オニが出るよ 番外編

つぐみもり

文字の大きさ
上 下
3 / 9
小学五年生

気持ちの隙間

しおりを挟む
 あの日から半年経ち、僕らは五年生になっていた。クラス替えが心配だったけど、僕と雪比古は同じクラスになることができた。
 雪比古が転校してきたばかりの頃は、周りのみんなもぎこちなかったけれど、今ではすっかり打ち解けていた。雪比古には僕以外の友達もできていて、僕が塾で一緒にいられない日は他の友達と遊んでいるようだ。
 嬉しいことだけど、少し寂しくも感じた。

 物思いに耽っていると、廊下の方からドタドタと騒がしく走る足音が迫ってきた。続いて、教室の引き戸が勢いよく開けられる。その大きな音に、思わず耳を塞いだ。
「大変だ! 事件だぞ、桂吾!」
 騒音の主は、以前、雪比古にちょっかいをかけていたグループのヒロトだった。今は何故か友達になっている。遅れて、ユウヤとトシヒロが駆け込んでくる。
「雪比古が、女子に体育館裏に呼び出されてるぞ!」
「何? 決闘?」
「違うだろ、告白だ、こ・く・は・く~!」
 思わず僕は、椅子を蹴倒して立ち上がっていた。

 僕とヒロトたちは、木の影から体育館裏の様子を伺っていた。
 雪比古と、その前には三人の女子の姿が見える。
「こういう、覗きは良くないんじゃないかな?」
 居心地が悪い僕は、消極的に離れる提案をした。
「友達の危機には駆けつける、それが友情だ」
 ヒロトは自信満々に意味不明なことを宣う。
「あれは5組の女子だな。誰が告白するんだ? 三人いっぺんにってことはないよな」
 情報通のユウヤが素早く分析する。
「え、三人に? ハーレムじゃん!」
 一人、やけに興奮しているのはトシヒロだ。
 うるさいトシヒロをヒロトがヘッドロックして黙らせ、今か今かとその時を待った。

 何を話しているかまでは聞こえなかったが、しばらくして真ん中の女子が走ってこちらの方へ向かってきた。残りの二人も追いかけてくる。
 僕たち覗き組は、慌てて木の影に隠れた。幸い見つからなかったようだ。
「お前ら、何してるんだ?」
 安心したところに急に声をかけられ、僕らはもつれあいながら倒れた。
「覗きか? 趣味が悪いぞ」
 いつの間にか雪比古が近くまで来ていたのだ。
 ヒロトたちが、僕の背中を押して前に立たせる。こういう時ばかり、僕が矢面に立たされるんだ。
「雪比古、告白されたんだろ? 返事はしたの?」
「ああ、なんか好きだとか付き合ってほしいとか言われたけど、断った」
「なんで!?」
 四人の声がハモった。
「俺なんかに告白とか、何かの間違いだろう」
「そんな、雪比古はカッコいいよ! いつも助けてくれるし、優しいし」
 断ったと聞いて安心する反面、自虐的な雪比古の様子が胸に刺さって、何故か必死に熱弁してしまった。
「目と髪の色が神秘的で良いとかで、一部の女子にファンがいるんだぞ」
 ユウヤが後押しする。
「せっかく女子と付き合えるチャンスだったのに、もったいない!」
 トシヒロが我が事のように地団駄を踏んで悔しがる。
「いや、そういうの興味ないし」
「そうか、雪比古は女より友情を取ったんだな」
 ヒロトが強引にまとめた。もう、この状況に飽きてきたんだと思う。
 場がすっかり白けてしまったので、五人揃って教室へ戻ることにした。
 並んで歩く雪比古の横顔を眺めながら、僕はすごくホッとしていることに気づいて、自分の気持ちに戸惑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

僕たち学校の生徒VS学校の教師ども

翔馬アニメ
青春
これはごく普通の公立中学校での話だ。 僕たち三年二組(通称)バカどもの集まり組では、今まで受けた教師からの屈辱を返すために僕たちは学校全クラスと手をくみ学校の教師どもに仕返しを計画する、僕たちの作戦はどうなるのか!! そして、結末はどうなるのか?

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。 順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。 悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。 高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。 しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。 「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」 これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。

保健室の先生

101の水輪
青春
学校の保健室で話を聞いてもらった経験はないだろうか?そのときの先生は、優しい目で、こちらの言葉をさえぎることなく、ただただ耳を傾けてくれた。きっとそんな先生に救われたことは1度や2度でないはずだ。恵実は新卒の保健室の先生。大学生生活から一変し、仕事に追われる毎日。激務の中で彼女を支えているのが、誇りとやりがい。そんな恵実に今日も問題が降り注ぐ。101の水輪、第42話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...