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31 サッカーその3

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 22 休日

 今日は、俺、ネズット君、バートリー君、イルフィン君、ウェルカムドアの五人で、王都を練り歩く予定。でもその前に、一般応募サッカーチームの入寮が無事終わるか、見届けることとする。
お昼は帰ってこないかもしれないから、昼食はいらないとエットーコックに伝えた。
 朝食を食べた後、ウェルカムドアでサッカー場へ行く。そこで奴隷サッカー選手達の練習風景を眺めながら、皆と適当に話をした。
「サッカーチームを、一般チームと奴隷チームの二チーム作るとして、それぞれチーム名が必要だよね。どんな名前にする?」
「そうですね。サバクウイニングスや、フダウリパーフェクトズとかどうでしょう?」
「それ以外のがいいなあ」
 ある程度時間が経つと、王都からいくつもの馬車がやって来た。バトソンとサッカー選手の皆さんだ。
 第二男寮、第二女寮の前で馬車を降りた人達に、俺は声をかけておく。
「皆さん。今日からよろしくお願いします。今回の計画はなんとしても成功させたいので、頑張ってください!」
「きゅ、救世主様、俺達を雇ってくださりありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「私達、精一杯救世主様のお役に立ちます!」
「お役に立ちます!」
「よし。その意気だ。皆、頑張ろう!」
 サッカー選手達の気合いは十分だった。ここには火属性の皆や水属性の皆がいるので、何かあったら彼らを頼るようにと言っておく。
 彼らとの顔合わせが済んだので、今日の休日スタートだ。

 貴族街を歩くのは後日で。今日は一般街道を歩く。
 大通りは活気があって、人であふれていた。いろんな店があるし、露天商は声をあげて客引きをしている。
「あれはまさか、救世主様!」
「神の使い様だ、ははー!」
「救世主様、ごきげんよう!」
「おはようございます、救世主様!」
 そして会う人皆が、俺を見てそう言う。
「あはは、皆さんこんにちはー」
 どうやら、俺は有名人らしい。それに、護衛のネズット君やバートリー君達にも興味をひかれている。きっと、美少年だからだな。
 幸いなのは、俺達に人だかりができないこと。周囲から挨拶をかけられながらも、大通りを進む。
「マスター。まずはどこを目指しますか?」
 ネズット君にそう言われる。
「そうだなあ。行き先は決めてないけど、どこか興味を引く場所があったら、そこに寄ろう。皆も探してみてくれ」
「イエスマスター!」
 幸い、パレードの時に通った道なので、まっすぐ行けば王都を囲う壁の門まで行けることはわかっている。迷う心配はない。どんどん進もう。
 そうしていると、ある時。一人の少女を見つけた。
「お花はいりませんか。お花はいりませんか?」
 あまり清潔な服を着ていない、十歳にも満たないであろう少女だ。俺はその少女を不憫に思い、思わず声をかけた。
「花を買うよ」
「はい。ありがとうございます」
 少女は俺を見ると、安堵したような笑顔を見せる。
「はい、どうぞ」
「全部ちょうだい」
「え。一つじゃなくていいんですか?」
「うん。全部欲しいんだ。いくら?」
「え、えっとお。いっぱい、です」
「まず、一ついくらかな?」
「じゅ、十トルです」
「そしたら次は、花の数を数えよう」
「マスター。それは私がやります」
 バートリー君がそう言って、ネズット君やイルフィン君と共に花を手に取り、数を数えた。
「26個ですね。全部で260トルです」
「わかった。260トルね。財布は、全部金貨か。それじゃあこれ三つで、三百トルかな?」
 俺が金貨三枚を見せると、少女はびっくりする。
「き、金貨。初めて見た。金貨は一枚で、一万トルです。それは、多すぎです」
「そうか。でも今はこれしかないから。だから、はい、どうぞ」
 俺は少女に、金貨一枚、一万トルを渡す。
「え。でも、いいんですか?」
「うん。幸い俺は、まだいっぱいお金を持ってるからね。でも、それじゃあ、おつりのかわりに一つ訊いてもいい?」
「はい。なんでしょう」
「学校へは、行ってないの?」
「が、学校は、私には必要ないって、お父さんが」
「そうか。でも、学校も大事だよ。それに、ここで一万トルも稼いだら、もう花を売らなくてもすむでしょ。だから、これからは学校に行ってほしい。俺のお願い、聞いてくれるかな?」
「わ、わかりました。明日から、学校へ行きます」
「うん。良い子だ。神の使いからのお願いだよ。忘れないでね」
「か、神の使い様?」
 少女は俺の顔を見て、それから俺の仲間の顔を見て、また俺の顔を見ると、深く頭を下げた。
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます!」
「じゃあね、ばいばい」
 こういう時だけ、都合よく神の使いと言う俺。
 でも、これであの少女が良い人生を歩けるようになってくれたらいいな。
「神の使い様。果物美味しかった!」
 背中越しにそう言われて、思わず振り向く。
 けど、少女の言葉は聞こえても、もう姿は人ごみに紛れていて、見えなかった。
 果物か。そういえばパレードの後に、たくさん出したな。
 もしその一つを少女が食べれたのだとしたら、良かった。
 俺はもう少女のことを気にしないことにして、再び歩き出す。
 そして。
「学校は、あるのか」
 でも、今みたいに花を売る少女もいると。
 それは、ちょっと問題かもしれない。
 俺達はひとまず、脇道へ移動する。そこでウェルカムドアに自室への扉を作ってもらい、そこを通って花束を机の上にでも置いておく。
「マスター。その花は私達が活けましょう」
 すると、そう言ってバートリー君が鉄の花瓶を作り、イルフィン君が水を入れ、そこに花を活ける。
「ありがとう。皆。これで花を枯らす心配がなくなった」
 俺は部屋が華やかになったことを満足しながら、すぐまた大通りへと戻った。
 ウェルカムドアは周囲の人達を驚かせたけど、俺達はその視線から逃れるように、そそくさと先へと進んだ。

 しかし大通りを歩いていたら、そこから更にまた、物売りの少年少女と遭遇した。
 少年はマッチ。少女は花を売り歩いている。
 俺は彼ら全ての子達に、全部買うかわりに金貨を与え、学校へ行くようにお願いする。
 すると、ほとんどの子達は素直にうなずいてくれたが、何人かの子達は、すぐには聞いてくれなかった。
「学校なんて意味ない」
「お金の方が大事」
「時間の無駄」
 俺は、そんなことないよ。と言いながら、なんとか説得する。
「学校は、皆の力になるためにあるんだ。学校に行けないことは、損だよ。お金稼ぎなんて、学校に行った後でもできる。皆、自分自身のために勉強してほしいんだ」
 正直に言えば、俺だって学校なんてあまり役に立ってない。
 カードゲームを作るのに、学校で得た知識なんてほとんどいらなかった。学校以外のところでまた勉強して、考える。そういう人生。
 それでも、学校に行けば楽しいこともあった。役に立つと思ったことも、ほんの少しはある。
 だから、学校は大事。その考えを、子供達に伝えたい。
 そう思うと、俺はふと思った。
「学校が楽しかったら、さっきみたいな子達は、最初から学校に行っていたのかな」
「イエスマスター。全てマスターの言う通りです」
 そう言ってうなずくバートリー君達は、少し調子よすぎだと思うけど。
 俺はここで、平和について、更に一つ目標ができた。
 教育改善。
 この国の教育がどういうものかまだ知らないが、今度王様に相談してみよう。

 その後、ザ、大衆食堂で大味な料理を食べて、門まで歩いて、見上げて、戻る。
 その時、俺はふと、門の近くに建てられた大きめの建物、二件が気になった。
 一つは商業ギルド。きっといろんな商売をしているギルドさんだ。
 もう一つは、冒険者ギルド。異世界と言ったらまずここだという感じの、ザ、ド定番と呼ぶべき場所。基本異世界人が何かとお世話になるギルドさんだ。
 俺はそのどちらもが気になって、まずは商業ギルドに顔を出すことにした。
 うちの果樹園の果物を運送してくださって、ありがとうございます。的な意味で。挨拶しておこうと考えたのだ。
 なので皆にも相談してから、商業ギルドの扉を叩く。
「皆。商業ギルド、寄る。いい?」
「イエスマスター」
 よし行くぞーそれー突撃ー!
