僕と間の人達

ルート

文字の大きさ
上 下
25 / 31

25.

しおりを挟む
あれ…さっきまで自分の部屋にいたはずなのに

辺りを見回しながら思い出そうとするけれど部屋にいたということ以外何も思い出せない。

ここは誰の家のリビング?

見たことのある場所のようにも感じるけれど違うような…

「普」

懐かしい声に振り向けば

「普、おいで」

「パパ!」






いつもより幸せそうな寝顔の普を見て伊藤は少し不安な顔をする。
「ここ最近はこうならなかったのにな」と思いながらベッド横に座ると次の任務の書類に目を通し始めた。





自分でも驚くくらい勢いよく抱きつけば大きな身体で受け止めて優しく抱きしめてくれる虎二。
それを見てニコニコしているリエンと羨ましそうな影虎。

「普、今日はみんな仕事休みだから池のある大きな公園に行くよ」

「良貴兄とルート兄もいる?」

「2人もいるよ。公園で合流する」

何かを思い出そうとしていたはずの普はあの頃の幸せに飲み込まれた。成長した姿で。

「お弁当もアマネの好きなおかずをたくさん詰めて持ってくから楽しみにしててね」

「ありがとう母さん」





公園に着くと良貴とルートも来ており話をしながら植物園へ向かう。
なんとなくルート兄の雰囲気が違う気がする。
僕の知っているルート兄はこんなに少年のような感じだっただろうか?違う?なぜそう思う?

「   普ちゃん」

良貴兄の声にやっと気づき返事をすると「何か考え事かな?」と優しめ声で言われた。

「なんでもないよ」

「ルートがお菓子を作ってきたって」

ルート兄の方を見れば
「アマネが食べたいって言ってたのを作ったんだ。後で食べてみてほしい」

「ありがとうルート兄。楽しみ」







「良貴にぃ…」

「懐かしい呼ばれ方ですね」とリビングから追加資料を渡しに来たルートが言う。短期間呼ばれていた呼び名だ。すぐに今の呼び方になったけれど今も呼ばれると嬉しいものなんだなと思いつつ寝顔を見る。
まだ幸せそうではあるけれど時々考えているような顔になるのでもう少しすれば目覚めるかもしれない。
「今も俺はそばにいるよ普ちゃん」







植物園を見終えてお弁当とお菓子を食べる。皆と話したり笑ったりしてとても楽しいと言ったら突然パパが抱きしめてきた。
「どうしたの」

ただ抱きしめる虎二にかわりリエンが答える。

「いつもお弁当を食べる池の近くの東屋にねアマネに会いたいって人が来てるの。1人で行けるかしら?」

「行ける」

「影虎が途中まで一緒に行ってくれるわ」

行こうと影虎に手を引かれて歩き出す前に良貴兄とルート兄がいないことに気づく。
「2人には後で会える」と影じいが言うので東屋まで歩く。
影じいはあまり話さなかった。手はずっと握ってくれていた。東屋が見えてきた頃、立ち止まり手が離された。
「ここからは1人で行くんだ」と言って頭を撫でられた。





「今回は長めですね。」と心配そうなルートの声に読み終えた資料を置いて普を見る。不安そうな顔で身体に力が入っているようだ。
「幸せな夢なら幸せのまま終わってほしいというのは我儘でしょうか?」

「夢ぐらいは我儘を叶えてあげてほしいと思ってる」








「やぁアマネ」

誰だろう。会ったことのない人だ。

「ノア」

自分の口から出た言葉に驚いていると彼はニコッとした。

「ここから先は私の役目なんだ。向こうを見てご覧」

言われた方向を見ればパパが母さんを抱き上げて立っていた。周りは瓦礫と炎。
それを僕と同じように見ている影じいの姿もある。

助けたくて動こうとした普を虎二は睨む。こちらへ来てはいけないと。
リエンの口元が動く。ノアの指示に従えと。



「違和感はあっただろう。いつもの夢だったなら終わらせて現実に戻っている。アマネが見る夢は明晰夢に近いものだからきっと苦しい悪夢だろうね。」

「ノア」

「この夢は特殊なんだ。終わらせることができずアマネを飲み込んでしまう。リエンたちや影虎では助けられない。私ができるのは飲み込まれる前に現実に戻してあげることだけ」

そうノアは言うと普の手を引いて池飛び込んだ。


池というものはこんなに深かっただろうか?
まるで海じゃないか。

飛び込んだのに落ち着いているノアに抱き寄せられ呼吸ができることに気づく。
ノアはおでこにキスをすると

「これで戻れる。次に会うときは良い夢で」

「        」










目を開ければ頭を撫で「大丈夫?」と心配している良貴と不安を隠すように真剣な顔をしているルート兄がいた。
思ったよりも落ち着いている普を見て2人は理由を聞くべきか迷う。

「ノアが終わらせてくれた」

横になったまま普が言った言葉に

「ノアに会ったんですか?」

とルートが驚きながら返す。

ゆっくりと夢の内容を話していくのを聞きながらあり得たかもしれない世界だなと良貴は思い、ルートはノアらしい役割だなと思った。

最後の方は2人ですらつらく感じたけれど起きた普がパニックにならずに済んだのはノアの適切な説明のお陰であり最後の瞬間までそばにいてくれたから。






後日
「ノアは行動の先がだいたいどうなるか分かるやつだったからな」

ノアの仕事の時ことはセドリックに聞いたほうがいいとのことで話をしたところノアらしい行動らしいとわかった。

「アイツのことをほとんど知らないのに夢の中で行動したのなら本人だったのかもしれないな。親も祖父も。」

「…」

「もしその先へ進んでいたら今こうしてアマネとお茶なんて出来なかったな。俺としては本人たちで良かった」

まだ少し複雑な気持ちがあるのだろう。話をしている途中から元気がない。
ここは賭けか

「キスをして愛おしい子と呟いた」

驚いて目が合う普にニヤっとしながらセドリックはノアとリエンの話を始めた。

セドリックもわかっていて賭けをしているんだよなぁと付き人は思った。



























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...