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第13話 いよいよポーション
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「泉で憑依、溺死でニッコリ」作戦は非常に有効だった。
先ず、どのような魔物でも必ず水を求めて泉に集まってくるので、森を歩きまわって探しに行く必要がない。しかも水を飲んでいる時は隙だらけ。
霊的に格が高いグラスが取り憑けば魔物は痙攣し、水に沈む。そして、少し待てば溺死。俺、ニッコリ。
この作戦を繰り返すこと約一か月。ついにポーション合成に必要な材料が集まったのだ!
『いよいよね! ツボタ!』
『あぁ。遂に、ここまでたどり着いた。長かったぜ』
野兎亭の部屋のテーブルには下処理した各素材がシャーレに並べられている。
『これから、精製だよな?』
『そうよ! 各素材から必要な成分だけ取り出す。これからは根気のいる作業よ』
『楽したい。何か方法はないか?』
『駄目! 地道にやって!』
ふん。仕方がない。
『では、ゴブリンの目玉からやろう。手順を教えてくれ』
『じゃーまず、すり鉢で粉にするところからよ』
『楽したい』
『駄目! 地道にすりつぶして』
クソ。早く俺の手足となって働く人間がほしい! 早く金を稼いで奴隷を買わないと!
『ほら! 手を動かす!』
『ちっ』
俺は諦めてゴブリンの目玉をすり鉢にいれ、ねり棒で潰し始めた。
#
全ての材料の精製が終わったのは五日後だった。机には試験管が二十本並べられ、その中には色とりどりの液体が入っている。
『では、精製した液体を全て混ぜ合わせて』
『了解』
大き目のビーカーに試験管の中身を次々と入れていく。
ニンニンはその様子を真剣に、グラスは不思議そうに眺めていた。
全ての試験管の中身を入れると、ビーカーの中は真っ黒な液体になった。かなり怪しい。
『よし。完了』
『じゃー、そのビーカーを魔法陣の上において。真ん中よ』
言われた通りにビーカーを【ポーション合成魔法陣】の上に置いた。
『次は魔石から魔力の抽出。漏斗に魔石を入れて』
漏斗には【魔力抽出魔法陣】が描かれている。この魔法陣に触れた魔石は魔力が抜ける。そして、管の先に魔力が集まるつくりになっているらしい。
今まで集めた極小の魔石を漏斗に入れると、魔法陣が発動した。魔石が色を失い、代わりに漏斗の管の先が光始めた。これが、抽出された魔力……。
『いいわ。そのまま、漏斗の管の先を魔法陣に当てて』
『了解』
漏斗の管を【ポーション合成魔法陣】に当てる。魔法陣から強い光が放たれ、やがてビーカーを包む。ビーカーの中身が泡立ち始めた。そして──。
『完成よ! 色は薄いから低級だけど、間違いなくポーションよ!!』
ニンニンが歓声を上げた。
ビーカーの中身の液体は黒から薄い紫色に変わっている。俺が最初に飲んだ上級ポーションに比べるとかなり色は薄いが、ポーションはポーション。達成感で気分が高揚する。
『試してみてもいいか?』
『そんな大きな怪我だと回復しないからね? 気を付けてね』
腰からナイフを取り出し、左手の人差し指に刃を滑らす。赤い筋が出来た。
スポイトでビーカーから低級ポーションを吸い上げ、人差し指に垂らす。すると──。
『傷が塞がった! 成功ね!!』
『ウォンウォン!』
ニンニンとグラスは手放しで喜んでいる。しかし、俺はそんなに単純ではない。
既に、先のことを考え始めていた。
ビーカーにある低級ポーションは500ml程度。今後、作業は効率化されるとしても、一人で同じ量を作ると最低でも一か月程度は掛かるだろう。
問題は金だ。
不要な素材や余剰の魔石を売ることでギリギリ生活は成り立つ。しかし、金を貯まらない。このままでは、いつまで経っても奴隷の購入は出来ないだろう。
かといってポーションをそのまま売ると、アスター教に潰されてしまう。ニンニンの二の舞だ。
『ツボタ、どうしたの? そんなに難しい顔して』
『この低級ポーションの売り方を考えていたんだ』
『こっそり、冒険者に売ればいいだけじゃない? 内緒だよ! って』
ニンニンは「当然でしょ?」という顔をしている。話にならない。
『馬鹿野郎! ポーションをポーションとして売っても美味しくないだろ? 俺はポーションを元に、新しい価値を生み出したいんだ……!!』
『新しい価値……!?』
『ウォンウォンウォン……!?』
ニンニンとグラスが雷に打たれたような顔をしている。
『そうだ。俺達が売るのはポーションであってはならない。新たな価値によって、アスター教から信者を奪い、そして最終的に潰す』
ニンニンはゴクリと唾を飲み込んだ。
『それには、何が必要なの?』
俺は目を瞑って考える。するとぼんやりとイメージがわいてきた。新たな価値を提供する仕組みについて。
『壺だ』
『えっ……!?』
ニンニンは首を捻る。
『新たな価値の提供には壺が必要だ!』
『なんで壺なの?』
『馬鹿野郎! 人間が幸せになるには【壺】しかないだろ! 常識だ!』
『そんな常識ないけど……!!』
全く。ニンニンは壺の凄さを分かっていない。
『壺には人を惹きつける魅力があるんだ。本当だ。俺を信じてくれ』
『ツボタがそこまで言うなら信じるけど……』
よし。後は協力者が必要だな。壺の凄さを周囲に伝えてくれる、協力者が……
先ず、どのような魔物でも必ず水を求めて泉に集まってくるので、森を歩きまわって探しに行く必要がない。しかも水を飲んでいる時は隙だらけ。
霊的に格が高いグラスが取り憑けば魔物は痙攣し、水に沈む。そして、少し待てば溺死。俺、ニッコリ。
この作戦を繰り返すこと約一か月。ついにポーション合成に必要な材料が集まったのだ!
『いよいよね! ツボタ!』
『あぁ。遂に、ここまでたどり着いた。長かったぜ』
野兎亭の部屋のテーブルには下処理した各素材がシャーレに並べられている。
『これから、精製だよな?』
『そうよ! 各素材から必要な成分だけ取り出す。これからは根気のいる作業よ』
『楽したい。何か方法はないか?』
『駄目! 地道にやって!』
ふん。仕方がない。
『では、ゴブリンの目玉からやろう。手順を教えてくれ』
『じゃーまず、すり鉢で粉にするところからよ』
『楽したい』
『駄目! 地道にすりつぶして』
クソ。早く俺の手足となって働く人間がほしい! 早く金を稼いで奴隷を買わないと!
『ほら! 手を動かす!』
『ちっ』
俺は諦めてゴブリンの目玉をすり鉢にいれ、ねり棒で潰し始めた。
#
全ての材料の精製が終わったのは五日後だった。机には試験管が二十本並べられ、その中には色とりどりの液体が入っている。
『では、精製した液体を全て混ぜ合わせて』
『了解』
大き目のビーカーに試験管の中身を次々と入れていく。
ニンニンはその様子を真剣に、グラスは不思議そうに眺めていた。
全ての試験管の中身を入れると、ビーカーの中は真っ黒な液体になった。かなり怪しい。
『よし。完了』
『じゃー、そのビーカーを魔法陣の上において。真ん中よ』
言われた通りにビーカーを【ポーション合成魔法陣】の上に置いた。
『次は魔石から魔力の抽出。漏斗に魔石を入れて』
漏斗には【魔力抽出魔法陣】が描かれている。この魔法陣に触れた魔石は魔力が抜ける。そして、管の先に魔力が集まるつくりになっているらしい。
今まで集めた極小の魔石を漏斗に入れると、魔法陣が発動した。魔石が色を失い、代わりに漏斗の管の先が光始めた。これが、抽出された魔力……。
『いいわ。そのまま、漏斗の管の先を魔法陣に当てて』
『了解』
漏斗の管を【ポーション合成魔法陣】に当てる。魔法陣から強い光が放たれ、やがてビーカーを包む。ビーカーの中身が泡立ち始めた。そして──。
『完成よ! 色は薄いから低級だけど、間違いなくポーションよ!!』
ニンニンが歓声を上げた。
ビーカーの中身の液体は黒から薄い紫色に変わっている。俺が最初に飲んだ上級ポーションに比べるとかなり色は薄いが、ポーションはポーション。達成感で気分が高揚する。
『試してみてもいいか?』
『そんな大きな怪我だと回復しないからね? 気を付けてね』
腰からナイフを取り出し、左手の人差し指に刃を滑らす。赤い筋が出来た。
スポイトでビーカーから低級ポーションを吸い上げ、人差し指に垂らす。すると──。
『傷が塞がった! 成功ね!!』
『ウォンウォン!』
ニンニンとグラスは手放しで喜んでいる。しかし、俺はそんなに単純ではない。
既に、先のことを考え始めていた。
ビーカーにある低級ポーションは500ml程度。今後、作業は効率化されるとしても、一人で同じ量を作ると最低でも一か月程度は掛かるだろう。
問題は金だ。
不要な素材や余剰の魔石を売ることでギリギリ生活は成り立つ。しかし、金を貯まらない。このままでは、いつまで経っても奴隷の購入は出来ないだろう。
かといってポーションをそのまま売ると、アスター教に潰されてしまう。ニンニンの二の舞だ。
『ツボタ、どうしたの? そんなに難しい顔して』
『この低級ポーションの売り方を考えていたんだ』
『こっそり、冒険者に売ればいいだけじゃない? 内緒だよ! って』
ニンニンは「当然でしょ?」という顔をしている。話にならない。
『馬鹿野郎! ポーションをポーションとして売っても美味しくないだろ? 俺はポーションを元に、新しい価値を生み出したいんだ……!!』
『新しい価値……!?』
『ウォンウォンウォン……!?』
ニンニンとグラスが雷に打たれたような顔をしている。
『そうだ。俺達が売るのはポーションであってはならない。新たな価値によって、アスター教から信者を奪い、そして最終的に潰す』
ニンニンはゴクリと唾を飲み込んだ。
『それには、何が必要なの?』
俺は目を瞑って考える。するとぼんやりとイメージがわいてきた。新たな価値を提供する仕組みについて。
『壺だ』
『えっ……!?』
ニンニンは首を捻る。
『新たな価値の提供には壺が必要だ!』
『なんで壺なの?』
『馬鹿野郎! 人間が幸せになるには【壺】しかないだろ! 常識だ!』
『そんな常識ないけど……!!』
全く。ニンニンは壺の凄さを分かっていない。
『壺には人を惹きつける魅力があるんだ。本当だ。俺を信じてくれ』
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