過ちはいつの日か

兎猫まさあき

文字の大きさ
上 下
2 / 2

抹茶@小説家『僕には重すぎた』

しおりを挟む
 一生は重すぎる。
 どんなにつらい過去があろうとも、楽になる方法などないのだから。
 だが、僕はもう楽になったんだ。

 墓参りの直後、僕は倒れたらしい。
 周りの人に支えられながら、僕はやりたいことをやった。
 きっと、あの子に──ゆりに、届いてればいいな……。

「届いてるよ──!」

 ふと、僕の後ろから声がした。
 振り返るとそこには──。

「──ゆり……?!」

 僕の、大切な、大切な、ゆりがそこにいた。
 あの日と、変わらない姿で、僕の目の前に現れてくれた。
 僕の思いがゆりへ届いた。ただそれだけでも充分だが、僕は欲張った。
 僕はゆりに近付くと正座して土下座をした。

「あの日は本当にごめんっ!」
「ま、待ってよ! それは私のセリフ、私が謝らなきゃいけないの!」
「でも……!」

 ゆりは、僕の言葉を遮っては自分が謝ろうとしてくる。
 そんな彼女の姿を見て僕は気付いてしまった。
 結局ゆりに対する謝罪など僕の自己満足でしかなかったのだと。
 幼いころのゆりに教えられてしまった気がしてならなかった。

 あの日の事をゆりは教えてくれた。
 あの時僕と別れたゆりは、山を下って一旦は自宅に帰ったらしい。
 そこで水分を取りながら頭を冷やしたらしい。
 それから山にいる僕の元へ戻る途中、いつも通っている過酷な道を通っていたが、足場が緩くなっていたらしく、崩れたのだという。
 それだけなら良かったのだが、そこから土砂が流れ込み、生き埋めになってしまったのだという。
 最後の事については僕が聞いたことと間違いはない。
 いつも通っていた道が崩れていたこと、ゆりが生き埋めになってしまっていたこと。
 だが、その間の話については一切聞かされていなかった。
 そもそも、通っている道が崩れていたのはてっきりゆりの嫌がらせで、崩している途中で山場が崩れてしまったものだとずっと思っていた。
 ゆりにそうさせてしまった僕自身を、強く強く恨んでいた。
 なんて馬鹿なことをさせたんだ僕は、と。
 だが、それはゆりの説明によって覆されてしまった。
 いや、もしかしたら、ゆりは僕が自身を責めていることを知ってて噓を付いているのだろうか……?
 僕に分かる由などない。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

 ──あの日は夜にゆりが帰ってこないと騒ぎになった。
 いつも一緒に遊んでいる僕は彼女の行方を大勢の大人から詰められた。
 だが、彼女を怒らせて最後までの行方を僕は知らないのでどんなに詰められても答えを出すことなどできなかった。
 結局大人たちとともに僕は山へ行き、ゆりの行方を捜すことになった。
 いつも通る山道を辿って僕はあの場所にたどり着いた。
 僕の話を聞く大人は顔面蒼白になりながら崖下へと急ぎ足で下って行った。
 大人たちが土を手で丁寧に剥がして行くうちに重機のショベルカーがやってきた。
 二、三回ショベルカーですくったのち、見覚えのある服が出てきた。
 ゆりだった。
 僕は彼女の姿を見て目の前が真っ白になった。
 計り知れないほどの感情が溢れ出て、目から涙があふれてきた。
 言わなくてもわかると思うが、この事故は全責任を僕が背負うこととなって村八分になって引越しすることとなった。
 墓参りに来た時も村人は最初歓喜の表情を浮かべていたが僕がユリとともに過ごしていた人間だとわかるとすぐさま白い目を向けてきた。
 口にはしていなかったがおそらく今すぐ帰れと思っていたのだろう。
 墓参りの際も訝しむ表情で僕を監視し続けていた。
 病に伏していた僕がこれ以上何かできるわけではないのだが、あの日のことを許してもらうためにきっと演技しているのだろう、と思われていたのかもしれない。
 だが、僕の限界はそこまでだったという事だ。ゆりのそばで死ぬなどこれ以上の幸せなどない。
 これ以上などなにも求めないつもりでいた。
 ゆりが僕の前に現れるまでは。
 僕はゆりに告げる

「僕は、ゆりの事がずっと好きだった。だが、あの一件で僕はゆりの隣にいる資格などないとずっと思っていた。だけど、ゆりがあの後どうなったのかを聞いて、この気持ち、伝えなきゃいけないって思ったんだ」
「ありがとう。でも、ダメ。それは生まれ変わってから。今はまだ──」

 ──わがままで身勝手な私をどうか許さないでください
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~

椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。 あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。 特異な力を持った人間の娘を必要としていた。 彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。 『これは、あやかしの嫁取り戦』 身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ―― ※二章までで、いったん完結します。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...