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第8話 初めての狩
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カーチス武具店で装備を揃えた俺は早速、狩りに出かけた。
ただし、行先は「魔の森」ではない。辺境の街ヘルガートの東にある草原だ。見渡す限り草本植物で覆われており、所々に低木がある。
何故魔の森ではないのか?
ニンニン曰く、魔の森の魔物は強いらしい。なんの経験もなく強い魔物と戦えば、装備が整っていたとしても危険。転移初日に何事もなく街に戻ってこれたのは運が良かっただけらしい。
俺は無鉄砲な子供ではない。ちゃんと段階を踏んでから魔の森へ向かうこととした。
『で、何の魔物を狙うんだ?』
『初心者はマッドラットかマッドラビットかな?』
魔物化したネズミとウサギというわけか。そいうえばB級冒険者のハッサンが『カスでも三年ぐらい頑張ればネズミぐらい倒せるようになるから!』と馬鹿にしていたな。初日で倒してやろう。
『地面にあいている穴の中にいるのか?』
『そうだね。昼間は穴の中かな。夜行性の魔物だから』
すぐ足元に巣穴らしき穴がある。俺は低木の枝をおり、グッと穴に突っ込んだ。
「ギュイ!」と鳴き声がして、別の穴からネズミが出て来た。巣には幾つも入口があるらしい。
俺は短剣を抜いてマッドラットに近付こうとするが……すばしっこい。すぐに遠くへ行ってしまった。追い掛け回す気にはならない。
『これ、一人だと厳しくないか?』
『うん。二人以上いないと効率悪いよ』
だよなぁ。何か手はないかと周囲を見渡す。
「おっ!」
思わず声が出てしまった。見付けたのは動物霊。見た感じ、狼のようだ。特に当てもなくフラフラしている。霊になって間もない感じか? あまり悪意は感じないし、放っておくと直ぐに天に昇ってしまいそうだ。
俺は何気なく狼の霊に近付き、手を伸ばし【操霊】。
狼の霊はぴたりと動きを止めた。よし。成功。こいつは俺の支配下に入った。
『ついてこい!』
俺が歩くと、その横にぴたりと狼の霊。猟犬を飼っている気分になる。
少し歩くとまた巣穴があった。さっきと同じように棒切れを突っ込んでグリグリと回す。手応えあり。
「ギュイ!」と鳴いたかと思うと、違う穴からマッドラットが飛び出す。そのまま走りだした。しかし、今回はこいつがいる。
『追え!』と命令するやいなや、狼の霊は弾丸のような速度で走り、ネズミの魔物に追いつく。
『そこだ! 【憑け】』
狼の霊が憑りついた瞬間、マッドラットは痙攣して地面に転がった。自分より高位の存在の霊に憑りつかれた場合、生き物はこのような反応をすることが多い。
俺は悠々とあるいて現場に向かい、ガクガクと体を震わせる赤い瞳のネズミを見下ろした。
短剣は必要ないな。ナイフで十分だ。
腰のベルトからナイフを抜いて屈み、俺はマッドラットの首筋に鋭い刃を落とした。
痙攣は止まり、代わりに血が流れる。
ニンニンが呆れた顔で俺を見ている。
『どうだ?』
『なんか狡い! ツボタは全然働いてない!』
『ありがとう。褒めてくれて』
『褒めてない!』
ニンニンは拳を握って抗議する。
『どう考えても褒め言葉だろ? 最低限の労力で最大の成果を得るのが出来るビジネスマンだ』
『んん……』
俺は教わっていたとおりにマッドラットの腹を裂いて心臓の隣にある魔石を採取した。
その後は日が暮れるまで同じ方法でマッドラットとマッドラビットを狩りまくった。成果としてはネズミが32にウサギが15。
マッドラビットは肉と毛皮が売れるということでズタ袋に入れてある。
『今日は助かった。ありがとう』
狼の霊に礼を言う。俺の支配下から外れても、傍から離れようとしない。
うん? これは好かれてしまったか?
『天に昇らなくていいのか?』
『ウォン』
さて、どうしたものか。今後、魔物と戦うことを考えると、この狼の霊がいた方が便利なのは確かだ。
『しばらく、俺と過ごすか?』
『ウォン』と鳴いて、俺の足に鼻先を擦り付けた。
俺の前に回ってきたニンニンがその様子を嬉しそうに見ている。
『ねえ、つぼた! 名前付けようよ!』
『いや、それはマズイ! 霊に名前をつけると──』
『グラス! 狼君の名前はグラスね!』
『ウォン!』と鳴いて、狼の霊は喜ぶ。
やっちまった……。俺とグラスの間には、しっかりとした繋がりが出来てしまった。
鎖のようなもので結ばれているのが分かる。名前をつけたのはニンニンなのに……。
『どうしたの? しかめっ面して』
『これを見ろよ』
俺は霊的な鎖を手に取ってニンニンに見せる。
『えっ、鎖?』
『そうだよ! ニンニンが名前をつけたことにより、その寄り親である俺とグラスの間に繋がりが出来てしまった。こうなると、自分では剥がせない。無理をすると、俺の魂が傷つく』
ニンニンが眉間に皺を寄せる。
『よく分からないけど、ツボタとグラスはずっと仲良しってこと?』
『まぁ、当分はそうなる』
グラスは俺を見上げて嬉しそうにしている。心なしか、さっきよりも毛並みが良くなっている。俺の霊力が流れているのか?
