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アフターエピソード

02 一年は早すぎる

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 両親が戻り、また三人の時間が始まった。
 俺と雛葵は仕事に追われる日々を送りながら、少しずつ着実に立ち上げた会社の業績を上げていた。
 時は経ち、春先になり、年度が変わった。
 雛は最終学年の六年生になった。小学校の最上級生として、威厳が──あるわけではないが、良いお姉さんとして振舞えているようだ。この話は、雛の通っている小学校で教員として働いている高校時代にクラスメイトだった俺の親友から聞いた話だ。雛には内緒だがな。
 そうして、新しい年度を迎えたが、仕事に追われていることもあり、なかなか雛との時間を取ることが出来ずにいた。
 そうして、日が変わり月が変わり、あっという間に夏を迎えた。
 少しずつだが、会社にはエンジニアとして働いてくれる人が所属してくれるようになり、段々と会社らしい人の集まりとなっていた。
 夏の中で外が暑い中で俺たちは冷房を起動して涼みながら仕事を行っていたある日、ヤツが来たのだ。
 一通の履歴書が届いた。この会社では所属する前に一度面接を行い、問題なくエンジニアとして働けるのかを確認する場を設けるのだが、その前に履歴書などを貰うようにしている。
 その履歴書には見覚えのある名前と顔写真が添付されていた。

豪野ごうや……懐かしい名前だな。だが、これが送られてきたと言う事は……」

 豪野喜来きらい。俺と紬が前の会社でともに力を合わせたチームメイトの一人である。
 とは言え、二人が退職した当時は新人だったため、なんだかんだ気がかりだったのだ。
 ただ一言、俺たちが抜けるために長くはもたないことを考えていたため、「早めに辞めて、次の職場を見つけるべきだ」と伝えていたため、それに従って次の職場で幸せになってくれていればいいなと思っていた。
 だが、実際のところなど知る由がないため、一度連絡をするべきか迷っていた。
 そんな矢先の話だったため、当然ながら目を疑った。
 まあ、当然ながら俺は見た瞬間から結果を決めていたが、一応面接の場を設けることにした。近況の事も聞きたいし、何より、早くその姿を目にしたいと思ったからだ。
 連絡を入れ、早速面接を行う日程を取り決めた。
 そうして迎えた面接の日、豪野は元気そうな姿を見せてくれ、あれからの事を色々と聞いた。
 そうして満足した俺は、合否をその場で伝え、採用を伝えた。
 その翌日から雛は夏休みという時期にもなっていたため、一時休息、と言うことで会社で夏休みを取ることにし、それぞれの休暇を楽しんでもらうこととした。
 早速、俺と雛葵と雛の三人は海へ向かい、楽しい海遊のひと時を過ごした。
 帰りには、ソフトクリームを食べるなどしながら、その日の事を反芻はんすうしながら、雛葵と雛は暮れていく夕日を傍目はため黄昏たそがれていた。
 帰宅するころには夜になっており、そこからはようやく取れた家族の時間──。
 俺たちはテレビゲームをして、楽しい時間を過ごした。
 そうして、夜遅くまで堪能した。雛は耐えられなかったのだろう、日を跨いで間もなく意識を失うかのように寝落ちてしまった。
 そうして、数日の夏休みを楽しみながら俺たちは少しの休息の時を過ごした。

       ☆☆☆ ★①★ ☆☆☆

 夏休みが終わり、俺たちはまた多忙の日々を過ごしていた。
 時が過ぎることなど気が付かないほど、山積していく仕事を処理しつつ、俺たちはただひたすらにひたむきに、仕事に向き合った。
 ふと外を見ると木の葉は紅色に変わり、段々と落葉が増えていた。
 この仕事を始めてから、食事などは雛葵と雛に任せっきりで俺はある意味引きこもりのような生活を送っていたため、外の光景など見る機会もなくなり、また部屋の環境は空調などで調整していたため、季節感覚を失ってしまっていた。
 パソコンでカレンダーを見る。九月の後半だった。いや、普段から仕事の進捗などで見ることはあっても、こうして改めて見ると、時の流れがあっという間だと言う事を感じた。
 秋と言えば、食欲の秋やら読書の秋などという言葉があるほどには、アクティビティを伸ばす季節とされている。
 少しの休息を、と自室で積み本となっている小説に手を伸ばす。
 その作品は、ファンタジーを題材とした小説で、剣士として育てられたとある幼い女の子が冒険者学校へ入学するも、魔法の能力が高く強制転科させられるという物語だった。
 今までの常識が通用しない世界で少女が奮闘しながら、同科のクラスメイトや、本来入学予定だった学科の同級生との友情を深め、成長していくというその姿に心打たれ、つい読みふけってしまい、気が付くと夜になってしまっていた。
 一冊を読破してしまった……。
 やはり、創作の世界は無限大の可能性を秘めていると再認識した。
 普段はエンジニアとして、ある意味創作の世界で生きている俺にとって、文学をはじめとする創作の分野について、永遠に廃れることのない大切な文化なのだろうと、勝手ながら信じている節がある。
 まあ、俺が信じていようとも、この世界はどうなるかなど分からない。
 信じていることに意味などないのかもしれない。だが、信じ続けていたい。
 エゴだろうが何だろうが構わない。一つの思いが何かを変えるかもしれない。その可能性に賭けてみたい。

       ☆☆☆ ★②★ ☆☆☆

 季節は冬になり、雪が降りしきる中、相変わらず仕事は多忙だった。
 ただ、変わったことと言えば、休み時間になると雛葵が必ずと言っていいほどに部屋を出ているのだ。
 ふと外に目をやると、雛葵と冬休みに入った雛がいつの間にか雪だるまをたくさん作っていたのだ。
 そうして、俺たちはまもなく来る年末を目前に、仕事納めを無事にすることが出来、冬休み、年末年始の休暇を取ることとした。
 とはいえ、年越しまで十日ほどある。
 まあ、することなど一つだろう。今年こそ──。
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