気づけばモンスター

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6ボクはもう、逃げないー!

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 と思っていたら、新たな敵と遭遇してしまった。
「(あ、敵だ。よーし、倒すぞー!)テリーフ、テリーフ!」
 敵は、最初に会ったミステリーシードに似ている。けれどこのモンスターは頭の上がアーモンドでなく、たくさんの葉っぱに変わっていて、体も少し大きかった。
「ポット、カップ、相手はミステリーフよ。カップと同じ変態後モンスターだから、気をつけて!」
 リシェスの警戒に満ちた声が響く。ほう、変態したモンスターか。なら、レベルも高いはずだ。十分気をつけた方が良いだろう。
 けど、こっちは三人だ。きっと力を合わせれば、勝てるに違いない!
「(よーし、こいつもボクが倒すー!)イモイモー!」
 カップが真っ先に向かっていく。うむ、それもいいが、まず俺は鳴き声だ。こっちは命がかかっているんだから、時間を気にせず手堅くいこう。
「(ええい、鳴き声!)エレキュー!」
「(むうう、木の葉旋風!)ミステリリーフ!」
 相手は、自分の周囲に木の葉がたくさん舞う竜巻を生み出した。あれは、バリアのつもりか?
 見たことない技だ。危険かもしれない。ここは更に慎重にいきたい。が、俺とは違いカップは、勇んで突撃した。
「(くらえー、スタンプー!)イモモー!」
 カップの新技がミステリーフに炸裂する。けど、木の葉旋風のせいで相手のダメージの具合はわからない。
 それどころかカップは、木の葉旋風につっこんだせいでダメージを負ってしまった!
「(そこだー!)リリーフ!」
 更に木の葉旋風がカップにおそいかかり、通り過ぎる。それによりカップは軽くふきとばされ、かなりのダメージを負った。
「(うわあー!)イモー!」
「(カップ!)エレッキュー!」
 地面に体を打ち付けるカップ。幸い、まだ息はあるようだ。
「カップ、大丈夫、小回復!」
 リシェスが素早く魔法を使って、カップを回復する。全回復とまではいかなかったが、もう大丈夫そうだ。それにしても、この敵。強いぞ。あの技を攻略するのには、骨が折れそうだ。
 けど、攻撃するならあの木の葉旋風を使い終わった今がチャンスだ。カップが作ってくれたチャンスを、決して無駄にはしない。全力でいくぞ!
「(でえい、エレキアタックー!)エレーキュー!」
 全力でぶつかりにいく。するとエレキアタックは直撃し、ミステリーフはのけぞった。
 まともに当たったが、どうだ!
「(やったな、このお、葉っぱナイフ!)ミステリーフ!」
 するとミステリーフは目の前で、頭の上の葉っぱを二枚光らせた。な、なんか危なそうだぞ、あれ。距離をとろう。
 そう思っていたら、すぐに光る葉っぱが俺めがけて振り下ろされた。
「(くらえ!)リーフ!」
「(うおっとお!)エレキュー!」
 とっさに飛びのいて回避しようとする。しかし回避しきれず、ほんの少し体を光る葉っぱに切り裂かれてしまった。
 うわ、やっぱりあの攻撃、危なかった。本当にあの光る葉っぱ、ナイフみたいな切れ味になってる。というか、木の葉旋風といい葉っぱナイフといい、威力が高すぎないか?
 いや、今はあれこれ考えている場合じゃない。とにかく、近づかなくてもダメージを与えられる、エレキ射出だ!
「(くらえ、エレキ射出!)エーレキュー!」
「(ぐうう!)リリーフ!」
 よし、効いてる。更に、そこをすかさずカップが攻撃した!
「(もう一度、スタンプー!)イモイモー!」
「(ぐううう、このお!)テリリーフ!」
 カップがスタンプを当てた直後、敵の葉っぱナイフがカウンター気味に迫る。しかしカップは持ち味の素早さでなんとか回避し、距離をとった。よし、その調子だ。俺も、もう一発エレキ射出をおみまいだ!
「(エレキ射出ー!)エーレーキュー!」
「(ぐうっ、こうなったら、木の葉旋風!)ミステリーフ!」
 満身創痍となったミステリーフは、ここでまた木の葉旋風を使った。くそ、これじゃあ近寄れない。エレキ射出ならなんとかなるか?
「(エレキ射出ー!)エーレーキュー!」
 技を使うと同時に、木の葉旋風が俺の方に迫ってきた。しまった、警戒するのを忘れていた。これは、避けられない!
