9 / 10
〈9〉恐怖の記憶、蘇ります。
しおりを挟む
年が明けて
私は、両親と初詣へ行くことになった。
しかし、手水舎で水を汲んだとき
私は見た。
彼の姿を。
すぐ、木の影に隠れてしまったようだが
たしかにあれは彼だ。
咄嗟に、私は柄杓を投げ捨て走り出した。
(地元は全然違うはず…それなのに、どうしてここに…!?偶然…?いや、そんなわけない!)
彼が隠れた木の周りを調べる。
いない。
もう逃げてしまった…?
いや、もう少し辺りを調べよう。
私は神社の敷地を抜け、小さな公園に辿り着いた。
ベンチに誰か座っている。
……彼だ。
しかし"何か"を覆い隠すように背中を丸めている。
そのままの姿勢で、彼は言った。
「君は猫が好きだと言ったね。じゃあ、この子は?」
そして、彼は"何か"を抱えあげた。
それは
犬だった。
とても小さくて
チョコレート色の毛をしていて
そして
右前脚のない
赤い首輪をした犬。
彼がその犬を体の前で少し揺らすと
チャリンチャリンと、鈴の音が響いた。
あぁ…『あの子』にそっくりだ…
「ただいま!」
「ちょっと!それどこで拾ってきたの!」
「神社の近くの公園に捨てられていて…かわいそうだから、飼ってあげたいの!ダメ?」
「ダメに決まってるでしょ!早く捨てなさい!」
「どうしてダメなの?」
「汚いからよ!それにその犬、足が一本無いじゃない!」
「洗ってあげれば綺麗になるよ!足だって…」
「アナタが捨てないなら、ママが捨てます」
「ダメ!分かった!私が行くから!」
そう言ったものの、捨てられなかった私は
庭の木陰に段ボールを置いて、
自分で飼うことにした。
私は、大切にしていた鈴のストラップを
その犬の首輪に付けてあげた。
その晩、どんな名前にしようか数時間悩み抜いた。
そして、やっと決めた『チョコ』という名前。
チョコレート色の毛だから『チョコ』
翌朝、私は「チョコ!」と木陰を覗き込む。
しかし、そこに『チョコ』はいなかった。
呆然と立ち尽くしていると、玄関のドアが開いた。
ゴミ袋を手にした母と、スーツ姿の父が
私の方へ向かって歩いてくる。
「ゴミの回収に間に合ったから良かったものの、アンタって子は!ちゃんと"捨てなさい“って言ったでしょ!」
と怒鳴る母。
「あの犬、キャンキャン鳴いて暴れて、お前くらい手のかかるヤツだったよ。もう余計なもん拾って来るなよ」
と言いながら、ネクタイの位置を正す父。
両親が、私に背を向ける。
「もう回収車来ちゃうわ、急がなきゃ!あ、そうだわ…これアナタのでしょ?」
母がゴミ袋を地面に置き、振り返る。そして、エプロンのポケットから鈴のストラップを取り出し、私に手渡した。
俯いたままそれを受け取ったとき、ほんの少しだけだが、ゴミ袋の中身が見えた。
タオル…だろうか?
赤黒いインクを拭いた布のような…
「庭から鈴の音が聞こえるんだもの、おかしいと思ったのよ」
ゴミ袋を持ち上げ、母がゴミ捨て場に向かう。
その後ろ姿は、視界がぼやけハッキリとは見えなかった。
しかし、私は…
無我夢中で、そのぼやける背中に向かって叫んだのだ……
「イヤ!捨てないで!」
と、私は見知らぬ部屋の中で1人叫んだ。
(嫌な夢見ちゃったな…それにしても、ここは…どこ?)
この部屋にあるものと言ったら、
私が今、腰掛けている黒いソファ、
床に落ちたベージュの毛布、
大量の段ボール、
そして、ドアノブを回すタイプの扉がひとつ。
(公園にいたはずなのに…とりあえず、外に出てみよう)
そう思い立ち上がると、部屋のドアが開いた。
私は、両親と初詣へ行くことになった。
しかし、手水舎で水を汲んだとき
私は見た。
彼の姿を。
すぐ、木の影に隠れてしまったようだが
たしかにあれは彼だ。
咄嗟に、私は柄杓を投げ捨て走り出した。
(地元は全然違うはず…それなのに、どうしてここに…!?偶然…?いや、そんなわけない!)
彼が隠れた木の周りを調べる。
いない。
もう逃げてしまった…?