 商業ギルドの中に入る。広い空間があって、正面奥にカウンター。右側には掲示板や鎧、花瓶があり、左側には喫茶店のような空間。何人かがお茶を飲んでいる。
 俺達はすぐさま、カウンターを目指した。
「ようこそ、お客様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「どうも。果物や穀物の運送、買い取りをしてもらっている、沙漠です。今日はたまたま近くに来たので、挨拶にきました」
「はい、サバク、様、って、か、神の使い様!」
 受付嬢は俺の素上を知ると、おったまげた。
「し、失礼しました。すぐに上の者をお連れいたします!」
 受付嬢がダッシュで奥へ引っ込む。そしてすぐに帰ってくる。
「まもなくギルドマスターの使いの者が現れます。サバク様はごゆっくりお待ちください!」
「はい」
 とにかく、待てばいいんだな。
 俺はカウンターを離れて、右のスペースで立ちながら待った。
 喫茶店でゆっくりしているヒマはないだろう。

 二、三分したら、若い男性が走ってきて、俺達を見ると近寄った。
「フダウリサバク様とお連れの皆さまですね。本日は当ギルドにお越しくださり、真にありがとうございます。早速こちらへおこしください」
「はい」
 男の誘導に従って、ギルドの奥へと進む。
 そして二階の、割と広くきれいな応接間に通され、そこにちょび髭のおじさんが待っていた。
 ちょび髭おじさんは立ち上がり、俺達に深くおじぎする。
「初めまして。あなたが神の使い、サバク様でございますね。私はこのギルド支部のギルドマスター、オーマスでございます」
「初めまして。札瓜沙漠です」
「本日は、どういったご用件でしょうか?」
「えっと、ただ挨拶しにきただけです。先日から荒野に作った果樹園の果物、それと穀物を運送してくださり、ありがとうございます。突然の依頼でしたが、助かりました」
「ああ、あの果物の件でございますね。その件は、こちらこそお世話になっております。果物や穀物はこちらにも少量届けられているので、とても助かっています」
「少量?」
「はい。サバク様からいただいているほとんどの食料は、貴族街にあるギルド本部で扱っております。あの果物や麦の質は大変よく、引く手あまたでございます」
「そう。全部ここに運ばれているわけじゃないのか」
「な、何か問題がありましたでしょうか?」
「いや、ただ。ここに一度、果物全部が運ばれていると思ってただけだから。料金は、まあ、いいか。これからも、取引の方よろしくお願いします」
 今は果物を売ったお金でサッカーを運営しようとしているから、値下げについては言えないな。まだ。
「ええ、こちらこそ。サバク様の食料で得られた利益は、サバク様の分の分配を適切に行うので、ご安心ください。料金の支払いは、月末でございます。ですがもちろん、すぐご入用なら、今すぐにご用意させていただきます」
「わかった。今はまだ必要じゃないから、月末で。そういえば、相談なんだけど、商業ギルドでボールって売ってたり、ひょっとして作ってたり、してない?」
「はあ、ボールでございますか。もちろんご用意できますし、職人もご用立てできますが」
「それじゃあ、なるべく急ぎで、サッカーボールを用意してもらいたいんだ。ひょっとしたら買っておいたボールじゃ、耐久面や性能が心配かもしれないから。具体的に言うと、どれだけ強く蹴り続けても壊れない、なるべく硬いけりやすいボール。大きさは、そうだな、ネズット君かバートリー君、見本を作れる?」
「イエスマスター。今すぐご用意します」
 そう言ってバートリー君が、わずか数秒で金属製のメタルサッカーボールを作ってくれた。
「す、凄い。魔法だ」
 オーマスさんが驚く。
「ええ。まあ、彼らの得意技です。これとそっくり同じ大きさの、遊戯用ボールを作ってほしいんです。数は、ひとまず十個。頼まれていただけますか?」
「はい。必ずご用意いたします。この見た目、大きさの、けりやすいサッカーボールですね。ご用意出来次第、お屋敷に届けさせていただきます」
「ありがとうございます。あと、これは急ぎではないのですが、バスケットボールという、よく弾むつかみやすいボールと、野球ボールという、投げやすい硬いボールも依頼します。こちらは急ぎではなく、作れたらでかまいません。バートリー君、早速サンプルを作ってみせてあげて」
「イエスマスター」
 ゴルフ、ラグビー等は、用意する物が多少多いから、今回は見送ろう。まず第一に、サッカー。バスケットと野球は、ほんのついでだ。
「マスター。グローブの見本も作りますね」
「ありがとう、ネズット君。早速作ってくれ」
 バートリー君がメタルバスケットボールを作ってくれている間に、ネズット君がグローブを作る。
「オーマスさん。この一番大きいボールがバスケットボールで、この大きな手袋みたいなのが、野球のグローブです。これで野球ボールをキャッチします」
「は、はい。バスケットボールとグローブですね。わかりました」
 オーマスさんは必死に俺の要望を憶えてくれている。これは、一度にたくさんの依頼を出すのは迷惑かな?
