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あれ…さっきまで自分の部屋にいたはずなのに
辺りを見回しながら思い出そうとするけれど部屋にいたということ以外何も思い出せない。
ここは誰の家のリビング?
見たことのある場所のようにも感じるけれど違うような…
「普」
懐かしい声に振り向けば
「普、おいで」
「パパ!」
いつもより幸せそうな寝顔の普を見て伊藤は少し不安な顔をする。
「ここ最近はこうならなかったのにな」と思いながらベッド横に座ると次の任務の書類に目を通し始めた。
自分でも驚くくらい勢いよく抱きつけば大きな身体で受け止めて優しく抱きしめてくれる虎二。
それを見てニコニコしているリエンと羨ましそうな影虎。
「普、今日はみんな仕事休みだから池のある大きな公園に行くよ」
「良貴兄とルート兄もいる?」
「2人もいるよ。公園で合流する」
何かを思い出そうとしていたはずの普はあの頃の幸せに飲み込まれた。成長した姿で。
「お弁当もアマネの好きなおかずをたくさん詰めて持ってくから楽しみにしててね」
「ありがとう母さん」
公園に着くと良貴とルートも来ており話をしながら植物園へ向かう。
なんとなくルート兄の雰囲気が違う気がする。
僕の知っているルート兄はこんなに少年のような感じだっただろうか?違う?なぜそう思う?
「 普ちゃん」
良貴兄の声にやっと気づき返事をすると「何か考え事かな?」と優しめ声で言われた。
「なんでもないよ」
「ルートがお菓子を作ってきたって」
ルート兄の方を見れば
「アマネが食べたいって言ってたのを作ったんだ。後で食べてみてほしい」
「ありがとうルート兄。楽しみ」
「良貴にぃ…」
「懐かしい呼ばれ方ですね」とリビングから追加資料を渡しに来たルートが言う。短期間呼ばれていた呼び名だ。すぐに今の呼び方になったけれど今も呼ばれると嬉しいものなんだなと思いつつ寝顔を見る。
まだ幸せそうではあるけれど時々考えているような顔になるのでもう少しすれば目覚めるかもしれない。
「今も俺はそばにいるよ普ちゃん」
植物園を見終えてお弁当とお菓子を食べる。皆と話したり笑ったりしてとても楽しいと言ったら突然パパが抱きしめてきた。
「どうしたの」
ただ抱きしめる虎二にかわりリエンが答える。
「いつもお弁当を食べる池の近くの東屋にねアマネに会いたいって人が来てるの。1人で行けるかしら?」
「行ける」
「影虎が途中まで一緒に行ってくれるわ」
行こうと影虎に手を引かれて歩き出す前に良貴兄とルート兄がいないことに気づく。
「2人には後で会える」と影じいが言うので東屋まで歩く。
影じいはあまり話さなかった。手はずっと握ってくれていた。東屋が見えてきた頃、立ち止まり手が離された。
「ここからは1人で行くんだ」と言って頭を撫でられた。
「今回は長めですね。」と心配そうなルートの声に読み終えた資料を置いて普を見る。不安そうな顔で身体に力が入っているようだ。
「幸せな夢なら幸せのまま終わってほしいというのは我儘でしょうか?」
「夢ぐらいは我儘を叶えてあげてほしいと思ってる」
「やぁアマネ」
誰だろう。会ったことのない人だ。
「ノア」
自分の口から出た言葉に驚いていると彼はニコッとした。
「ここから先は私の役目なんだ。向こうを見てご覧」
言われた方向を見ればパパが母さんを抱き上げて立っていた。周りは瓦礫と炎。
それを僕と同じように見ている影じいの姿もある。
助けたくて動こうとした普を虎二は睨む。こちらへ来てはいけないと。
リエンの口元が動く。ノアの指示に従えと。
「違和感はあっただろう。いつもの夢だったなら終わらせて現実に戻っている。アマネが見る夢は明晰夢に近いものだからきっと苦しい悪夢だろうね。」
「ノア」
「この夢は特殊なんだ。終わらせることができずアマネを飲み込んでしまう。リエンたちや影虎では助けられない。私ができるのは飲み込まれる前に現実に戻してあげることだけ」
そうノアは言うと普の手を引いて池飛び込んだ。
池というものはこんなに深かっただろうか?
