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18 雪山その5

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 それから、どんどんバリピスノが現れた。
 少し歩けば、イルフィンが見つけてくれる。頼もしいぞイルフィン。早くも三体目のバリピスノを倒す。これで俺は今、82レベルだ。
 だが、そこから上は、吹雪地帯となっていた。
「吹雪か」
 雪が吹きつけてきて、前が見づらい。それに、ここから先にはドラゴンが現れるという話だ。回避すべきだろう。
「皆、流石にこれ以上上へ行くのはやめよう。万が一ドラゴンと出会ってしまったら、生き残れるかどうかも怪しいからね」
「キュー!」
 ここでイルフィンが、俺に抗議する。
「キュー、キューキュー!」
「なんだって、この先にバリピスノの気配がある?」
「キュー!」
「ワンワン!」
 どうやらウルフ達まで相手の気配がわかるらしい。
 どうしよう、うーん。
「マスター、いかがいたしますか?」
 カナタまで訊いてくる。俺、一応ここから先へ行くのはやめようって言ったんだけど。けどそれじゃあ、皆がそこまで言うなら。いや、やっぱりダメだ。今までのことを思い出せ。
「わかった。皆がそこまで言うなら、戦ってもいい。ただし、俺達は急いでいるけど、それでも安全策はとらないといけない。だから、どうしても戦いに行きたいって言うんなら、俺をおいてお前達だけで戦いに行ってくれ。最悪、俺だけでも逃げ延びないといけない。どうだ、やるか?」
「ガオオオーン!」
「ワン!」
 そうか。やるか。
 前から思ってたけど、俺の仲間達って皆、好戦的でやや向こう見ずだよね。
「わかった。じゃあ、皆。バリピスノを倒しに行ってくれ。行くのは、そうだな。ドラゴン、ジャイアント達。それとイルフィンでどうだ?」
 もう今の実力なら、バリピスノを倒すのにこんなに人数はいらない。少しは俺の護衛に残しても良いと思う。
「シュレアー!」
「マスター。スプラッシュドラゴンは、逃げる専用のメンバーなら、スプラッシュドラゴン、ネツウルフ、そしてこの私の三人だけがそばにいるだけで十分だと言っています」
「なるほど。そういえば確かに、この中ではドラゴンが一番速かったな。わかった。それ以外の皆は、ここから上に行ってバリピスノを倒す。いいか?」
「ガオオオーン!」
「ワオーン!」
「よし、それじゃあ皆、行ってくれ!」
「キュー!」
「よし。イルフィンも頼むぞ」
「いえマスター、イルフィンは、こちらの存在に気づいてバリピスノが近づいてきていると言っています」
「えっ」
 山の頂上の方を向いてみると、確かにその方向から、一体の巨大な影が迫ってくる。
「ジイイイア!」
 バ、バリピスノが向こうから来たー!
「皆、戦闘準備!」
「ガオオオーン!」
「ワオーン!」
 ひょっとして、皆が吠えるから聞きつけてやって来たとか?
 ひとまず、もう倒せることはわかってるんだ。このメンバーで迎撃だ!

 無事に吹雪の中でバリピスノを倒した後、俺と分かれた戦闘部隊は更に上を目指した。
 その間、俺、ネツウルフ、スプラッシュドラゴン、カナタがその場で立ち尽くす。
 み、皆が戻ってくるまで、ヒマだ。
「か、カマクラでも作ろう」
「シュレアー!」
「ワン!」
「イエスマスター!」
 俺達は、力を合わせてカマクラを作った。いや、その間も俺は、変わらずネツウルフにしがみついて見ているだけだったか。
 いや、最初は言い出した責任があると思い、手伝おうとした。けれど、スプラッシュドラゴンが作る勢いが凄くて、手が出せなかった。そこにとびこめるネツウルフとカナタが凄い。
 わずか数分でカマクラは完成。結構大きいから、皆も入れるぞ。
「やったーできたー!」
「シュレアー!」
「ワン!」
「イエスマスター!」
「よーしそれじゃあ皆入ろう!」
「シュレアー!」
「ワン!」
「マスター、スプラッシュドラゴンとネツウルフは外で警戒していると言っています!」
 えー。
 皆、本当に良い子すぎる。いや、確かに警戒は必要だけど。
