上 下
8 / 31

第8話 初めての狩

しおりを挟む
 カーチス武具店で装備を揃えた俺は早速、狩りに出かけた。

 ただし、行先は「魔の森」ではない。辺境の街ヘルガートの東にある草原だ。見渡す限り草本植物で覆われており、所々に低木がある。

 何故魔の森ではないのか?

 ニンニン曰く、魔の森の魔物は強いらしい。なんの経験もなく強い魔物と戦えば、装備が整っていたとしても危険。転移初日に何事もなく街に戻ってこれたのは運が良かっただけらしい。

 俺は無鉄砲な子供ではない。ちゃんと段階を踏んでから魔の森へ向かうこととした。

『で、何の魔物を狙うんだ?』
『初心者はマッドラットかマッドラビットかな?』

 魔物化したネズミとウサギというわけか。そいうえばB級冒険者のハッサンが『カスでも三年ぐらい頑張ればネズミぐらい倒せるようになるから!』と馬鹿にしていたな。初日で倒してやろう。

『地面にあいている穴の中にいるのか?』
『そうだね。昼間は穴の中かな。夜行性の魔物だから』

 すぐ足元に巣穴らしき穴がある。俺は低木の枝をおり、グッと穴に突っ込んだ。

「ギュイ!」と鳴き声がして、別の穴からネズミが出て来た。巣には幾つも入口があるらしい。

 俺は短剣を抜いてマッドラットに近付こうとするが……すばしっこい。すぐに遠くへ行ってしまった。追い掛け回す気にはならない。

『これ、一人だと厳しくないか?』
『うん。二人以上いないと効率悪いよ』

 だよなぁ。何か手はないかと周囲を見渡す。

「おっ!」

 思わず声が出てしまった。見付けたのは動物霊。見た感じ、狼のようだ。特に当てもなくフラフラしている。霊になって間もない感じか? あまり悪意は感じないし、放っておくと直ぐに天に昇ってしまいそうだ。

 俺は何気なく狼の霊に近付き、手を伸ばし【操霊】。

 狼の霊はぴたりと動きを止めた。よし。成功。こいつは俺の支配下に入った。

『ついてこい!』

 俺が歩くと、その横にぴたりと狼の霊。猟犬を飼っている気分になる。

 少し歩くとまた巣穴があった。さっきと同じように棒切れを突っ込んでグリグリと回す。手応えあり。

「ギュイ!」と鳴いたかと思うと、違う穴からマッドラットが飛び出す。そのまま走りだした。しかし、今回はこいつがいる。

『追え!』と命令するやいなや、狼の霊は弾丸のような速度で走り、ネズミの魔物に追いつく。

『そこだ! 【憑け】』

 狼の霊が憑りついた瞬間、マッドラットは痙攣して地面に転がった。自分より高位の存在の霊に憑りつかれた場合、生き物はこのような反応をすることが多い。

 俺は悠々とあるいて現場に向かい、ガクガクと体を震わせる赤い瞳のネズミを見下ろした。

 短剣は必要ないな。ナイフで十分だ。

 腰のベルトからナイフを抜いて屈み、俺はマッドラットの首筋に鋭い刃を落とした。

 痙攣は止まり、代わりに血が流れる。

 ニンニンが呆れた顔で俺を見ている。

『どうだ?』
『なんか狡い! ツボタは全然働いてない!』
『ありがとう。褒めてくれて』
『褒めてない!』

 ニンニンは拳を握って抗議する。

『どう考えても褒め言葉だろ? 最低限の労力で最大の成果を得るのが出来るビジネスマンだ』
『んん……』

俺は教わっていたとおりにマッドラットの腹を裂いて心臓の隣にある魔石を採取した。


 その後は日が暮れるまで同じ方法でマッドラットとマッドラビットを狩りまくった。成果としてはネズミが32にウサギが15。

 マッドラビットは肉と毛皮が売れるということでズタ袋に入れてある。

『今日は助かった。ありがとう』

 狼の霊に礼を言う。俺の支配下から外れても、傍から離れようとしない。

 うん? これは好かれてしまったか?

『天に昇らなくていいのか?』
『ウォン』

 さて、どうしたものか。今後、魔物と戦うことを考えると、この狼の霊がいた方が便利なのは確かだ。

『しばらく、俺と過ごすか?』
『ウォン』と鳴いて、俺の足に鼻先を擦り付けた。

 俺の前に回ってきたニンニンがその様子を嬉しそうに見ている。

『ねえ、つぼた! 名前付けようよ!』
『いや、それはマズイ! 霊に名前をつけると──』
『グラス! 狼君の名前はグラスね!』
『ウォン!』と鳴いて、狼の霊は喜ぶ。

 やっちまった……。俺とグラスの間には、しっかりとした繋がりが出来てしまった。

 鎖のようなもので結ばれているのが分かる。名前をつけたのはニンニンなのに……。

『どうしたの? しかめっ面して』
『これを見ろよ』

 俺は霊的な鎖を手に取ってニンニンに見せる。

『えっ、鎖?』
『そうだよ! ニンニンが名前をつけたことにより、その寄り親である俺とグラスの間に繋がりが出来てしまった。こうなると、自分では剥がせない。無理をすると、俺の魂が傷つく』

 ニンニンが眉間に皺を寄せる。

『よく分からないけど、ツボタとグラスはずっと仲良しってこと?』
『まぁ、当分はそうなる』

 グラスは俺を見上げて嬉しそうにしている。心なしか、さっきよりも毛並みが良くなっている。俺の霊力が流れているのか?

『仕方がない。宿に帰るぞ!』
『うん!』
『ウォン!』

 一人と一頭を引き連れ、重たいズタ袋を肩に担ぎ、俺はヘルガートの街へと歩き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

処理中です...