「最後に、野球ボールです。この再現されている継ぎ目も、正確に似せてください。この継ぎ目のひっかかり具合で、変化球が生まれるそうです。確か、継ぎ目は百八つだとか」
「はい。野球ボールに、継ぎ目、ですね。わかりました。必ずご要望にお応えします」
「あの、それじゃあよろしくお願いします。俺達はこれで、失礼します」
 これ以上何かを言ってしまう前に、この場を去ることにした。
「サバク様。本日はご来店、真にありがとうございました」
 オーマスさんは汗をかきながら頭を下げた。やっぱり疲れさせてしまったかな。少し申しわけなく思う。
「玄関までお送りします」
 俺をつれてきた男の人が、そう言って前を歩く。こうして俺達は、商業ギルドへの挨拶と依頼を終えた。
 特に、公式認定できるサッカーボールが作られれば、サッカー自体の成功率と普及率が跳ね上がるだろう。そのはずだから、ぜひとも良い物を作ってほしい。

 次は冒険者ギルドだ。
「皆。次は冒険者ギルドに行くよ。といっても、するのは挨拶だけだから、すぐに済むはず。どうかつきあってくれ」
「イエスマスター」
 よし。それじゃあ冒険者ギルドへ行こう。
 いざ冒険者ギルドに入ると、入って目の前の奥がカウンター。右側には掲示板。左側はバーのようになっていた。ちらほらと冒険者っぽい武装者が見受けられる。
 まっすぐ歩いて、カウンターまで行く。すると受付嬢は、笑顔で応対してくれた。
「ようこそ。冒険者ギルドへ。どういったご用でしょうか?」
「あの、神の使いの札瓜沙漠です。今回はたまたま近くに寄ったので、挨拶にきました。今後、そちらを頼るような事態があれば、どうかご協力ください」
「へ、あ、あの、神の使い様ー!」
 このカウンターでも、素っ頓狂な声をあげられてしまった。
「し、失礼しました。只今ギルドマスターにつなぎます!」
「あ、あの、本当に挨拶だけなんで」
 受付嬢は俺の制止では止まらず、奥の方へと消えてしまう。けど、数秒で戻ってくる。
「もうすぐギルドマスターの使いの者が来ます。少々お待ちください!」
「はい」
 これは、また会うパターンだな。ちょっと申し訳ない。
 仕方なくバーの方に寄って待つ。けど何も注文しないし、座りもしない。きっとまたすぐに待ち人が現れるさ。
 と思っていたら、実際すぐに、受付嬢と同じくらい可愛い子がやって来て、俺の前で立ち止まった。
「フダウリサバク様ですね。お待たせしました。こちらへおこしください」
「はい」
 ひとまず、従う。そしてちゃちゃっと挨拶して、おいとましよう。
 つれてこられたのは、一階奥の応接室。ここも広くてきれいだが、商業ギルドよりも作りが頑丈に見え、質素な感じがした。
 そして既に部屋にいたのは、大柄な男。彼は俺に気づくと近寄ってきて、手をさしだす。
「初めまして。俺はここのギルマスの、リーヘンだ。サバク様、今後ともよろしく」
「ああ、こちらこそよろしくお願いします」
 俺とリーヘンさんは握手してから、向かい合って座る。
「して、本日は当ギルドに何用か?」
「それなんですけど、本当にたまたま近くに寄っただけで、なんとなく挨拶しようとしただけです。ほら、先日戦争で、俺の皆が活躍する機会がありましたよね。きっと、その時も冒険者達だって働いてくれていたと思うんです。だから、今後もし何かあった時も、上手く連携、協力できるようにと、お願いにきました」
「戦争の時、ですか。あの時俺達はほぼ何もしていませんでしたが、サバク様が俺達のような者を気にかけてくださっていることは理解しました。また後日何か王都に危機があれば、その時もよろしくお願いします。こちらも全力で尽力いたします」
「はい。では」
「お待ちください、マスター。冒険者はモンスターを倒す集団なんですよね。なら丁度いいお願いが、一つありました」
 イルフィン君が突然そう言いだした。
「そう。ならイルフィン君、どうぞ話して」
