友達の辞め方、募集します。

浅川未羽

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〈3〉私の印象、ねじ曲げます。

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大学生になって、初めての夏休み。
わりと充実していた。

サークルのライブや
合宿という名目でのキャンプ。
そういった行事に
片っ端から参加していたおかげか
サークル内で
仲の良い女子グループもできた。

そのグループで出かけることも多くなったが、
そうすると、お金の問題が出てくる。
親からの仕送りがあるとはいえ、
それに頼りきるのも悪いし、何より足りない。

私はアルバイトを始めることにした。

「もうすぐ昼だし、パンでも食べながらネットで探そ」
と、家の近くのパン屋に入った。

会計時、ふと壁のポスターに目をやる。
求人広告だった。

帰宅してすぐ「パン好きだし、アリだな」と、軽い気持ちで応募した。
面接に行った数日後、採用の連絡があり
私はパン屋でのアルバイトが決まった。

しかし、出勤初日、
もっとちゃんと考えればよかった、と
後悔することになる。

初めてのアルバイト。
「怖いお客さんとか、やっぱりいるのかな…対応すんの嫌だなぁ」などと考えながら、指定された時間の15分前に店に入った。
すると、裏で
見るからにベテランのパートさんが2人
売り場にも聞こえるくらいの声で、激しく言い争っていた。

「嫌に決まってるでしょ!あんな見るからに覚えの悪そうな子!」
「私だって嫌なのよ!だからバイトの子に任せようって言ってるでしょ!」
「そんなのダメよ!役立たずが増えるだけじゃない!」
「じゃあどうするのよ!」
「だから、アンタが1人で教えればいいでしょ!」
「私にだけ押し付けないでよ!」

話の内容からして
私の教育係について揉めているようだ。

"覚えの悪そうな子"か……。

お店で面接をしたとき
チラッと見かけたパートさんたちのようだが
勝手にそんな印象を持たれていたなんて。

少し腹が立った。

その出来事を、グループの女子に話した。

「は!?きも!!そんなパン屋辞めた方が良いって!バイト先なんていくらでもあるし!」
「でも、入ってすぐ辞めるのはさ~、さすがに気が引けるっしょ」
「じゃあ、さっさと仕事覚えてババアたち見返してやればいいんだよ!」
「それだ~頑張んなよ~」
「あ~、パンの話してたら、パンケーキ食べたくなってきた!行かない?」
「アリ!どこ行く?」

一緒にいて楽しいときもある。
しかし、このグループの女子たちは
私の話を勝手に完結させ
自分たちが興味のある話題にすぐ移行する。

こういうところが好かない。

同じように
"彼"にも話した。

すると彼は、少し微笑んでこう言った。

「やりがいがありそうだね」


その2週間後
パートさんは、2人とも辞めた。

家族の方から、店長に連絡があったようで
聞く話によると

原因は分からないが
精神的に病んでしまっていて
何を問われても
「覚えが良くて助かるわ」
と、笑顔で答えるだけの状態だ

ということらしい。


『嫌に決まってるでしょ!あんな見るからに覚えの悪そうな子!』


パートさんの声が
私の脳内で響いた。
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