甘ったれ浅間

秋藤冨美

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第1部 一八六二年 春

江戸の友

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   三吉はぱちりと目を覚ました。障子から射し込む光から察するに今は夕刻頃であろうことが見て取れた。体を起こすと視界の右側に人の顔が映る。その少年、いや青年は幼く見えるが、整った顔で聡明そうな顔立ちをしている。誰であろうか。未だ見覚えが無い顔だが。

「目が覚めたみたいだな。 」

その青年は先程まで寝て居た三吉を労わるように見つめる。

「はい...。どうやら何日も寝てしまったようで。 」

甘ったれを、もとい、心を鍛えるため、遥々伊予から此処に来たのに何日も寝てしまって居たようで時間を無駄にしてしまったと感じていた。

「まあ仕方無えさ。聞いたところによるとお前、伊予から来たって言うじゃねえか。長旅の疲れが出たんだと思うぜ。まだ寝てろよ。稽古にはしっかり休んでから参加すりゃあいい。 」

「はい...。すみません、迷惑をかけてしまって。 」

「いやいや。見た所、俺と歳も背丈も変わらねえようだし、仲良くやろうぜ。敬語は無しだ!俺の名は藤堂平助ってんだ。平助って呼んでくれよな! 」

江戸っ子...というのだろうか。気前がいいというか、人情味溢れるというか...。この青年を一言で表すとすれば其れであった。

「ああ。これから宜しく。俺のことは三吉でいいよ。 」

どうやら仲良くなれそうだ。三吉は不安と期待を抱えつつも、江戸で初めての友が出来きほっとした。
   すると急にダダダダッ!!ドタバタと駆け回る音が近づいてくる。何事かと戸に目線を向けた刹那、二人の男が部屋に飛び込んで来た。

「三吉!!すまねえ!俺のせいで!!怪我はねえか!? 」

鬼気迫る表情で永倉が三吉に雪崩れ込んでくる。

「お前が三吉か!!俺と同郷っていう!!色々話が合いそうだなァ。いやァ、これから忙しくなるぜェ。 」」

必死の形相の永倉を他所に、何やら背の高い飄々とした男が三吉に絡もうとする。

「永倉さん、原田さん!三吉はさっき目が覚めたばっかりなんだから、静かにしてやれよ!病人と老人は労われってのが昔からあんだろう! 」

体格の良い二人に負けじと藤堂も食って掛かる。

「あ、あの、永倉様?俺はもうすっかり大丈夫ですから。落ち着いて。平助も、そんなに怒ってたら折角の美男子が台無しだぞ...って。 」

三吉が懸命に声を大にするが、永倉藤堂の両名は言い合いから発展して取っ組み合いを始めて居た。

「おお!良いねえ!がむしん、平助に負けんじゃねえぞ~。平助も今日くらい勝つところ見せてくれよォ。 」

ケラケラと笑いながら、青年は壁に背を預けて二人の喧嘩を傍観する。三吉はその奔放ぶりに思わず訝しみの目を向けてしまう。

「お?何だ?俺に用でもあるのか? 」

所詮流し目といった風に青年は三吉に目をやる。

「いえ...。止めないでいいのかなーと。 」

目線を藤堂、永倉の方へ向けたまま、三吉は原田の様子を伺う。

「いいんだよ。此れが此奴らの挨拶みたいなもんだからさ。おっと、俺の名前は原田左之助ってんだ。同郷同士仲良くやろうぜェ。 」

「は、はあ。 」

原田の図々しさもとい、友好的な態度に三吉は戸惑いを覚えた。






友が出来たと同時に悩みの種も出来た様である。
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