3 / 13
第1部 一八六二年 春
試衛館と浅間 其二
しおりを挟む
「私と君の父上、吉三郎はこの道場の流派である、天然理心流の同門だったんだよ。 」
ハッと三吉は思い出した。幼い頃、母の手伝いで父の遺品の整理を手伝っていたとき、『天然理心流、試衛館』と書いてある文を見つけた。なにぶん、その頃は幼かったので文の中身は理解できなかったが、父が元気だった頃によく「天然理心流で剣を学んだ」と言っていたので、ああこのことかと納得したのであった。
だから、試衛館という言葉に聞き覚えがあったのか。
「あまり、父のことは覚えていませんがよく天然理心流というところで、剣を学んだと申しておりました。此方の事だったのですね。 」
「詳しく言えば、倅の二代前、つまり私の先代の頃になる。吉三郎とは三助師匠の元で共に剣の腕を磨いた仲さ。 」
遠いその頃を思い出すように周斎は遠くを見つめる。
「吉三郎が死んだと聞いたときは驚いたよ。何せ、私たち門下の中で一番しぶとく生きるだろうと誰からも噂されてたからなぁ。でも、こうして息子の三吉君に会えたんだ。吉三郎が巡り会わせたのかもしれない。どうだね。三吉君も此処で剣を学ぶというのは。 」
周斎の瞳の奥がギラギラ輝く。いくら歳を取ったとはいえ、剣への思いは未だ並々ならぬ物が伺えた。
「ええっと...。 」
三吉が返答に困っていると、近藤が一つ提案を述べた。
「父上。一度、稽古の様子を見てからというのでもいいのではないでしょうか。見て学ぶ、ということも必要ですし。 」
「そうじゃな。それも良かろう。...名残惜しいが、私はそろそろ家に帰るとする。長居する理由もなかろうて。勇、後のことを頼んだぞ。 」
「はい、三吉君のことはお任せください。父上、お身体に気をつけて。 」
口を挟む間もないままに話が決まっていくのを呆然と見ていた三吉だったが、漸く自分の身の振り方に気がついた。試衛館で、住み込みで、剣を学ぶ...ということか。
「それでは三吉君。私について来なさい。 」
いつの間にやら周斎の姿は無く、部屋には三吉と近藤の二人きりになっている。
「はい。お世話になります。 」
三吉と試衛館、
出会うべくして出逢ったのかもしれない。
ハッと三吉は思い出した。幼い頃、母の手伝いで父の遺品の整理を手伝っていたとき、『天然理心流、試衛館』と書いてある文を見つけた。なにぶん、その頃は幼かったので文の中身は理解できなかったが、父が元気だった頃によく「天然理心流で剣を学んだ」と言っていたので、ああこのことかと納得したのであった。
だから、試衛館という言葉に聞き覚えがあったのか。
「あまり、父のことは覚えていませんがよく天然理心流というところで、剣を学んだと申しておりました。此方の事だったのですね。 」
「詳しく言えば、倅の二代前、つまり私の先代の頃になる。吉三郎とは三助師匠の元で共に剣の腕を磨いた仲さ。 」
遠いその頃を思い出すように周斎は遠くを見つめる。
「吉三郎が死んだと聞いたときは驚いたよ。何せ、私たち門下の中で一番しぶとく生きるだろうと誰からも噂されてたからなぁ。でも、こうして息子の三吉君に会えたんだ。吉三郎が巡り会わせたのかもしれない。どうだね。三吉君も此処で剣を学ぶというのは。 」
周斎の瞳の奥がギラギラ輝く。いくら歳を取ったとはいえ、剣への思いは未だ並々ならぬ物が伺えた。
「ええっと...。 」
三吉が返答に困っていると、近藤が一つ提案を述べた。
「父上。一度、稽古の様子を見てからというのでもいいのではないでしょうか。見て学ぶ、ということも必要ですし。 」
「そうじゃな。それも良かろう。...名残惜しいが、私はそろそろ家に帰るとする。長居する理由もなかろうて。勇、後のことを頼んだぞ。 」
「はい、三吉君のことはお任せください。父上、お身体に気をつけて。 」
口を挟む間もないままに話が決まっていくのを呆然と見ていた三吉だったが、漸く自分の身の振り方に気がついた。試衛館で、住み込みで、剣を学ぶ...ということか。
「それでは三吉君。私について来なさい。 」
いつの間にやら周斎の姿は無く、部屋には三吉と近藤の二人きりになっている。
「はい。お世話になります。 」
三吉と試衛館、
出会うべくして出逢ったのかもしれない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
死か降伏かー新選組壬生の狼ー
手塚エマ
歴史・時代
幕末の京の都。
新選組オールスターズ。
壬生狼と呼ばれ、都人を震え上がらせた新選組に、
単身立ち向かった町人の少年。
彼は時に新選組に反目し、時に新選組を援助する。
果たして、彼の目的は……。
モテキャラの沖田が、本作ではフラれ役。
ほんのりBL風味。というか、男色ですね。
刀剣アクション。
なんでもありです。
三賢人の日本史
高鉢 健太
歴史・時代
とある世界線の日本の歴史。
その日本は首都は京都、政庁は江戸。幕末を迎えた日本は幕府が勝利し、中央集権化に成功する。薩摩?長州?負け組ですね。
なぜそうなったのだろうか。
※小説家になろうで掲載した作品です。
Battle of Black Gate 〜上野戦争、その激戦〜
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
慶応四年。上野の山に立てこもる彰義隊に対し、新政府の司令官・大村益次郎は、ついに宣戦布告した。降りしきる雨の中、新政府軍は午前七時より攻撃開始。そして――その最も激しい戦闘が予想される上野の山――寛永寺の正門、黒門口の攻撃を任されたのは、薩摩藩兵であり、率いるは西郷吉之助(西郷隆盛)、中村半次郎(桐野利秋)である。
後世、己の像が立つことになる山王台からの砲撃をかいくぐり、西郷は、そして半次郎は――薩摩はどう攻めるのか。
そして――戦いの中、黒門へ斬り込む半次郎は、幕末の狼の生き残りと対峙する。
【登場人物】
中村半次郎:薩摩藩兵の将校、のちの桐野利秋
西郷吉之助:薩摩藩兵の指揮官、のちの西郷隆盛
篠原国幹:薩摩藩兵の将校、半次郎の副将
川路利良:薩摩藩兵の将校、半次郎の副官、のちの大警視(警視総監)
海江田信義:東海道先鋒総督参謀
大村益次郎:軍務官監判事、江戸府判事
江藤新平:軍監、佐賀藩兵を率いる
原田左之助:壬生浪(新撰組)の十番組隊長、槍の名手
和ませ屋仇討ち始末
志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。
門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。
久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。
父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。
「目に焼き付けてください」
久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。
新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。
「江戸に向かいます」
同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。
父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。
他サイトでも掲載しています
表紙は写真ACより引用しています
R15は保険です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる