気づけばモンスター

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4俺がお前を守る

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 俺とリシェス、ついでにオルツだけになった夜道を、話しながら歩く。
「エレキュウ。ミネスさんはね、私の先輩なの。冒険者としても、回復師としても、どっちも優れた人。優しくて、実力があって、とっても頼れるお姉さんなんだ」
「(良い人なんだな)エレキュー」
「ミネスさん、きっと、私達のこと心配して、ギルドでずっと待っててくれたの。私達が、初めてのクマザル退治に行ったから。私達も余裕で倒して、笑顔で戻ってこれたら良かったんだけど。結局、ミネスさんに助けてもらっちゃった」
「(まあ、そういうこともあるよ)エレエレキュー」
「ねえ、エレキュウ。もしかしたら私は、今度はあなたのことも危険な目にあわせてしまうかもしれない。傷つけてしまうこともあるかもしれない。それでも、私と一緒に冒険してくれる?」
 そのリシェスの言葉に、俺は思わず笑ってしまいそうになった。
 なんだ、俺もリシェスも考えることが同じか。互いを思い合って、それで不安になって、それでも一緒にやっていきたい。同じ道を歩いていきたい。
 考えてみれば、俺達はまだ実力不足だ。俺がお前を守るなんて台詞、自信満々には言えやしない。
 だから、一緒に強くなって、一緒にやっていこう。同じようなことを考える俺達なら、きっと上手くやっていけるさ。
 そう思って、俺は強くうなずいた。
「(まあ任せろ。少なくともそのオルツよりはお前のこと守ってやるよ)エレ、エレエレッキュ、エレッキュ」
「ふふふ、なんだか頼もしい。こんなに小さいのにね」
 確かに俺の頭はリシェスの膝下の高さにあるが、けど、戦闘経験はかなりある。今でもリシェス一人くらい、なんとか守ってやれるつもりだ。
「ありがとう、エレキュウ。私も、頑張ってエレキュウを守るから、一緒に頑張ろうね」
「(ああ、そうだな)エレッレキュー」
 一緒に頑張る、か。それがいい。良かった。リシェスと意見が一致すると、凄く安心できる。
 本当は、ずっと俺がリシェスを守ってあげられれば、それが良いんだけど。けど、一緒に強くなれたら、そっちの方がもっと良いに決まってる。この世界は、モンスターに魔法、なんでもありだ。だから、守らなくても良い程リシェスが強くなれたなら、それもありだ。
 もしかしたら本当に、リシェスはいずれ、俺がいなくても大丈夫なくらい強くなれる日がくるのだろうか。
 その時は、その時だ。それに、その後リシェスと一緒にいることも、俺の自由なはずだ。
 折角リシェスのテイムモンスターになったんだし、しばらくはリシェスとの生活に身をおこう。
 これから、もっと仲良くなれればいいな。

 オルツの家に着いた。
 すぐにオルツの親が来てくれる。
「おお、ありがとうリシェス。オルツをつれてきてくれて」
「いえ、当然です。では、私はこれで失礼します」
「ああ、気をつけて帰ってね」
 家の前で、オルツを引き渡す。リシェスはすぐにその場を去った。
 そして本当にすぐ近くに、リシェスの家があった。というか隣の家だ。予想以上に家と家との距離が近くてびっくりした。
「ただいま」
 家の中におじゃますると、二人の男女とすぐに目が合う。リシェスの両親だ。
「おおリシェス、お帰り。遅かったね」
「ああリシェス、今日も無事で良かった。もうスープは冷めてしまったわよ。あら、そのモンスターは?」
「(初めまして、エレキュウです)エレッキュ、エレ、エレキュー」
 俺は注目される中、完璧に挨拶をした。まあ、エレキューとしか言えないわけだけど。それでも礼儀正しさを感じる態度というのは、見た目で感じてもらえるはずだ。
「お父さん、お母さん。この子はエレキュウ。今日、この子に命を救われたの。そして、私のテイムモンスターになってもらっちゃった」
「なんと、この子がリシェスの恩人なのか!」
「まあ、なんということでしょう。それじゃあ、しっかりお礼をしないと!」
 お父さんお母さんはものすごく驚いた。そんな、お礼なんていいですよ。しっかり飼ってもらえるならそれで構いません。
「(お父さん、お母さん。どうか普通にしててください。俺は、家の外ででも寝ますので)エレエレー、エレッキュッキュ」
「リシェス。ではまず、先にお風呂に入りなさい。このエレキュウも、一緒にお風呂に入れてあげてはどうだろう?」
「(え、お風呂!)エレッキュー!」
 それはうれしい。いや、けど、リシェスと一緒というのは、どうなんだ?
「うん。そうするね、お父さん」
 けどリシェスは即オーケーだった。おおう、リシェス。俺はまだ心の準備が出来ていないぞ。本当に一緒のお風呂でいいのか?
 動揺しているのは俺だけで、リシェス家族は笑顔でそれぞれ動き出す。
「それじゃあすぐにスープを温め直すわね。今日はたくさんスープを作っておいて良かったわ。あら、そういえばエレキュウちゃんは、スープを飲めるのかしら?」
「(いえお母さん、本当、おかまいなく)エレッキュッキュ」
 温かいスープなんて、ありがたすぎて逆に恐れ多い。今まで木の実しか食べてこなかったんだぞ。なのにいきなり人のご飯をごちそうしてもらえるだなんて。夢みたいだ。
 けど、リシェスと両親は、まるでそれが当然だと言わんばかりだ。それはきっと、リシェス達だからごく自然に言えることなのだ。
 リシェスの家は、小さいけど、温かかった。

 リシェスの家の間取りは、入ってすぐが台所と、寝所。奥の右がお風呂で、奥真ん中がトイレ。左側が服とか物とか、いろいろ収納している物置になっていた。
 お風呂の作りは木製で、明かりもシャワーもあった。石鹸やシャンプーはないけど、そのかわりに良い香りがする薬草の束が置いてある。
 そしてリシェスはすぐにすっぽんぽんになると、シャワーを出して、まず俺を洗った。
 正直、ドキドキする。何もやましいことはないはずなのに。
 いや、俺が人だったら大変なのか。きゃーやめてー、俺の全身がまさぐられるー!
 はあ。モンスターの身で、何を思っているんだか。でも、それでもやっぱり一緒のお風呂は、大変だ。
「はーいエレキュウ。まずはきれいになってー。大丈夫、私が全部やってあげるね!」
 うわーい、なんか、人権がない気分ー。ああ、モンスターってこんなに大変なんだ。
 本当、目のやり場に困るし、自分で自分を洗えないのもなんともいえない。けど、それも仕方のないこと。今の俺の手はちっちゃな前足なのだ。これではとても全身、特に背中には行き届かない。
 つまり俺、一人で体を洗えない。ある意味苦行だ。
「エレキュウ、良い子ねー。すっごく大人しい」
 一方リシェスは楽しそうだ。いや、嫌そうに体洗われたくないんだけど、でも楽しんで俺の体洗われるというのも、なんともいえない気分。
 リシェスは妹なんだけど、妹じゃない。だから、恥ずかしいというか気恥ずかしいというか、なんとも微妙な気持ちだ。少なくとも、嫁入り前の身で俺なんかとお風呂に入っていいものかと気にしてしまう。
 けど、俺もお風呂に入らないと、毎日リシェスと一緒にいるのはどうかとも思うし、本当、今は精神力が消耗する時間だ。
「よしよし、清潔草でこすってあげるねー。ん、そういえばエレキュウ、さっきから全然喋らないね。ははーん、さては照れてるのかなー?」
「(照れるというか、どうしようもないって感じだ)エレエレキュー」
「そのまま、動かないでね、エレキュウ。はい、次は、お腹もこすってあげる」
 あ、あっ、リシェス、そっちは、そのお腹の下は、ダメだ、大事な、俺の大事なところがある!
 あー!
