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新婚の話

名須さんはきっと一人でも生きていけるひとだと思うけれど、俺には誰かが必要だ。

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 二度目に会った名須さんに、

「結婚を前提として付き合ってみないか?」

 そう言われた俺は、戸惑いながらも頷いた。



 俺には今まで好きになった人がいなかったし、もしかしたらこれからも現れないかも知れない。

 だったら古き良き風習に則って、お見合い結婚なんてものもいいかも知れないと思ったのだ。


 そもそも結婚をしなくてはいけないということでもないのだけれど、俺のようないつまでたっても半人前の人間は人との繋がりを手放してはいけないって思ってた。


 名須さんはきっと一人でも生きていけるひとだと思うけれど、俺には誰かが必要だ。

 それは生活面とか金銭面とかそういうことではなくて、ひとりぼっちで生きないという選択。


 恋愛だけが結婚ではないし、結婚したところで死ぬまで一緒に居られるって保証もないけれど。



 頷いた俺に、名須さんの方が驚いたようだった。

 今日はこのあいだとは違って紺色のプラスチックフレームにグレーのテンプルってメガネだったからか、初見よりも幾分柔らかい印象で。

 眉間に気難しそうなシワもなかった。


「少し考えさせて欲しいとか、そういうの無いの?」


 余りにもあっさりと受け入れすぎたらしく、戸惑うように尋ねられ、俺は恥ずかしくなってしまった。


「俺も、ずっと独りでいるのは……みたいな抵抗があったし、名須さんとなら……良いかな、って思っていて」


 だからそう答えたら、ちょっと言葉に詰まるよう俺を見つめた名須さんが、

「そっか」

 と呟くよう言って、

「じゃあ、よろしく」

 俺に握手を求めるよう右手を差し出した。



 この時はまだ、一生一緒に居られる人だろうか?

 を決めるほど名須さんのことを知らないままの俺だったけれど、それでも決めたのはきっと直感だったのだろう。


 一緒に暮らす人はすごく好きな人じゃなくてもいいと思ったし、好きになる人なんて現れないだろうと思ったし。

 どうせなら俺の持っていないものを持っていそうな人。


 それから俺のことを好きになった訳ではなくても、傍に置いておくことに抵抗はなく、結婚相手にと望んでくれる人。

 そんな人なら誰でもいい、っていうと失礼に聞こえるかも知れないけれど、俺にとっては好ましいと思ったんだ。
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