 仕方ない、身を縮こまらせて、少しでも威力を軽減だ!
「(ポットー!)イモー!」
 木の葉旋風が目の前まで迫ってきたその時、俺の体は横からカップにさらわれて、すんでのところで木の葉旋風を一緒にかわした。俺は今、カップにしがみついている。
 まさか、カップに救われた?
 やるじゃないか、カップ。お前は命の恩人だ!
「(ありがとうカップ、助かった!)エレエレキュー!」
「(前はボクが助けられたから、今度からは、ボクもポットを助ける!)イモ、イモモー!」
 頼もしい味方だ。俺はカップからとびおりつつ、エレキ射出を放つ。
「(エレキ射出!)エーレーキュー!」
「(ボクも、たいあたりー!)イモ、イモー!」
「(ぐわあー!)テリリリリー!」
 俺とカップの連続技で、敵は倒れた。
「やったあ、ミステリーフを倒した。二人共、ナイス!」
 リシェスがとびはねて、俺の元に走ってきた。
「ポット、ケガはない、あ、少し傷ついてる。はい、小回復」
「(ありがとう、リシェス)エレエレキュー」
 わずかな痛みだったけど、すーっとひいていく。うん、回復できる人がいるって、心強い。
「カップは、傷はない?」
「(うん、ボク平気!)イモ、イモー!」
「ありがとう、二人共。それじゃあ、早くはぎとっちゃうね」
 そう言ってリシェスが、ナイフを手にする。うう、この時だけは、本当、恐ろしいものを感じるなあ。なにせ、俺もモンスターだから。カップも、少しリシェスを見て震えている。
 リシェスが、倒したモンスターにナイフを入れる。そして、頭の上の葉っぱを全部とった。
「よし、生きたミステリーフの葉っぱをゲット。初めて手に入れるけど、万病に効く薬らしいから、大事にとっておかないと。後は、ちゃんと息の根を」
 サクッ。リシェスがナイフで敵の喉を斬ったので、俺とカップがとびはねる。
 ううっ、心臓に効く。戦っている時は夢中だけど、気が緩んだ後は目に悪い。
 けど、俺達命をかけて戦っているんだもんな。命のやりとり、奪い合いは当然。俺には守るべきリシェスもカップもいるから戦意は高いが、それでも命を奪うことだけは、なかなか慣れない。
 けどまあ、別に慣れなくてもいいのかな。殺すことに悩まなくなるのは、少し嫌だ。それが必要なことだとしてもだ。
 リシェスに肝心なとどめを刺してもらうことで、俺は心のどこかで救われているのかもしれない。俺はそのリシェスの強さにも、しっかり感謝しておこう。
「(安らかに眠れよ、ミステリーフ)エレッキュッキュウ」
「よし、これで完全に倒した。後は、収納。これで、冒険者ギルドで解体してもらって。さあ、ポット、カップ。ここはもう移動して、早くファイト花を見つけて帰ろう!」
「(お、おー)キュー」
「(う、うん)イモー」
 ほとんどのモンスターは、見つかったらおそってくる危険な敵。これからも殺し合い、命の奪い合いは続くだろう。
 けど、それでも俺はここで生きていくと決めたんだ。だからせめて、仲間を守れるように戦い、更に強くならないと。
 生きるって過酷なんだ。けど仲間がいるから、前に進める。そう思う、俺だった。

 ファイト花を5本見つけたところまでは、それなりに順調だった。
 しかし、6本目がなかなか見つからず、更に森の奥へと入っていく。
 すると、俺達の前に、大人二人分はガタイが横に広い、クマっぽいサルが現れた。
 見ただけでわかる。こいつは強い。今まで戦ってきた、どの敵達よりも。
「(敵ー!)グアー!」
「(敵だー!)イモー!」
「(そうだな。戦うしかないか!)エレ、エレキュー!」
「ポット、カップ、気をつけて。そいつはクマザル、とっても強いわ!」
 後ろからのリシェスの声で、俺は警戒する。とっても強いなら、油断はできない。俺とカップだけで、どうにかできればいいんだが。
「クマザルは本来、森の東方面にしかいないはず。なんでこんなところに!」
「(とにかく、鳴き声だー!)エレキュー!」
「(スタンプで、ダメージをとるー!)イモー!」
 まず俺の鳴き声で、敵の攻撃力を下げる。ほぼ同時にカップが、スタンプでダメージを与えにいく。
 この俺達の動きは上手くいった。だが、クマザルはれいせいにカップの攻撃を受け止め、カウンターを用意していた。
「(きりさく!)グアー!」
「(ううっ!)イモー!」
 クマザルの爪によって、カップが少し切り裂かれてしまう。回避行動のおかげで、少ししか当たらなかったようだが、攻撃力が見た目通りなら、凄い威力だろう。カップが受けたダメージは大きいはずだし、俺も注意しないと。
 カップが一度距離をとると、クマザルは再びカップに向けて大きく手を振り上げた。いかん、もしかしてあいつ、何かする気か!