「イエスマスター。冒険者方は、今荒野に私達が生み出した生物が放し飼いされていることを知っていますか?」
「ああ。レキの大荒野の新モンスターのことだな。城の兵士から倒さないでくれと報告を受けているし、こちらの調査でも確認している。それが何か?」
「もし彼らが増えすぎた時は、狩猟して数を減らしてほしいのです」
「え、イルフィン君、いいの?」
 思わずそう言うと、イルフィン君はうなずいた。
「はい。減りすぎても困りますが、増えすぎても困りますから。一応、ブタ型生命体の方は調理しても美味しく食べられるはずですので、食料と見てもらってかまいません」
 ちょっとショックだ。折角皆が生んでくれたのに。いや、でも、増えすぎても環境を破壊してしまう生物はいるって、昔学校で習ったもんな。これは必要な犠牲なのか。
「ああ、ならばギルドの方で捕獲してもらってもかまいませんよ」
 ここでネズット君がそう言った。
「無理矢理強引につれていく。という場合は、絵面的にNGですが、私達の子達と会話を試みて、お互いに歩み寄り、無事信頼関係や絆を築けた場合は、荒野からお持ち帰りしていただいてかまいません。例えばブタ型生物なら、美味しいし戦力にもなりますし、ブラキオザウルス型生物なら、植物に水を与えてくれます。ペットとして飼うのも可。きっと共存できますよ」
「なるほど。それなら俺としてもオーケーだ」
 ネズット君、いいこと言う。
「わ、わかった。憶えておこう」
 リーヘンさんもうなずいてくれた。
「ですが、盗みや無駄な殺生は当然NGです。冒険者方も、その現場を目撃した場合は、実力を行使して取り締まってください」
 バートリー君がそう言う。
「それは、警備の依頼ということか?」
「そういうことでよろしいでしょうか、マスター?」
 バートリー君が確認をとってきたので、俺はうなずいた。
「ああ。たぶん大した金は払えないが、果樹園の警備は必要だしな。でも、そのことは兵士の方達にもしてあるから、事前に兵の人達と相談して、警備の内容を決めてほしい。俺としては、用心して兵士と冒険者、どっちにも頼んだ。ということで」
「そうか。わかった」
「あと、私達の子達を懐柔するのは、日中の間だけと決めておいてください。夜中に近づく人たちがいたら、問答無用で倒すように。いいですね?」
 ネズット君が言う。
「ああ。わかった。兵達と組んで果樹園の警備だな。任せてくれ」
「よろしくお願いします。では、皆。まだ言いたいことはあるか?」
「いいえ、マスター」
「では、俺達はこの辺で」
「ああ、待ってください。サバク様。そういえば、こちらも一つ頼み事がありました」
「はい、なんでしょうか?」
「先日サバク様が町中で奴隷や周囲の者達に与えたという、超治癒水。当ギルドにもゆずってはいただけませんか?」
「イルフィン君、いい?」
「イエスマスター。マスターの頼みなら仕方ありません。少しくらいなら分けてやってもいいですよ」
「ありがとう、イルフィン君」
「ありがとうございます。手足の欠損を修復してくれるその力があれば、皆の冒険者としての寿命がかなり延命されるでしょう。もちろんお代の方は、弾ませていただきます。それでは早速、お分けいただけると助かるのですが」
「ああ。イルフィン君。任せた」
「イエスマスター」
 ネズット君とバートリー君に石製と鉄製の小タンクを作ってもらい、ひとまずそこに入るだけ、超治癒水を渡しておく。
 後は、イルフィン君の提案の結果、超治癒水の泉を建造中の城の近くに作り、そこから手に入れてもらう予定とした。泉の場所が遠いのは、超治癒水が悪用、乱用されないようにするためだ。
リーヘンさんに大げさに感謝されながら、俺達は冒険者ギルドを去る。
 単なる思いつきでギルドに寄っただけだったけど、思ったより話すことがあったな。

 冒険者ギルドを出た直後、突然前に立ちはだかった冒険者達にからまれた。
