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小学五年生
気持ちの隙間
しおりを挟む あの日から半年経ち、僕らは五年生になっていた。クラス替えが心配だったけど、僕と雪比古は同じクラスになることができた。
雪比古が転校してきたばかりの頃は、周りのみんなもぎこちなかったけれど、今ではすっかり打ち解けていた。雪比古には僕以外の友達もできていて、僕が塾で一緒にいられない日は他の友達と遊んでいるようだ。
嬉しいことだけど、少し寂しくも感じた。
物思いに耽っていると、廊下の方からドタドタと騒がしく走る足音が迫ってきた。続いて、教室の引き戸が勢いよく開けられる。その大きな音に、思わず耳を塞いだ。
「大変だ! 事件だぞ、桂吾!」
騒音の主は、以前、雪比古にちょっかいをかけていたグループのヒロトだった。今は何故か友達になっている。遅れて、ユウヤとトシヒロが駆け込んでくる。
「雪比古が、女子に体育館裏に呼び出されてるぞ!」
「何? 決闘?」
「違うだろ、告白だ、こ・く・は・く~!」
思わず僕は、椅子を蹴倒して立ち上がっていた。
僕とヒロトたちは、木の影から体育館裏の様子を伺っていた。
雪比古と、その前には三人の女子の姿が見える。
「こういう、覗きは良くないんじゃないかな?」
居心地が悪い僕は、消極的に離れる提案をした。
「友達の危機には駆けつける、それが友情だ」
ヒロトは自信満々に意味不明なことを宣う。
「あれは5組の女子だな。誰が告白するんだ? 三人いっぺんにってことはないよな」
情報通のユウヤが素早く分析する。
「え、三人に? ハーレムじゃん!」
一人、やけに興奮しているのはトシヒロだ。
うるさいトシヒロをヒロトがヘッドロックして黙らせ、今か今かとその時を待った。
何を話しているかまでは聞こえなかったが、しばらくして真ん中の女子が走ってこちらの方へ向かってきた。残りの二人も追いかけてくる。
僕たち覗き組は、慌てて木の影に隠れた。幸い見つからなかったようだ。
「お前ら、何してるんだ?」
安心したところに急に声をかけられ、僕らはもつれあいながら倒れた。
「覗きか? 趣味が悪いぞ」
いつの間にか雪比古が近くまで来ていたのだ。
ヒロトたちが、僕の背中を押して前に立たせる。こういう時ばかり、僕が矢面に立たされるんだ。
「雪比古、告白されたんだろ? 返事はしたの?」
「ああ、なんか好きだとか付き合ってほしいとか言われたけど、断った」
「なんで!?」
四人の声がハモった。
「俺なんかに告白とか、何かの間違いだろう」
「そんな、雪比古はカッコいいよ! いつも助けてくれるし、優しいし」
断ったと聞いて安心する反面、自虐的な雪比古の様子が胸に刺さって、何故か必死に熱弁してしまった。
「目と髪の色が神秘的で良いとかで、一部の女子にファンがいるんだぞ」
ユウヤが後押しする。
「せっかく女子と付き合えるチャンスだったのに、もったいない!」
トシヒロが我が事のように地団駄を踏んで悔しがる。
「いや、そういうの興味ないし」
「そうか、雪比古は女より友情を取ったんだな」
ヒロトが強引にまとめた。もう、この状況に飽きてきたんだと思う。
場がすっかり白けてしまったので、五人揃って教室へ戻ることにした。
並んで歩く雪比古の横顔を眺めながら、僕はすごくホッとしていることに気づいて、自分の気持ちに戸惑っていた。
雪比古が転校してきたばかりの頃は、周りのみんなもぎこちなかったけれど、今ではすっかり打ち解けていた。雪比古には僕以外の友達もできていて、僕が塾で一緒にいられない日は他の友達と遊んでいるようだ。
嬉しいことだけど、少し寂しくも感じた。
物思いに耽っていると、廊下の方からドタドタと騒がしく走る足音が迫ってきた。続いて、教室の引き戸が勢いよく開けられる。その大きな音に、思わず耳を塞いだ。
「大変だ! 事件だぞ、桂吾!」
騒音の主は、以前、雪比古にちょっかいをかけていたグループのヒロトだった。今は何故か友達になっている。遅れて、ユウヤとトシヒロが駆け込んでくる。
「雪比古が、女子に体育館裏に呼び出されてるぞ!」
「何? 決闘?」
「違うだろ、告白だ、こ・く・は・く~!」
思わず僕は、椅子を蹴倒して立ち上がっていた。
僕とヒロトたちは、木の影から体育館裏の様子を伺っていた。
雪比古と、その前には三人の女子の姿が見える。
「こういう、覗きは良くないんじゃないかな?」
居心地が悪い僕は、消極的に離れる提案をした。
「友達の危機には駆けつける、それが友情だ」
ヒロトは自信満々に意味不明なことを宣う。
「あれは5組の女子だな。誰が告白するんだ? 三人いっぺんにってことはないよな」
情報通のユウヤが素早く分析する。
「え、三人に? ハーレムじゃん!」
一人、やけに興奮しているのはトシヒロだ。
うるさいトシヒロをヒロトがヘッドロックして黙らせ、今か今かとその時を待った。
何を話しているかまでは聞こえなかったが、しばらくして真ん中の女子が走ってこちらの方へ向かってきた。残りの二人も追いかけてくる。
僕たち覗き組は、慌てて木の影に隠れた。幸い見つからなかったようだ。
「お前ら、何してるんだ?」
安心したところに急に声をかけられ、僕らはもつれあいながら倒れた。
「覗きか? 趣味が悪いぞ」
いつの間にか雪比古が近くまで来ていたのだ。
ヒロトたちが、僕の背中を押して前に立たせる。こういう時ばかり、僕が矢面に立たされるんだ。
「雪比古、告白されたんだろ? 返事はしたの?」
「ああ、なんか好きだとか付き合ってほしいとか言われたけど、断った」
「なんで!?」
四人の声がハモった。
「俺なんかに告白とか、何かの間違いだろう」
「そんな、雪比古はカッコいいよ! いつも助けてくれるし、優しいし」
断ったと聞いて安心する反面、自虐的な雪比古の様子が胸に刺さって、何故か必死に熱弁してしまった。
「目と髪の色が神秘的で良いとかで、一部の女子にファンがいるんだぞ」
ユウヤが後押しする。
「せっかく女子と付き合えるチャンスだったのに、もったいない!」
トシヒロが我が事のように地団駄を踏んで悔しがる。
「いや、そういうの興味ないし」
「そうか、雪比古は女より友情を取ったんだな」
ヒロトが強引にまとめた。もう、この状況に飽きてきたんだと思う。
場がすっかり白けてしまったので、五人揃って教室へ戻ることにした。
並んで歩く雪比古の横顔を眺めながら、僕はすごくホッとしていることに気づいて、自分の気持ちに戸惑っていた。
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