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5お前、強くなりたくないか?
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駆けつけてみると、ヨワイモが体を鳥モンスターにつつかれているところだった。
「(痛い、痛いー!)イモー、イモー!」
「(む、敵ー!)ヒュイー!」
鳥はこっちを向いて警戒している。なら俺も、ここで会った敵モンスターを倒さないとな。
「(くらえ、エレキ射出ー!)エーレー、キュー!」
まずは先制攻撃だ。鳥は距離をとられたら技が当たらなくなる。最初から攻めの姿勢でいこう。
「(ぎゃー!)ヒュイーン!」
すると鳥は、エレキ射出を一発くらって倒れた。あれ、もしかして一撃?
あの鳥弱っ。いや、俺が強くなったのか?
そういえば、アカトカゲ6体を倒してかなりレベルアップしたからな。気がつかない内に、鳥モンスターなら一撃で倒せるくらいに成長していたのかもしれない。それかもしくは、先に鳥がある程度ダメージを負っていたか。
まあ、どっちでもいい。とにかく今は、倒せて良かった。
「大丈夫、ポット!」
ここで、リシェスも来た。うん、急にとびだしちゃってすまなかったけど、無事についてきてくれてありがとう。
「(うう、逃げなきゃ、逃げなきゃー)イモー、イモー」
そして助けたヨワイモは、俺に背を向けてピョンピョンとびはね、また逃げようとしている。見ていて少し痛々しい。
うーん。このまま見逃してもいいけど、それだとまた別の敵にやられて、助けた意味がなくなってしまう可能性もある。
なら、ここは一度声をかけてみようか。幸いリシェスは、回復魔法が使えるんだし。
「(お前、強くなりたくないか?)エレ、エレエレキュー?」
「(へえ?)イモ?」
ヨワイモはビクンとふるえて、ゆっくり俺を見た。
ヨワイモの目には、涙がたまっている。
「(敵と会ったらすぐに逃げて、逃げて、逃げての繰り返し。本当にそれでいいのか。こっちはおそわれてるんだ。なら立ち向かって、返り討ちにした方が、スッキリしないか?)エレ、エレエレ、エレッキュ、エレエレエレッキュー?」
俺の言葉は、しっかりとヨワイモの耳に届いていた。ヨワイモは少しうつむいて、けどすぐに俺を見て、言う。
「(で、でも、ボク、弱いし。怖いし。逃げ出したいし、勝てる気がしないし)イモ、イモイモイモ、イモ、イモイモ、モ」
「(だから、強くなりたくないかって訊いてるんだよ)エレエレー、エレッキュー」
戦いは、強い方が勝って、弱い方が負ける。なら逃げるってのも手の内だ。
けど、最初から逃げるしか選択肢がないというのは、流石に生きづらいだろう。森の中にはおそってくるモンスターがいっぱいいる。だったら、戦うにしても逃げ切るにしても、少なくとも生き延びられるくらい実力がないと、ただ辛いだけだ。そんなのは嫌だ。例えその人生が、俺以外のものでも。
だから、俺は手を差し伸べる。きっとリシェスも、わかってくれる。
「(きっと、俺達と一緒なら、強くなれる。戦える。そして、勝てる。そうしたらお前も、もう逃げなくて済むだろう。なら、そっちの方が良いじゃないか。少なくとも俺は、そう思う。どうだ、お前もそう思わないか。俺はお前を狙わない。そして、一緒に強くなろう。危なくなったら助け合って、そうやって成長していこう。どうだ、この話に、のらないか?)エレキュー?」
「(ボクは、ボクは)イモ、イモ」
ヨワイモは少しの間また下を見ていたけど、やがて俺と向き合って、言った。
「(ボクも、強くなりたい。もう、逃げなくてもいいように。ボクが強くなれるなんて、今も全く思えないけど、けどもしなれるとしたら、なりたい。強く、なりたい!)イモ、イモイモ、イモ、イモ!」
おお、良い返事だ。やっぱり、このヨワイモも本当は勝ちたいんだな。敵を倒せるくらい、強くなりたいんだな。
いいだろう。それを俺が、手助けしてやる。
「(よし、じゃあ決まりだな。来い、ヨワイモ。まずは俺のモンスターテイマーに挨拶だ。彼女、リシェスはやさしい子だ。きっと、お前も快く迎え入れてくれる)エレッキュ、エレッキュエレッキュ、エレキュー」
「(ほ、ほんと?)イ、イモ?」
おそるおそるといった具合に、ヨワイモが俺の隣まで来る。それを確かめた俺は、リシェスを見た。
「(お願い。ボクを、強くして!)イモ、イモ!」
「(俺からも頼む、リシェス。このヨワイモを、俺達の仲間に加えようぜ)エレエレキュー」
「ポット、そのヨワイモと仲良くなったの?」
「(ああ、そうだ)エレキュー」
俺はうなずき、リシェスの前でヨワイモの体をぽんぽんと軽く叩く。リシェスはそれを見て、うなずいた。
「わかった。そのヨワイモを、仲間にしたいのね。ポットがそう望むなら、私も歓迎する。さあ、ヨワイモ。私達と一緒にくるなら、今から私達は仲間よ。一緒にがんばりましょう!」
「(よろしくお願いします!)イモモイモー!」
こうして、ヨワイモが仲間になった。
「さて、それじゃあまずはヨワイモの体を回復させなきゃ。小回復」
リシェスの魔法で、ヨワイモの体が治っていく。するとヨワイモは、驚いた。
「(痛いのがとんでいく。すごい!)イモイモー!」
そう言ってヨワイモは、その場でピョンピョンはねる。俺はうなずいた。
「(ああ、そうさ。リシェスは回復師なんだ。今度からは傷なんて、どれだけ受けてもへっちゃらだ。といっても、ダメージの受けすぎには注意だけどな)エレエレエレッキュー」
「(凄い、凄い、仲間、ありがとう!)イモイモイモー!」
「ポットは、ケガしてないわよね。それじゃあ、後は、ヨワイモに、名前をつけてあげなくちゃね。うーん」
リシェスはその場で考え込む。頼むから、グッドな名前にしてやってくれよ。俺の名前はこのままでいいからさ。
「よし、決めた。あなたの名前はカップ。カップに決まり!」
「(へ?)イモ?」
おおう、これはなんともまあ、どんどん食卓に出てくる物の名前で決まってくぞ。
まあ、リシェスは得意げにしてるから、いいか。本当にいいか?
