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第1章 最初の街

旅立ち

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この世界でも無くなった人は火葬なのだそうだ。

街の外れにある火葬場で燃える炎を見ながら立ち尽くしている。

子供達は大人達にしがみ付いて泣いていた。

枯れ果てるまで流した筈なのに目の前の現実を受け入れる度に涙が止まらない。

海斗達は燃え尽きた骨灰を丁寧に埋蔵して花を添え、胸に手を置いて祈りをささげた。


「海斗、これを」


グレンに手渡されたのは金のブレスレット。シンプルな形に流線のデザインが施されている。

そしてブレスレットの内側に青い石が嵌めてあった。ミリィの瞳と同じ色。

ブレスレットを受け取ってグレンを見る

「それはミリィが此処に来る時に唯一身に付けていた物だ。だからこれを海斗に持っていて欲しい」

「そんな大事な物をー」

「だからだ。それを身に付けて一緒に旅をしてくれないか?そして色んな世界を見せてやって欲しいんだ。
これが俺達に出来る家族孝行なんだよ」

「・・わかったよ、連れて行く。ありがとう」

言葉が詰まって片言になってしまった。

悲しみに浸る事も、彼女との思い出を語る時間も無い。日が明ければこの街を出て行かなければならない。

海斗は最後の夜はアジトに泊まる事にした。
夕食を手伝い、少しだけ豪華にアイスを全員に配って、少しだけ彼女の話で笑い合う。

夜中、やはり眠る事は出来なかった。

彼女の眠る墓の前で座っているとグレンがやってきた。

「やっぱり此処だったか」

「グレン。眠れなくなってね」

「だろうな。ほら」

グレンがコップを差し出して飲み物を注ぐ。
匂いからしてお酒だ。エールというやつか。

未成年なんだけどなと、言ってみたらこの世界は16からはお酒を飲んでもいいそうだ。

グレンが飲み始めたので、恐る恐る初めてのお酒を口にする。

苦い。でもこんな日はこんな苦味が自分の気持ちを少しでも流してくれていた。

「初めて飲んだにしてはいい飲みっぷりじゃないか。けど一気に飲むと倒れるからな!気をつけろよ」

グレンがコップをこちらに向けてきたので海斗もコップを合わせて乾杯する。

海斗もツマミと日本のお酒を出して、夜が明けるまでチビチビと飲む事にする。

墓の前には決して減る事のないコップにもお酒が注がれて、月の光に照らされていた


日が昇り始めて目を覚ます。目の前には壁にもたれかかってグレンが寝ていた。

あのまま寝ていたみたいだ。めちゃくちゃ気持ちが悪い。
頭がガンガンする。もしやこれが二日酔いってやつなのか!?

外に出てきた女性陣が呆れた様子で見てきた。

なんて締まらない最後だろうか。
アニも残念な子を見る目で此方を見ているし。

ま、しんみりとするよりはマシなのかな?ダメ人間にされた気はするんだけど。

二日酔いに効く薬湯を貰って少しだけ治った頭痛を押さえて出発する事になった。

「また会いに来てねーー!」

「カレー食べさせてーー!」

「お土産よろしく!」

「元気でね」

「そいつを宜しくな」

「ああ、もちろん」

左腕に金のブレスレットを着けて手を上げる。

皆んなに見送られて街を後にした。


街が小さくなっていく。
街を全体的に見渡せる丘の上からもう一度見下ろす。

この世界に来て最初に来た街。色んな出会いがあって、好きな人が出来て、そして永遠の別れを経験した。

日本じゃ絶対にしたくないと思っていたけど手も汚してしまった。けど後悔はしていない。

ただ守れなかった事が悲しいだけだ。

左手に光るブレスレットに触れて大きく一呼吸

振り返ってバイクを取り出して跨る。

軽快なエンジン音が鳴ってアクセルを開けて走り出す。

これから色んな世界を見るだろう。そして命の軽いこの世界でも自分の信念に恥じない行動をしよう。

ミリィには甘いと言われるかもしれないけどね。

学園都市ってどんなところなんだろうな。魔法やこの世界の事を色々知れたらいいな

具体的な質問が無いとモノリスさん答えてくれないし。

MPに余裕の出てきた海斗は軽快に道を走って行く。


次の街、学園都市ウォーレンに向けて
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