上 下
1 / 3

俺がお前のことどう思ってるか、本当に分かってンのか?コイツ…ってのは別にしても。

しおりを挟む
 なんの仕事してるか聞いたことねーけど、割と仕立ての良いスーツを着てるのには気付いてた。


 とはいえ、流行とかに左右されない堅実な型やデザインで。

 まァ、割とお堅いところで働いてるのかも知れない。

 ネクタイもワイシャツもベルトも靴もメガネも、清潔感はあるけど遊び心は全く無い。

 良く言や誠実そうで、悪く言やつまらねーヤツ。

 季節ごとに数着を数年間着回しているのだろうから、それなりに掛けた金は商売道具の初期投資って感じなのだろう。


 それでも今日のネクタイは、入江サンに似合ってた。

 こないだ俺が、自分で選んでプレゼントしてやったやつだから当たり前だ。


 そういうのはきちんと身に着けて会いに来る辺り、一応そういう気の回し方は出来るらしい。

 俺がお前のことどう思ってるか、本当に分かってンのか?コイツ……ってのは別にしても。



「もう食べないんですか?」

 声に、思わずニヤける。

 いままでこっちの事なんて気にもせず、ただひたすら目の前の鍋の中で浮いてる肉に夢中になってたくせに。

 そんなしゃぶしゃぶ珍しいかよ、もっと食え、オラ。


「これから出勤だってのに、そんながっついて食えるかよ」

 時刻は夕方、そろそろこの店を出てシャワーを浴びて、俺も戦闘服に着替えなくちゃならないけど、いつまでもグズグスしていたくなるのはコイツと居るからだ。


 なんでこんなのにハマっちまッたンだろ?

 と、自分でも時々首を捻りたくなるけれど、どうにも抜け出せないくらいハマってしまった後で、そんなこといくら考えても冷静な答えなんて出ない。


 ‪――‬それは入江サンも同じだろう。

 さっきまでラブホで散々ッぱら俺に鳴かされてたくせに、受け取った金掴んで惚れた女に会いに行くッて言うんだから、どーしよーもねェのはコイツも一緒。


 歓楽街の女に惚れて、リップサービスを本気にして、結構良い給料貰ってンだろーにギリギリまで搾り取られて。

 途方に暮れたような目をしてるかと思ったら、やけにキラキラした目で呆れるくらいにポジティブ。

 年下の俺に犯ラレてて、アラサーなのに童貞で、ポジティブになれる要素など全く見当たらねーッての!


「推しに貢ぐのは俺の幸せですから!」

 とか言うけれど、それならそれでアイドルにでもハマってた方が健全だろ?‪

 ――‬なんて、俺が言えた義理でもねーが。



 最初会った時はコイツもやっぱ途方に暮れてた。

 コイツの惚れた女は、トップとは言わないがそれなりの高級キャバの嬢で、だけど看板になるほど売れてる女でもない。

 こいつが散々月給やらボーナス注ぎ込んでも、とてもナンバーワンになどなれない女。

 何せその上がとんでもない数字稼いでるからなァ。


 だけどそれがなおさらコイツを燃え上がらせるのか、益々加速させられる浪費。

 女に払った金は、また夜の街へと吸い込まれてくだけなのに。



 今月はその女の誕生月だから、尚更金に糸目はつけなくなってて、そろそろ街金にでも手を出すんじゃねーか?

 ってのヤバいんだけど、言ったって聞かないからしょうがなく仕事世話してやってる感じだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

壁裡ち

BL
隣人であり傾倒しているホラー作家であり恋人である男の仕事風景を見る男の話です。 この話【https://www.alphapolis.co.jp/novel/733045373/705521440】のふたりです。 pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。 なにかありましたら(web拍手)  http://bit.ly/38kXFb0 Twitter垢・拍手返信はこちらにて  https://twitter.com/show1write

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

その関係はこれからのもの

雨水林檎
BL
年下わんこ系教師×三十代バツイチ教師のBL小説。 仕事中毒の体調不良、そんな姿を見たら感情があふれてしまってしょうがない。 ※体調不良描写があります。

自称チンタクロースという変態

ミクリ21
BL
チンタク……? サンタクじゃなくて……チンタク……? 変態に注意!

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

処理中です...