「(いかんカップ、避けろ!)エレッキュー!」
「(風の爪!)グアー!」
「(く、エレキアタックー!)エーレー、エレッキュー!」
 とにかく見てるだけじゃダメだ。俺はすぐにエレキアタックの準備に入る。しかしその間に、クマザルは腕を振って、風の刃をとばしてカップを攻撃していた。
 ただでさえ敵の攻撃力は高そうなのに、遠距離攻撃までできるなんて。まずい、こいつ予想以上に強すぎるかもしれん。
「(う、うわー!)イモー!」
 カップは半分以上風の刃を回避するが、それでも小さくないダメージを受けてしまった。この流れはまずいぞ。短期決戦でなんとかできなければ、皆の命が危うい!
 幸い、エレキアタックがクマザルに直撃する。クマザルはのけぞる、が、まだ動けるようだ。鋭い眼光で俺を睨んでくる。くるなら来い、絶対倒してやる!
「(切り裂く!)グアー!」
「カップ、小回復!」
 クマザルの爪を、避ける。が、右の腕は見切れても、間髪入れずに迫る左の腕に当たってしまった。体格差があるため、俺の体が簡単にふきとぶ。が、まだやれるぞ!
「(く、このお!)エレッキュー!」
「(ポットが危ない、たいあたりー!)イモモー!」
 幸い、俺には仲間がいる。クマザルは俺への追撃をすることなく、ぶつかってきたカップへと意識を向けた。ありがとう、カップ。今がチャンスだ!
「(エレキ射出!)エーレーキュー!」
「(ぐおお!)グアー!」
 エレキ射出をくらったクマザルが、こっちを向く。へへ、効いたか?
「(このお、たいあたりー!)グオー!」
 牙をむいて怒るクマザルが、俺へと四つ足ダッシュしてくる。よし、それなら俺は、なんとか回避だ!
「(うおおー!)レキュー!」
 全力ダッシュで、クマザルのたいあたりを回避しようとする。
 幸い、敵の素早さは俺とあまり変わらないようだ。めいっぱい横へと走ったおかげで、なんとか回避できた!
「(からのー、切り裂く!)グアー!」
 と思ったら、クマザルが俺の目の前で突然向きを変えて、二本足立ちになって切り裂くをしてきた。
 こ、これはまずい、避けきれるか?
「(ポットー、スタンプー!)イモオー!」
 ここでカップのスタンプが間に合い、クマザルの体勢を崩す。おかげで両腕の切り裂くが空を斬った。
 よし。なら、ここがチャンスだ!
「(うおー、たいあたりー!)エッレキュー!」
 わずかな助走で勢いをつけて、クマザルの顔面にアターック!
 やった、これで更にダメージを与えられたぞ!
「(くうっこのおー!)グオー!」
 だがその時、クマザルの両手が、俺を切り裂いた。
「(痛いー!)エレキュー!」
 しまった、こいつ、すごいタフだ。もう何度も技を当てたはずなのに、まだピンピンしてやがる!
「ポットっ、小回復!」
 けどここですぐに、リシェスの魔法がとんできて俺の傷が消える。そうさ、俺達は三人いる。一人だったら勝てなくても、この戦力差ならお前くらい、きっと!
「ポット、カップ、逃げるよ。走って!」
 え、えー!
 リシェス、ここで、撤退ー?
 し、仕方ない。リシェスがそう言ったんだ。ここは大人しく逃げよう。リシェスはもう、逃げてるし。
「(聞いたかカップ、逃げるぞ!)エレキュー!」
「(うん!)
 確かに、クマザルの残り体力はどれほどかわからない。ここは、逃げるのが正解かもしれない。よし、意識を切り替えて逃げに徹しよう。
 一瞬で敵に背を向けて、すかさずダッシュ。カップは速度重視のモンスターだ。だから逃走に問題はないだろう。あとは、俺が逃げられるかどうかにかかっている。絶対逃げ切ってみせる!
