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2あなたに会えて、本当に良かった
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ここで今ふと思ったが、俺、技をエレキ射出しか使ってなくないか?
俺が使える技は、エレキ射出、たいあたり、鳴き声だ。これって、他の技の力も試した方がよくないか?
まあ、たいあたりは敵が使っているのを見たことがあるから、いいとしよう。けど鳴き声は、技名を見ただけではどんな力があるかわからない。技としてあるくらいなんだから、一度くらい使ってみた方が良いかもしれない。
体力がちゃんと回復するまで休んだ後、またモンスターを探す。一体だけ敵が見つかればいいなあ。そしたら余裕がある状態で鳴き声の力を試せるんだけど。
そう思って走っていたら、都合よく一体だけいるモンスターを見つけた。
赤い体をしたトカゲだ。よし、丁度いい。こいつに鳴き声を試してみよう。
「(くらえ、鳴き声!)エレキュー!」
「(鳴き声ー!)アカッカー!」
うお、相手も鳴き声を使ってきた。しかもその直後、なんだか少しだけ、体に力が入らなくなったぞ。それに、相手から視線をそらしづらくなった気もする。
まさか鳴き声って、相手の力を弱め、ターゲットを自分へ集中させる技?
何それ強っ。今までたいあたりでハラハラさせられた場面は何度もあった。あの時くらったたいあたりも、予め鳴き声を使っておけば弱められたというのか。ターゲットを集中させる効果は、今のところ使い道はあまりない気がするが、憶えておいて損はない効果だろう。
まさか、これほど鳴き声が使える技だったとは。まあ、すぎたことは仕方ない。これからどんどん多用していこう。そして、今回も勝とう。
「(えい、エレキ射出!)エーレー、キュー!」
「(火の玉射出!)アカー!」
相手の火の玉と俺の電気が交差する。そして、お互いに当たる。あつっ、熱い、熱い!
なんだあいつ、火を使うのか。今までのモンスターの中で一番やばいやつじゃないか!
これは真向からうちあいしてる場合じゃない。トカゲの火の玉はやたら熱いぞ。どうにか回避重視でいこう。
「(火の玉射出ー!)アカアー!」
そう思っていたら、すぐさま第二の火の玉が飛んできた。えい、動け、俺。軽やかに火を回避だ!
実際に行動に移してみたら、ギリギリ回避に成功した。ふう、心臓に悪い。けど、良かった。なんとか避けられない速さじゃない。
「(まだまだあ、火の玉射出ー!)アカー!」
トカゲは三度目の火の玉を吐いてくる。よし、今度は超集中だ。ギリギリ回避すると同時に、こちらも攻撃!
「(エレキ射出ー!)エーレー、キュー!」
「(ぎゃー!)アカー!」
よし、効いている。この調子でいけば、倒せるぞ!
と、思った次の瞬間。
ガサガサ、ガサリ。
なんとトカゲがいる方から、もう三体トカゲが現れた。
「(敵だー!)アカー!」
「(鳴き声の合図だー!)アカー!」
「(見つけたぞ、敵ー!)アカー!」
なんと、相手の鳴き声は仲間集合の合図にもなっていたらしい。こ、これはまずい。4対1じゃ勝てっこない!
となれば俺がすべきことはただ一つ。逃走だ。それしかない。
「(即逃げだー!)エーレキュー!」
すぐさま後ろへ猛ダッシュ。まさか、あいつに仲間がいたなんて。これは想定外だ!
「(火の玉射出!)アカー!」
4つの火の玉発射を察し、一度ピョンと右へはねつつ全力ダッシュ。それでも火の玉の一つがお尻に当たって、もう熱いのなんの、生きたまま焼かれたくない。
「(くっそー、死に物狂いで逃げてやるー!)」
モンスター、怖い。モンスター、痛い。全ての戦闘に絶対勝てるわけではないのだ。毎回勝てる戦闘なんてラッキーなこと、そうそう起こりはしないのだ。そのことを改めて実感させられて、俺は強くなるための険しい道を見たのだった。
幸い、トカゲたちからは逃げきれた。
まずは、傷が癒えるのを待とう。完治するまで時間がかかりそうだから、気にならない程度になったらまた動き始めよう。
ひとまず休憩。体を休めると、自然と頭は考え事を始める。
さて、思い浮かべるのは今さっきの戦いのことだ。俺はあのトカゲとの戦いの時、一体どうすれば一番良かったのだろうか?
パッと思いついたのは、一体目のトカゲを速攻で倒すということだ。回避なんてせずごり押しできていたなら、更にダメージを受けていたとしても、もしかしたらあの一体は倒せていたかもしれない。最初に炎攻撃のダメージは受けて威力も体感できていたんだし、何回くらっても大丈夫かは直感でわかったはずだ。
最初から攻撃重視で戦っていたら、少なくともあの一体には勝利できていたかも。
でも、痛い目にあうのを承知で攻撃するって、どんだけやけっぱちなんだよ。命知らずにも程がある。
うーん、やっぱり俺は回避重視で戦いたいな。だって痛いのは嫌だ。なるべく避けたい。
やばい時は逃げて、時間はかかっても、その内勝てる戦いがあれば、それが一歩の前進なんだ。確実に強くなるためにも、勝負は常に慎重になった方が良い。今まで勝ってこれていたのは偶然だと思え。何より体を酷使するのは良くない。
あ、そうだ。エレキ射出を使いながら、たいあたりも同時に使うっていうのはどうだろう。それなら上手くいけば、二連続攻撃だ。それが二回決まれば、四回も攻撃を当てたことになる。狙い通りにことが進めば戦闘時間は半減だ。これは、試してみる価値はあるかもしれない。
なんだ、ひょっとしたら使えるぞ、たいあたり。もしかしたら鳴き声より使える。相手の攻撃には絶対に当たらないって自信があれば、鳴き声使う手間も必要なくなるし。
よし、そうと決まれば次は、エレキ射出からのたいあたりのコンボを狙ってみよう。これで戦闘が楽になれば、勝率もぐっと上がる。敵の増援が来る前に倒すことだって夢じゃない、かもしれない。
ああいや、待てよ。でもこれ、ぶっつけ本番で試すって大丈夫か?
