甘ったれ浅間

秋藤冨美

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第1部 一八六二年 春

試衛館と浅間 其二

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「私と君の父上、吉三郎はこの道場の流派である、天然理心流の同門だったんだよ。 」

ハッと三吉は思い出した。幼い頃、母の手伝いで父の遺品の整理を手伝っていたとき、『天然理心流、試衛館』と書いてある文を見つけた。なにぶん、その頃は幼かったので文の中身は理解できなかったが、父が元気だった頃によく「天然理心流で剣を学んだ」と言っていたので、ああこのことかと納得したのであった。
だから、試衛館という言葉に聞き覚えがあったのか。

「あまり、父のことは覚えていませんがよく天然理心流というところで、剣を学んだと申しておりました。此方の事だったのですね。 」

「詳しく言えば、倅の二代前、つまり私の先代の頃になる。吉三郎とは三助師匠の元で共に剣の腕を磨いた仲さ。 」

遠いその頃を思い出すように周斎は遠くを見つめる。

「吉三郎が死んだと聞いたときは驚いたよ。何せ、私たち門下の中で一番しぶとく生きるだろうと誰からも噂されてたからなぁ。でも、こうして息子の三吉君に会えたんだ。吉三郎が巡り会わせたのかもしれない。どうだね。三吉君も此処で剣を学ぶというのは。 」

周斎の瞳の奥がギラギラ輝く。いくら歳を取ったとはいえ、剣への思いは未だ並々ならぬ物が伺えた。

「ええっと...。 」

三吉が返答に困っていると、近藤が一つ提案を述べた。

「父上。一度、稽古の様子を見てからというのでもいいのではないでしょうか。見て学ぶ、ということも必要ですし。 」


「そうじゃな。それも良かろう。...名残惜しいが、私はそろそろ家に帰るとする。長居する理由もなかろうて。勇、後のことを頼んだぞ。 」

「はい、三吉君のことはお任せください。父上、お身体に気をつけて。 」

口を挟む間もないままに話が決まっていくのを呆然と見ていた三吉だったが、漸く自分の身の振り方に気がついた。試衛館で、住み込みで、剣を学ぶ...ということか。

「それでは三吉君。私について来なさい。 」

いつの間にやら周斎の姿は無く、部屋には三吉と近藤の二人きりになっている。

「はい。お世話になります。 」



三吉と試衛館、



出会うべくして出逢ったのかもしれない。
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