 結果、ネツウルフがカマクラ内に燃え続ける炎を生み出した後、俺とカナタだけ入る。
 すると、吹き付ける吹雪が完全にやみ、火の温かさが体にしみこむ。やっぱり吹雪の中いるのは大変だな。よくこんな場所にもモンスターがいるものだ。
「しばらくはここにいよう。皆も、すぐ戻ってくるはずだ」
「イエスマスター」
「雪山でのレベル上げ、想像以上に過酷だな。その分順調にいってはいるけど」
「ねえマスター。近くに寄ってもいいですかー?」
「ああ、いいよ。カナタ。どうしたの?」
「えへへ。単純に、マスターとこんなに近づける時なんて、珍しいから。隣に座っちゃお」
 カナタが俺の隣に来る。華奢な体で、薄い服装なのに、俺よりも強くて、雪山を元気に走り回れるなんて。本当、彼女達は強い。
「こういう休憩時間も、マスターとなら幸せですね」
「そう、ありがとう」
「ねえ、マスター。マスターはエッチなことって、しないんですか?」
 唐突な質問である。
「それって、どういうこと?」
「だってマスターって、まだ私達の誰にも手を出してないんでしょ。リキュアにだってそっけないし。だから、そんなに私達に魅力ないのかなーって」
「魅力以前の問題だよ。皆は、俺の大事な仲間。リキュア王女様は、力を貸してくれる大切な存在。どっちにもエッチとか、そんなこと考えられないよ」
「そうですか? 例えば、私が誘ってもですか?」
 カナタがそう言って、期待するような目で俺を見る。
 ゴクリ。
「そ、そういうことは、もっと違う場面でするものだよ」
「そうですか? 雪山で、二人っきり。とっても良い空気だと思うんですけど。じゃあどんな時なら、私、マスターともっと感じあえるんですか?」
 か、感じあえる。
 えーっと、えーっと。
「あー、例えばだ。レベル上げも終わって、バウコン帝国の脅威も去ったら。そうしたら皆をねぎらうために、パーティーでもやろう。皆で楽しく過ごすんだ。どうだ?」
 沈黙。
 カナタが、黙って俺を見ている。
 カナタが、黙って俺を見ている!
 なんだろう。ちょっと緊張するし、ドキドキする!
「マスター」
「う、うん」
「私達のために、ありがとうございます!」
 良かった。
 なんとか、話をそらせた。
「私、その時を楽しみにしていますね!」
「ああ、うん。任せてよ」
「でもマスターも、恋愛のことはもっと考えなきゃダメですよ!」
「えっ」
「だって、マスターのお子様と、私会いたいですから!」
 き、気が早いー!
 いや、気が早いというか、未来への期待が大きい。
 だって、俺にお子様がいたら、必然的に妻もいるってことで。
 そんなの、とてつもなく想像しづらすぎるー!
「カ、カナタは、子供が好きなんだ」
「正しくは、マスターの子供がすっごく楽しみです。皆もそう思ってますよ?」
 しかも皆ときたもんだ。
 思えばクリーチャーの皆が自分から欲しいものをねだるなんてことは、これが初めてかもしれないが、その求められるものが大きすぎる。
 簡単には、叶えられないな。
「ど、努力します」
「イエスマスター。平和のための戦いも良いですけど、恋はいつでも人生の本番なんですから、どっちも真剣にやらないと! 絶対忘れちゃダメですよ?」
 恋は、人生の本番かあ。その認識が大多数の意見なら、俺の人生の本番はまだ訪れてないことになる。
 思えば、リキュア王女様には結婚話をさせてばっかりだったなあ。
 ひょっとしたら、俺はリキュア王女様の思いから逃げていただけなのかもしれない。
 もっと、そのことも真剣に考えよう。

 皆が戻ってきた。今の俺のレベルは、84。
 かなり頑張ってくれたんだな、皆。本当に戦いの後は、パーティーを盛大にやろう。
 カマクラから出ようかと思ったけど、先にイルフィンが中に入ってきて結果報告。
「キュー、キュキュー、キュー!」
「マスター。ここより更に高い位置にも偵察に行きましたが、ドラゴンが近くにいる気配はないそうです!」
「そうか。なら、少しは探索できるか?」
「キューキューキュー!」
「それに、吹雪地帯の方がバリピスノを見つけやすいそうです。やはり探すなら吹雪内一択だと言ってます!」
「ふうむ。心配し過ぎても、逆に時間を使いすぎるだけか。わかった。それじゃあこれからは俺も加わって、吹雪地帯での移動を続ける。ただし、なるべく山頂方面には行かず、横に進む感じで行こう」
「イエスマスター!」
「キュー!」
「あと、心配することは時間だ」
「と言いますと?」
「吹雪地帯だと、暗くなる時間帯が更に分かりにくい。いつまでここにいるべきかわかりづらいだろ。ここまで来るのにも結構時間がかかったはずだし、帰る時間は必ず確保しておきたいんだ。あー、なんなら、今からちょっと探索してから、すぐ帰るという選択肢もある」
「キュー」
 イルフィンは、確かに。とうなずいている。
「ああ、それなら良い案があります!」
 そこでカナタは良い笑顔で妙案をくれた。
「マスター。私の腹時計は結構正確です。今頃は午後一時あたりでしょうか。帰るのに2時間程度見積もっても、まだ時間はあります!」
「おお、なるほど。ありがとう、カナタ」
「えへへ、お役に立てれば何よりです!」
「でも、確かにお腹が空いたな。なら、今の内に何か食べておこうか」
「イエスマスター!」
「キュー!」
 こうして俺達は、木属性のクリーチャー達に果物を出してもらい、軽くお昼ごはんを食べた。
 さあ、小休憩も終わったし、ここからは吹雪地帯で本格レベル上げだ。

 それから更に、バリピスノを十体くらい倒す。
 今の俺のレベルは、85。
 このレベルになると、ドラゴンが一人で簡単にバリピスノを倒せるようになった。けど、ちょっとレベルが上がりづらくなってきたな。バリピスノのレベルがこれくらいなんだろうか?
 その後、定期的にカナタと現在の時間を予想し合いながら、更にレベル上げを続ける。
 そして俺のレベルが86になった頃。俺達は屋敷に帰ることにした。
 吹雪地帯は進むのも大変だ。それなのに難なく移動できている皆は本当に凄いと思う。
 けど、吹雪地帯から屋敷までは遠すぎる。
 時間を削減させるためにも、明日は屋敷に帰らずレベル上げを続けようかな。
 今日は流石に、リキュア王女様達と話し合うためにも帰るけど。その時に、皆と相談しよう。
 屋敷へ帰ると言った時、皆は一部レベル上げ組を残しますか? と訊いて来た。俺は、こんな所に誰かを残すのなんて気が引けるのだが、一応質問で返す。
「皆それで良いのか?」
皆はうなずいた。なので俺は、その皆の判断を信じて、再び戦力を二分する。
帰る組は、俺、ネツウルフ、ウッドルフ、カナタ、スプラッシュドラゴン、ヒロードラゴン。
その他全員、レベル上げ組。
こちらのメンバーに、昼の時の顔ぶれに加え、ヒロードラゴンとウッドルフが追加されたのは、俺の帰りを確実にするためと、ウッドルフに屋敷で着替え等の衣類を提供してもらうため。
こちらもこれだけの戦力があれば、バリピスノが三体同時に現れてもあっさり倒すだろう。夜でもレベル上げ組も、ひょっとしたらもうドラゴンに対抗できる程強いのではないか。そんなくらいの戦力になっている。と良いな。
とにかく、今日の俺の役目は終了だ。
 こうして俺は、今日もかなりレベルを上げてから、屋敷に帰った。
 帰りの移動は、下り坂な分ちょっと速かった。

 辺りはほぼ暗闇に覆われたが、ウルフ達のおかげもあって無事屋敷に到着。
 今日も屋敷組全員で、外で出迎えてくれた。そしてジュレイドラゴンの姿もなかった。彼もウサット族の里から帰れないか。何事もなければいいけど。
「皆ただいま。早く中に入ろう。外にいても寒いだけだよ」
 帰ったら丁度、出来立てのごはんがあった。帰還組は俺含めて6人だったけど、全員の分がギリギリあった。今回もキリが作ってくれたらしい。とても助かる。
夜ごはんは野菜のスパイシースープと、焼き芋。温かいごはんは、正直ありがたかった。
 皆で美味しく食べながら結果報告。現在のレベルと、明日からは泊まり覚悟で吹雪地帯でレベル上げをしようという意思を話す。
「というわけで、明日からは俺、帰らずに吹雪地帯にいようと思うんだ」
「イエスマスター。了解しました」
「そうですか。しかしそれは、少し危険なのではないですか?」
 案の定、リキュア王女様は俺を心配してくれた。
「サバク様にはそれが可能だとわかっていますが、それでも不安です。もしサバク様の身に何かあったらと思うと、とても心配です」
「ありがとう、リキュア王女様。でも、それでも強引なレベル上げはやる価値があると思うんだ。ここから吹雪地帯まで大分遠いから、運が良ければ倍近いペースでバリピスノを倒せると思う。正直、ここが勝負所だと思う」
「サバク様。わかりました。私も賛成いたします。どうか、頑張ってください」
「ありがとう、リキュア王女様。あと、この戦いが終わったら、皆でパーティーをやろうかと思ってるんだ。皆はやりたいこと、ある?」
「イエスマスター。私はマスターに愛してもらいたいです。それはもうベッタベタに!」
 スイホは相変わらずだった。
「わかった。じゃあ、それは今でいい?」
「え?」
「イエスマスター!」
 リキュア王女様が戸惑っているが、俺は構わず動く。こういうのはタイミングが大事だと思う。今を逃したらいけないと思うんだ。
 というわけで俺は、スイホの頭をやさしく、かつベッタベタになでてやった。
「スイホ、いつもありがとう」
「えへへー。マスター、私幸せですわ」
 スイホは俺にだきついて、甘えてくる。スイホ達のことを家族だと思えば、和やかな光景だ。
いや、スイホ達は家族だ。かけがえのない存在だ。いつも役に立ってくれて、俺はといえば特に何もできず、なんでもかんでもしてもらってばっかりだけど、そんなこと以前に、いつの間にか自然とそばにいるのが当然になっていた。彼女達といる生活こそが俺の今の日常なんだ。
 スイホ達はただの特殊能力ではない。心があり、自由がある。俺はそれを大事にしたい。
「チュー!」
「カメー!」
 スイホをなでていると、ネズットとカメトルも近づいてきた。ふっ、こいつらめ。
「ネズット、カメトル。今は私の至福の時間ですわ。邪魔は許しません!」
「いや、今はごはん中だから。それに恥ずかしいし、なでるのはこれくらいね」
「ああん、マスター。では食事の後、もっと愛してくださいー!」
「いや、今日はここまで。今はそんなにサービスできない」
「どうしてですか!」
「まだ外にいる皆のことが心配だから。ところでキンカやジュレイドラゴン達は、今日も帰ってこれなかったんだ」
 ウサット族の里へ行った皆のことも、心配だ。ふと気になった時に召喚状況を確認するけど、一応は全員生存中。本当に大丈夫だよね?
「ええ。皆まだ帰ってきません」
 キリがうなずく。
「歓迎されてたらいいんだけど、でもそういう雰囲気はなかったよね。やっぱり乗り込むってのも違う気がするし」
「ウサット族への対応ですが、現在上手い手は見つかっておりません。見捨てるようで悪いですが、今はレベル上げが上手くいっている以上、現状維持が最良かと思います」
 リキュア王女様も、れいせいな判断をしてくれる。
「本当なら、私が身代わりになれれば良いのですが」
「いや、それはありえない」
「その通りですわ」
「マスターの言う通りです」
 俺の言葉に、スイホとキリも賛成する。
「み、皆さま、ありがとうございます」
「マスターが私達を愛娘のように大切にしている以上、現状最もマスターの欲望のはけ口となれるのはあなただけですわ。一応いてもらっても頼れる可能性はあります」
「スイホ、変なこと言わないでくれる?」
「リキュアに何かあっては、アッファルト王国に恩を売りづらくなります。マスターの今後を良くするためにも、ここで王女を捨て駒にする手などありません。大事な身柄ですので、リキュアももっとマスターのためになるような思考と行動をしてください」
「キリ。言い方に心がこもってないよ」
「わ、わかりました。私の覚悟が足りていませんでした。私はサバク様に役に立てる日がくると信じて、じっとしています」
「リキュア王女様、変なわかり方しないで!」
「チュー!」
「カメー!」
「ああはいはい、お前達もなでればいいんだろ!」
 なでなで。
 ネズットとカメトルはうれしそうだ。
「ガオーア!」
「シュレアー!」
「ワンワン!」
「マスター、良かったら私もー!」
 ドラゴンやウルフ達、カナタまでも寄って来る。
「ああはいはい。順番だぞ」
「マスター、よろしければ私もなでてください」
 そこにキリも加わった。
「さ、差し支えなければ私もお願いします!」
 え、リキュア王女様まで加わるの?
「と、とにかく、皆なでてやる。うおー!」
 俺は、一生懸命皆をなでた。
 幸い、皆満足げだった。ふう、これくらいで喜んでもらえるなら、良いんだけど。
 いや、やっぱり気を抜くのは戦いが終わってからだな。

 風呂に入る前に、ウッドルフにタオルや下着、寝間着まで用意してもらう。
 お願いしたら、ウッドルフはあっという間に頼んだ全ての物を生み出した。本当に感謝する。
「皆は着替え、大丈夫?」
「イエスマスター。私達はいつも通り、常に清潔です」
 スイホ達はいつも通り汚れ知らず。トイレにもいかない。不思議だ。
「あの、では。私もウッドルフさんに着替えをお願いできますか?」
 リキュア王女様がそう言うと、ウッドルフはうなずいた。
「ワン!」
「リキュア。ウッドルフはリキュアのスリーサイズが知りたいから、裸になってよーく見させてって言ってるよ」
 カナタが通訳してくれる。
「俺の時はそんなことしなかったけど」
「マスターのことは、私達は全部知ってるから」
「え、そうなの!」
「で、では私はこの場で、サ、サバク様の前で、裸にならないといけないのですか?」
「ワン!」
「そうだよ。早く脱げって。ウッドルフが言ってる」
「違うよ、全然よくない。ウッドルフ、そういうことは小部屋で、誰にも見られずにやるんだ!」
 そんなこんなあって、皆の入浴後。
 ふと、ウッドルフパジャマ着ぐるみを着たリキュア王女様を見て、俺は一瞬思考が停止した。
「あ、サバク様。どうですか、この寝間着。似合ってますか、わん?」
「うん。似合ってる似合ってる。でも、俺のは普通のパジャマだったよな。あれ、なんでこんな差が?」
「きっとウッドルフさんが私にサービスしてくれましたわん」
「そっか。リキュア王女様」
「わん?」
「おやすみ」
「は、はい。おやすみなさい。サバク様。わん!」
 そう言ってリキュア王女様は、顔を赤くして立ち去った。
 わざわざ語尾をわんにしなくて、良かったのに。

 12 雪山三日目

 翌日。
 朝の支度を終えて、外に出る。まずは、ネツウルフ、ウッドルフ、スプラッシュドラゴン、ヒロードラゴン、カナタと共に吹雪地帯へ移動。その後レベル上げ組と合流して、更にレベルアップを図る。そして十分なレベルになるまで、ずーっと吹雪地帯に残留だ。
 目標は92レベル。それくらいあれば、バウコン帝国軍の戦神の加護にも対抗できるだろう。現在俺のレベルは87。あと少しだが、バリピスノ相手ではゴールは遠いはずだ。気長にいこう。
 さて、それではネツウルフに乗っていざ出発。と思っていたが、どうもまたこの屋敷に客が来たようだった。ただ、相手は一人。それが少し気になる。
「お前達が、私達の仲間を倒した当人だな?」
 兎耳をゆらして、若い美女が少し離れたところに立っている。腰には長刀。更に真っ黒な鎧と靴で装備を整えている。まだ若いはずだが、身にまとう雰囲気といい、キリリとした面持ちといい、歴戦の戦士といった風体だ。
「俺は、君の仲間を倒したつもりはない。先日襲われはしたが、ちゃんとケガ一つなく帰したはずだ」
「彼らを拘束し、無力化したという時点で、お前達は彼らに勝利している。私はウサット族の戦士、ジャナカ。その実力、試させてもらう」
 美女、ジャナカが長刀を抜いた。それで皆が臨戦態勢に移る。
「待って。その前に君達の元に行った、俺の仲間達は」
「問答無用!」
 ジャナカがそう言ってこちらに接近した。まるでプロ野球選手の剛速球みたいな速さだ。
 その動きに即反応し、ドラゴン達、ウッドルフ、カナタが前に出る。ネツウルフだけ俺をどついて背中に乗せて、屋敷と美女から離れるように動いた。
「皆、絶対攻撃したらダメだから!」
「ウサット流剣技、ホワイトブレス!」
 ジャナカは走りながら長刀を振り回し、皆のすぐ脇をすり抜けた。
 ドラゴン達とカナタは大したケガをしなかったが、ウッドルフが目に見えてやられる。同時に皆が放っていた魔法は、全て長刀によって切り裂かれていた。
やばい。あの人、俺達より強いかも!
「ガオーア!」
「シュレアー!」
 ヒロードラゴンとスプラッシュドラゴンが左右から、ジャナカを挟み撃ちにする。
「ウサット流剣技、ホワイトネイル!」
 しかしジャナカはまたもや強力な剣技をくりだし、こちらの攻撃をしのぎつつ移動。そのまま流れるような動きでウッドルフへと接近した。
 ひょっとしてウッドルフが一番弱いと思って、狙い撃ちしようとしている?
「ここは通さない!」
 ジャナカの前にカナタが立ちふさがり、持っている刀を構えた。ウッドルフはその後ろで飛び退りながら、数本のツルを伸ばして拘束を狙う。
 カナタはツル攻撃と動きを合わせ、一緒に攻撃した。
「ウサット流剣技、ホワイトハウル」
「あなたの技、盗ませていただきます。見よう見まね、ホワイトブレス!」
「何!」
 ジャナカは華麗にツル攻撃とカナタの剣を弾いたけど、その後もカナタは移動しながら刀を振り回し、連続攻撃を叩きこんだ。
 ジャナカはカナタの刀をギリギリのところで受け止めながら、後ずさる。ていうかカナタ、傷つけちゃダメって言ったよね。本気でやってるように見えるんだけど!
 その時、ジャナカはクルリと一回転して、皆の姿を確認した後、最後に俺を見て瞳をキラリと輝かせた。
 ゾクッ。
 背筋に悪寒が走る。か、彼女、何かやる気だ!
「ジュレイドラゴン、召喚!」
「雪隠れ!」
 俺が叫ぶのと、ジャナカが足元を強く踏んで雪の柱を吹きあがらせるのは同時だった。
 その雪柱をカナタが切り裂き、ヒロードラゴンが前足で踏みつぶす。ああ、だから、攻撃はやめてって言ってるのに!
「いない。ネツウルフ、気をつけて!」
「ワン!」
 次の瞬間、目の前に現れたカードが人サイズのジュレイドラゴンになり、ネツウルフが真横に跳びはね、同時に俺の真後ろで勢いよく雪柱が上がった。
 ジャナカが突然、俺の真後ろに現れたのだ。ジャナカはなんらかの力を使って足元の雪の中に潜り、雪中を移動して俺の真後ろに飛び出たのだ!
 ネツウルフが空中で姿勢を変えながらジャナカを見ようとして、そのおかげで俺もなんとかジャナカの姿を再度捉える。けれどその時には既に、ジャナカは空中で長刀を構えていた。
「ウサット流剣技、ホワイトフェザー」
 次の瞬間、ジャナカの長刀から刃型のビームがとび、俺の喉めがけて一直線に飛来した。
「マスター!」
 それに対して、俺は。なんとか、お飾りの剣を持って防御しようとする!
「ワオン!」
 更にネツウルフが火球を生み出し、相手のビームと相殺しようとした。
 ビームは火球を貫通してきたが、その分勢いが弱まったのか、俺の剣、ハンドレッドジェムで防御することに成功!
「これでも、ダメか」
 ジャナカがそう呟いた瞬間、間近にいたジュレイドラゴンのとばしたツルによって、四肢を無理矢理曲げさせ、拘束される。
 ジャナカは膝立ちの状態で、強引に着地した。長刀を手放さないのも、流石だ。
 けど、ここまでだ。
「乱暴なまねはしません。あなたもウサット族への里へおかえしします」
 ジャナカは強かったが、なんとかなったからまあ、よし。
 それより、今ここに彼女以外に強敵がいないことが、何よりの幸運だ。
「けど、マスター。その女はマスターを明確に攻撃しましたよ。私、とても許せません!」
 カナタが怒ってくれているし、他のクリーチャー達もきびしい顔をしている。けど、俺はジャナカを怒れない。きっと、仲間のためにここまで一人で来たんだろう。そう思うと、悪いようにはできない。
「カナタ。皆も、怒ってくれるのはうれしい。けど、俺達は絶対ウサット族と戦ってはいけない。ウサット族は、俺達に対して怒っているんだろう。なら俺は、その怒りに謝意と誠意をもって接したい。彼らの過去を聞いてしまった、一人のアッファルト王国から来た者として」
「マスター」
「なるほど。お前がいたから、皆無事に帰ってこれたのか。これが、新たな雪山への訪問者なのだな」
 ジャナカはそう一人呟くと、改めて俺を見た。
 今度は敵意のない、まっすぐなまなざしで。
「そちらの実力、十分に確かめさせてもらった。その人となりもな。いいだろう。お前達が先日私の仲間に伝えたように、本当にただレベルを上げた後、すぐに山から立ち去るのなら、このジャナカ、お前達に協力してやってもいい。微力ながら、力になろう」
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