 その後、俺は脱力しながら、お風呂のお湯に浮かんでいた。
 これが、ペットの気持ちか。ううう、俺もう一生、お婿に行けない。
 なんて、これで心砕かれてるわけにはいかないよな。なんてったって、お風呂は毎日入るものだからだ。これがずっと続くと思うと、ぞっとする。
 けど、今リシェスを守れるのは、俺だけだし。きっとそうだし。
 よし、頑張ろう、俺。例えこの身が朽ちても、リシェスだけは守らないと。じゃないと、折角ここまで来た意味がない。
 それに、お風呂は暖かくて気持ち良い。リシェスに草で体をこすられたせいか、全身から良い香りもする。これはこれで、良いかもしれない。
 要は、成り行きに身を任せろ。諦めるところは諦めて、譲れないところだけ貫こう。これからどうなるかはあんまり分かってないけど、少なくともリシェスだけは、幸せにしてやらないとな。

 お風呂入って、ごはん食べて、一緒に寝て。
 気がついたら、朝だった。
 寝所スペースでは、家族三人で寝ているらしい。ギリギリ三人入れるスペースで川の字になって、俺はリシェスの抱き枕代わりだった。
 もう完全に目覚めたけど、まだ布団の中にいるとするか。
 俺はリシェスの匂いがするベッドの中でスーハーしながら、今俺がモンスターじゃなくて人だったら大変なことになっていたな。と思うのだった。

 そして、皆起きて、それぞれの仕事へと向かって。
 俺とリシェスは、昨日受付で言われた通り、モンスターテイマー係の人に、モンスターテイマーとしての心得を諭されていた。係の人は、教科書を開きながら直読みだったけど。ちょっと威厳がないな。
「ええと、モンスターテイマーは、常にテイムモンスターへの注意を義務付けられています。万が一テイムモンスターが他者を傷つける、あるいは他者の所有物を破損させる等の行為を働いた場合、その責任は全てモンスターテイマーが取ることとなるからです」
 それは大事なことだ。ちゃんと注意しておかないとな。まあ、そんな機会はあんまりない気がするけど。
「しかし、何か理由があってテイムモンスターがその力を使う場合は、モンスターテイマーの判断、正当性を考慮します。また、テイムモンスターはモンスターテイマーの所有物、道具としてみなされるので、テイムモンスターが他者に傷をつけられた場合等、なんらかの事件事故が起こった場合、テイムモンスターは扱いを道具として判断されます。モンスターテイマーは、その点を十分理解していてください」
 俺は、道具扱いか。まあ、ここで人権を主張するつもりもないし、ペット権利というものがあっても、ペットにどのように有利に働くかもいまいち想像しづらい。だからそこは、まあいいだろう。
「テイムモンスターは、場合によっては一体が冒険者一人分としても扱われます。なのでモンスターテイマーとテイムモンスターが、一人につき一定の報酬を払う依頼を引き受けた場合、モンスターテイマーは自分の分に加えテイムモンスターの分も報酬を受け取ることができます。同時に、人数制限が一人と限られた依頼をモンスターと共に行うことも、依頼主が認めれば可能です。なのでモンスターテイマーが依頼を受ける際は、依頼内容と報酬の詳細をよく確認するようにしてください。ただし、モンスターを三体以上五体以内テイムする場合、ランク2モンスターテイマー試験を合格する必要があります。もしテイムモンスターを増やしたい場合は、事前にランクアップ試験を受けることを推奨します」
 ほう。ランクアップか。まあ、今のところ俺とリシェスしかいないし。そんな必要はないだろう。
「そして、万が一モンスターテイマーがテイムモンスターを育てられなくなった場合、テイムモンスターは直ちに他者に譲るか、または野生に返す等の処置をとってください。一番起きてはならないことが、モンスターテイマーの手から離れたテイムモンスターが村の中で暴れ出すことです。もしもそういったモンスターの被害が起こった場合、今後モンスターテイマーという職種の処遇が問われることになります。くれぐれも、注意するように」
「はい」