細かいことは気にしないでおこう。いや、名前は細かいことじゃないか。まあ、気にしないでいこう。いずれ自然としっくりくるようになるさ。
「(とにかく、これからよろしくな、カップ)エレエレッキュ」
「(か、カップって、ボクのこと、え、えー!)イモ、イモイモー!」
うん。カップも喜んでいるみたいだ。良かった良かった。
その後俺達は、また薬草採取に戻った。ちょっと歩いたら、すぐに二つ薬草を見つけた。
「よし、これで薬草5つ、集められた!」
リシェスがそう言って5つ目の薬草の前に来た時、薬草のすぐ隣から、大きなミミズが現れた。土の中から出てきたのだ。
「(敵だー!)ミーミー!」
「きゃあー!」
リシェスがしりもちをつく。危ない、リシェス!
「(くらえ、エレキ射出ー!)エーレー、キュー!」
よし、命中。やったか!
「(なんだそれはー!)ミーミーミー!」
な、そんな。ミミズはまだ元気だ。全然痛がる様子がない。
まさか、エレキ射出が効いていない?
「ダメよ、ポット。土ミミズは土属性。電気属性の攻撃は効かないの!」
リシェスがそう言いながら敵から遠ざかる。そうか、モンスターには相性もあるのか!
「(ボ、ボクも戦う、たいあたりー!)イモモー!」
カップもすかさず攻撃。するとカップとミミズがぶつかりあって、ミミズの注意がカップへと集中する。
「(いてえ、よくもやってくれたなー!)ミミミー!」
今度はミミズがカップへたいあたり。それでカップがふきとばされた。
「(うわー!)イモー!」
「カップ、危ない、小回復!」
リシェスは立ち上がりつつ、カップを回復。すると、カップは強気になった。
「(もう、痛くない。これなら、まだやれる!)イモイモー!」
「(なら俺も、鳴き声!)」
俺はすぐに敵への攻撃に備え、鳴き声を使う。そしてカップはすぐにまた、ミミズへととびかかる。
「(くらえ、たいあたりー!)イモモー!」
「(何をお、たいあたりー!)ミミズー!」
泥臭いまでの、たいあたりとたいあたりのぶつかりあい。両者交互にぶつかりあって、互いに体力を削り合う。
見た感じ、実力はミミズの方が上なのだろう。だが、カップにはリシェスがついている。敵の攻撃を受ける度に使われる小回復が、カップを勝利へと導いていた。
「(たいあたりー!)イモモー!」
「(たいあたりー!)ミミズー!」
「小回復!」
「(たいあたりー!)イモモー!」
「(たいあたりー!)ミミズー!」
「小回復!」
カップはまだまだ元気だ。一方ミミズの方は、だんだん弱っていく。
これは、ひょっとすると、俺の出番はもういらないかもしれないな。
きっとカップは、生まれて初めてこんな激戦をする。これを一人のダメージ量でくぐりぬけられたら、それはきっと大きな自信になるはずだ。
よし、ここは俺は、応援をするぞ!
「(カップ、ここでお前一人がその敵を倒したら、それは自信に変わる。ピンチになったら俺も手を出すから、それまでは一人で戦うんだ。そして、自分の力で勝つんだ!)エレ、エレエレエレキュー!」
「(うおお、ボクは、ボクには、仲間がいる。もう逃げるだけじゃない。戦えるんだ、たいあたりー!)イモイモイモ、イモー!」
何度目かのたいあたりで、ミミズが大きくよろめく。
「(ぐおお、く、こんなやつらに、たいあたり!)ミ、ミミミズー!」
しかしミミズも苦し紛れのたいあたりをかましてきて、カップがまたふきとんだ。でもあともう一度カップがたいあたりを使ったら、きっとこいつに勝てるぞ!
「く、カップ、もう魔力が切れて、回復できない。お願い、耐えて!」
そこで、リシェスがくやしそうに叫んだ。すると、カップの勢いがみるみる消えた。
カップの戦意が簡単に喪失して、今、あろうことか敵の目の前で迷っている。
「(こ、このまままた攻撃を受けたら、今度こそやられちゃう。嫌だ、そんなの嫌だよ。ボク、死にたくない!)イモ、イモー!」
「(チャーンス!)ミミズー!」
あ、いけない。ミミズがカップの隙をついてきた!
「(カップ、戦えー!)エレキュー!」
俺は叫びながら、カップの元へ駆けつける。
「(おらー、たいあたりー!)ミミミー!」
「(う、うわあー!)イ、イモー!」
ミミズのたいあたりが、傷ついたカップをおそう!
だったら俺が、その間に入ってやる!
どかーん!
俺の体は、ミミズのたいあたりを受けてふきとんだ。
けどそのおかげで、ミミズの攻撃は止まった。
よし、今がチャンスだ!
「(ポ、ポットー!)イモイモー!」
カップは今、俺の方を見てしまっているけど、カップ。今見るべきは、俺じゃない。敵だ!
「(カップ、たいあたりだ、決めろっ。それで、勝ちだー!)エレエレキュー!」
俺はカップを激励する。するとカップの瞳の中で、やる気が高まった。
「(ポット、ありがとう。ボク、やるよ、戦う。ボクも、最後まで戦う!)イモ、イモイモー!」
カップが再び走り出す。そして、すぐさまミミズにぶつかる!
「(うおおー、たいあたりー!)イモイモー!」
「(うおお、こんな、バカなー!)ミミーズー!」
すると、その一撃で、ミミズが倒れた。
「(やったな、カップ!)エッレキュー!」
「やった、土ミミズを倒したよ、あれ?」
俺とリシェスが喜ぶ。するとカップは、俺とリシェスの前で、虹色に光り始めた。
その光は、すぐに消える。そのかわりに、カップは、今までと違う姿へと変わった。
緑色の芋から、赤紫色の体へ。
少し、いや大分、大きくなったか。もうその見た目はただの芋じゃない。特大芋だ。
そして何より、ピョンピョンとびはねるだけだった体は今、ずっと空中に浮いていた。
これは、なんだ。どういうことだ。カップの身に、何が起こったんだ?
「ひょっとして、変態?」
リシェスが言う。
「(え、モンスターって変態するの!)エ、エレッキュウー!」
なんてこった。まさか、モンスターにこんな秘密が隠されていたとは。
というか、これ進化だよな。早っ。
「(やった、やったよ、ボク、強くなれた!)イモ、イモイモイモー!」
新しい姿に生まれ変わったカップは、喜んでいる。
「あれは、カルイモ。ヨワイモの、速度特化変態」
へえ。更に速くなったのか、あいつ。なら、この先、頼もしく活躍してくれそうだな。
カップの勝利と同時に、変態か。これは凄い。凄い良い展開だ。
「(おめでとう、カップ)エレ、エレキュー」
「(ありがとう、ポット、リシェス。ボクだって戦える。ボクだって勝てる。うおお、ボク、やるぞー!)イモ、イモイモイモ、イモー!」
こうして、リシェスの二体目のテイムモンスターは、テイムして早々に変態したのだった。
カップの勝利&変態にはしゃいだ後。
「よいしょっと。よし、この土ミミズ、まだ息がある。きっと回復したら、良い土を生むに違いないわ」
なんと薬草五個目を採取し終えたリシェスが、倒したミミズを抱きしめ始めた。俺としては、これも衝撃的な展開だ。
「(え、リシェスそれ、持って帰るの?)エレ、エレエレーキュ?」
「(え、何々、どういうこと?)イモモイモイモ?」
「ポット、カップ。土ミミズはね、食べて排泄した土を、すっごく良い土に変えるの。持って帰れば良質な肥料がわりとして、ちょっと良い値段で買い取ってもらえるわ。それできっと、カップの首輪代が手に入る。これはとってもラッキーな獲物よ。でかした、ありがとうカップ!」
リシェスはそう、うれしそうに説明してくれた。
そう、お金になるならいいけど。でも、薬草だけじゃ足らないのか?
倒した後とはいえ大きなミミズを持たれるのは、ちょっと心配だ。
「(ボク、ボクがんばった!)イモ、イモ!」
「それと、ポットも最後のカップをかばった姿、とってもかっこよかった。ありがとうね、ポット!」
「(うん。まあ大したことなかったぜ)エレエレッキュ」
たいあたり一回くらいは耐えられる自信があったからな。それよりも、あの後カップがすぐにミミズを倒せたのが良かった。
「さあ、それじゃあ帰ろう、皆!」
「(おー)エレー」
「(うん!)イモ!」
それじゃあ、後は帰り道のリシェスの護衛だけだな。
思わぬ収入も手に入ったみたいだし、テイマー初日は成功といっていいのではないだろうか。
「(あ、敵だー!)イモモー!」
村の入り口まで戻って来ると、そこにいた門番の男を見て、カップが警戒心をあらわにした。
いやいや、敵じゃない。カップ。人を見てそう思うのは、とっても危険だぞ。悪いやつは注意しないといけないが、あの人は良い人だ。
「(おちつけ、カップ。あの人は敵じゃない。仲間、みたいなものだ)エレッキュ、エレッキュ」
慌ててカップに説明する。するとカップは、まだよくわからなさそうに首をかしげた。
「(仲間、みたいなもの?)イモ?」
「(リシェス達人間は、皆で支え合って生きているんだ。あの人はただ、俺達以外の危険なモンスターが村の中に入らないように見張っているだけだ。だから、俺達は安心してここを通れる。あの人は、俺達の仲間みたいなものなんだ)エレッキュエレキュー」
「(本当?)イモ?」
「(ああ、本当だとも。村の中にも人はたくさんいるから、全然気にしなくていいぞ。けど、その人達に悪さはするなよ。もしそんなことをしたら、リシェスに迷惑がかかるからな)エレキューキュー、エレキュー」
「(わ、わかった。皆、仲間みたいなもの、なんだ)イモ、イモー」
カップがそわそわしていると、門番がカップに目を止める。
「お帰り、リシェス。その土ミミズは見事にぐったりしているが、しかしこっちのカルイモは、どうしたんだ?」
「ただいま、ハースンさん。このカルイモはですね、カップって言って、私の新しい仲間なんです。早くテイムモンスター用の首輪をつけてあげないと!」
ああ、そうか。カップにも首輪が必要なんだな。首輪、首輪?
イモの体に、首輪がつけられるのか?
いや、でも首輪が必要なら、つけるしかないだろう。大丈夫、きっとなんとかなる。そう信じよう。
とにかく、ハースンはリシェスの言葉に、うなずいた。
「なんだ、そうなのか。しかし、エレキュウをつれてきたと思ったら今度はカルイモか。凄いな、リシェスは。こんなこと初めてだ」
「えへへ、二人共とっても良い子なんです!」
そんな感じで門番とカップの面通りも済み、俺達は村の中に戻る。
そして畑で土ミミズをお金に変えたリシェスは、次にギルドに戻り、薬草を納品した後、カップの名前をテイムモンスター届けの書類に加える。
そこですぐに買った首輪をカップにつけて、リシェスは笑顔になった。
「はい、カップ。首輪、とっても似合ってるわ!」
「(わーい、わーい!)イーモ、イーモ!」
カップは喜んでいる。良いことだ。リシェスもそれを見て喜んでいる。俺の時も、もっと喜んでおけば良かったか?
カップの首輪は、どっちかっていうと腹にベルトを巻いてる感じだ。なんだかんだ似合っている。一目見て野生のモンスターとは思えないし、きっと皆そんなに警戒しないだろう。
「(ポットとおそろいだー!)イモモー!」
「(まあ、そういう見方もあるな)エレーキュー」
「よし、それじゃあまだ時間もあるし、一度ご飯を食べた後、また森に行って新しい依頼をこなすわよ。今度の依頼は、ファイト花を8つ納品。がんばろうね!」
「(おー!)エレー!」
「(おー!)イモー!」
また納品か。けど、薬草じゃないってことは、その分難しいのかな。とにかく、まずは飯だ。食べよう。
そして俺達が来た場所は、八百屋。リシェスは俺がスープを食べることを知っているが、カップのことはまだ知らない。なので、きっと食べるなら野菜か果物がいいだろうとの判断だ。それに俺も野菜か果物でいい。
「皆の食べ物って、きっと野菜とか、果物でいいよね。もし生肉とかだったら、嫌だけど」
安心しろ、リシェス。俺も流石に生肉はパスした。
けど、カップはどうなんだろう。これで肉食とか言われたら嫌だな。なんにしろ、ここではっきりしておかなければ。
「(カップはどうだ、今まで何食べてきたんだ?)エレエレキュー?」
「(ボクは、そのへんの草食べて生きてきた)イモイモイモ」
おおう、ワイルド。やっぱり野生って過酷だよな。俺は木の実を見つけられただけマシだったようだ。
「(安心しろ、カップ。リシェスはもっと良い物食べさせてくれるぞ)エレエレッキュ」
俺はそう言って、カップと共にリシェスの足元で待機。それを見たリシェスは、八百屋の人に声をかけた。
「あの、すみませーん。お野菜手に取っても良いですかー?」
「ああ、いいよ。どれも新鮮だよ」
「はーい。じゃあ、まずは、トットトトマトからいこうかな」
リシェスはそう言って、ミニトマトを手に取って俺達に見せた。
「はい、ポット、カップ。これは、食べられそう?」
「(何それ、凄く美味しそう!)イモイモー!」
カップが目を輝かせている。俺も、トマトくらいならいけそうかな。ピーマンとかナスの生はちょっとパスかな。
「(俺も、それで良い)エッレッキュ」
リシェスに親指を見せる。
「ふふ、ポットもカップも、凄く喜んでる。良かった、じゃあトットトトマトはオーケーそうね。それじゃあ次はー」
今度はリシェスは、黄色い実を俺達に見せた。
「はい、キキンカン。どう、食べられそう?」
「(わあ、それも凄く美味しそうー!)イモイモー!」
「(俺も、たぶん大丈夫だ)エッレッキュ」
リシェスに親指を見せる。たぶんこれ、キンカンだよな。初めて食べるけど、きっとおいしいよな?
「よし、それじゃあ決まりね。お姉さーん、トットトトマトとキキンカンをくださーい!」
「はーい。量はどのくらいにする?」
「両方二百グラムルずつください」
「わかったよ。まあ、そのモンスター達は、安全な子達なのかい?」
「はい。私のテイムモンスターなんです。まだ仲間にしたばかりで、何を食べるか分からなくて、まずはトットトトマトとキキンカンをあげてみようと思って」
「(そうなんだよ。よろしく)エレッキュ」
「(よろしく!)イモ!」
俺とカップが声をかけたら、八百屋の人はニッコリ笑顔となった。
「あら、そうなのかい。じゃあ、サービスしとくよ。どっちも二十グラムルずつおまけしておくから」
「いいんですか、ありがとうございます!」
リシェスはお金を払い、商品が入った二つの紙袋を受け取る。そして次にパン屋に行って、ナッツパンを1つ買うと、一度ギルドに戻り、料理屋スペースで俺達にごはんをくれた。
「はい、二人ともー。まずは、トットトトマトだよー」
うん、見たまんまトマトだ。甘かったら良いな。
「(ありがとう、リシェス。いただきまーす)エッレキュー」
リシェスの手から受け取る。俺は一つずつ両手でいただいて、カップはそのまま口で食べ始める。
「(ぱくぱく、美味しい、これ美味しいよー!)イモ、イモー!」
「(うん。ちょっとくせと甘みが強い、トマトだな)エッレキュー」
俺もカップも、美味しい物を食べれて喜ぶ。すると、リシェスも笑顔になる。
「良かった。ポットもカップも、喜んでるみたい。それじゃあ、パンも、食べる?」
「(んー、くんくん。それはいらない)イモー」
「(俺も、パンはいいや)エッレッキュー」
流石に、パンを一つしか買ってないところを見ているので、俺は遠慮する。ごはんが果物だけっていうのもなんだか偏ってる気がするけど、まあモンスターだし問題ないだろう。
だから、そのパンはリシェスが食べてくれ。
「そう。今度からも、野菜か果物をあげていれば良さそうね。ポット、カップ。これ食べたら、また頑張ろう!」
俺達にそう言って、リシェスもナッツパンを食べる。俺は肉系もたまに食べたくなるけど、まあ、モンスターだし、選り好みできないよな。ベジタリアンで満足だ。
ごはんを終えたら次は依頼。さあ、がんばるぞー。
午後からはファイト花の採取依頼だ。俺達は、北の森へと向かった。
「(敵だー!)テリー!」
「(敵だー!)アオー!」
すると、森に入ってすぐに、アーモンドモンスターと青い亀と戦った。リシェスの知識によると、アーモンドモンスターはミステリーシード。亀モンスターはアオタートルと呼ぶらしい。
現れる敵はどれもすぐ倒せるが、それは俺のレベルが上がっているからというだけではない。カップの攻撃もあるからだ。やっぱり仲間がいると凄く戦いやすいな。頼もしいともいう。
しかし、心なしか、西より北の方がモンスターが多い気がする。ひょっとしたら、長い間北の森にいるのは危険かもしれない。カップとリシェスがいてくれるから、大変さは半減しているけど、体力の消耗具合にも注意しておかないとまずそうだ。
「やった、ファイト花二つ目。この調子でいこうね、ポット、カップ!」
リシェスが笑顔で、二つ目のファイト花を採取する。
「(そうだな。あと六つか)エレッキュ」
「(よくわからないけど、リシェスがうれしいならボクもうれしい!)イモイモモー!」
ファイト花は、オレンジ色と白色の二色の、大きな花だった。なかなか見つからなかったが、特徴的な形なのでかなり見つけやすい。
この調子で、どんどん集めよう。最低でも、日が暮れる前には帰らないとな。
よーし、この勢いでどんどん見つけるぞー。
「(痛い、痛いー!)イモー、イモー!」
「(む、敵ー!)ヒュイー!」
鳥はこっちを向いて警戒している。なら俺も、ここで会った敵モンスターを倒さないとな。
「(くらえ、エレキ射出ー!)エーレー、キュー!」
まずは先制攻撃だ。鳥は距離をとられたら技が当たらなくなる。最初から攻めの姿勢でいこう。
「(ぎゃー!)ヒュイーン!」
すると鳥は、エレキ射出を一発くらって倒れた。あれ、もしかして一撃?
あの鳥弱っ。いや、俺が強くなったのか?
そういえば、アカトカゲ6体を倒してかなりレベルアップしたからな。気がつかない内に、鳥モンスターなら一撃で倒せるくらいに成長していたのかもしれない。それかもしくは、先に鳥がある程度ダメージを負っていたか。
まあ、どっちでもいい。とにかく今は、倒せて良かった。
「大丈夫、ポット!」
ここで、リシェスも来た。うん、急にとびだしちゃってすまなかったけど、無事についてきてくれてありがとう。
「(うう、逃げなきゃ、逃げなきゃー)イモー、イモー」
そして助けたヨワイモは、俺に背を向けてピョンピョンとびはね、また逃げようとしている。見ていて少し痛々しい。
うーん。このまま見逃してもいいけど、それだとまた別の敵にやられて、助けた意味がなくなってしまう可能性もある。
なら、ここは一度声をかけてみようか。幸いリシェスは、回復魔法が使えるんだし。
「(お前、強くなりたくないか?)エレ、エレエレキュー?」
「(へえ?)イモ?」
ヨワイモはビクンとふるえて、ゆっくり俺を見た。
ヨワイモの目には、涙がたまっている。
「(敵と会ったらすぐに逃げて、逃げて、逃げての繰り返し。本当にそれでいいのか。こっちはおそわれてるんだ。なら立ち向かって、返り討ちにした方が、スッキリしないか?)エレ、エレエレ、エレッキュ、エレエレエレッキュー?」
俺の言葉は、しっかりとヨワイモの耳に届いていた。ヨワイモは少しうつむいて、けどすぐに俺を見て、言う。
「(で、でも、ボク、弱いし。怖いし。逃げ出したいし、勝てる気がしないし)イモ、イモイモイモ、イモ、イモイモ、モ」
「(だから、強くなりたくないかって訊いてるんだよ)エレエレー、エレッキュー」
戦いは、強い方が勝って、弱い方が負ける。なら逃げるってのも手の内だ。
けど、最初から逃げるしか選択肢がないというのは、流石に生きづらいだろう。森の中にはおそってくるモンスターがいっぱいいる。だったら、戦うにしても逃げ切るにしても、少なくとも生き延びられるくらい実力がないと、ただ辛いだけだ。そんなのは嫌だ。例えその人生が、俺以外のものでも。
だから、俺は手を差し伸べる。きっとリシェスも、わかってくれる。
「(きっと、俺達と一緒なら、強くなれる。戦える。そして、勝てる。そうしたらお前も、もう逃げなくて済むだろう。なら、そっちの方が良いじゃないか。少なくとも俺は、そう思う。どうだ、お前もそう思わないか。俺はお前を狙わない。そして、一緒に強くなろう。危なくなったら助け合って、そうやって成長していこう。どうだ、この話に、のらないか?)エレキュー?」
「(ボクは、ボクは)イモ、イモ」
ヨワイモは少しの間また下を見ていたけど、やがて俺と向き合って、言った。
「(ボクも、強くなりたい。もう、逃げなくてもいいように。ボクが強くなれるなんて、今も全く思えないけど、けどもしなれるとしたら、なりたい。強く、なりたい!)イモ、イモイモ、イモ、イモ!」
おお、良い返事だ。やっぱり、このヨワイモも本当は勝ちたいんだな。敵を倒せるくらい、強くなりたいんだな。
いいだろう。それを俺が、手助けしてやる。
「(よし、じゃあ決まりだな。来い、ヨワイモ。まずは俺のモンスターテイマーに挨拶だ。彼女、リシェスはやさしい子だ。きっと、お前も快く迎え入れてくれる)エレッキュ、エレッキュエレッキュ、エレキュー」
「(ほ、ほんと?)イ、イモ?」
おそるおそるといった具合に、ヨワイモが俺の隣まで来る。それを確かめた俺は、リシェスを見た。
「(お願い。ボクを、強くして!)イモ、イモ!」
「(俺からも頼む、リシェス。このヨワイモを、俺達の仲間に加えようぜ)エレエレキュー」
「ポット、そのヨワイモと仲良くなったの?」
「(ああ、そうだ)エレキュー」
俺はうなずき、リシェスの前でヨワイモの体をぽんぽんと軽く叩く。リシェスはそれを見て、うなずいた。
「わかった。そのヨワイモを、仲間にしたいのね。ポットがそう望むなら、私も歓迎する。さあ、ヨワイモ。私達と一緒にくるなら、今から私達は仲間よ。一緒にがんばりましょう!」
「(よろしくお願いします!)イモモイモー!」
こうして、ヨワイモが仲間になった。
「さて、それじゃあまずはヨワイモの体を回復させなきゃ。小回復」
リシェスの魔法で、ヨワイモの体が治っていく。するとヨワイモは、驚いた。
「(痛いのがとんでいく。すごい!)イモイモー!」
そう言ってヨワイモは、その場でピョンピョンはねる。俺はうなずいた。
「(ああ、そうさ。リシェスは回復師なんだ。今度からは傷なんて、どれだけ受けてもへっちゃらだ。といっても、ダメージの受けすぎには注意だけどな)エレエレエレッキュー」
「(凄い、凄い、仲間、ありがとう!)イモイモイモー!」
「ポットは、ケガしてないわよね。それじゃあ、後は、ヨワイモに、名前をつけてあげなくちゃね。うーん」
リシェスはその場で考え込む。頼むから、グッドな名前にしてやってくれよ。俺の名前はこのままでいいからさ。
「よし、決めた。あなたの名前はカップ。カップに決まり!」
「(へ?)イモ?」
おおう、これはなんともまあ、どんどん食卓に出てくる物の名前で決まってくぞ。
まあ、リシェスは得意げにしてるから、いいか。本当にいいか?
細かいことは気にしないでおこう。いや、名前は細かいことじゃないか。まあ、気にしないでいこう。いずれ自然としっくりくるようになるさ。
「(とにかく、これからよろしくな、カップ)エレエレッキュ」
「(か、カップって、ボクのこと、え、えー!)イモ、イモイモー!」
うん。カップも喜んでいるみたいだ。良かった良かった。
その後俺達は、また薬草採取に戻った。ちょっと歩いたら、すぐに二つ薬草を見つけた。
「よし、これで薬草5つ、集められた!」
リシェスがそう言って5つ目の薬草の前に来た時、薬草のすぐ隣から、大きなミミズが現れた。土の中から出てきたのだ。
「(敵だー!)ミーミー!」
「きゃあー!」
リシェスがしりもちをつく。危ない、リシェス!
「(くらえ、エレキ射出ー!)エーレー、キュー!」
よし、命中。やったか!
「(なんだそれはー!)ミーミーミー!」
な、そんな。ミミズはまだ元気だ。全然痛がる様子がない。
まさか、エレキ射出が効いていない?
「ダメよ、ポット。土ミミズは土属性。電気属性の攻撃は効かないの!」
リシェスがそう言いながら敵から遠ざかる。そうか、モンスターには相性もあるのか!
「(ボ、ボクも戦う、たいあたりー!)イモモー!」
カップもすかさず攻撃。するとカップとミミズがぶつかりあって、ミミズの注意がカップへと集中する。
「(いてえ、よくもやってくれたなー!)ミミミー!」
今度はミミズがカップへたいあたり。それでカップがふきとばされた。
「(うわー!)イモー!」
「カップ、危ない、小回復!」
リシェスは立ち上がりつつ、カップを回復。すると、カップは強気になった。
「(もう、痛くない。これなら、まだやれる!)イモイモー!」
「(なら俺も、鳴き声!)」
俺はすぐに敵への攻撃に備え、鳴き声を使う。そしてカップはすぐにまた、ミミズへととびかかる。
「(くらえ、たいあたりー!)イモモー!」
「(何をお、たいあたりー!)ミミズー!」
泥臭いまでの、たいあたりとたいあたりのぶつかりあい。両者交互にぶつかりあって、互いに体力を削り合う。
見た感じ、実力はミミズの方が上なのだろう。だが、カップにはリシェスがついている。敵の攻撃を受ける度に使われる小回復が、カップを勝利へと導いていた。
「(たいあたりー!)イモモー!」
「(たいあたりー!)ミミズー!」
「小回復!」
「(たいあたりー!)イモモー!」
「(たいあたりー!)ミミズー!」
「小回復!」
カップはまだまだ元気だ。一方ミミズの方は、だんだん弱っていく。
これは、ひょっとすると、俺の出番はもういらないかもしれないな。
きっとカップは、生まれて初めてこんな激戦をする。これを一人のダメージ量でくぐりぬけられたら、それはきっと大きな自信になるはずだ。
よし、ここは俺は、応援をするぞ!
「(カップ、ここでお前一人がその敵を倒したら、それは自信に変わる。ピンチになったら俺も手を出すから、それまでは一人で戦うんだ。そして、自分の力で勝つんだ!)エレ、エレエレエレキュー!」
「(うおお、ボクは、ボクには、仲間がいる。もう逃げるだけじゃない。戦えるんだ、たいあたりー!)イモイモイモ、イモー!」
何度目かのたいあたりで、ミミズが大きくよろめく。
「(ぐおお、く、こんなやつらに、たいあたり!)ミ、ミミミズー!」
しかしミミズも苦し紛れのたいあたりをかましてきて、カップがまたふきとんだ。でもあともう一度カップがたいあたりを使ったら、きっとこいつに勝てるぞ!
「く、カップ、もう魔力が切れて、回復できない。お願い、耐えて!」
そこで、リシェスがくやしそうに叫んだ。すると、カップの勢いがみるみる消えた。
カップの戦意が簡単に喪失して、今、あろうことか敵の目の前で迷っている。
「(こ、このまままた攻撃を受けたら、今度こそやられちゃう。嫌だ、そんなの嫌だよ。ボク、死にたくない!)イモ、イモー!」
「(チャーンス!)ミミズー!」
あ、いけない。ミミズがカップの隙をついてきた!
「(カップ、戦えー!)エレキュー!」
俺は叫びながら、カップの元へ駆けつける。
「(おらー、たいあたりー!)ミミミー!」
「(う、うわあー!)イ、イモー!」
ミミズのたいあたりが、傷ついたカップをおそう!
だったら俺が、その間に入ってやる!
どかーん!
俺の体は、ミミズのたいあたりを受けてふきとんだ。
けどそのおかげで、ミミズの攻撃は止まった。
よし、今がチャンスだ!
「(ポ、ポットー!)イモイモー!」
カップは今、俺の方を見てしまっているけど、カップ。今見るべきは、俺じゃない。敵だ!
「(カップ、たいあたりだ、決めろっ。それで、勝ちだー!)エレエレキュー!」
俺はカップを激励する。するとカップの瞳の中で、やる気が高まった。
「(ポット、ありがとう。ボク、やるよ、戦う。ボクも、最後まで戦う!)イモ、イモイモー!」
カップが再び走り出す。そして、すぐさまミミズにぶつかる!
「(うおおー、たいあたりー!)イモイモー!」
「(うおお、こんな、バカなー!)ミミーズー!」
すると、その一撃で、ミミズが倒れた。
「(やったな、カップ!)エッレキュー!」
「やった、土ミミズを倒したよ、あれ?」
俺とリシェスが喜ぶ。するとカップは、俺とリシェスの前で、虹色に光り始めた。
その光は、すぐに消える。そのかわりに、カップは、今までと違う姿へと変わった。
緑色の芋から、赤紫色の体へ。
少し、いや大分、大きくなったか。もうその見た目はただの芋じゃない。特大芋だ。
そして何より、ピョンピョンとびはねるだけだった体は今、ずっと空中に浮いていた。
これは、なんだ。どういうことだ。カップの身に、何が起こったんだ?
「ひょっとして、変態?」
リシェスが言う。
「(え、モンスターって変態するの!)エ、エレッキュウー!」
なんてこった。まさか、モンスターにこんな秘密が隠されていたとは。
というか、これ進化だよな。早っ。
「(やった、やったよ、ボク、強くなれた!)イモ、イモイモイモー!」
新しい姿に生まれ変わったカップは、喜んでいる。
「あれは、カルイモ。ヨワイモの、速度特化変態」
へえ。更に速くなったのか、あいつ。なら、この先、頼もしく活躍してくれそうだな。
カップの勝利と同時に、変態か。これは凄い。凄い良い展開だ。
「(おめでとう、カップ)エレ、エレキュー」
「(ありがとう、ポット、リシェス。ボクだって戦える。ボクだって勝てる。うおお、ボク、やるぞー!)イモ、イモイモイモ、イモー!」
こうして、リシェスの二体目のテイムモンスターは、テイムして早々に変態したのだった。
カップの勝利&変態にはしゃいだ後。
「よいしょっと。よし、この土ミミズ、まだ息がある。きっと回復したら、良い土を生むに違いないわ」
なんと薬草五個目を採取し終えたリシェスが、倒したミミズを抱きしめ始めた。俺としては、これも衝撃的な展開だ。
「(え、リシェスそれ、持って帰るの?)エレ、エレエレーキュ?」
「(え、何々、どういうこと?)イモモイモイモ?」
「ポット、カップ。土ミミズはね、食べて排泄した土を、すっごく良い土に変えるの。持って帰れば良質な肥料がわりとして、ちょっと良い値段で買い取ってもらえるわ。それできっと、カップの首輪代が手に入る。これはとってもラッキーな獲物よ。でかした、ありがとうカップ!」
リシェスはそう、うれしそうに説明してくれた。
そう、お金になるならいいけど。でも、薬草だけじゃ足らないのか?
倒した後とはいえ大きなミミズを持たれるのは、ちょっと心配だ。
「(ボク、ボクがんばった!)イモ、イモ!」
「それと、ポットも最後のカップをかばった姿、とってもかっこよかった。ありがとうね、ポット!」
「(うん。まあ大したことなかったぜ)エレエレッキュ」
たいあたり一回くらいは耐えられる自信があったからな。それよりも、あの後カップがすぐにミミズを倒せたのが良かった。
「さあ、それじゃあ帰ろう、皆!」
「(おー)エレー」
「(うん!)イモ!」
それじゃあ、後は帰り道のリシェスの護衛だけだな。
思わぬ収入も手に入ったみたいだし、テイマー初日は成功といっていいのではないだろうか。
「(あ、敵だー!)イモモー!」
村の入り口まで戻って来ると、そこにいた門番の男を見て、カップが警戒心をあらわにした。
いやいや、敵じゃない。カップ。人を見てそう思うのは、とっても危険だぞ。悪いやつは注意しないといけないが、あの人は良い人だ。
「(おちつけ、カップ。あの人は敵じゃない。仲間、みたいなものだ)エレッキュ、エレッキュ」
慌ててカップに説明する。するとカップは、まだよくわからなさそうに首をかしげた。
「(仲間、みたいなもの?)イモ?」
「(リシェス達人間は、皆で支え合って生きているんだ。あの人はただ、俺達以外の危険なモンスターが村の中に入らないように見張っているだけだ。だから、俺達は安心してここを通れる。あの人は、俺達の仲間みたいなものなんだ)エレッキュエレキュー」
「(本当?)イモ?」
「(ああ、本当だとも。村の中にも人はたくさんいるから、全然気にしなくていいぞ。けど、その人達に悪さはするなよ。もしそんなことをしたら、リシェスに迷惑がかかるからな)エレキューキュー、エレキュー」
「(わ、わかった。皆、仲間みたいなもの、なんだ)イモ、イモー」
カップがそわそわしていると、門番がカップに目を止める。
「お帰り、リシェス。その土ミミズは見事にぐったりしているが、しかしこっちのカルイモは、どうしたんだ?」
「ただいま、ハースンさん。このカルイモはですね、カップって言って、私の新しい仲間なんです。早くテイムモンスター用の首輪をつけてあげないと!」
ああ、そうか。カップにも首輪が必要なんだな。首輪、首輪?
イモの体に、首輪がつけられるのか?
いや、でも首輪が必要なら、つけるしかないだろう。大丈夫、きっとなんとかなる。そう信じよう。
とにかく、ハースンはリシェスの言葉に、うなずいた。
「なんだ、そうなのか。しかし、エレキュウをつれてきたと思ったら今度はカルイモか。凄いな、リシェスは。こんなこと初めてだ」
「えへへ、二人共とっても良い子なんです!」
そんな感じで門番とカップの面通りも済み、俺達は村の中に戻る。
そして畑で土ミミズをお金に変えたリシェスは、次にギルドに戻り、薬草を納品した後、カップの名前をテイムモンスター届けの書類に加える。
そこですぐに買った首輪をカップにつけて、リシェスは笑顔になった。
「はい、カップ。首輪、とっても似合ってるわ!」
「(わーい、わーい!)イーモ、イーモ!」
カップは喜んでいる。良いことだ。リシェスもそれを見て喜んでいる。俺の時も、もっと喜んでおけば良かったか?
カップの首輪は、どっちかっていうと腹にベルトを巻いてる感じだ。なんだかんだ似合っている。一目見て野生のモンスターとは思えないし、きっと皆そんなに警戒しないだろう。
「(ポットとおそろいだー!)イモモー!」
「(まあ、そういう見方もあるな)エレーキュー」
「よし、それじゃあまだ時間もあるし、一度ご飯を食べた後、また森に行って新しい依頼をこなすわよ。今度の依頼は、ファイト花を8つ納品。がんばろうね!」
「(おー!)エレー!」
「(おー!)イモー!」
また納品か。けど、薬草じゃないってことは、その分難しいのかな。とにかく、まずは飯だ。食べよう。
そして俺達が来た場所は、八百屋。リシェスは俺がスープを食べることを知っているが、カップのことはまだ知らない。なので、きっと食べるなら野菜か果物がいいだろうとの判断だ。それに俺も野菜か果物でいい。
「皆の食べ物って、きっと野菜とか、果物でいいよね。もし生肉とかだったら、嫌だけど」
安心しろ、リシェス。俺も流石に生肉はパスした。
けど、カップはどうなんだろう。これで肉食とか言われたら嫌だな。なんにしろ、ここではっきりしておかなければ。
「(カップはどうだ、今まで何食べてきたんだ?)エレエレキュー?」
「(ボクは、そのへんの草食べて生きてきた)イモイモイモ」
おおう、ワイルド。やっぱり野生って過酷だよな。俺は木の実を見つけられただけマシだったようだ。
「(安心しろ、カップ。リシェスはもっと良い物食べさせてくれるぞ)エレエレッキュ」
俺はそう言って、カップと共にリシェスの足元で待機。それを見たリシェスは、八百屋の人に声をかけた。
「あの、すみませーん。お野菜手に取っても良いですかー?」
「ああ、いいよ。どれも新鮮だよ」
「はーい。じゃあ、まずは、トットトトマトからいこうかな」
リシェスはそう言って、ミニトマトを手に取って俺達に見せた。
「はい、ポット、カップ。これは、食べられそう?」
「(何それ、凄く美味しそう!)イモイモー!」
カップが目を輝かせている。俺も、トマトくらいならいけそうかな。ピーマンとかナスの生はちょっとパスかな。
「(俺も、それで良い)エッレッキュ」
リシェスに親指を見せる。
「ふふ、ポットもカップも、凄く喜んでる。良かった、じゃあトットトトマトはオーケーそうね。それじゃあ次はー」
今度はリシェスは、黄色い実を俺達に見せた。
「はい、キキンカン。どう、食べられそう?」
「(わあ、それも凄く美味しそうー!)イモイモー!」
「(俺も、たぶん大丈夫だ)エッレッキュ」
リシェスに親指を見せる。たぶんこれ、キンカンだよな。初めて食べるけど、きっとおいしいよな?
「よし、それじゃあ決まりね。お姉さーん、トットトトマトとキキンカンをくださーい!」
「はーい。量はどのくらいにする?」
「両方二百グラムルずつください」
「わかったよ。まあ、そのモンスター達は、安全な子達なのかい?」
「はい。私のテイムモンスターなんです。まだ仲間にしたばかりで、何を食べるか分からなくて、まずはトットトトマトとキキンカンをあげてみようと思って」
「(そうなんだよ。よろしく)エレッキュ」
「(よろしく!)イモ!」
俺とカップが声をかけたら、八百屋の人はニッコリ笑顔となった。
「あら、そうなのかい。じゃあ、サービスしとくよ。どっちも二十グラムルずつおまけしておくから」
「いいんですか、ありがとうございます!」
リシェスはお金を払い、商品が入った二つの紙袋を受け取る。そして次にパン屋に行って、ナッツパンを1つ買うと、一度ギルドに戻り、料理屋スペースで俺達にごはんをくれた。
「はい、二人ともー。まずは、トットトトマトだよー」
うん、見たまんまトマトだ。甘かったら良いな。
「(ありがとう、リシェス。いただきまーす)エッレキュー」
リシェスの手から受け取る。俺は一つずつ両手でいただいて、カップはそのまま口で食べ始める。
「(ぱくぱく、美味しい、これ美味しいよー!)イモ、イモー!」
「(うん。ちょっとくせと甘みが強い、トマトだな)エッレキュー」
俺もカップも、美味しい物を食べれて喜ぶ。すると、リシェスも笑顔になる。
「良かった。ポットもカップも、喜んでるみたい。それじゃあ、パンも、食べる?」
「(んー、くんくん。それはいらない)イモー」
「(俺も、パンはいいや)エッレッキュー」
流石に、パンを一つしか買ってないところを見ているので、俺は遠慮する。ごはんが果物だけっていうのもなんだか偏ってる気がするけど、まあモンスターだし問題ないだろう。
だから、そのパンはリシェスが食べてくれ。
「そう。今度からも、野菜か果物をあげていれば良さそうね。ポット、カップ。これ食べたら、また頑張ろう!」
俺達にそう言って、リシェスもナッツパンを食べる。俺は肉系もたまに食べたくなるけど、まあ、モンスターだし、選り好みできないよな。ベジタリアンで満足だ。
ごはんを終えたら次は依頼。さあ、がんばるぞー。
午後からはファイト花の採取依頼だ。俺達は、北の森へと向かった。
「(敵だー!)テリー!」
「(敵だー!)アオー!」
すると、森に入ってすぐに、アーモンドモンスターと青い亀と戦った。リシェスの知識によると、アーモンドモンスターはミステリーシード。亀モンスターはアオタートルと呼ぶらしい。
現れる敵はどれもすぐ倒せるが、それは俺のレベルが上がっているからというだけではない。カップの攻撃もあるからだ。やっぱり仲間がいると凄く戦いやすいな。頼もしいともいう。
しかし、心なしか、西より北の方がモンスターが多い気がする。ひょっとしたら、長い間北の森にいるのは危険かもしれない。カップとリシェスがいてくれるから、大変さは半減しているけど、体力の消耗具合にも注意しておかないとまずそうだ。
「やった、ファイト花二つ目。この調子でいこうね、ポット、カップ!」
リシェスが笑顔で、二つ目のファイト花を採取する。
「(そうだな。あと六つか)エレッキュ」
「(よくわからないけど、リシェスがうれしいならボクもうれしい!)イモイモモー!」
ファイト花は、オレンジ色と白色の二色の、大きな花だった。なかなか見つからなかったが、特徴的な形なのでかなり見つけやすい。
この調子で、どんどん集めよう。最低でも、日が暮れる前には帰らないとな。
よーし、この勢いでどんどん見つけるぞー。
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