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クリスマスに一緒に過ごす、それだけが望みです

前編

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 今年も十二月となり、今年ももう終わろうかとしている、そんな時期になった。
 仕事中にふとスマホを見ると、画面いっぱいに俺と可愛い妹・ひなとのツーショット写真が出迎える。
 日付は十二月二十二日と表示されていた。ああ、そういえばもうすぐクリスマスか……。
 会社から支給されている携帯で業務シフト表を確認する。肝心の二十五日は日勤が入っている。
 やはり、エンジニア職は休みが上手く取れなくて大変だ。
 他のメンバーのシフトを確認してみると、年末も皆働き詰めの予定になっている。
 まあ、俺もその一人だが……。
 あーあ……休み、取っておけばよかった……なんで忘れてんだ俺……。
 そんな自己嫌悪に陥りながら、俺は仕事をする。
 この時、今年のクリスマスの夜があんな輝かしい物になるなどと、俺は知る由もなかった。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

 そこから数日クタクタになりながらも過ごしていると、ある日、朝一番にドアが豪勢に開いて、部屋に誰かが飛び込む音が俺の部屋で鳴り響く。
 何事だ、と重い瞼を開きながら起き上がろうとした瞬間、俺の体の上にずしりとした衝撃が乗りかかってきた。
 首から上だけを出して布団の上を覗き込むと、ニコニコと笑顔の表情で、こちらを覗き込んでくる可愛い妹、雛の姿がそこにあった。

「おにーちゃん! おはよっ!」
「雛……おはよ、早いな……今、何時だ……?」
「七時! あと少しでご飯できるよっ!」
「そっか。ありがと」

 当たり障りのない返事をして、俺はまた布団に潜り込む。
 そんな俺の姿を見て、頬を膨らませて部屋を出ていく雛の姿に気付く由もなく、再び夢の世界へと入る。
 そして間もなく携帯のアラームが鳴り響く。目が覚めると三十分ほど経っていたようで、携帯は七時半と表示していた。
 その音とともに再び部屋の扉が豪勢に開かれる。雛だ。

「おにーちゃあぁぁぁぁぁん!!!」

 滅茶苦茶どでかい声で叫ぶ雛。否が応でも起き上がらなければならないその声量に、俺は両耳を手で覆いながら体を起こす。
 そこには少し不機嫌そうな雛の姿がそこにあった。数瞬思考を巡らせてハッとした俺は携帯のロック画面を改めて見る。

「……二十五日にじゅうごんち……」

 そう、今日はもう二十五日だった。

「ようやく気付いた? 今日は、クリスマス! ねえ、何か言う事は無いの?」
「え? ……えっ、えっとー……めりー……くりすます?」

 部屋の入り口に置いていた小説を投げつけられた。痛い。
 すまない、今日は仕事なんだ……。
 できれば一緒にいてやりたかったよ……。忘れん坊な兄貴でごめんな……。

「……」
「……」

 リビングに行くと、すでにご飯は配膳されており、もう食べるだけになっていた。
 無言で座るよう顎で指示され、俺は座る。すると雛は手を合わせて無言のいただきますをして、ご飯を食べる。
 今日の朝食はご飯とみそ汁に目玉焼きの簡素朝食だった。いや、料理名だけだと簡素に感じるだけで雛の作る料理はどれも美味しいのだが……。
 無言で頬張る雛の姿を俺はちらりと見ながら朝食をかき込む。
 空気が重い。これは非常にまずい

「ごちそうさま。……あの、雛さん?」
「……なに?」
「その……ごめんな」
「なにが?」

 うまく言葉が出ずに余計に状況が悪化している気がする。どんどん雛の表情が険悪になっていくのを感じる。

「いや……今日、俺仕事だろ? だから、折角のクリスマスなのに一緒にいてやれなくて……って」
「はぁ……あのね、お兄ちゃん。ひなはね、別にそれはどうでもいいの」

 予想外の一緒にいることがどうでもいいという発言に、俺は心にぐさりと刺さる感覚を覚えながら、続く言葉に耳を傾ける。

「ひなはね、最近お兄ちゃんが頑張りすぎていることが嫌なの。そんなに頑張らないとひなたちの生活は苦しいの? お願いだから、もう少し休みとか取ってほしいな。息抜き取ってる? お願いだから、無理はしないで」
「雛……」

 優しすぎる言葉に思わず雛の事を抱きしめたくなってしまったが、彼女は小五。流石に嫌がられるだろう。

「ありがとう、雛……でも、俺は行かなきゃ……来年は休み一杯とるよ」

 そう言って俺は食器をまとめて洗い場に持っていき、食器を洗って乾燥機に突っ込んで自室に戻る。
 スーツに着替え、部屋を後にした。

「じゃあ、行ってくるよ」
「うん。気を付けてね」
「ありがと、気を付けて行くよ。今日は一緒に居れなくてごめんな」

 俺はそう言って自宅を後にした。駐車場に置いている自車に乗り、出勤する。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

 俺の働いている会社はアプリを開発する大企業だ。俺の住んでいる地域にあるオフィスビルを一棟丸々所有している。
 その大企業に所属するエンジニアは五人程度で、年がら年中開発ばかりで休みがほとんどない。
 少しくらい人員を増やしたり教育したりしても良いんじゃないのかと思うが、上層部はあまりエンジニア職をよく見ていないらしく、軽視されているように感じる。
 有給休暇はやっと取れるくらいだが、それすらも申請するときは嫌な顔をされてしまう。
 だから、休みは無いに等しい。疲れの取れぬまま過ごす日々が続いている状況だ。

「あ、向陽ひなたさん。おはようございます。今日もまた続きやって行きましょうか」
「おはよ、うん。そうだね、頑張ろう」

 会社に着くと、後輩の一人である女の子、つむぎがすでに出社していたようで、パソコンを準備して待機してくれていた。
 彼女もまた休みの無い日々を過ごしているが、日に日に衰弱していく様子を見てて本当に辛い。
 長い付き合いをしている彼女の、そんな姿を間近で見続けているからこそのある思いがあった。
 その思いを俺はいつしか炸裂させよう、そう思っていた──。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

 夜になり、解散の時間になった。数人はまだ残って作業するらしいが、早めに帰るよう伝えて俺は職場を後にする。
 帰路で雛に対する詫びの品を選び、購入し、帰宅する。
 自宅に着くと、電気が付いていない。
 どうしたのだろう? もう時間は夜の七時になっているが……。
 嫌な予感が走る中、俺は恐る恐る玄関の鍵を開け、俺は自宅に入る──。
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