「(わかったぜ)エレッキュ」
「ふう。モンスターテイマーへの心得は、以上です。モンスターテイマーは以上の点に気をつけて、依頼を達成してください」
「わかりました。ありがとうございます、教官」
「(長い説明、ご苦労さん)エレエレッキュ」
「さて、これで注意点は一通り話し終えましたが、次は、テイマーとして大切なことを説明します。リシェス、今このエレキュウには、名前がありませんね?」
「えっ、はい」
「それではいけません。エレキュウはこの世界にたくさんいます。もし別のエレキュウと会って見分けがつきづらくなった場合、名前を呼ぶという行為は非常に大事です。登録用紙にもエレキュウの名前が書いてありませんでしたし、今すぐつけることをおすすめします」
「え、えっとお」
 俺とリシェスは、お互いを見る。
「ねえ、エレキュウ。あなたに名前、つけてもいい?」
「(いいぜ)エレキュー」
「うーんと、えーっと、じゃあ、ポット。あなたの名前は、ポット、どう、可愛いでしょ!」
「(ノーコメント)エレキュー」
 こうして、俺の名前はポットになった。
「ふむ、よろしい。後は、テイムモンスターに使える薬や、トイレのしつけも必要です。これから依頼をこなす前に、きちんとしておいた方が良いですよ」
 教官は、それからもモンスターテイマーの心得を話しまくった。勿論、引き続き教科書を読みながらだけど。
「ふう。ここで言うべき点は、このくらいでしょう。これで、モンスターテイマーの心得は終わりです」
「ありがとうございます、教官!」
「(ちゃんと気をつけるぜ)エレエレッキュ」
 ここで、教官は俺をまじまじと見る。
「しかし、まさかこの村にモンスターテイマーが現れるとは。俺がギルドでの仕事を始めて、兼任のモンスターテイマー係の仕事を行ったのは今回が初めてですよ。それに、テイムモンスターはエレキュウですか。頑張ってくださいね」
「はい、教官。私、がんばります!」
「(俺も、がんばるぞ!)エレ、エレキュー!」
 こうして、リシェスのモンスターテイマーとしての第一歩が始まり、ついでに、俺のテイムモンスターとしての第一歩も始まった。

「よお、どうやらモンスターテイマーの手続きが終わったようだな」
 俺とリシェスが教官といた部屋は、ギルド館の奥の一室だった。そこを出て廊下から受付等があるホールにまで戻って来ると、料理屋席でオルツ達が待っていた。スフィンとヨデムもいる。そして今は朝だからか、俺達だけしかいない。
「そのエレキュウが、今日から俺達のかわりってわけか。はんっ、そんなやつといても、絶対強くなれないぜ?」
 オルツが会っていきなりそんなことを言う。なんかこいつ、ピンチの時以外でも、嫌なやつだな。
 自然と、俺もリシェスもオルツに怒った。
「むっ。そんなことない。エレキュウは強い。その実力は知ってる。それに、無理して強くなる必要もない。ちゃんと依頼が達成できるなら、それで良いんだから!」
「はっ。強くないと稼げないんだよ冒険者は。俺達四人とそのエレキュウを加えるならまだわかる。けど、エレキュウ一匹とお前だけで冒険者をやっていくなんてのは、ありえねーんだよ常識からいって!」
 リシェスとオルツが睨み合う。
「オルツ、あなたと話すことなんてもう何もない。私はこれから、このエレキュウ、ポットと二人でやっていく。私はパーティ脱退する!」
「そんなことして上手くいくと思うか、無理だね。俺達は四人でだからここまでやってこれたんだ。それを崩してやってけるだと、そんなの不可能に決まってるんだよ!」
「無理なのは、これ以上このパーティでやっていくことよ」
 後ろからスフィンが来て、オルツに言った。
「オルツ。あなたはそれなりに頼れる剣士だったけど、あなたが最後のパーティの絆を断ち切ったわ。私もパーティを抜ける。しばらくは魔法使いギルドで修行するわ。その後また冒険者をやるか、それとも戦わない魔法使いとしてやっていくかは、その後決める」
「おい、スフィンも抜けたら、ますます俺達やっていけなくなるだろ。後衛が二人も抜けたらどうすんだ。その分戦いがきびしくなるんだぞ!」
