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そのまたまた後の小犬
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そんなことがあった日から数日。
実はあの日以来、那月は一度も九条と一緒に帰ることが出来ていなかった。
悠斗に会った次の日に、暫くの間一緒に帰れないと、申し訳なさそうな顔をした九条に謝られたからだ。
九条は詳しい事は話さなかったけれど、放課後に何か悠斗のことで用事があるらしい。
きっと九条君がそれ以上言わないのだから、
おれには言えない事なんだろうな……。
そうは思うのに、那月は何となく寂しい様な憂鬱な様な何とも言えない気持ちになってしまった。
ものすごく可愛い人だった……。
九条君とも仲良さそうだったし……。
あの日に見た二人の姿を思い出すと、何だか那月はやっぱりモヤモヤとしてきてしまうのだ。
「……もう帰るの?」
最後の授業が終わり帰ろうとしている那月に、隣の席から藤沢が少し躊躇いつつ声を掛けてくる。
「最近、一緒じゃないんだねえ」
藤沢は二人がいつも一緒に帰る事を知っているから、ここ何日か一人で帰る那月を不思議に思ったのかもしれない。
「うん。九条君、放課後は暫く用事があるんだって」
「ああ、そういうことね。それで最近迎えに来なかったんだねえ」
那月がそう言うと、藤沢は疑問が解けたようでスッキリとした顔で笑った。
「オレ、もしかしたら二人が喧嘩でもしてるのかなあって思ってたんだけど」
「喧嘩はしてないよ」
「うーん。でも何だかそう言う割には白井は微妙に元気がないし、浮かない顔の様な気がするんだよねえ。一緒に帰れないから寂しいのかなあ?」
「……そ、そういう訳じゃ」
ニヤリと笑う藤沢に那月は緩やかに首を横に振る。
だけど頭の中には九条と悠斗の姿が浮かんでしまった。
「うーん? じゃあ、何か心配事でもあるのかなあ?」
「心配……」
那月は少し考えてみるけれど、何か心配しているという訳では無いような気はする。
自分でもよく分からないけど、ただ何となく気持ちがモヤモヤするというか。
そんないまいちはっきりとしない那月の様子に、何かを確信したかの様に藤沢が大きくひとつ頷いた。
「もしかして、上手くいかなかったとか?」
「……上手く? 何が?」
「SEX」
「ぶっ!!」
ついこの前、那月がとりあえず考えるのをやめておこうと思ったばかりなのに、それをまた藤沢に持ち出されて思い切り吹き出してしまう。
幸い、近くにはもう誰もいなかったからよかったものの、那月は震えながら藤沢に抗議の眼差しを向けた。
「ふ、藤沢君! またそういう事!」
「男同士って意外と大変だからさあ。それで気まずくなることもあるしねえ。もしかしたら二人もそうなのかなあなんて思ったんだけど?」
「ち、違うから! おれ達はそんな事してないし!」
「そっかあ。違ったかあ」
那月はまた揶揄われているだけかと思ったけど、藤沢の顔が思いのほか真面目で少しだけドキリとした。
「でもさあ、じゃあ白井は何でそんなに浮かない顔なのかなあ?」
「そ、そうかな?」
「うん。……まさかとは思うけど九条に浮気でもされたとか?」
「そ、それはないと思う、けど……」
机に浅く座った藤沢が、歯切れの悪い那月の事を下から覗き込んでくる。
その目が意外に真剣で、つい那月の口から言葉がポロリと溢れ出していた。
「ただ……、九条君の幼馴染がものすごく可愛い人で……」
「そうなんだあ」
「放課後はその人と会ってるから……」
「なあんだ、はいはい、そういう事ね。それで白井は嫉妬しちゃったって訳ねえ」
実はあの日以来、那月は一度も九条と一緒に帰ることが出来ていなかった。
悠斗に会った次の日に、暫くの間一緒に帰れないと、申し訳なさそうな顔をした九条に謝られたからだ。
九条は詳しい事は話さなかったけれど、放課後に何か悠斗のことで用事があるらしい。
きっと九条君がそれ以上言わないのだから、
おれには言えない事なんだろうな……。
そうは思うのに、那月は何となく寂しい様な憂鬱な様な何とも言えない気持ちになってしまった。
ものすごく可愛い人だった……。
九条君とも仲良さそうだったし……。
あの日に見た二人の姿を思い出すと、何だか那月はやっぱりモヤモヤとしてきてしまうのだ。
「……もう帰るの?」
最後の授業が終わり帰ろうとしている那月に、隣の席から藤沢が少し躊躇いつつ声を掛けてくる。
「最近、一緒じゃないんだねえ」
藤沢は二人がいつも一緒に帰る事を知っているから、ここ何日か一人で帰る那月を不思議に思ったのかもしれない。
「うん。九条君、放課後は暫く用事があるんだって」
「ああ、そういうことね。それで最近迎えに来なかったんだねえ」
那月がそう言うと、藤沢は疑問が解けたようでスッキリとした顔で笑った。
「オレ、もしかしたら二人が喧嘩でもしてるのかなあって思ってたんだけど」
「喧嘩はしてないよ」
「うーん。でも何だかそう言う割には白井は微妙に元気がないし、浮かない顔の様な気がするんだよねえ。一緒に帰れないから寂しいのかなあ?」
「……そ、そういう訳じゃ」
ニヤリと笑う藤沢に那月は緩やかに首を横に振る。
だけど頭の中には九条と悠斗の姿が浮かんでしまった。
「うーん? じゃあ、何か心配事でもあるのかなあ?」
「心配……」
那月は少し考えてみるけれど、何か心配しているという訳では無いような気はする。
自分でもよく分からないけど、ただ何となく気持ちがモヤモヤするというか。
そんないまいちはっきりとしない那月の様子に、何かを確信したかの様に藤沢が大きくひとつ頷いた。
「もしかして、上手くいかなかったとか?」
「……上手く? 何が?」
「SEX」
「ぶっ!!」
ついこの前、那月がとりあえず考えるのをやめておこうと思ったばかりなのに、それをまた藤沢に持ち出されて思い切り吹き出してしまう。
幸い、近くにはもう誰もいなかったからよかったものの、那月は震えながら藤沢に抗議の眼差しを向けた。
「ふ、藤沢君! またそういう事!」
「男同士って意外と大変だからさあ。それで気まずくなることもあるしねえ。もしかしたら二人もそうなのかなあなんて思ったんだけど?」
「ち、違うから! おれ達はそんな事してないし!」
「そっかあ。違ったかあ」
那月はまた揶揄われているだけかと思ったけど、藤沢の顔が思いのほか真面目で少しだけドキリとした。
「でもさあ、じゃあ白井は何でそんなに浮かない顔なのかなあ?」
「そ、そうかな?」
「うん。……まさかとは思うけど九条に浮気でもされたとか?」
「そ、それはないと思う、けど……」
机に浅く座った藤沢が、歯切れの悪い那月の事を下から覗き込んでくる。
その目が意外に真剣で、つい那月の口から言葉がポロリと溢れ出していた。
「ただ……、九条君の幼馴染がものすごく可愛い人で……」
「そうなんだあ」
「放課後はその人と会ってるから……」
「なあんだ、はいはい、そういう事ね。それで白井は嫉妬しちゃったって訳ねえ」
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