まるで海じゃないか。
飛び込んだのに落ち着いているノアに抱き寄せられ呼吸ができることに気づく。
ノアはおでこにキスをすると
「これで戻れる。次に会うときは良い夢で」
「 」
目を開ければ頭を撫で「大丈夫?」と心配している良貴と不安を隠すように真剣な顔をしているルート兄がいた。
思ったよりも落ち着いている普を見て2人は理由を聞くべきか迷う。
「ノアが終わらせてくれた」
横になったまま普が言った言葉に
「ノアに会ったんですか?」
とルートが驚きながら返す。
ゆっくりと夢の内容を話していくのを聞きながらあり得たかもしれない世界だなと良貴は思い、ルートはノアらしい役割だなと思った。
最後の方は2人ですらつらく感じたけれど起きた普がパニックにならずに済んだのはノアの適切な説明のお陰であり最後の瞬間までそばにいてくれたから。
後日
「ノアは行動の先がだいたいどうなるか分かるやつだったからな」
ノアの仕事の時ことはセドリックに聞いたほうがいいとのことで話をしたところノアらしい行動らしいとわかった。
「アイツのことをほとんど知らないのに夢の中で行動したのなら本人だったのかもしれないな。親も祖父も。」
「…」
「もしその先へ進んでいたら今こうしてアマネとお茶なんて出来なかったな。俺としては本人たちで良かった」
まだ少し複雑な気持ちがあるのだろう。話をしている途中から元気がない。
ここは賭けか
「キスをして愛おしい子と呟いた」
驚いて目が合う普にニヤっとしながらセドリックはノアとリエンの話を始めた。
セドリックもわかっていて賭けをしているんだよなぁと付き人は思った。
辺りを見回しながら思い出そうとするけれど部屋にいたということ以外何も思い出せない。
ここは誰の家のリビング?
見たことのある場所のようにも感じるけれど違うような…
「普」
懐かしい声に振り向けば
「普、おいで」
「パパ!」
いつもより幸せそうな寝顔の普を見て伊藤は少し不安な顔をする。
「ここ最近はこうならなかったのにな」と思いながらベッド横に座ると次の任務の書類に目を通し始めた。
自分でも驚くくらい勢いよく抱きつけば大きな身体で受け止めて優しく抱きしめてくれる虎二。
それを見てニコニコしているリエンと羨ましそうな影虎。
「普、今日はみんな仕事休みだから池のある大きな公園に行くよ」
「良貴兄とルート兄もいる?」
「2人もいるよ。公園で合流する」
何かを思い出そうとしていたはずの普はあの頃の幸せに飲み込まれた。成長した姿で。
「お弁当もアマネの好きなおかずをたくさん詰めて持ってくから楽しみにしててね」
「ありがとう母さん」
公園に着くと良貴とルートも来ており話をしながら植物園へ向かう。
なんとなくルート兄の雰囲気が違う気がする。
僕の知っているルート兄はこんなに少年のような感じだっただろうか?違う?なぜそう思う?