いや、もう少し辺りを調べよう。
私は神社の敷地を抜け、小さな公園に辿り着いた。
ベンチに誰か座っている。
……彼だ。
しかし"何か"を覆い隠すように背中を丸めている。
そのままの姿勢で、彼は言った。
「君は猫が好きだと言ったね。じゃあ、この子は?」
そして、彼は"何か"を抱えあげた。
それは
犬だった。
とても小さくて
チョコレート色の毛をしていて
そして
右前脚のない
赤い首輪をした犬。
彼がその犬を体の前で少し揺らすと
チャリンチャリンと、鈴の音が響いた。
あぁ…『あの子』にそっくりだ…
「ただいま!」
「ちょっと!それどこで拾ってきたの!」
「神社の近くの公園に捨てられていて…かわいそうだから、飼ってあげたいの!ダメ?」
「ダメに決まってるでしょ!早く捨てなさい!」
「どうしてダメなの?」
「汚いからよ!それにその犬、足が一本無いじゃない!」
「洗ってあげれば綺麗になるよ!足だって…」
「アナタが捨てないなら、ママが捨てます」
「ダメ!分かった!私が行くから!」
そう言ったものの、捨てられなかった私は
庭の木陰に段ボールを置いて、
自分で飼うことにした。
私は、大切にしていた鈴のストラップを
その犬の首輪に付けてあげた。
その晩、どんな名前にしようか数時間悩み抜いた。
そして、やっと決めた『チョコ』という名前。
チョコレート色の毛だから『チョコ』
翌朝、私は「チョコ!」と木陰を覗き込む。
しかし、そこに『チョコ』はいなかった。
呆然と立ち尽くしていると、玄関のドアが開いた。
ゴミ袋を手にした母と、スーツ姿の父が
私の方へ向かって歩いてくる。
「ゴミの回収に間に合ったから良かったものの、アンタって子は!ちゃんと"捨てなさい“って言ったでしょ!」
と怒鳴る母。
「あの犬、キャンキャン鳴いて暴れて、お前くらい手のかかるヤツだったよ。もう余計なもん拾って来るなよ」
と言いながら、ネクタイの位置を正す父。
両親が、私に背を向ける。
「もう回収車来ちゃうわ、急がなきゃ!あ、そうだわ…これアナタのでしょ?」
母がゴミ袋を地面に置き、振り返る。そして、エプロンのポケットから鈴のストラップを取り出し、私に手渡した。
俯いたままそれを受け取ったとき、ほんの少しだけだが、ゴミ袋の中身が見えた。
タオル…だろうか?
赤黒いインクを拭いた布のような…
「庭から鈴の音が聞こえるんだもの、おかしいと思ったのよ」
ゴミ袋を持ち上げ、母がゴミ捨て場に向かう。
その後ろ姿は、視界がぼやけハッキリとは見えなかった。
しかし、私は…
無我夢中で、そのぼやける背中に向かって叫んだのだ……
「イヤ!捨てないで!」
と、私は見知らぬ部屋の中で1人叫んだ。
(嫌な夢見ちゃったな…それにしても、ここは…どこ?)
この部屋にあるものと言ったら、
私が今、腰掛けている黒いソファ、
床に落ちたベージュの毛布、
大量の段ボール、
そして、ドアノブを回すタイプの扉がひとつ。
(公園にいたはずなのに…とりあえず、外に出てみよう)
そう思い立ち上がると、部屋のドアが開いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

常世にて僕は母をあきらめない
マロン
ミステリー
ある科学者がこの世界を誰を死なない世界に変えた。この出来事に世界は大パニック、死ななくなったことで歓喜し今後に胸躍らせるものもいれば今後のことを考え不安や絶望するものそしてとある考えに至るもの。そんな中主人公は今後に不安はないとは言えないが少なくとも死なない世界に変わったことを喜んだ。しかし、主人公にとって一番大切にしているものは家族、その一人である母が治療法のない難病にかかってしまったことで主人公は今後にどう感じどう生きてゆくのかそんな物語です。
初恋
三谷朱花
ミステリー
間島蒼佑は、結婚を前に引っ越しの荷物をまとめていた時、一冊の本を見付ける。それは本棚の奥深くに隠していた初恋の相手から送られてきた本だった。
彼女はそれから間もなく亡くなった。
親友の巧の言葉をきっかけに、蒼佑はその死の真実に近づいていく。
※なろうとラストが違います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる