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10 王国その2

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 早速俺達は、ビナに連れられてお風呂場に案内される。俺の剣は、部屋に置いてきた。
 そして風呂場に来て、皆で男湯に入ったところで、俺が言った。
「あの、皆。こっちに来ちゃ、ダメだよね。ここは男湯だよ?」
「何を言っておるマスター。常にマスターとご一緒せねば護衛の意味がないであろう」
「それ以前の問題だよキンカ。男は男湯、女は女湯。それが当然だって。第一俺が裸の皆と一緒にいられるわけないじゃないか!」
「それでは打開策をとりましょう」
 キリがそう発言した数分後。皆は急遽用意された水着を着た。
「これなら大丈夫」
「さあ、マスター。一緒にお風呂に入りましょう!」
 ドキとスイホにそう誘われる。
 これはこれで眼福だけど。ていうか、俺の分の水着がないんだけど?
 あと、どうしてビナも自分の水着を用意しているの?
「あのー、ビナー、申し訳ないんだけど、俺の分の水着がないよー。そしてビナもお風呂に入るの?」
「はい。私はサバク様のお体を洗わせていただきます。それと、サバク様はすっぽんぽんでオーケーです。脱いでも何も恥ずかしいものはなく、逆に誇るべきものしかありませんよ。ですのでノープロブレムです」
 いや、人間脱いだら恥ずかしいものしかないと思う。正直なところ。
「待てビナ。マスターのお体は私が洗ってさしあげる。よってお前のお供は不要だ」
 ヒイコがそう言った。俺はまたもや慌てる。
「待って二人共。いろいろ待って。とにかく、俺は自分で体を洗うよ。だから皆も自分の体だけを洗う事。当然ビナも変なサービスしなくていいから!」
「そうですか。残念です」
 キリがそう言った。皆が本当に残念そうにしているのが、間違っていると思う。というかビナまで残念そうにしないでくれ。
「まあ、マスターがそう言うのならば仕方ない。ではマスター。そろそろ遠慮なく脱いでよいぞ。皆もう湯あみの準備は済んだ。後はマスターを待つだけだ」
 キンカに言われる。そして皆の視線が俺に注がれる。
「遠慮するわー!」
 ビナに二度も水着を取りに行かせるのもなんだったので、俺は腰にタオルを巻いて風呂に入ることにした。

 まずヒイコが風呂に入った。次の瞬間、ヒイコが上を向く。
「何やらネズミの気配がするな。そこだ!」
 そう言って移動しながら天井へ向けて火球を放つ。するとその後すぐに何かが落ちる音が聞こえた。
 すぐさまキリも風呂場に入り、今度は手から植物のツルをいくつも生み出して伸ばす。
「どうやら待ち伏せのようですね」
 え、待ち伏せ?
「ちょっと、あの、ヒイコ、キリ。危険じゃない?」
「大丈夫だマスター。間者はこの一人だけ。大した事ではない」
 ヒイコがそう言う。いや、大した事だよそれは。
「本当に誰かいたの?」
 気になって風呂場に入ってみると、風呂場の隅に一人、プロポーションがめっちゃよくわかる暗い色の服を着た、女性が転がっていた。端的に言うと、巨乳だった。しかもツルが体中に絡みついていてエロい。あと横に剣が転がっている。
「剣を持っていたということは、確かに待ち伏せのようだな。まさかとは思うが、暗殺者か」
「くっ、かくなるうえは。ぎりっ、ゴホッ」
 女性はそう言うと、体をビクビクとけいれんさせ始めた。相手の口元は布で隠れていて見えないけど、なんだなんだ、何が起こり始めたんだ?
「マスター、どうやらこのネズミは口内に仕込んだ毒を使って自害しようとしているようですわ。ですがご安心ください。私の治癒水、いえ、聖水で毒など解毒してみせます。マスターの命を狙った者を簡単に死なせるわけにはいきませんわ」
 スイホはそう言うと、手からきれいな水をドバーッと出して、女性の顔にかけ始めた。ま、まずいまずいその聖水の使い方。鼻の穴にでも入ったらとっても辛いよ。というか、やっぱり俺が命を狙われてたの?
「マスター。どうやら風呂の湯に痺れ薬が混ぜられているようだ。これを使って痺れたところを暗殺しようとしていたようだな」
 キンカが湯舟に手をつけながら言う。し、痺れ薬って。お風呂に入っていたら危なかったということか。
「まさか、ビナも共犯?」
 ドキが不穏なことを言う。
「ち、違います。私はただのメイドです。痺れ毒も何も知りません。信じてください。とにかく今、兵士の方をお呼びします!」
 ビナはそう言うと、ポケットに入れていた銀板を手にして、それに喋りかけ始めた。
「緊急事態発生、繰り返す、緊急事態発生。不審な人物が城内に侵入していた模様。場所は特別浴場男湯。至急兵を派遣せよ」
 ビナの持っているそれは通信機器か。なんだか大変なことになってしまった。
 幸いというべきか、タオル一枚だけでも身につけていて良かった。あと、皆も裸じゃなくて良かった。

 その後、風呂場にいた女性は、やって来た兵士達とキリにつれられて、取調室へと向かっていった。
 どうやら、キリが女性を尋問する気らしい。兵士達に渡したら後がどうなるか分からないとのことで、ついていく模様。俺はそんなことしなくていいって、キリを止めたんだけど、無駄だった。むしろ皆から、これは必要なことだと説得された。
 というわけで、これにてイレギュラーはいなくなり、風呂に入るという予定を消化するため、まずは体をシャワー石鹸等で洗う。お湯の方は今の内に、スイホが聖水を入れて痺れ薬の力を消してくれた。
 予定通り入浴を終え、ホカホカしながら脱衣所に戻る。
 そしたら、俺が着ていた服が消えていた。
 そのかわりに、なんかゴゥジャッスな服が一着用意されている。
 これはどういうこと?
「ビナ、俺の服は?」
「はい。もちろんこれでございます。こちらがサバク様のために用意された服でございます。他の皆さまのドレスもご用意いたしました。皆さまに似合えばよいのですが。早速、私がサバク様に着させてさしあげます」
「いや、いい。身の回りのことは、俺自分でやるから。そうか、やっぱりこれを着るのか。なんだか、気おくれするな」
「待つのだ、マスター。この服からは不穏な気配を感じる。不用意に触ってはいかん」
 ここでキンカが前に出た。
「わかるのかキンカ?」
「この服からなんらかの薬品の臭い、それと魔法銀、ショルク金の反応を感じる。魔法銀とショルク金は、特別な魔法に使う道具だ」
「魔法銀にショルク金ですって?」
 ビナがキンカの言葉に反応した。
「知っているのかビナ?」
「はいサバク様。魔法銀とショルク金の粉を使った魔法陣は、遠隔発動型の魔法陣として説明を受けています。千里以上離れたところからでも呪文を唱えるだけで起動する、厄介な代物だという話。城内で見つけた時は必ず魔導士の方に報せるようにと言いつけられています」
「それでビナは魔法銀とショルク金のことを知っていたのか」
「もし危険な魔法陣がその服に仕込まれているとしたら、大事件です。ここは私が調べさせてください」
 ビナがそう言って服を確認すると、服の裏側、背中のあたりが妙にキラキラ光っていることに気づいた。しかもそのキラキラは、よく見ると魔法陣的なものを描いている。
「これは、魔法銀とショルク金の輝きです。そんな、こんなところにこんなものが」
 その後、ビナは魔導士を呼んで証拠となった服を持って行った。
 そして、魔法陣の犯人捜しは城の人達がすることになり、俺は新たに持ってこられた別の服を着て、脱衣所から出ることになった。
 ちなみに魔法陣が仕込まれていた服は、俺が着る予定の一着だけだった。
 やっぱり俺、本格的に何者かに狙われているのか。
 というか、息つく間もなく危険がとびこんでくるぞ。どうなってるんだ今日は。

「サバク様。現在サバク様が着られている服は、間に合わせで用意された普通の服です。ですのでこれよりサバク様には、洋服部屋に行ってもらい、そこでお好きな服に着替えてもらいます。よろしいでしょうか?」
「ああ、わかったよ。ビナ」
 俺は別に今着ているものでも良いと思うのだが、ここでの礼儀作法は相手の方がよくわかっている。素直に従っておこう。
「サバク様。洋服部屋はこちらになります」
 そう言ってビナに案内された部屋で、俺は千着以上の豪華な服を目の当たりにした。
 左右どちらを見ても服服服。すごい、こんなにあるのか。どれを選べばいいんだろう?
「どれも豪華すぎて、俺に似合いそうにないな」
「マスター、これなどいかがでしょう?」
 スイホがそう言って、俺に水色の服を見せた。
「いや、違うのがいいかな」
「マスター。これ、どう?」
 ドキがそう言って、俺に茶色い服を見せた。
「うーん、それもなんか、目立ちすぎるかもなあ」
「ではマスター、これならどうだ?」
 キンカがそう言って、俺に金色の服を見せた。
「それはちょっと、ダンディーすぎるかな」
「マスター。これはマスターに似合うと思うぞ」
 ヒイコがそう言って、俺に赤い服を見せた。
「それはちょっと派手すぎるかなあ。ていうか皆、それぞれ自分のカラーを俺にすすめてきたね」
「イエスマスター」
 皆にうなずかれてしまう。きっとキリもこの場にいたら、俺に緑色の服をすすめていたんだろうな。
「ありがたいけど、俺にはやっぱり、地味目の服がマッチすると思うんだよなあ」
「ではサバク様、こちらのお洋服はいかがでしょう?」
 ビナがそう言って、俺に白い生地で金色の刺繍がされた王子様服を見せた。
 あのさあ。今俺、地味目な服が良いって言ったばかりじゃん?
「それはしきいが高すぎる」
「それです、マスター。これに決めましょう」
 しかし皆に賛成された。
「えー!」
「マスター、あれこそマスターに相応しい服ですわ!」
「あの服で、決まり」
「まあまあだな。これならまあ文句もない」
「うむ。マスターに似合いそうだ」
 スイホ、ドキ、キンカ、ヒイコにそう言われる。
「ま、まさか、あのビナの服で決まり?」
「イエスマスター」
 決まってしまった。
 う、うん。まあ、悩んでいるよりはマシか。皆もオッケーって言ってくれてるし、ここは腹を決めてあの服を着よう。
 俺、服に着られないかなあ。いや、絶対服に着られるな。でも、これでなら王様に会いに行っても良いか。
「わかったよ、皆。俺は、あの王子様服を着よう!」
「では、試着室でお着替えの方をお願いします。試着室はこちらです」
 ビナがそう言って、服を持って洋服部屋の奥へ行く。
 そして一つだけある広い試着室を見つけると、ここで美少女達が俺達の前で立ち止まった。
「どうしたの、皆?」
「マスター。少し待ってください。今、他に気になる服を見つけましたわ」
 スイホがそう言っている間に、ドキだけ一人で試着室へと近づく。な、なんだ、一体?
 試着室は薄いカーテンで区切られた四角い一角だ。ドキはそのカーテンを素早く、かつ勢いよく開けた。
「!」
 すると試着室の中から人の腕が伸びて、その手が持っているナイフがドキの首に迫った。
 だがドキは首元に土を生み出し、ナイフ攻撃を完全防御。更に受け止めた後しっかりと両手で相手の腕を捕まえ、力任せに引き倒した。
 俺はあまりの展開に頭がついてこれず、ただ黙ってことのなりゆきを見守っている。
「拘束」
 ドキはそう言って、土の拘束で相手を捕まえる。だがその相手はあろうことか、風呂場で襲ってきた女性と全く同じ格好で、そして同じく巨乳だった。
「ぐ、シュテルレ」
「更に拘束」
 ドキが更に土を生み出して、土の塊を相手の見えない口に突っ込む。相手の口元は黒い布で覆われていたが、それに構わず強引に土がインした。
「むぐっ」
「きゃ、きゃー!」
 そこでやっと、ビナが悲鳴をあげた。

 数分後。
 手足口を土の拘束具で封じられた暗殺者二人目は、駆け付けた兵士達と、更にドキと共に、取調室へ向かった。
 これで二回目か。とっても驚いた。けど、狙われてるのは俺だよな。なんでなんだ?
「とにかく、ありがとう皆。危ない所だったよ」
「イエスマスター。ですがもう、ご安心ください。私達がついていますので」
「でも、なんで皆暗殺者に気づいたの?」
「それは、試着室が閉まっていたからですわ」
 え?
「本来、未使用時の試着室はカーテンが開いている。閉まっていたのは不自然だ」
 あ、ああ。
「皆、よく気づいたね」
「ええ、しかしこうも立て続けにマスターが狙われるとは。ますますこの城が怪しくなってきたな」
 ヒイコがそう言ってビナを見る。
「も、申し訳ありません。普段はこういった事態は無いのですが。こちらの対応に不手際が目立ち、恐縮する思いです」
「それにしては、警備がザルすぎるのではないか。これではスネークだって容易に侵入できるぞ」
「真に申し訳ございません!」
「まあまあヒイコ。ビナいじめはやめよう。俺としても、ケガとかはなかったんだから、なんとも思ってないよ」
「ですが、マスター。こうなった今、この国の王すら怪しいのではないですか?」
 スイホにそう言われる。
「え?」
「この城全体が、トラップ。私達の方が、袋の中のネズミ」
 ドキにもそう言われる。
「ま、まさかそんなことは」
 そう言いつつ、俺は王様が俺と会って何を話すのか考える。
「ワシの大切な娘を奴隷にしおって、絶対に許さんぞ。くびり殺してくれるわー!」
 ありそうだ。普通にありそうだ。どうしよう。
「と、とにかく、王様に会うまでは、大人しくしていよう。皆、いいね?」
「イエスマスター」
 とにかく俺は、王子様服に着替えて、洋服部屋を去った。
 王様が怪しい、か。確かに、俺は王様とは会ったことがない。王様だって俺のことを怪しんでいるだろう。場合によっては、すぐにここから立ち去らないとな。
 そうなったら、また荒野に戻ろう。まあ、当初の目的は人助け。バウコン帝国軍から守ってあげることだったんだ。それが達成されたんだから、俺としても悔いはないはずだ。
 でも、命を狙われるってショックだな。やっぱり人のいる場所に来るのは、少し早かったかもしれない。

 その後、俺達は例のロイヤルスイートルームに戻り、その後更なる豪華なおもてなしを受けた。
 芸術品みたいなケーキが届けられ、用意された紅茶は、ティーポットだけでなく替えのお湯と、何種類も用意された紅茶葉が目の前にズラリと並べられている。
 更に音楽隊のフルート担当という人がやって来て、この部屋でBGMを奏で始めた。
 極めつけにこの国一の学者だというおじさんがやって来て、このアッファルト王国の歴史を語ろうかと提案されるときたもんだ。
 ビナ曰く、これら全ては俺達に暗殺者を排除させてしまったお詫びとのことだ。
 しぶしぶ学者さんのありがたい話を聞くことにした俺達は、更に優雅なBGMも聞きながら、物思いにふけった。
「もぐもぐ。マスター、このケーキに毒は入っていませんわ!」
「紅茶も、なかなか美味いぞマスター」
「あ、ありがとう。スイホ、キンカ。でも、俺、皆が口をつけてないやつを食べたいなあ。どうして皆一口食べてからくれようとするの?」
「それは単純なことだ。これは毒見だ」
「ヒイコ、そんな必要はない。俺は気にしないから」
「マスターが気にしなくとも私達が気にするのです」
「第三の襲撃も必ずある。今から警戒しておかねば」
「ふむ。だんだん、あのフルートも気になってきたな」
「皆、何もしちゃダメ。もっと行儀よくしてて!」
「と、こうしてファルト、エライノは西海から荒野を渡り、この地で国を興し、ファルト、オーデ、エライノを名乗ったのです」
 皆が大人しくしないので、俺としても落ち着けず、申し訳ないが学者さんの話は右から左へ聞き流してしまっている。
 しかし、この歓迎されようは、やっぱり裏に何かある?
 いや、もし王様が怪しいのなら、この歓迎に混じってもう一回くらい暗殺者が来ても良さそうなものだ。だが、その兆しは一向に訪れない。
 本当に俺達へのお詫びの印?
 だとしても、なんかこう、方法が違う気がする。たぶん、こういう時は俺達の警護を固めてくれるというのが一番正しい感じがする。
 でも、護衛がついたっていう感じはしないんだよなあ。
「サバク様。王様がお会いになられる準備を終えたそうです。これよりここから移動願います」
「あ、はい」
 とうとう来たか。この時が。
 とにもかくにも、この話し合いで俺の今後が決まる。
 俺がすぐこのファルトアから出て行くか、それともとどまるか。
 とどまるとしても、最低でも暗殺者を差し向けた黒幕はなんとかしたい。
 どうなるにしても、気を抜く展開にはならなそうだな。

 謁見の間に来た。
 そこはとても広かった。左右には兵士や大臣っぽい人達が並んで立っていて、ちょっと威圧感がある。
 奥の方に王様、それと王妃様と思われる人が座っていて、その手前に、急遽用意されたように六つのイスが用意されてあった。あのイス、俺達に座れってことかな?
「サバク様、並びにお連れの皆さま。どうぞ席にお座りください」
 逡巡していると、大臣っぽい人にそう言われた。慌てて座る。だが皆は俺の横で立っている。
「ど、どうしたの、皆?」
 俺が小声でそう呼びかけると、まず最初にヒイコが発言した。
「この城に入ってから、マスターは二度暗殺者に狙われた。もしやこの件に、そちらが関わっているのではないだろうな?」
 こっちの連れは既に喧嘩腰だったあああああ。
「素直にはきなさい。嘘や隠し事をする気でしたら、即座にその身を、マスターの敵の末路に相応しい惨殺死体に変えてさしあげますわよ」
 スイホも喧嘩腰だったあああああ。
「例え身に覚えがないとしても、今回の件はそちらの落ち度だ。何もおとがめなしというわけにはいかぬぞ」
 キンカが言う。王様にそんなこと言えるのはこの娘達だけだよ。本当。
「皆、お願いだから黙ってて。王様。俺は札瓜沙漠。こちらの三人は俺の仲間です。今回はこうして王様と会うことができ、真に光栄です」
「暗殺者が現れた件は、確かにこちらの落ち度だ。真に申し訳ない。神の使いであるサバク殿とその仲間の方々には、深く謝罪する」
 王様は仰々しく、俺に頭を下げた。すると左右の大臣達がざわざわしだす。
「王様、いけません。そのような対応をされては困ります」
「いくら相手が神の使いとはいえ、この国の王はあなた様なのですぞ。ぜひ相応しい態度をとられなくては」
「ええい、何が相応しい態度か。あの方々はこの国を救ってくださった救世主なのだぞ。我らはサバク殿のおかげで生き延びられているのだ。そのことをわきまえよ!」
 王様が一括すると、左右の大臣方が黙った。
 これは、王様は、味方?
「すまない、サバク殿。お恥ずかしいところをお見せした。サバク殿に刺客を送った犯人は、現在全力で捜索中である。我が国の総力をもってなんとしても捕らえるので、どうかそちらの怒りを静めてほしい」
「それで済むと思っておるのか?」
 キンカ、そこはイエスでしょ。そういう反応じゃないでしょ。
「まだ現状の危険度は変わっていない。これではここに長居するわけにはいかないな。荒野の方がまだ安全というものだ」
 ヒイコまでそんなことを言う。流石にそれは言い過ぎだよ。
「むろん、ワシ達はサバク殿に今回の功績に対して払う褒美の用意がある。まずサバク殿には、本日をもって伯爵の地位を与えることにした。どうか受け取ってほしい」
 は、伯爵?
 それって、超偉いのでは?
「ダメですわ。トップの座以外いりません」
 そしてスイホ。やはりそれは言い過ぎだよ。
「ちょっと待った。伯爵って、きっと凄い高い地位だよ。そんな地位をいらないって言うのは違うと思うんだ。まあ、俺には分不相応だとは思うけど」
「マスター。トップの地位ではないということは、マスターより偉い者がいるということですわ。それは許されません。断固反対ですわ」
 か、考えが超自分本位だ。
「いや、スイホ。俺より偉い人がいるのは当たり前だって」
「むろん、サバク殿が望むのなら、いずれこの王の座もお譲りしよう」
 へ?
 王様、何をおっしゃられてるの?
「ところでサバク殿。サバク殿はワシの娘、リキュアを自分のものにしたいということであったな」
「あ、はい。いえ、いいえ」
 俺、少し混乱する。
「あの、俺は別に王女様、リキュア様のことはなんとも思ってません。あいえ、十分魅力的な女性だとは思いますが、自分のものにしたいとかそういう思いは、全くないです。ええ、全く」
 いや、完全にないとは、言い切れないか。そんなこと言える空気じゃないけど。
「何、そうなのか。しかし、リキュアは既にサバク殿に、随分惚れ込んでいるようだが」
 ああ、あー。
 なんだろう、この話の流れ。とても逆らえないような波を感じる。
「というわけで、急遽今夜サバク殿とリキュアの結婚式を行おうと思っている。もうその準備も行われている」
 ほらね。
「あー、あのー。それ、お断りすることは」
「結婚式とは、二人の合意によって行われるものだ。サバク殿が拒むのなら、それは仕方のないこと。だが、リキュアは既に花嫁衣裳を選んでいる最中だ」
 わあ。見たいような、見たくないような。
 どうしてこうなったんだろう。本当どうしてこうなったんだ?
「そしてこちらとしても、サバク殿がリキュアの夫となってくれるというのは、とても頼もしい話だ」
 お、王様まで乗り気だー!
「そ、それは大変ありがたい話なのですが、しかし俺は、いつまでこの国にとどまっているかも決めておりません。結婚とか伯爵とか、そういったものはまだ、遠慮したいと思っているのですが」
「貴様、まさか王の決定を覆すというのか!」
「この国の王であるワッシ陛下の提案に異を唱えるというのならば、それ相応の覚悟があるのだろうな!」
 大臣っぽい人達からそんな言葉を浴びせられる。
 えーっ。王様の言葉って、全部押し売りみたいなの、そんなの聞いてないよー!
「愚か者共、口をつつしめ。マスターの言葉が絶対なのだ!」
 そしてヒイコがまた暴走しだしたー!
「私達はお前達を黒と判断すれば、マスターのためにせん滅する覚悟はできておるのだ。例え相手が王であろうと誰であろうと、マスターと敵対するつもりなのであれば、この場で今すぐ骸にしてやっても構わんのだぞ」
 キンカもそれ以上言っちゃダメー!
「皆、本当に静かに。第一俺、彼らと戦おうとは思ってないから。すいません、うちの子達が本当に、今の言葉は聞き流してやってください!」
 俺は思わず頭を下げる。
「ワシの方こそ、すまぬ。もちろん、サバク殿が要らぬというのであれば、ワシからの褒美を受け取らなくてもよい。だが、今言ったこととは別に、金貨の山をサバク殿に譲り渡す用意もしてある。サバク殿、後でこの国に自分の屋敷を構えてほしい。金貨は全て、そこに運び込んで保管しよう。当然屋敷の用意も無料だ」
 金貨、屋敷。
 どうしよう。とても良いもののはずだけど、素直に喜べない。
「ともかく、サバク殿。此度のそなたの活躍を、ワシ達は大きく評価しておる。そして、そなたのみがバウコン帝国に対抗できる唯一の力であると、疑っておらぬ。どうかサバク殿には、今後もアッファルト王国の守護、平和の守り手となってもらうことを期待したい」
 う、うぐ。
 そ、そうか。なんとなく察したぞ。
 きっとリキュア王女との結婚も、伯爵という地位も、俺を戦力と期待しての地盤固めなんだ。
 俺がリキュア王女の夫なら、国を守って当然。伯爵になったら更に当然。
 これを受けたら俺は、すぐさまアッファルト王国の国民になるんだ。
 それは、ちょっと判断が早い気がする。
「謁見は、これにて終了とする。サバク殿、お連れの方々、わざわざご苦労であった」
 王様からそう言われる。話はこれで終わりか。
「少しお待ちを。サバク様、私からも一つ話があります」
 ここで、王妃様がそう言った。
「は、はい、なんでしょうか?」
「リキュアはサバク様のことを話す時、とても幸せそうでした。叶うならば、サバク様もリキュアを愛してやってください。どうかよろしくお願いします」
 お、親御さんにお願いされたあああああ!
「私の話は以上です」
「ではサバク殿、自室へお戻りください。ご案内します」
 兵士の一人がそう言って俺に敬礼する。俺はすぐにイスから立ち上がった。
 どうしよう。えらいことになったぞ。結婚話、伯爵話。暗殺者の件と同じくらい大問題だ。
 とにかく、皆と相談しよう。

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飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

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