「 普ちゃん」
良貴兄の声にやっと気づき返事をすると「何か考え事かな?」と優しめ声で言われた。
「なんでもないよ」
「ルートがお菓子を作ってきたって」
ルート兄の方を見れば
「アマネが食べたいって言ってたのを作ったんだ。後で食べてみてほしい」
「ありがとうルート兄。楽しみ」
「良貴にぃ…」
「懐かしい呼ばれ方ですね」とリビングから追加資料を渡しに来たルートが言う。短期間呼ばれていた呼び名だ。すぐに今の呼び方になったけれど今も呼ばれると嬉しいものなんだなと思いつつ寝顔を見る。
まだ幸せそうではあるけれど時々考えているような顔になるのでもう少しすれば目覚めるかもしれない。
「今も俺はそばにいるよ普ちゃん」
植物園を見終えてお弁当とお菓子を食べる。皆と話したり笑ったりしてとても楽しいと言ったら突然パパが抱きしめてきた。
「どうしたの」
ただ抱きしめる虎二にかわりリエンが答える。
「いつもお弁当を食べる池の近くの東屋にねアマネに会いたいって人が来てるの。1人で行けるかしら?」
「行ける」
「影虎が途中まで一緒に行ってくれるわ」
行こうと影虎に手を引かれて歩き出す前に良貴兄とルート兄がいないことに気づく。
「2人には後で会える」と影じいが言うので東屋まで歩く。
影じいはあまり話さなかった。手はずっと握ってくれていた。東屋が見えてきた頃、立ち止まり手が離された。
「ここからは1人で行くんだ」と言って頭を撫でられた。
「今回は長めですね。」と心配そうなルートの声に読み終えた資料を置いて普を見る。不安そうな顔で身体に力が入っているようだ。
「幸せな夢なら幸せのまま終わってほしいというのは我儘でしょうか?」
「夢ぐらいは我儘を叶えてあげてほしいと思ってる」
「やぁアマネ」
誰だろう。会ったことのない人だ。
「ノア」
自分の口から出た言葉に驚いていると彼はニコッとした。
「ここから先は私の役目なんだ。向こうを見てご覧」
言われた方向を見ればパパが母さんを抱き上げて立っていた。周りは瓦礫と炎。
それを僕と同じように見ている影じいの姿もある。
助けたくて動こうとした普を虎二は睨む。こちらへ来てはいけないと。
リエンの口元が動く。ノアの指示に従えと。
「違和感はあっただろう。いつもの夢だったなら終わらせて現実に戻っている。アマネが見る夢は明晰夢に近いものだからきっと苦しい悪夢だろうね。」
「ノア」
「この夢は特殊なんだ。終わらせることができずアマネを飲み込んでしまう。リエンたちや影虎では助けられない。私ができるのは飲み込まれる前に現実に戻してあげることだけ」
そうノアは言うと普の手を引いて池飛び込んだ。
池というものはこんなに深かっただろうか?
まるで海じゃないか。
飛び込んだのに落ち着いているノアに抱き寄せられ呼吸ができることに気づく。
ノアはおでこにキスをすると
「これで戻れる。次に会うときは良い夢で」
「 」
目を開ければ頭を撫で「大丈夫?」と心配している良貴と不安を隠すように真剣な顔をしているルート兄がいた。
思ったよりも落ち着いている普を見て2人は理由を聞くべきか迷う。
「ノアが終わらせてくれた」
横になったまま普が言った言葉に
「ノアに会ったんですか?」
とルートが驚きながら返す。
ゆっくりと夢の内容を話していくのを聞きながらあり得たかもしれない世界だなと良貴は思い、ルートはノアらしい役割だなと思った。
最後の方は2人ですらつらく感じたけれど起きた普がパニックにならずに済んだのはノアの適切な説明のお陰であり最後の瞬間までそばにいてくれたから。
後日
「ノアは行動の先がだいたいどうなるか分かるやつだったからな」
ノアの仕事の時ことはセドリックに聞いたほうがいいとのことで話をしたところノアらしい行動らしいとわかった。
「アイツのことをほとんど知らないのに夢の中で行動したのなら本人だったのかもしれないな。親も祖父も。」
「…」
「もしその先へ進んでいたら今こうしてアマネとお茶なんて出来なかったな。俺としては本人たちで良かった」
まだ少し複雑な気持ちがあるのだろう。話をしている途中から元気がない。
ここは賭けか
「キスをして愛おしい子と呟いた」
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