かってないな。
『いや、違う。今日は種まきだ。まだ、収穫はしない』
『種まき?』
『ウォン?』
『まぁ、見ていろ』
俺は店内に入り、店主カーチスを呼ぶ。
「おい、カーチスはいるか?」
「おお! ツボタさんじゃないですか? ご無沙汰しております」
店の奥からやってきて、カーチスは軽く頭を下げた。
「最近、調子はどうだ?」
カーチスはにっこり笑う。
「身体はすっかりよくなりましたよ! 肩も脚も痛くありません。それに、夜よく眠れるようになりました! 仙人の耳栓のおかげです」
「それはよかった」
カーチスは俺が抱えている壺に視線を落とした。
「ツボタさん、何を持っているんですか?」
「あぁ、これか? 仙人の壺だ」
「仙人の……! それは興味深いですね!」
「仙人」の単語に敏感に反応した。カーチスはもうすっかり「仙人」のファンなのだ。
「この壺の中には仙人が好んで飲む【仙人水】が入っている。これを飲むと、身体が【整う】んだよ」
「整う……」
決して、怪我が治るとか、健康になるとは言わない。仙人水で提供するのは新しい価値だ。
「今日は世話になっているカーチスにこの仙人水をお裾分けしようと思ってな。タダで」
「えっ……!? いいんですか?」
「俺だけ【整う】のはなんだか気が引けてな。この街で一番世話になっているカーチスにも【整う】感覚を知ってほしいんだ」
俺は店の奥に行ってカウンターに壺を置く。そして壺に向かって手を合わせ、目を瞑って頭を下げた。
「それは何をしているんですか?」
「壺へ感謝の気持ちを伝えている。『整えてくれてありがとう』と。これをやると効果が全然違う」
カーチスが疑いの視線を向ける。
「まぁ、騙されたと思ってやってみてくれ。毎朝、壺に向かって感謝の気持ちを伝えてから【仙人水】を一口飲む。これだけで、驚くほど身体が【整う】から」
「ツボタさんが言うなら信じますけど……」
「一か月後にまた来るから、感想を聞かせてくれ」
俺は仙人の壺を押し付け、カーチス武具店を後にした。
壺には低級ポーションを百倍に薄め、砂糖を加えた液体が入っている。
何故、ただでさえ低級のポーションを更に薄めたのか? それはポーションを別のカタチで売り出す為だ。
この世界の人々は怪我をした時だけ、回復魔法やポーションの世話になる。
逆に言うと、自分が怪我をしたと認識しないと、ポーションを飲んだりしない。
しかし、これは大きな間違いである。
人間の身体は日々ストレスにさらされ、あちこちが炎症を起こしている。
つまり「怪我をしている」のだ。
この身体の内部の小さな小さな怪我を治すには、低級ポーションすらオーバースペック。
自分の身体で検証した結果、百倍に薄めた低級ポーションを毎日飲み続けることで、体内の炎症を抑えることができ、非常に体調がよくなることが分かった。
そして今日、俺はこの百倍希釈ポーションをヘルガートの街に浸透させるために、カーチス武具店にやってきた。
『よし。ニンニン、グラス。俺のやり方をよーく見ておくんだ』
『また、適当なこと言ってカーチスさんから武具を巻き上げるだけでしょ!?』
『ウォンウォンウォン!?』
こいつら、分かってないな。
『いや、違う。今日は種まきだ。まだ、収穫はしない』
『種まき?』
『ウォン?』
『まぁ、見ていろ』
俺は店内に入り、店主カーチスを呼ぶ。
「おい、カーチスはいるか?」
「おお! ツボタさんじゃないですか? ご無沙汰しております」
店の奥からやってきて、カーチスは軽く頭を下げた。
「最近、調子はどうだ?」
カーチスはにっこり笑う。
「身体はすっかりよくなりましたよ! 肩も脚も痛くありません。それに、夜よく眠れるようになりました! 仙人の耳栓のおかげです」
「それはよかった」
カーチスは俺が抱えている壺に視線を落とした。
「ツボタさん、何を持っているんですか?」
「あぁ、これか? 仙人の壺だ」
「仙人の……! それは興味深いですね!」
「仙人」の単語に敏感に反応した。カーチスはもうすっかり「仙人」のファンなのだ。
「この壺の中には仙人が好んで飲む【仙人水】が入っている。これを飲むと、身体が【整う】んだよ」
「整う……」
決して、怪我が治るとか、健康になるとは言わない。仙人水で提供するのは新しい価値だ。
「今日は世話になっているカーチスにこの仙人水をお裾分けしようと思ってな。タダで」
「えっ……!? いいんですか?」
「俺だけ【整う】のはなんだか気が引けてな。この街で一番世話になっているカーチスにも【整う】感覚を知ってほしいんだ」
俺は店の奥に行ってカウンターに壺を置く。そして壺に向かって手を合わせ、目を瞑って頭を下げた。
「それは何をしているんですか?」
「壺へ感謝の気持ちを伝えている。『整えてくれてありがとう』と。これをやると効果が全然違う」
カーチスが疑いの視線を向ける。
「まぁ、騙されたと思ってやってみてくれ。毎朝、壺に向かって感謝の気持ちを伝えてから【仙人水】を一口飲む。これだけで、驚くほど身体が【整う】から」
「ツボタさんが言うなら信じますけど……」
「一か月後にまた来るから、感想を聞かせてくれ」
俺は仙人の壺を押し付け、カーチス武具店を後にした。
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