『仕方がない。宿に帰るぞ!』
『うん!』
『ウォン!』
一人と一頭を引き連れ、重たいズタ袋を肩に担ぎ、俺はヘルガートの街へと歩き始めた。
ただし、行先は「魔の森」ではない。辺境の街ヘルガートの東にある草原だ。見渡す限り草本植物で覆われており、所々に低木がある。
何故魔の森ではないのか?
ニンニン曰く、魔の森の魔物は強いらしい。なんの経験もなく強い魔物と戦えば、装備が整っていたとしても危険。転移初日に何事もなく街に戻ってこれたのは運が良かっただけらしい。
俺は無鉄砲な子供ではない。ちゃんと段階を踏んでから魔の森へ向かうこととした。
『で、何の魔物を狙うんだ?』
『初心者はマッドラットかマッドラビットかな?』
魔物化したネズミとウサギというわけか。そいうえばB級冒険者のハッサンが『カスでも三年ぐらい頑張ればネズミぐらい倒せるようになるから!』と馬鹿にしていたな。初日で倒してやろう。
『地面にあいている穴の中にいるのか?』
『そうだね。昼間は穴の中かな。夜行性の魔物だから』
すぐ足元に巣穴らしき穴がある。俺は低木の枝をおり、グッと穴に突っ込んだ。
「ギュイ!」と鳴き声がして、別の穴からネズミが出て来た。巣には幾つも入口があるらしい。
俺は短剣を抜いてマッドラットに近付こうとするが……すばしっこい。すぐに遠くへ行ってしまった。追い掛け回す気にはならない。
『これ、一人だと厳しくないか?』
『うん。二人以上いないと効率悪いよ』
だよなぁ。何か手はないかと周囲を見渡す。
「おっ!」
思わず声が出てしまった。見付けたのは動物霊。見た感じ、狼のようだ。特に当てもなくフラフラしている。霊になって間もない感じか? あまり悪意は感じないし、放っておくと直ぐに天に昇ってしまいそうだ。
俺は何気なく狼の霊に近付き、手を伸ばし【操霊】。
狼の霊はぴたりと動きを止めた。よし。成功。こいつは俺の支配下に入った。
『ついてこい!』
俺が歩くと、その横にぴたりと狼の霊。猟犬を飼っている気分になる。
少し歩くとまた巣穴があった。さっきと同じように棒切れを突っ込んでグリグリと回す。手応えあり。
「ギュイ!」と鳴いたかと思うと、違う穴からマッドラットが飛び出す。そのまま走りだした。しかし、今回はこいつがいる。
『追え!』と命令するやいなや、狼の霊は弾丸のような速度で走り、ネズミの魔物に追いつく。
『そこだ! 【憑け】』
狼の霊が憑りついた瞬間、マッドラットは痙攣して地面に転がった。自分より高位の存在の霊に憑りつかれた場合、生き物はこのような反応をすることが多い。
俺は悠々とあるいて現場に向かい、ガクガクと体を震わせる赤い瞳のネズミを見下ろした。
短剣は必要ないな。ナイフで十分だ。
腰のベルトからナイフを抜いて屈み、俺はマッドラットの首筋に鋭い刃を落とした。
痙攣は止まり、代わりに血が流れる。
ニンニンが呆れた顔で俺を見ている。
『どうだ?』
『なんか狡い! ツボタは全然働いてない!』
『ありがとう。褒めてくれて』
『褒めてない!』
ニンニンは拳を握って抗議する。
『どう考えても褒め言葉だろ? 最低限の労力で最大の成果を得るのが出来るビジネスマンだ』
『んん……』
俺は教わっていたとおりにマッドラットの腹を裂いて心臓の隣にある魔石を採取した。
その後は日が暮れるまで同じ方法でマッドラットとマッドラビットを狩りまくった。成果としてはネズミが32にウサギが15。
マッドラビットは肉と毛皮が売れるということでズタ袋に入れてある。
『今日は助かった。ありがとう』
狼の霊に礼を言う。俺の支配下から外れても、傍から離れようとしない。
うん? これは好かれてしまったか?
『天に昇らなくていいのか?』
『ウォン』
さて、どうしたものか。今後、魔物と戦うことを考えると、この狼の霊がいた方が便利なのは確かだ。
『しばらく、俺と過ごすか?』
『ウォン』と鳴いて、俺の足に鼻先を擦り付けた。
俺の前に回ってきたニンニンがその様子を嬉しそうに見ている。
『ねえ、つぼた! 名前付けようよ!』
『いや、それはマズイ! 霊に名前をつけると──』
『グラス! 狼君の名前はグラスね!』
『ウォン!』と鳴いて、狼の霊は喜ぶ。
やっちまった……。俺とグラスの間には、しっかりとした繋がりが出来てしまった。
鎖のようなもので結ばれているのが分かる。名前をつけたのはニンニンなのに……。
『どうしたの? しかめっ面して』
『これを見ろよ』
俺は霊的な鎖を手に取ってニンニンに見せる。
『えっ、鎖?』
『そうだよ! ニンニンが名前をつけたことにより、その寄り親である俺とグラスの間に繋がりが出来てしまった。こうなると、自分では剥がせない。無理をすると、俺の魂が傷つく』
ニンニンが眉間に皺を寄せる。
『よく分からないけど、ツボタとグラスはずっと仲良しってこと?』
『まぁ、当分はそうなる』
グラスは俺を見上げて嬉しそうにしている。心なしか、さっきよりも毛並みが良くなっている。俺の霊力が流れているのか?
『仕方がない。宿に帰るぞ!』
『うん!』
『ウォン!』
一人と一頭を引き連れ、重たいズタ袋を肩に担ぎ、俺はヘルガートの街へと歩き始めた。
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