「オルツ。もう一度言うが、俺もパーティを抜ける」
 ヨデムが言う。
「盾使いの俺が最初に脱落したのは、かなり問題だ。盾は、耐え抜いて仲間を守りきることに意味がある。今の俺は、仲間を守れるだけの力がない。一から鍛え直さなければ、俺はもう冒険はできない」
「ヨデム、お前も何言ってるんだ。力なんて、敵倒してレベル上げればすぐつくんだよ。依頼をこなしてこなしてこなしまくる、それが強くなる一番の近道だってことを忘れたのか!」
 オルツが叫ぶ。けど、それに意味はないだろう。
 もう、皆の心はバラバラだ。一つになれないパーティに、未来はきっとない。それがオルツだけ、わかってないのだ。
「さよなら、オルツ。ポット、行こう」
「(お、おう)エレッキュー」
 俺は歩き出したリシェスに続く。
「じゃあね、オルツ。皆、何かあったら、相談くらいはのるから」
 スフィンが出口へ歩き出す。
「オルツ、もうお前と組むことは、ない」
 ヨデムもそう言って歩き出す。
「なんだよ、なんなんだよお前ら、おい、おいー、待てよ、待てー!」
 オルツは、その場でただ叫んだ。
 オルツ、ありえないのはお前だ。リシェスはな、ボロボロなお前をずっと運んでたんだぞ。それなのに、仲間にお礼を一言も言えないのかよ。他の皆に対しても、そうだ。四人皆で死地を潜り抜けた後だろ。その翌日に会って言う言葉が、それかよ。他に何か、あるはずだろ。
 こんなやつに、自分の命を預けられるわけないだろ。
 リシェスとヨデムは、ほぼ同時に掲示板から紙を一枚取り、それを受付に持っていって依頼の受注を済ませた。
 オルツ一人だけが、昨日、パーティが負けたことを何とも思っていないようだった。

 俺とリシェスは、二人で村を出る。ただし、村からの出口は昨晩通った場所からじゃない。昨日は東側から帰ってきたけど、今日は南方面から森に入る。
「ポット。まずは、簡単な薬草の依頼を受けたわ。これを採取しながら、モンスターを見つけて倒して、ちょっとずつ強くなっていこう」
「(おう、そうだな)エレキュウー」
 モンスターだけじゃなく、薬草も見つけるのか。なら、俺も手伝おうかな。
 少し歩くと、リシェスはすぐに立ち止まった。目の前には、一本の草が生えている。他の草よりも葉っぱが広く大きくて、ちょっと目立つかな?
「ポット、これが薬草よ。ただ傷口に塗るだけじゃなくて、食料に使えば日持ちするようになるの。だから、毎日のように採取依頼があるのよ」
「(へえー)キュー」
 なるほど。毎日ある依頼なら、何回でもできるわけだな。それじゃあしばらくは、この依頼をくりかえすことになるのかな。
 よし、薬草の形は憶えたぞ。今後は俺も探そう。
「収納」
 リシェスがそう呟くと、採取した薬草が手から消えた。
「(すげえ、マジック!)エレエレッキュ!」
 俺、オーバーリアクション気味に驚く。まさか、ここで手品みたいなものを見られるとは。昨日も回復魔法の力を見たけど、まだまだ驚ける。
 そんな俺を見たリシェスが、得意げにほほ笑む。
「えへへ、驚いた、ポット。これはね、バッグ魔法なんだ。出ろって言うと」
 また、リシェスの手に薬草が戻った。
「こうやって取り出せるの。冒険者に必須っていわれる程の魔法なのよ。まあ、使いすぎると魔力の消費が激しいから、あまり回数をこなすのは難しいけど。収納」
 なるほど。これで冒険者は、どんな物も持ち歩けるわけか。すげー。
「さ、行こう、ポット」
「(ああ!)エレッキュ!」
 こうして、俺達の薬草集めは順調に始まった。

 そして、薬草を二つ集めた後。
 ガサガサ、ガサリ。目の前に、初めて見るモンスターが現れた。見た感じ、緑色のイモだ。それに二つ目がついていて、ピョンピョンはねて動いてる。
「(お、敵!)ヨ、イモー!」
「(む、出たな、モンスターだな!)エレエレッキュー!」
「あ、ポット、あれはヨワイモよ。戦って、倒しちゃって!」
 なるほど、やっぱりイモモンスターなのか。よし、それじゃあ早速ヨワイモを倒そう。リシェスに良いとこ見せてやる!
