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第5章 教会編

勝負の行方

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引き続きリディア視点です

ーーーーーーーーーー





「あぁ、お相手の方なら昨日の夕方に来られましたよ」


「何・・・だって」


リディアはプルコ商会の商人に詰め寄り胸倉を掴む


「そんな訳ないだろ!そもそも物理的に不可能じゃないか」

「くっ、苦しい・・です」

「あ!?すまない」

「ゴホッゴホッ、貴女の言う事はもっともですが、実際に昨日グレンさんは来られて納品されました
そして今朝、出発されて行きましたよ」


そんな馬鹿な!?昨日の夕方なら監視が見ていたんだ

それに夕方ならアタイ達が泊まっていた街に辿り着いてすらいなかった筈だよ

なのに夕方には来たって!?辻褄が合わないだろう!

アタイ達がかなり無理しても辿り着けるのは1日半位は余裕でかかる

あの時出てすらいなかったアイツ等が何故!?

リディアは狐に化かされた気持ちになり動揺が隠しきれなくなっていく

その姿に部下達の不安は加速していった

「あ、姉御」

「!?、そ、そうだね、此処でいくら考えても埒が明かないさね
急いで馬の入れ替えをしてアタイ達も強行するよ!負ける訳にはいかないんだ」

「「「へい!」」」

そうさ、グレンも何かしらの作戦を考えていたんだ。
何かカラクリがある、けど今考えるのはそこじゃない


何にせよこんなにも前半飛ばしたのは、アタイ達を混乱させる為だろう

そして馬と馬車で移動している以上、何処かで必ず無理が来るはずなんだ


付け入る隙はそこだよ、絶対に追い付ける!いや追い越すんだ

リディア達暁月組は馬だけ用意させ、馬車は置いて街を出る

「これは万が一の最終手段だったのだけどね」

これは各街に支店を持っている暁月組だからこそ出来る裏技だった

帰りを引換書だけにしたのはこの為

グレン達は絶対に馬車を置いていく事が出来ない、それを利用したのだ

リディアはルールに荷物を運ぶとだけ言っており必ず馬車を使ってゴールしなければならないとは言っていない

暁月組が負ける筈の無い勝負だったのだが

まさかここまで予想を覆されるとは思ってもみなかった

「あの胸騒ぎはこの事だったのかい。全く、アタイをここまで追い詰めるとはやるじゃないか」

リディア達は馬に飛び乗り急ぎジーナを後にする

プルコ商会の商人がリディアに何か語りかけていたのだが、全く耳に届いていなかった

この時ちゃんと商人の話を聞いていれば
グレンが何故早く届けられたのか理解出来たはずなのに

それほどまでにリディアに余裕が無かったのだ

リディア達は馬の負担を無視し、昨日泊まった街まで戻る

その時間は今までにない程最速であり、支店に居た暁月組のメンバーが驚いていた

「急いで代わりの馬を用意しな!直ぐ出るよ」

「今からですか!?今出れば夜になりますが?」

リディアの言葉に部下が焦りながら反論する


「煩いね、グレン達はこの街に寄ってないんだろ?なら何処にいるのかも分からないじゃないか
今から出れば明日の夜明けには着く、流石にこの時間には帰り着いていないだろうよ」

「・・分かりやした、お気をつけて」


リディア達は少しだけ休憩とお腹に食べ物を詰め込み街を出た

夜の移動はかなり危険が伴う、夜行性や夜目の効く魔物に襲われやすいからである

人間は光の当たる場所しか分からない、月の様な惑星に照らされているとはいえ、30m先が見えれば御の字だ


リディアも共に付き添う部下達も戦々恐々しながらも馬を走らせる


真っ暗な夜の道、不意にリディアの乗っていた馬がスピードを緩めた


「!?どうしたんだい?何で言う事を聞かないんだい?」

「姉御!俺達の馬もだ」

一体どうしたってんだい、こんな夜道で立ち往生とか勘弁してくれ

不意に馬が混乱状態に陥りリディア達は慌てて宥める

なんとか馬を落ち着かせながら辺りを見回していると少しずつ気温が下がっている事に気付いた

途端に吐く息が白く濃くなっていく

いくら夜とはいえこんなに寒いなんて有り得ない、何が起きてるんだ!?

リディアが自分の身体を抱く様にして震えていると


「あ、あ、姉・・御」

声を震わせた部下の1人が街道の外側を指差している


「何だい?外に何がいる・・てんだ・・い」


指を指した先には蠢く土、そこから這い出る人らしきもの

少しずつ、周りを囲む様に街道の両隣から無数の人型が這い出てくる


「ひっ!?」

息を飲み叫び上がりたい声を手で押し止める

今叫んでパニックになったらお終いだ!落ち着け、落ち着くんだ

身体が震え、脳が処理を拒否し、今起きている現実を受け止めきれなくなっていく

そして人の何倍もの体積をしたドロドロの液体の塊が大口を開けて背後に現れた瞬間に部下が叫び出した

「うわぁあああああああ!?」

「っ!?走れ!急いで此処から逃げるんだ!」

リディア達は馬の尻を叩き、強引にその場を逃げ出した

脇目も振らず魔物が出ても強引に押し除け走り続ける

何だ!何なんだ!?アレは一体!人?いや、良く見えなかったけどアレは腐っていた

あんなの初めて見た、あんな化け物が居るなんて聞いた事が無い

部下達も震えてまともに判断出来ていない

どうなってるんだい

緊張と無理をさせた事で馬に無理をさせてしまったのか、馬の息が上がってきたので速度を落として周りの様子を見る

良し、追って来れてないようだね

部下達に速度を落とさせて休ませる


「あ、姉御、アレは一体」

「アタイにも分かんないよ、初めて見たんだ。誰か知らないかい?」

部下達は揃って首を振る、そりゃそうか

この世界にアタイ達の知らない得体の知れないモノがまだあるなんてね、魔物にも見えなかったし
でも速度は遅いみたいだ。まだ何とかなりそうだね

ホッと一息ついて部下達の様子を見る為に振り向くと

赤いワンピース に口の大きく裂けた女性が部下達の直ぐ後ろで立ち竦みリディアと目が合うとニヤリと笑った

「っ!?きゃああああああああ!?」

甲高い女性の叫び声が響き、声の主であるリディアは部下を置いて馬を飛ばし走り出す

部下達は初めて聞く女性らしい声にビックリし、叫ぶ原因となった口裂け女を見て2度ビックリして、リディアを追いかけるように走り出した


そしてリディア達は夜通し止まっては見た事も無い化け物を目撃し、走り出しては直ぐに馬が疲れて止まり、また別の化け物を見て走り出すと言う悪循環を繰り返す

身も心もボロボロになりながらも朝日が昇り、化け物が現れなくなり日が真ん中へと差し掛かる頃、やっとの思いで街へと到着したリディア達


ゴールの広場が見えてきて安堵したリディア達は、広場に商人達が居る事に気付き、フラフラしながらもそこへ向かう


「・・そんな、何・・でアンタが・・」


商人達の所にたどり着いたリディア達は馬から崩れる様に降り、地面に這いつくばりながらある人物を指差し驚愕する




「よう、中々早かったじゃないか」




「どうしてアンタがアタイ達よりも早く此処にいるんだい!?」



驚愕するリディアに軽い感じで挨拶を交わすグレンが立っていた


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