「(風の爪!)グアー!」
 次の瞬間、激痛が俺をおそう。
 俺は後ろ足に鋭い衝撃を受けて、倒れた。
 な、今のは、まさか、遠距離攻撃?
 しかも、後ろ足を両方ともケガしてしまった。う、動けない。これはまずい!
「(し、しまった!)エッレキュウ!」
「(グアー!)グアー!」
 後ろを振り返ると、クマザルが迫って来る。あいつ、笑ってやがる。俺を仕留められると思って、勝利を確信してるんだ。
 悔しい。凄く苛立つが、しかしこれが現実。俺は今、狩られる寸前の獲物に等しい。今一番ピンチなのは、間違いなく俺だ。
「(ポット危ない、スタンプー!)イモー!」
 その時、クマザルの後頭部をカップが攻撃した。クマザルは流石に、カップへと注意を向ける。
 ああ、ありがとう、カップ。俺がしくじったばっかりに、戻ってきてくれたんだな。
 けど、これでいいのか?
 もしかしたらここは、カップだけでもリシェスと逃げるべきなんじゃないのか?
「(カップ、危なくなったらお前も逃げろよ!)エッレ、エレキュー!」
 俺がやられるのは、仕方のないことだ。だって、戦いの中で命を落とすのだから。どちらも勝つためにやっているのだから、俺が負ける時だってあるだろう。
 けど、カップは俺とは違う。カップは自分の速さを活かして逃げ切れるのだ。だから、カップはこんなところで危険な目にあわなくてもいいのに。
 なんで。カップはまだクマザルと戦う目をしているんだ。
「(嫌だ。ポットは、仲間は見捨てない!)イモ、イモモー!」
 なんで、そんなこと言うんだ!
「(これはそういう話じゃない。自分の命が最優先に決まってるだろー!)エレレキュー!」
「(風の爪!)グアー!」
「(ボクはもう、逃げないー!)イモモー!」
 敵の攻撃がまた、カップに当たる。直撃じゃないけど、ダメージは大きそうだ。くそ、このままじゃ、カップまで!
「(スタンプー!)イモモー!」
「(きりさく!)グアー!」
 カップとクマザルは激しい戦いを繰り広げる。どちらもどんどん傷ついていく。けど、何よりカップの傷つく姿を、これ以上見たくない。
 これは、俺のせいなのか。俺が悪いのか?
 敵の強さを見誤って、敵の技に注意せず、今の今までなんとかなるとでも安易に考えていたから、そんな俺が招いた、失態の結果なのか?
 そのせいで、カップは傷ついたのに、まだ逃げないのか?
 だったら、だったら。
 だったらせめて、俺も最後までカップと共に、戦う!
「(うおー、エレキ射出ー!)エーレーキュー!」
 全力をこめた、気合いの一撃だ。今までで一番威力が高いエレキ射出を出せたはず。
 俺の技を受けて、クマザルがこっちを向く。へへ、効いただろ?
「(ポット、ダメだ、動けないポットに攻撃がきたら、大変だ!)イモモイモー!」
「(このまま見てられるわけないだろ、俺も戦う、エレキ射出!)エーレー、エーレーキュー!」
「(きりさく!)グアー!」
 とにかく、倒れろ。倒れてくれクマザル!
 そんな俺の思いは届かず、クマザルはエレキ射出をくらいながらも、近づいてきて俺を切り裂いた。
 右手の爪で俺の体が持ち上げられ、左手の爪で俺の体が切り裂かれ、吹き飛ぶ。
 とんでもない連続技だった。一瞬、意識が遠のく。でも、痛みがあるから、まだ目を開けられる。俺は、まだ戦える。
 そうだ。俺はまだ、やるぞ!
「(ポットー、スタンプー!)イモイモー!」
「(きりさく!)グアー!」
 幸い、ここでまたカップが敵の注意をひきつけてくれた。だから俺は、これでまた技を使うチャンスを得られる。
 でも、ここで使うのはただのエレキ射出じゃない。それだけじゃクマザルを倒すには足らないだろう。だから、今まで以上の全力の、強烈なエレキ射出を使わなければならない。
 やってやる。さっき以上の技を放つんだ。それをやるんだ、俺が。俺がやらなきゃいけないんだ!
 集中しろ。やれ。敵を見ろ。勝利を捨てるな。捨てるのは、甘さだけでいい。
 立ち上がれ。立ち上がれなくても、くらいつけ。昨日リシェスを助けた時、俺はどうだった?