「あんた、神の使いのサバクだよな?」
「ああ、そうだけど。皆、ここは俺に任せて」
 ネズット君達が戦闘態勢で前に出ようとしたので、俺は止める。彼らは俺の護衛もかねてくれているけど、なんでもかんでも皆に頼るというのもどうかと思う。なので、この場くらいは俺自身の手で解決しよう。今の俺にはそれができるはずだ。
「聞いたぜ。ドラゴンを操ってバウコン軍を壊滅させたんだろう。つまり、あんた自身にはなんの力もない。違うか?」
 その冒険者の予想は間違っている。俺は、皆よりは弱いだろうけど、それでも93レベルの時に土人形に少なくないダメージを与えた経験がある。きっと俺の攻撃力は百レベル並みだし、防御だってターゲットのおかげで、結構万全だ。
 けど、そんなことわざわざ相手に説明してやる必要はない。
「要するに、腕試しがしたいと?」
 こう言うだけで十分だ。
「わかってるじゃねえか。手下が強いからって威張られてもむかつくんだよ。ここで身の程ってやつを思い知らせてやる」
「お、おい。やっぱまずいんじゃないか。なんかこいつ、の、サバク様は、凄く余裕そうだぞ。ひょっとして、本当に強いんじゃ」
「バカ言ってんじゃねえよ。こんなみてくれと大層なほら話だけの木偶人形、大したことねえに決まってんだよ。どうせドラゴンとやらも、何かインチキをしてるに違いねえ。こいつの大嘘を、俺が暴いてやらあ」
 そう言って冒険者一人だけが、俺に歩み寄る。
「サバクよ、俺と勝負だ。俺が勝ったら、そうだな。みぐるみ全部置いてけ。裸でお家に帰ってもらうぜ」
「俺に勝てたら、な。そっちこそ、負けたら二度と俺の前に立つな。あと、手加減できるかわからない。もしケガをさせたら、それはそっちの落ち度ということで」
 そう言って俺は、腰の剣を抜く。金属性の皆が作ってくれた、ウムオリハルコン製の剣だ。
 ザシュッ。その時、そんな音が聞こえた。
「ん?」
 見ると、軽く振り下ろした剣先の、地面が軽く切り裂かれていた。
「えっと。よっ」
 更に二度三度、軽く下へと振ってみる。すると、剣を振ったのと同じ回数だけ、刀身の先の地面に亀裂が生じた。
 俺も、冒険者達も、そして周囲で見ていた野次馬たちも、黙り込む。
「そ、そんなの嘘だろ、反則だあ!」
 相手となってくれるはずの冒険者が叫んだ。
「確かに」
 俺はうなずいて、剣を鞘に戻す。すると冒険者はあからさまにホッとした。
「武器は無しだ。お互い素手でやろう。倒れた方が負けだ。へ、俺は手加減しねえぞ。いくぜ!」
 そう言って冒険者が俺に迫る。
 俺はそんな彼が放ったスローパンチを軽くかわし、割と強めに無言の腹パンをした。
「げふっ」
 すると冒険者は、あっさり倒れた。
「だ、大丈夫か!」
「ほらみろ、やっぱりサバク様は強かったんだ!」
 仲間の冒険者がやられた冒険者を助け起こそうとする。しかし。
「い、いでえ。骨が折れた。立てねえ」
「そんなダメージくらったのかよお!」
 なんだか、見てると哀れに見えてくる。仕方ない。
「イルフィン君。彼に治癒水をあげてくれ」
「よろしいのですか?」
「これで勝負はついた。もう向こうもなんくせつけてこないだろう」
「イエスマスター。了解しました」
 すぐにイルフィン君が、倒れた冒険者に治癒水を与えた。具体的に言うと、適当に手を向けてその先から水を出し、頭からぶっかけた。
「はい。これで傷は治ったね。消えろ」
「ひ、ひいー、すいませんしたー!」
 冒険者達は、こちらに背を向けて一目散に走り去る。
 そして周囲からは、拍手が起こった。
「流石神の使い様だ」
「神の使い様、強いです、最強です!」
「あはは、どうも。皆、いこう」
「イエスマスター」
 こんなことで拍手なんかされても、恥ずかしいだけだ。
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