「(いくぞ、ヨワイモー!)エッレキュー!」
 俺はリシェスを守るように敵モンスター、ヨワイモへと走る。見た感じ、相手はそんなに速くない。ここは、一気にかたをつける!
「(ええい、エレキアタックー!)エッレー、エレキュー!」
 電気を体にまとい、たいあたり!
「(うわー!)ヨイモー!」
 すると、ヨワイモはまともにダメージを受け、ふきとんだ!
 よし、追撃だ!
「(エレキ射出ー!)エーレー、キュウー!」
「(やーらーれーるー!)ヨーワーイーモー!」
 エレキ射出も、見事命中。その後、倒れたヨワイモは、ピクリとも動かなくなった。
 よし、俺達の勝利!
「やったねポット、ヨワイモを倒したわ!」
「(やったぜ!)エレキュー!」
「でも、ヨワイモはこの辺りでは皆が最初に倒す、弱いモンスター。ここで浮かれていては、ダメね」
「(そうなのかあ)エレーキュー」
 リシェスが喜んだから、てっきり厄介なモンスターなのかと思った。でも、まあこの調子なら大丈夫だな。このまま薬草採取を続けよう。
 そう思っていると、リシェスがナイフを取り出して、倒したヨワイモに近づいた。
 倒したモンスターと、よく切れるナイフ。なんだかちょっと、悪い予感がする。
 と思っていると、リシェスはおもむろにサックリ、ヨワイモの体を半分にした。
 ああ、やっぱり、というかちょっとショックな映像だ!
「(何やってんのー!)エレッキュー!」
「あ、ポット。ヨワイモはね、体がとっても美味しいの。火を通したら甘くてホックリして、いくつ食べても飽きない程なの。ポットも、きっと気に入るわよ」
「(あ、そう。それ、食べるんだ)エレ、キュー」
 ていうか、食べた感じもまんまイモなんだ。
「顔がある上半分は、美味しくないから切っちゃうんだけどね。さて、収納。さあ、それじゃあ行こうポット。この調子でどんどん倒そうー!」
「(お、おー)エレキュー」
 ひょっとしたらリシェスは、甘いお芋が食べられると思って喜んだのかもしれないな。
 まあ、なんでもいいや。とにかく今は、戦闘&薬草だ。戦利品のことは、全部リシェスに任せよう。
 けど俺は、ちょっとナイフで切ったヨワイモは食べたくないかな。できるだけ普通の食べ物が食べたい。

 その後、ヨワイモをまた倒して、三つ目の薬草を採取した。その直後。
 ガサガサ、ガサリ。
 すぐそこにあった茂みから、またヨワイモがとびだしてきた。
「あ、ポット、またヨワイモが!」
「(よし、倒すぞー!)エレエレキュー!」
 俺はすぐに戦闘態勢を整える。そして。
「(ひ、ひいー、敵ー、逃げろー!)イモイモイモー!」
 目と目が合った瞬間、そのヨワイモはガサガサと出てきた茂みへと戻り、逃げていった。
 なので俺とリシェスは思わず、ヨワイモが出て来てまた隠れた茂みを、ちょっとの間見つめてしまった。
 戦闘を避けるモンスターを、俺は今日初めて見た。
「逃げる、モンスター。そういう子も、いるんだね」
「(そう、みたいだな)エレエレエレッキュ」
 思わずそう呟いていると、見つめている茂みの先で、ガサガサドンと、何やら音がした。
「(ぎゃー、助けてー!)イイモー!」
 しかも、さっきのヨワイモっぽい悲鳴も聞こえてきた。
 これは、行くべきか?
「(ええい、とにかく行くか!)エレレキュー!」
「あ、どうしたのポット、ポット!」
 まずは走ろう。行ってみたら、次にどうしたいかがわかるかもしれない。
 このまま悲鳴を無視するのも、なんだか後味悪いしな。
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