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お見合いの話

俺を置いてきぼりにした世界で起こった話。

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 仕事にも生活にも、取り立てて不満はなくて。

 とはいえ張りのある毎日を送っているかと言うと、何となく流れて行く日々を自覚してはいた。


 二十代半ば、恋人無し、オタク歴イコール年齢。

 二次元にしか興味がないっていう訳じゃないけれど、三次元に興味があるか?
 っていったらそうとも言えない。


 無性愛者ってやつなんだろうか?
 と考えたこともあるけれど、それにも答えは出なかった。

 性欲がない訳ではないけれど、誰かを対象にした記憶はなく、欲望を吐き出すことしか興味はない。


 つまり、二十代半ばにして未だ童貞。

 誰にも言ったことはないけれど、誰にもそういう話を振られないから。


 けれど最近時々、

明原あきはらくん恋人欲しくないの?」

 なんて聞かれる機会が増えたのに、

「俺、女性にあまり興味がわかないみたい」

 なんてうっかり零してしまったので、職場同期の友人にはゲイだと認識されてしまった。


 まあ、いいか。

 って思って、否定も訂正もしなかったけど、肯定だってした覚えはない。


 近頃では同性カップルなんてのも珍しくなくなっていたし、制定当時は世の中を賑わせたらしい同性パートナーシップ証明制度なんかも、今じゃどんな田舎だって機能している。

 これはそういう世界の話。


 俺を置いてきぼりにした世界で起こった話。





「は、ははははじめまして、明原あたるです」

 気を付けてはいたのだけれど、やっぱりどもってしまった。


 「應」も若干「あたりゅ」になりかけてしまったけれど、そこは何とか伝わってくれたと思う。

「初めまして、名須なす逸希いつきです」

 名須さん――彼はそう言って、ペコリと頭を下げた俺に合わせるよう軽く会釈した。


 都内のホテルのティーラウンジ。

 いつも会社に着て行くやつじゃなくて、大学の友人の結婚式に出席した時に買ったちょっと良いスーツを着て、友人の紹介で会うことになった彼。


 俺なんかよりずっとスーツの似合う、大人の男のひとって感じがしたけれど、実際の歳は四つしか違わないらしい。

 金融関係のお仕事してるってのと、会社名だけは教えて貰っていたけれど、コンピューター関係の会社に勤める俺とはそもそも接点のない業種だ。
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