 死ぬことなんて、怖くなかった。
 痛みなんて、怖くなかった。
 何より怖いのは、大切な仲間の命が危険にさらされること。
 だったら、どうせ今の俺がモンスターなら。
 全力以上の全力で、この場をなんとかしてみやがれ!
「(うおおおおお!)エーレー!」
 カップがまだ飛べている内に、さあ!
「(ラストエレキー!)エーレーキュウウー!」
 ありったけのエレキを、敵に全部くれてやれ!
「(ぐわあー!)グワアー!」
 はあ、はあ、はあ、はあ。
 や、やったか?
「(スタンプー!)イモー!」
 ああ、まだだったか。
 けど、これ以上はもう、ムリだ。
 なんかもう、エレキ射出が使えない。体も、ひどく重い。
 だから、せめて。
 カップ、お前だけでも、リシェスと共に逃げ延びてくれ。

 それから、どれくらいかわからないけど、時間が経って。
 いつまで経っても、俺の息はまだあった。
 目はつぶってしまっているけど、クマザルの気配も感じない。
 戦いは、どうなったんだ?
 気になるけど、確認する程の余裕がない。
 体中痛くて重い。生きてるだけで苦しい。
 でも、俺が生きている間は、リシェス達を大きく悲しませることはないだろう。そこだけは、安心できる。
「小回復」
 リシェスの声が聞こえたと思った瞬間、俺の体の具合が少しましになった。
「小回復」
 それから何度も同じ言葉が聞こえて、やがて俺は立ち上がれるようになる。
 ここで立ち上がらないと、皆に心配かけちまうしな。
「ポット」
「(ポット、良かったー)イモモー」
 リシェスに、カップ。
 そして、焦げつきながら倒れている、クマザル。
 そうか。クマザルは倒せたのか。
 今この場には、俺達しかいない。ということは、俺達の手であのクマザルを倒したということなのだろう。
 良かった。凄く安心する。本当、一時はどうなるかと思ったぜ。
「ポット、カップ、本当に無事で良かった」
 そう言って、リシェスが俺をだきしめる。
「(ポットのおかげで、あいつに勝てたよ)イモモ、イモー」
 カップが俺の体にすり寄ってきて、そのカップもリシェスが抱きしめる。
「あなた達が逃げてないのに気付いて、もしかして、って思ったの。そしたら、二人とも無事で、本当に良かった」
「(迷惑かけて、ごめん)エレ、エレキュー」
 本当なら、風の爪を避けられていればこんなことにはならなかったのだ。
 二人に心配させてしまった俺は、完全に悪い。
「(迷惑なんて、あるもんか。ボク達、皆の力であいつに勝ったんだよ。ボク達の、勝利だ)イモモ、イモイモ」
 うん、それは良かった。けどそれ以上に、本当にごめん。
 せめて次からは、もう絶対にリシェスにもカップにも、心配されないようにしよう。

 俺が新たに覚えた新技、ラストエレキは、たぶん、文字通り最後の切り札技だ。
 あれから、エレキ射出もエレキアタックも使えなくなってしまった。たいあたりと鳴き声は使えるから、その後の戦闘でも役に立てたけど、ちょっと敵を倒すのに手間取った。
「ポット?」
「(うん?)エレキュー?」
 リシェスの顔を見上げる。
「ひょっとして、電気属性の技が使えないの?」
「(うん)エレキュー」
 首を縦に振る。
「そっか、そうなんだ。でも、電気技が使えないのかあ、困ったなあ。ポットがたいあたりしているところ、見てるとはらはらするし。早く電気技を、また使えるようになれる?」
「(大丈夫。たぶんしばらく休めばまた使えるようになるさ)エッレッキュー」
 親指を見せる。
「頼りにしてるよ、ポット。それじゃあ、早くファイト花を採取して帰ろう。もうあんまり戦闘はしたくないからね」
「(オーケー)エレキュー」
 こんな感じで、ファイト花8つの採取もなんとか終える。
 帰ってくる時間は、夕暮れ時。幸いクマザルとはあの一回こっきりしか会ってないから、上手く採取ができて、助かった。
 村まで戻ってきて、そこでようやく安心する。ああ、今日は凄く大変だった。クマザルとの戦いは、生きた心地がしなかったぜ。
「ありがとう、ポット、カップ。今日はもうしっかり休もうね!」
「(ああ!)エレッキュ」
「(うん!)イモー!」
 けど、早くエレキ射出だけでもまた使えるようになりたい。
 じゃないと、エレキリスモンスターが、ただのリスモンスターになってしまいそうだ。
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