ありきたりな英雄譚

霧雨 零水

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序章 偶然と必然

精霊

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「・・・う、あ?」
 目が覚めると、そこには草原が広がっていた。
 澄み渡るような晴天、短く生え揃った黄緑の草花が太陽に照らされて輝いているようだ。その景色は、お世辞抜きに綺麗だった。
「・・・あれ、何処だここ?」
 止まっていた思考が動き出す。
 景色に目を奪われている場合ではない。こんな場所に見覚えはない。
 ならば、ここにはどうやって来たのか。
 そもそも俺は何故、こんな場所で寝ているのか。
 まだ、本調子ではないらしいく、思考は未だにぼやけている。
 だから
「起きたみたいね。いきなり倒れるからビックリしたわよ」
 そう、声をかけられるまで、後ろに人がいることに気がつかなかった。
「っ!誰だ!?」
 口を動かすのと同時に後ろへと振り向く。
 するとそこには、怒り顔の白髪の少女が立っていた。
「誰だとは失礼ね!せっかく、運んでやったってのに。助けがいの無いヤツは嫌いよ」
 あ、思い出した。俺は森で気絶してしまったんだ。・・・となると、彼女は気絶した俺を安全な場所まで運んできてくれたってことか?
 これは、失礼な行動をしてしまった。少女のご立腹も当然である。
 ここは、素直に謝ろう。
「すまない。寝起きで上手く頭が回ってなかったんだ」
 俺の言い訳混じりの謝罪を聞くと、少女は妙に納得した顔で頷いて
「ああ、そっか。私としたことが忘れてたわ。ほら、これ飲んどきなさい」
 と言いながら、謎の液体が入った瓶を投げ渡してきた。
 その瓶を慌ててキャッチし、中身を確認してみる。瓶には、濁った青い液体が入っていた。
「・・・なあ、これって何だ?飲むには、結構勇気の必要な色してるんだが」
「ゆっくり話してる時間はないんだけど。それは普通の魔力回復ポーションよ。苦いけど我慢して飲みなさい」
「・・・ぜ、全部?」
「当然、全部よ」
 ええい、男は度胸だ!と心の中で叫びながら、瓶の中の液体を飲み干す。
 すると、とんでもない苦さが口一杯に広がった。・・・これは、人間の飲み物じゃない。
 液体を何とか飲み干した俺に、少女が何か気が付いたように声をかけてきた。
「ねえ、ちょっと変じゃない?魔力回復ポーションも知らないの?森でも迷子みたいだったし、いい加減、何があったのか教えてくれる?」
 言われてみれば、お互いに自己紹介の一つもしてない。
 助けてくれた以上、自分の事を話すのは筋だろう。それに、俺は未だに今の状況がよくわかっていないし、森での事も謎だらけだ。この状況を打破するためにも少女とは話しをしなければなるまい。
「えっと、俺の名前はカロルだ。記憶喪失で、気付いたらあの森にいて、近くに青色のクリスタルみたいなのが浮かんでたんだ」
「ハァ!?記憶喪失!?嘘は言ってないみたいだし・・・全く、とんだ厄介事に手を出しちゃったわね」
 少女の顔が驚き、そして嫌な顔へと変化する。
 それを見ていると、何だか申し訳ない気持ちになってきた。出会ってからずっと迷惑かけっぱなしではないだろうか。とりあえず、謝っておこう。そうしよう。
「何だか、迷惑かけてすまない」
「乗りかかった船だし、別に良いわよ。それに、悪くない奴は謝らなくていいの。謝るくらいなら、全部終わった後にお礼でも言ってくれるかしら」
 何て出来た人なんだ!何だか、眩しく見えてきた。仏様とはきっと、こんな人なのだろう。いや、違うか?
 おっと、思考が脱線した。
 今は、森や気絶後の状況把握をしなければならない。
 いや、お礼が先か。
「改めて、助けてくれてありがとう。それで、いろいろ聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「いろいろ聞きたいのはこっちなんだけど。いや、そんなこと言ってる場合じゃないわね。いい?良く聞きなさい」
 少女はそこで一旦間を空け、俺の目を覗き込んでくる。その真面目な雰囲気を感じ、俺は黙って少女の言葉を待った。
「貴方は今とても危険な状況よ。最悪、死ぬ可能性もあるわ。細かく説明してあげたいけど、そんな時間もない。だから、簡単な説明で我慢して」
 この少女の言葉が本当なら、俺は今相当ヤバいことになっているのだろう。自分では自覚がないので現実感はほとんどなく、フワフワと言葉だけが頭に入ってきた感じだ。
 もしかしたら、少女の冗談なのでは?一瞬そんな考えも頭に過ったが、それは現実逃避と言うものだろう。
 俺の沈黙を肯定と取ったのか、少女は続きを話しはじめた。

 
 

 
 
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