一応先に、練習しておこう。それでできるってわかれば喜ぶ。できなかったら諦める。その結果がわかるのは早い方が良い。よし、やる気が出てきたぞー。一応用心して、今は火傷が癒えるまで静かにしてるけど。
あー、それまでヒマだ。よし、だったらイメージトレーニングだ。エレキ射出をした後、すぐにたいあたり。いや、エレキ射出を使いながらたいあたり。おーおー、強そうだ。俺。いいぞいいぞ、これができたらうんと強くなれる。
上手くいけば、アーモンドモンスターだって、亀だって、トカゲだって簡単にけちらせる。飛んでる鳥には難しいだろうけど、選択肢の一つとしては強いカードだ。
火傷がひくまで、夕暮れ時までかかった。お尻がまだ少しヒリヒリするけど、そろそろ今まで隠れていた茂みに向かって、連続技の練習をしてみる。
よーし、やるぞ、俺。やればできる。俺はできる子。やって更に強くなるのだ。
「(ふう。いくぞ、エレキ射出、かーらーのー、たいあたり!)エーレー、エーレエレエレー、キュー!」
うう、エレキ射出中は動きづらい、そして力をだしにくい!
初めて試した結果は、なんともお粗末なものだった。集中していない半端な電撃がとび、その後力の無いたいあたりが茂みにぶつかる。
こ、これは使えない。技の一つ一つに集中できていないせいで、結果的にたぶん、この二回の攻撃を与えても、一回ちゃんとやった技の威力には勝てない。
しかし同時に、この連続技を練習すれば、いずれ実戦で使えるかも。という期待をもつことができた。今はまだダメダメだが、この考えは、努力次第で強みになると思うのだ。
要するに、全ては俺の努力が左右する、気がする。そんな感想を、一度の試しで得ることができた。
「(いける、いけるぞ。俺は今、何かをつかみかけている。そしてそれは、必ず未来の俺を支える力になる!)エレ、エレッキュエレッキュ!」
もう一度、やろう。いや、何度でもやろう。幸い、練習する時間はたくさんある。この連続技を体得できたら、その時俺はきっと、一皮むけている。
「(よーし、もう一度。エレキ射出、たいあたりー!)エーレエレエレ、エレキュー!」
電気をとばしながら、ぶちあたるべし。電気をとばしながら、ぶちあたるべし!
茂みに向かって何度も攻撃をかます。強くなれ、俺。安全に強くなれるなら、これほど良いことはない!
何度も何度も茂みを攻撃。十回くらい練習したら、茂みがボロボロになってきた。ありゃ、これはもう使えないかな。よし、だったら新しい茂みを攻撃しよう。
ちょっと移動して、また茂みに向かって技の練習。そうしていると、ほんのちょっとずつ上達している感があった。だがしかし、それ以上に大きなつかれも感じてきた。うう、これはきっと、技の使い過ぎだ。そういえば、10回20回と技を使うなんてこと、今までなかったからなあ。これはちょっと、休憩をちょくちょくいれないときついだろうな。
でも、今はもっと技に集中だ。折角何かをつかみかけているんだ。だから今の内にそれが何かを知りたい。
「(もう一度、エレキ射出と、たいあたりー!)エーレエレエレ、キュー!」
まだだ。けど、もう少しなんだ。もっと、もっとやってやる。勝つために、強くなるために、俺は勝利に貪欲になるのだ。
そして、朝。
俺は攻撃しすぎてバキバキの黒焦げになった茂みを何個も作ったところで、やっと練習の成果を体感することができた。
「(エレキアタックー!)エーレー、キュー!」
全身に電気をまとって、たいあたり。茂みなんて簡単に突き抜け、通った後の空気は帯電してピカピカ光っている。
「(で、できた。最初の目的と違うけど、新技を覚えたぞ)エレーキュー」
俺は一晩かけて、新技を得ていた。
その名も、エレキアタック。
体の内側から電気を生み出し、それを体、主に頭に集中させて、たいあたりと共にぶちかますという技。
きっと、エレキ射出やたいあたりよりも強い技のはずだ。だって二つの技を組み合わせて完成した技だから。これは、早速実戦で使ってみるっきゃない。
そして、二つの技を連続で使う作戦だけど、結局ものにはできなかった。どうも、一つの技に集中した方が威力が高い気がするのだ。何事も一つのことに全力で。それが最善の方法だということを、この一晩で分からせられてしまった。
けど、練習は悪いことばかりじゃなかった。だって、技と技を組み合わせることで、新技を開発することができたから。今後、新技エレキアタックは多くの戦闘で活躍してくれる。そんな予感がものすごくした。
「(けど、まずは休憩だー)エレーキュー」
俺はその場で、へたりこむ。なんだか技の使い過ぎで、体内のエネルギーをほぼ使い果たしてしまったようなのだ。今はもう、エレキ射出やたいあたりは一回も使えそうにない。新技のエレキアタックも、何回使えるかわからない。ここは休憩するのが良いだろう。
「(ちょっと、熱くなりすぎたな。夜はちゃんと眠っておけば良かった)エレキュー」
けど、新技は完成したから、安心して眠れる。
せめて、茂みの中に体ぐらい隠しておこう。俺は重くてだるい体をひきずって、少し遠くにあった茂みの中で目をつぶった。
時間をかけて、ダメージと体力を回復。よし、やる気も充填完了。再び動き出すぞ、俺。
ちょっとぶらついてちょっと敵モンスターを見つけてちょっと戦ってみた結果、エレキアタックは強力な技だということが判明した。
これを受けた相手は、しびれと衝撃で大きな隙をさらすのだ。更に威力も高いので、続けてエレキ射出かたいあたりをかませば、相手は簡単にやられる。ばたんきゅーというやつだ。
この技はもう、必殺技といっても過言ではないかもしれない。いや、必殺ではないから、とっておき、あるいは切り札か。十八番とも呼べるかな?
なんでもいい、俺は強くなった。それがうれしい。まだレベルは低いが、ものすごくうれしい。
これに味をしめた俺は、エレキアタックを主体にモンスターをどんどん倒していった。
ああ、勿論最初に使うのは鳴き声だ。万が一ダメージを受けて、痛いのは嫌だからな。再びおそってきた鳥モンスターにエレキアタックを使う余裕はなかったが、その他はエレキアタック万万歳だった。おかげでレベルも8まで上がった。
さあ、今の俺は強いぞー。次はどいつが相手だー?
そう思って余裕ぶって森の中を走っていると、その先から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
これは、そう。声だ。言葉だ。人の言葉だ。それも、この声を俺は知っている気がする。少し前に聞いたばかりのはずだ。
「くう、この、おいスフィン、リシェス、もっと攻撃しろ、死にたくないなら役にたてよ!」
「そんなこと言ったって、私達は後衛なんだから、接近戦なんて無理よ、こんなに数も多いし!」
「うるせえ、黙ってやれ、死にてえのか!」
「オルツ、目の前に集中しろ。敵は待ってはくれないぞ!」
声がする場所は、おそらくここから少し遠い。しかし、彼らが危険な目にあっていることはわかる。この先で、誰かが戦っているのだ。おそらく、モンスターと。
俺は、一度様子を確かめることにした。人は、俺を捕まえようとした。たぶん、今の実力で会うのはまだ危険だ。けれど、もしその人達がピンチだったら、見過ごしたいとは思わないし、助けてやりたいとも思う。
特に、もし声がする方に、妹のそっくりさんがいるのなら。その時は、一大事だ。俺は、妹そっくりの子がモンスターにやられて力尽きることなんて許せない。勿論、誰に対してもそうなはずなのだが、彼女だけは特別だ。
できれば、この先にある何事かが、大したことのないものであると思いたい。俺は遠くから少しその光景を見て、なんだ、別に危なくないじゃないか。俺が行かなくてもなんとかなるじゃないか。と思いたい。
けれど、もしも誰かが助けを必要としていたら。その時俺は。
よし、近づこう。そして危なかったら、さりげなく助けてやろう。今の俺には、エレキアタックもある。以前よりもかなり強くなっているはずだ。何事もなければ、すぐ立ち去る。それでいい。それでいいから。すぐに声がする方の状況を確認しよう。
急いで現場に来てみると、そこには予想以上の緊急事態が待っていた。
今立っているのは、三人。一人少年が倒れていて、そして立っている内の一人は、妹似の子だ。
戦っている相手は、火を吐くトカゲモンスター。けれど、数が多い。6体もいる。円形に包囲して、相手を逃げられないようにしている。
あんな数、俺がここで加勢しても、なんとかなるか?
そう逡巡していると、立っている少年がトカゲの群れに特攻した。
「くそー、死ね、死ね死ね死ね、死ねよお前らー!」
「(火の玉射出!)アカー!」
少年は結構速い剣さばきでトカゲ達を斬ろうとするが、トカゲ達は下がりながら火の玉を浴びせる。それだけで、少年の体は燃え、いきなりグッと力を失った。
「うわー、痛いー、熱いー、嫌だー、死にたくないー!」
少年、倒れる。すると今度は、トカゲが下がった分空いたスペースから逃げようと、少女の一人が駆け込んだ。
「お願い、死にたくないの、逃がして、あっち行って!」
そう言う少女の後ろから火の玉が放たれる。少女がそれにかかり、一度足を止めると、近くにいたトカゲが少女にかみつき、爪でひっかいて倒す。
これで立っている人間は、あっという間に妹のそっくりさん一人だけになってしまった。
「いや、助けて、お願い、神様」
最後の一人になって、立ちすくむ妹似の子。まずいぞ、このままではあの子もやられてしまう!
それはいけない。絶対にいけない!
「(やめろお前らー!)エレキュー!」
俺は、全力でとびだした。
すると、望み通りここにいる立っている者全員の視線が俺に向かれる。
トカゲ達の目も、女の子の目も、バッチリ釘付けだ。よし、後は俺が、このトカゲ達に勝つだけだ!
「まさか、エレ、キュウ?」
「(鳴き声ー!)エレキュー!」
まずは、相手の力を下げ、ターゲットをこちらへと集中させる。これでもし爪でひっかかれたりしても、ちょっとは痛くないはずだし、何よりトカゲ達の視線を女の子から俺へと向けさせられる。あって良かった鳴き声。
「(火の玉射出ー!)アカー!」
六方向から火の粉がとんでくる。これは、完全には避けきれない。だったら、一発だけでもくらってやるー!
俺は自分から火の玉の一つにとびこんだ。当たる瞬間、息を止める。熱い、痛い。立ち止まりたい。体が悲鳴をあげる。
けど、勝機だけは捨てない!
「逃げて、エレキュウ、逃げなきゃ死んじゃうよ!」
女の子の声が聞こえた気がする。それだけで俺の全身に力がみなぎった。
「(死んでたまるかー、エレキアタックー!)エーレエレエレキュー!」
一発の火の玉の中を突き抜けて、全身に電気をまとう。れいせいになれ、俺。まずは一体減らすんだ。そしたら5対1。その分勝ちに近づける!
その後はきっと、なんとかなる!
「(ぎゃあー!)アカー!」
俺のエレキアタックを受けたトカゲが軽くふきとぶ。今までで最高の威力だ。よし、このまま次の技で、あいつを倒す!
「(やったなー!)アカー!」
「(かかれー!)アカー!」
「(倒せー!)アカー!」
「(返り討ちだー!)アカー!」
「(八つ裂きにしてやれー!)アカー!」
しかし、俺に近づいてくる他のトカゲ達。これは、一度逃げるべきか。いや、相手は今5体動いていて、全員との距離も大分近い。きっとへたに動いても、きりぬけられないだろう。エレキアタックも、助走がなければ期待している程の威力が出ない。
だったら、ここはエレキ射出で、今攻撃した一体を倒しておく!
「(エレキ射出ー!)エーレー、キュウー!」
俺がエレキ射出を放った直後。突然体が痛みにおそわれて、視界外からの爪攻撃で転がされた。
そのまま囲まれ、おそらく5体のトカゲに引っかかれ、かみつかれ、殴られ、蹴られる。痛い、なんていってられない。あいつらは俺を殺す気だ。俺も死ぬ気でやらないと、ここで終わる!
もしそんなことになったら、たった一人残された妹に似た子が、恐怖におびえながらこのトカゲ達にやられる運命が待っているのだ。
そんなの、嫌だー!
「(負ける、かー!)エーレ、キュウー!」
なんでもいい、技を放つ。とにかく全力だ。攻撃していれば、相手はダメージを負うのだ。それに徹して、勝つ!
「(まだまだー!)エーレキュウー!」
力を出し切れ。限界なんてふっとばせ。
「(くらえー!)エーレキュウー!」
勝てば正義だ。生き残らないと、意味がない。負けた後は、後悔しか残らない。
「(もっとだー!)エーレキュウー!」
いや、死んでもいい。彼女さえ無事なら。そしたら俺は、安心できる。報われる。
「(くらえー!)エーレキュウー!」
ああ、力が抜ける。でも、もっとだ。もっと技を使わなきゃ。じゃないと、すぐにトカゲから攻撃がくる。それを受け続けたら、俺は、俺は。
あ、あれ?
トカゲからの攻撃が、こない?
もう、新しい痛みがこない。体はあちこち爪で裂かれて酷く痛いが、それ以上の追加ダメージがない。
俺はふと、いつの間にかつぶっていた目を開けて、周囲を見る。
すると、俺のすぐ近くで、五体のトカゲが黒焦げになっていた。その下の地面も少し、焦げている。
これは、どういうことだ?
ふと、自分のことをよく確かめてみる。
エレキュウ。レベル10。技、エレキ拡散。
エレキ、拡散?
えっとつまり、一度に五体に攻撃できるような新技を覚えて、それを連発して、勝てた、みたいな?
狙って起こしたわけじゃないミラクルが、俺と女の子を、救った?
あ、あはは。なんだそれ。
ああ、力抜けるー。思わずその場で、へたりこんでしまう。
「エレ、キュウ。助けて、くれたの?」
少女の声を聞いて、俺は振りむいた。その先にはやっぱり、金髪だけど俺の妹そっくりな、一人の少女が立っている。
「(ん、まあ、な)エレ、エレキュー」
「なん、で。エレキュウ、そんなにボロボロだよ。なのにどうして、私なんかを救って、今そこにいるの?」
「(お前を助けたいと思ったから、そしたら体が勝手に動いて、勝てたんだ)エレエレッキュ、エレッキュ」
「何言ってるか、わかんないよお」
少女はそう言うと、泣き出してしまった。困った。泣かれても、困る。一応まだここは安全地帯じゃないし。できれば早く、安全な場所へ避難してもらいたい。
俺はおそるおそる、妹にそっくりな子を怖がらせないように一歩一歩近づく。
まあ今の俺は、ボロボロでよろよろな、今にも死にそうなモンスターだけど。怖がる要素なんて、微塵もないに違いないけど。それでもひょっとしたら、モンスターなんて怖がるかな?
けれど彼女はしゃがみこみ、俺を両手で抱えたので、俺はそのまま抱き上げられてやってから、ひとまず触れるところをなでてやった。手とか、腕とか。少しでも、彼女を安心させるように。
「(助けられて、本当に良かった)エレ、エレキュー」
見上げる。彼女はまだ泣いている。
「助けてくれて、ありがとう」
そう言われ、ほんのちょっと強くだきしめられた。そのやさしさを感じて、俺はひとまず、最初の目標はクリアしたのだと思った。
ここら辺のモンスターをけちらせるくらい強くなって、この少女の心配をする。
無事達成できて、良かったー。
もし俺がここまで強くなるのが遅れていたら、今頃彼女は。いや、もしもの話なんて単なる妄想だ。
妄想なんて意味がない。今ここにある、確かな命の輝きが、重要なのだ。
「あなたに会えて、本当に良かった」
「(まあ、ひとまず休め)エレエレキュー」
幸い皆無事でした。
泣き止んだ少女が、仲間三人の生死を確かめる。すると皆生きていたみたいで、少女はすごく安心した。俺も安心した。
一通り仲間の心配を終えた少女が、改めて俺を見る。俺も彼女を見る。
「ねえ、エレキュウ。私は皆に回復魔法をかけてあげたいの。けどそうするためには、残りの魔力が足りない。時間が経てば私の魔力は回復するんだけど、その魔力を回復するための時間を待つ間、しばらくここを動けない。だから、あなたに今だけ私達の護衛を頼みたい。いい?」
「(任せとけ)エッレキュー」
胸を叩いて承る。どうせ、この子の安全が最優先なのだ。こんなタイミングでおさらばなんてできない。
ずっとこの場にいると、鳥がおそってきたり、大きなおたまじゃくしがおそってきたりした。俺はそいつらを撃退し、見事護衛役を果たす。
「あなたって、強いのね」
「(まあな)エッレキュ」
「強いだけじゃなく、私達を助けてくれる。本当に、ありがとう。あなたはもしかして、神様の使いなの?」
「(別にそんなんじゃねえよ)エッレエレキュー」
むしろ、神様にすがりつきたい側の者です。お願いだから、人の姿に戻して、元の世界に戻して。まあ、今この子を放っておくわけにはいかないんだけどさ。
少女の魔力が回復するまでの間、俺は現れるモンスターを倒したり、少女と話をしたりする。
そうしているとまず、最後にやられた少女が目を覚ました。
「ここは、う、いたっ。足が、やられてる」
「あ、気がついた、スフィン。もう大丈夫よ。ここは、エレキュウが守ってくれてる。私の魔力が回復したら、皆も起こして、村に帰りましょう」
「エレキュウが?」
少女、スフィンが俺を見た。
「(よっ)エレッキュ」
「野生のモンスターが、人を守ってる。こんなこと、ありえるのね」
スフィンが俺に手を伸ばしたので、俺は近づく。すると、やさしくなでられた。
「あのアカトカゲの群れを、この子が一人で倒したの?」
「うん。すごかったわ。一度に囲まれてやられても、電気ショックで返り討ちにしたの。このエレキュウ、とっても強い」
「でも、すごくボロボロね。たった一人であの数をやっつけるなんて、すごく勇敢よ、エレキュウ」
「(それ程でもある)エレッキュ」
スフィンの手は、すぐに俺から離れる。ちょっとだけ笑顔になったスフィンは、しかしすぐに深刻な表情をして少年二人を見た。
「それにしても、オルツとヨデム、黒焦げじゃない。あれでまだ生きてるの?」
「うん。やっぱり、この辺りのモンスターはまだ小さいから、致命的なダメージを受けにくいんだと思う。それでも、絶体絶命だったけど。もう、しばらくは森の奥へ行けないわね」
「ええ、そうね。強いモンスターを倒せても、生きて帰れないんじゃ意味がない。しばらくは修業のし直しね」
「うん。私も、それがいいと思う」
「それに、私もまた戦えるかどうか」
スフィンが下を向く。
「スフィン、もしかして、自信がなくなっちゃった?」
俺が使える技は、エレキ射出、たいあたり、鳴き声だ。これって、他の技の力も試した方がよくないか?
まあ、たいあたりは敵が使っているのを見たことがあるから、いいとしよう。けど鳴き声は、技名を見ただけではどんな力があるかわからない。技としてあるくらいなんだから、一度くらい使ってみた方が良いかもしれない。
体力がちゃんと回復するまで休んだ後、またモンスターを探す。一体だけ敵が見つかればいいなあ。そしたら余裕がある状態で鳴き声の力を試せるんだけど。
そう思って走っていたら、都合よく一体だけいるモンスターを見つけた。
赤い体をしたトカゲだ。よし、丁度いい。こいつに鳴き声を試してみよう。
「(くらえ、鳴き声!)エレキュー!」
「(鳴き声ー!)アカッカー!」
うお、相手も鳴き声を使ってきた。しかもその直後、なんだか少しだけ、体に力が入らなくなったぞ。それに、相手から視線をそらしづらくなった気もする。
まさか鳴き声って、相手の力を弱め、ターゲットを自分へ集中させる技?
何それ強っ。今までたいあたりでハラハラさせられた場面は何度もあった。あの時くらったたいあたりも、予め鳴き声を使っておけば弱められたというのか。ターゲットを集中させる効果は、今のところ使い道はあまりない気がするが、憶えておいて損はない効果だろう。
まさか、これほど鳴き声が使える技だったとは。まあ、すぎたことは仕方ない。これからどんどん多用していこう。そして、今回も勝とう。
「(えい、エレキ射出!)エーレー、キュー!」
「(火の玉射出!)アカー!」
相手の火の玉と俺の電気が交差する。そして、お互いに当たる。あつっ、熱い、熱い!
なんだあいつ、火を使うのか。今までのモンスターの中で一番やばいやつじゃないか!
これは真向からうちあいしてる場合じゃない。トカゲの火の玉はやたら熱いぞ。どうにか回避重視でいこう。
「(火の玉射出ー!)アカアー!」
そう思っていたら、すぐさま第二の火の玉が飛んできた。えい、動け、俺。軽やかに火を回避だ!
実際に行動に移してみたら、ギリギリ回避に成功した。ふう、心臓に悪い。けど、良かった。なんとか避けられない速さじゃない。
「(まだまだあ、火の玉射出ー!)アカー!」
トカゲは三度目の火の玉を吐いてくる。よし、今度は超集中だ。ギリギリ回避すると同時に、こちらも攻撃!
「(エレキ射出ー!)エーレー、キュー!」
「(ぎゃー!)アカー!」
よし、効いている。この調子でいけば、倒せるぞ!
と、思った次の瞬間。
ガサガサ、ガサリ。
なんとトカゲがいる方から、もう三体トカゲが現れた。
「(敵だー!)アカー!」
「(鳴き声の合図だー!)アカー!」
「(見つけたぞ、敵ー!)アカー!」
なんと、相手の鳴き声は仲間集合の合図にもなっていたらしい。こ、これはまずい。4対1じゃ勝てっこない!
となれば俺がすべきことはただ一つ。逃走だ。それしかない。
「(即逃げだー!)エーレキュー!」
すぐさま後ろへ猛ダッシュ。まさか、あいつに仲間がいたなんて。これは想定外だ!
「(火の玉射出!)アカー!」
4つの火の玉発射を察し、一度ピョンと右へはねつつ全力ダッシュ。それでも火の玉の一つがお尻に当たって、もう熱いのなんの、生きたまま焼かれたくない。
「(くっそー、死に物狂いで逃げてやるー!)」
モンスター、怖い。モンスター、痛い。全ての戦闘に絶対勝てるわけではないのだ。毎回勝てる戦闘なんてラッキーなこと、そうそう起こりはしないのだ。そのことを改めて実感させられて、俺は強くなるための険しい道を見たのだった。
幸い、トカゲたちからは逃げきれた。
まずは、傷が癒えるのを待とう。完治するまで時間がかかりそうだから、気にならない程度になったらまた動き始めよう。
ひとまず休憩。体を休めると、自然と頭は考え事を始める。
さて、思い浮かべるのは今さっきの戦いのことだ。俺はあのトカゲとの戦いの時、一体どうすれば一番良かったのだろうか?
パッと思いついたのは、一体目のトカゲを速攻で倒すということだ。回避なんてせずごり押しできていたなら、更にダメージを受けていたとしても、もしかしたらあの一体は倒せていたかもしれない。最初に炎攻撃のダメージは受けて威力も体感できていたんだし、何回くらっても大丈夫かは直感でわかったはずだ。
最初から攻撃重視で戦っていたら、少なくともあの一体には勝利できていたかも。
でも、痛い目にあうのを承知で攻撃するって、どんだけやけっぱちなんだよ。命知らずにも程がある。
うーん、やっぱり俺は回避重視で戦いたいな。だって痛いのは嫌だ。なるべく避けたい。
やばい時は逃げて、時間はかかっても、その内勝てる戦いがあれば、それが一歩の前進なんだ。確実に強くなるためにも、勝負は常に慎重になった方が良い。今まで勝ってこれていたのは偶然だと思え。何より体を酷使するのは良くない。
あ、そうだ。エレキ射出を使いながら、たいあたりも同時に使うっていうのはどうだろう。それなら上手くいけば、二連続攻撃だ。それが二回決まれば、四回も攻撃を当てたことになる。狙い通りにことが進めば戦闘時間は半減だ。これは、試してみる価値はあるかもしれない。
なんだ、ひょっとしたら使えるぞ、たいあたり。もしかしたら鳴き声より使える。相手の攻撃には絶対に当たらないって自信があれば、鳴き声使う手間も必要なくなるし。
よし、そうと決まれば次は、エレキ射出からのたいあたりのコンボを狙ってみよう。これで戦闘が楽になれば、勝率もぐっと上がる。敵の増援が来る前に倒すことだって夢じゃない、かもしれない。
ああいや、待てよ。でもこれ、ぶっつけ本番で試すって大丈夫か?
一応先に、練習しておこう。それでできるってわかれば喜ぶ。できなかったら諦める。その結果がわかるのは早い方が良い。よし、やる気が出てきたぞー。一応用心して、今は火傷が癒えるまで静かにしてるけど。
あー、それまでヒマだ。よし、だったらイメージトレーニングだ。エレキ射出をした後、すぐにたいあたり。いや、エレキ射出を使いながらたいあたり。おーおー、強そうだ。俺。いいぞいいぞ、これができたらうんと強くなれる。
上手くいけば、アーモンドモンスターだって、亀だって、トカゲだって簡単にけちらせる。飛んでる鳥には難しいだろうけど、選択肢の一つとしては強いカードだ。
火傷がひくまで、夕暮れ時までかかった。お尻がまだ少しヒリヒリするけど、そろそろ今まで隠れていた茂みに向かって、連続技の練習をしてみる。
よーし、やるぞ、俺。やればできる。俺はできる子。やって更に強くなるのだ。
「(ふう。いくぞ、エレキ射出、かーらーのー、たいあたり!)エーレー、エーレエレエレー、キュー!」
うう、エレキ射出中は動きづらい、そして力をだしにくい!
初めて試した結果は、なんともお粗末なものだった。集中していない半端な電撃がとび、その後力の無いたいあたりが茂みにぶつかる。
こ、これは使えない。技の一つ一つに集中できていないせいで、結果的にたぶん、この二回の攻撃を与えても、一回ちゃんとやった技の威力には勝てない。
しかし同時に、この連続技を練習すれば、いずれ実戦で使えるかも。という期待をもつことができた。今はまだダメダメだが、この考えは、努力次第で強みになると思うのだ。
要するに、全ては俺の努力が左右する、気がする。そんな感想を、一度の試しで得ることができた。
「(いける、いけるぞ。俺は今、何かをつかみかけている。そしてそれは、必ず未来の俺を支える力になる!)エレ、エレッキュエレッキュ!」
もう一度、やろう。いや、何度でもやろう。幸い、練習する時間はたくさんある。この連続技を体得できたら、その時俺はきっと、一皮むけている。
「(よーし、もう一度。エレキ射出、たいあたりー!)エーレエレエレ、エレキュー!」
電気をとばしながら、ぶちあたるべし。電気をとばしながら、ぶちあたるべし!
茂みに向かって何度も攻撃をかます。強くなれ、俺。安全に強くなれるなら、これほど良いことはない!
何度も何度も茂みを攻撃。十回くらい練習したら、茂みがボロボロになってきた。ありゃ、これはもう使えないかな。よし、だったら新しい茂みを攻撃しよう。
ちょっと移動して、また茂みに向かって技の練習。そうしていると、ほんのちょっとずつ上達している感があった。だがしかし、それ以上に大きなつかれも感じてきた。うう、これはきっと、技の使い過ぎだ。そういえば、10回20回と技を使うなんてこと、今までなかったからなあ。これはちょっと、休憩をちょくちょくいれないときついだろうな。
でも、今はもっと技に集中だ。折角何かをつかみかけているんだ。だから今の内にそれが何かを知りたい。
「(もう一度、エレキ射出と、たいあたりー!)エーレエレエレ、キュー!」
まだだ。けど、もう少しなんだ。もっと、もっとやってやる。勝つために、強くなるために、俺は勝利に貪欲になるのだ。
そして、朝。
俺は攻撃しすぎてバキバキの黒焦げになった茂みを何個も作ったところで、やっと練習の成果を体感することができた。
「(エレキアタックー!)エーレー、キュー!」
全身に電気をまとって、たいあたり。茂みなんて簡単に突き抜け、通った後の空気は帯電してピカピカ光っている。
「(で、できた。最初の目的と違うけど、新技を覚えたぞ)エレーキュー」
俺は一晩かけて、新技を得ていた。
その名も、エレキアタック。
体の内側から電気を生み出し、それを体、主に頭に集中させて、たいあたりと共にぶちかますという技。
きっと、エレキ射出やたいあたりよりも強い技のはずだ。だって二つの技を組み合わせて完成した技だから。これは、早速実戦で使ってみるっきゃない。
そして、二つの技を連続で使う作戦だけど、結局ものにはできなかった。どうも、一つの技に集中した方が威力が高い気がするのだ。何事も一つのことに全力で。それが最善の方法だということを、この一晩で分からせられてしまった。
けど、練習は悪いことばかりじゃなかった。だって、技と技を組み合わせることで、新技を開発することができたから。今後、新技エレキアタックは多くの戦闘で活躍してくれる。そんな予感がものすごくした。
「(けど、まずは休憩だー)エレーキュー」
俺はその場で、へたりこむ。なんだか技の使い過ぎで、体内のエネルギーをほぼ使い果たしてしまったようなのだ。今はもう、エレキ射出やたいあたりは一回も使えそうにない。新技のエレキアタックも、何回使えるかわからない。ここは休憩するのが良いだろう。
「(ちょっと、熱くなりすぎたな。夜はちゃんと眠っておけば良かった)エレキュー」
けど、新技は完成したから、安心して眠れる。
せめて、茂みの中に体ぐらい隠しておこう。俺は重くてだるい体をひきずって、少し遠くにあった茂みの中で目をつぶった。
時間をかけて、ダメージと体力を回復。よし、やる気も充填完了。再び動き出すぞ、俺。
ちょっとぶらついてちょっと敵モンスターを見つけてちょっと戦ってみた結果、エレキアタックは強力な技だということが判明した。
これを受けた相手は、しびれと衝撃で大きな隙をさらすのだ。更に威力も高いので、続けてエレキ射出かたいあたりをかませば、相手は簡単にやられる。ばたんきゅーというやつだ。
この技はもう、必殺技といっても過言ではないかもしれない。いや、必殺ではないから、とっておき、あるいは切り札か。十八番とも呼べるかな?
なんでもいい、俺は強くなった。それがうれしい。まだレベルは低いが、ものすごくうれしい。
これに味をしめた俺は、エレキアタックを主体にモンスターをどんどん倒していった。
ああ、勿論最初に使うのは鳴き声だ。万が一ダメージを受けて、痛いのは嫌だからな。再びおそってきた鳥モンスターにエレキアタックを使う余裕はなかったが、その他はエレキアタック万万歳だった。おかげでレベルも8まで上がった。
さあ、今の俺は強いぞー。次はどいつが相手だー?
そう思って余裕ぶって森の中を走っていると、その先から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
これは、そう。声だ。言葉だ。人の言葉だ。それも、この声を俺は知っている気がする。少し前に聞いたばかりのはずだ。
「くう、この、おいスフィン、リシェス、もっと攻撃しろ、死にたくないなら役にたてよ!」
「そんなこと言ったって、私達は後衛なんだから、接近戦なんて無理よ、こんなに数も多いし!」
「うるせえ、黙ってやれ、死にてえのか!」
「オルツ、目の前に集中しろ。敵は待ってはくれないぞ!」
声がする場所は、おそらくここから少し遠い。しかし、彼らが危険な目にあっていることはわかる。この先で、誰かが戦っているのだ。おそらく、モンスターと。
俺は、一度様子を確かめることにした。人は、俺を捕まえようとした。たぶん、今の実力で会うのはまだ危険だ。けれど、もしその人達がピンチだったら、見過ごしたいとは思わないし、助けてやりたいとも思う。
特に、もし声がする方に、妹のそっくりさんがいるのなら。その時は、一大事だ。俺は、妹そっくりの子がモンスターにやられて力尽きることなんて許せない。勿論、誰に対してもそうなはずなのだが、彼女だけは特別だ。
できれば、この先にある何事かが、大したことのないものであると思いたい。俺は遠くから少しその光景を見て、なんだ、別に危なくないじゃないか。俺が行かなくてもなんとかなるじゃないか。と思いたい。
けれど、もしも誰かが助けを必要としていたら。その時俺は。
よし、近づこう。そして危なかったら、さりげなく助けてやろう。今の俺には、エレキアタックもある。以前よりもかなり強くなっているはずだ。何事もなければ、すぐ立ち去る。それでいい。それでいいから。すぐに声がする方の状況を確認しよう。
急いで現場に来てみると、そこには予想以上の緊急事態が待っていた。
今立っているのは、三人。一人少年が倒れていて、そして立っている内の一人は、妹似の子だ。
戦っている相手は、火を吐くトカゲモンスター。けれど、数が多い。6体もいる。円形に包囲して、相手を逃げられないようにしている。
あんな数、俺がここで加勢しても、なんとかなるか?
そう逡巡していると、立っている少年がトカゲの群れに特攻した。
「くそー、死ね、死ね死ね死ね、死ねよお前らー!」
「(火の玉射出!)アカー!」
少年は結構速い剣さばきでトカゲ達を斬ろうとするが、トカゲ達は下がりながら火の玉を浴びせる。それだけで、少年の体は燃え、いきなりグッと力を失った。
「うわー、痛いー、熱いー、嫌だー、死にたくないー!」
少年、倒れる。すると今度は、トカゲが下がった分空いたスペースから逃げようと、少女の一人が駆け込んだ。
「お願い、死にたくないの、逃がして、あっち行って!」
そう言う少女の後ろから火の玉が放たれる。少女がそれにかかり、一度足を止めると、近くにいたトカゲが少女にかみつき、爪でひっかいて倒す。
これで立っている人間は、あっという間に妹のそっくりさん一人だけになってしまった。
「いや、助けて、お願い、神様」
最後の一人になって、立ちすくむ妹似の子。まずいぞ、このままではあの子もやられてしまう!
それはいけない。絶対にいけない!
「(やめろお前らー!)エレキュー!」
俺は、全力でとびだした。
すると、望み通りここにいる立っている者全員の視線が俺に向かれる。
トカゲ達の目も、女の子の目も、バッチリ釘付けだ。よし、後は俺が、このトカゲ達に勝つだけだ!
「まさか、エレ、キュウ?」
「(鳴き声ー!)エレキュー!」
まずは、相手の力を下げ、ターゲットをこちらへと集中させる。これでもし爪でひっかかれたりしても、ちょっとは痛くないはずだし、何よりトカゲ達の視線を女の子から俺へと向けさせられる。あって良かった鳴き声。
「(火の玉射出ー!)アカー!」
六方向から火の粉がとんでくる。これは、完全には避けきれない。だったら、一発だけでもくらってやるー!
俺は自分から火の玉の一つにとびこんだ。当たる瞬間、息を止める。熱い、痛い。立ち止まりたい。体が悲鳴をあげる。
けど、勝機だけは捨てない!
「逃げて、エレキュウ、逃げなきゃ死んじゃうよ!」
女の子の声が聞こえた気がする。それだけで俺の全身に力がみなぎった。
「(死んでたまるかー、エレキアタックー!)エーレエレエレキュー!」
一発の火の玉の中を突き抜けて、全身に電気をまとう。れいせいになれ、俺。まずは一体減らすんだ。そしたら5対1。その分勝ちに近づける!
その後はきっと、なんとかなる!
「(ぎゃあー!)アカー!」
俺のエレキアタックを受けたトカゲが軽くふきとぶ。今までで最高の威力だ。よし、このまま次の技で、あいつを倒す!
「(やったなー!)アカー!」
「(かかれー!)アカー!」
「(倒せー!)アカー!」
「(返り討ちだー!)アカー!」
「(八つ裂きにしてやれー!)アカー!」
しかし、俺に近づいてくる他のトカゲ達。これは、一度逃げるべきか。いや、相手は今5体動いていて、全員との距離も大分近い。きっとへたに動いても、きりぬけられないだろう。エレキアタックも、助走がなければ期待している程の威力が出ない。
だったら、ここはエレキ射出で、今攻撃した一体を倒しておく!
「(エレキ射出ー!)エーレー、キュウー!」
俺がエレキ射出を放った直後。突然体が痛みにおそわれて、視界外からの爪攻撃で転がされた。
そのまま囲まれ、おそらく5体のトカゲに引っかかれ、かみつかれ、殴られ、蹴られる。痛い、なんていってられない。あいつらは俺を殺す気だ。俺も死ぬ気でやらないと、ここで終わる!
もしそんなことになったら、たった一人残された妹に似た子が、恐怖におびえながらこのトカゲ達にやられる運命が待っているのだ。
そんなの、嫌だー!
「(負ける、かー!)エーレ、キュウー!」
なんでもいい、技を放つ。とにかく全力だ。攻撃していれば、相手はダメージを負うのだ。それに徹して、勝つ!
「(まだまだー!)エーレキュウー!」
力を出し切れ。限界なんてふっとばせ。
「(くらえー!)エーレキュウー!」
勝てば正義だ。生き残らないと、意味がない。負けた後は、後悔しか残らない。
「(もっとだー!)エーレキュウー!」
いや、死んでもいい。彼女さえ無事なら。そしたら俺は、安心できる。報われる。
「(くらえー!)エーレキュウー!」
ああ、力が抜ける。でも、もっとだ。もっと技を使わなきゃ。じゃないと、すぐにトカゲから攻撃がくる。それを受け続けたら、俺は、俺は。
あ、あれ?
トカゲからの攻撃が、こない?
もう、新しい痛みがこない。体はあちこち爪で裂かれて酷く痛いが、それ以上の追加ダメージがない。
俺はふと、いつの間にかつぶっていた目を開けて、周囲を見る。
すると、俺のすぐ近くで、五体のトカゲが黒焦げになっていた。その下の地面も少し、焦げている。
これは、どういうことだ?
ふと、自分のことをよく確かめてみる。
エレキュウ。レベル10。技、エレキ拡散。
エレキ、拡散?
えっとつまり、一度に五体に攻撃できるような新技を覚えて、それを連発して、勝てた、みたいな?
狙って起こしたわけじゃないミラクルが、俺と女の子を、救った?
あ、あはは。なんだそれ。
ああ、力抜けるー。思わずその場で、へたりこんでしまう。
「エレ、キュウ。助けて、くれたの?」
少女の声を聞いて、俺は振りむいた。その先にはやっぱり、金髪だけど俺の妹そっくりな、一人の少女が立っている。
「(ん、まあ、な)エレ、エレキュー」
「なん、で。エレキュウ、そんなにボロボロだよ。なのにどうして、私なんかを救って、今そこにいるの?」
「(お前を助けたいと思ったから、そしたら体が勝手に動いて、勝てたんだ)エレエレッキュ、エレッキュ」
「何言ってるか、わかんないよお」
少女はそう言うと、泣き出してしまった。困った。泣かれても、困る。一応まだここは安全地帯じゃないし。できれば早く、安全な場所へ避難してもらいたい。
俺はおそるおそる、妹にそっくりな子を怖がらせないように一歩一歩近づく。
まあ今の俺は、ボロボロでよろよろな、今にも死にそうなモンスターだけど。怖がる要素なんて、微塵もないに違いないけど。それでもひょっとしたら、モンスターなんて怖がるかな?
けれど彼女はしゃがみこみ、俺を両手で抱えたので、俺はそのまま抱き上げられてやってから、ひとまず触れるところをなでてやった。手とか、腕とか。少しでも、彼女を安心させるように。
「(助けられて、本当に良かった)エレ、エレキュー」
見上げる。彼女はまだ泣いている。
「助けてくれて、ありがとう」
そう言われ、ほんのちょっと強くだきしめられた。そのやさしさを感じて、俺はひとまず、最初の目標はクリアしたのだと思った。
ここら辺のモンスターをけちらせるくらい強くなって、この少女の心配をする。
無事達成できて、良かったー。
もし俺がここまで強くなるのが遅れていたら、今頃彼女は。いや、もしもの話なんて単なる妄想だ。
妄想なんて意味がない。今ここにある、確かな命の輝きが、重要なのだ。
「あなたに会えて、本当に良かった」
「(まあ、ひとまず休め)エレエレキュー」
幸い皆無事でした。
泣き止んだ少女が、仲間三人の生死を確かめる。すると皆生きていたみたいで、少女はすごく安心した。俺も安心した。
一通り仲間の心配を終えた少女が、改めて俺を見る。俺も彼女を見る。
「ねえ、エレキュウ。私は皆に回復魔法をかけてあげたいの。けどそうするためには、残りの魔力が足りない。時間が経てば私の魔力は回復するんだけど、その魔力を回復するための時間を待つ間、しばらくここを動けない。だから、あなたに今だけ私達の護衛を頼みたい。いい?」
「(任せとけ)エッレキュー」
胸を叩いて承る。どうせ、この子の安全が最優先なのだ。こんなタイミングでおさらばなんてできない。
ずっとこの場にいると、鳥がおそってきたり、大きなおたまじゃくしがおそってきたりした。俺はそいつらを撃退し、見事護衛役を果たす。
「あなたって、強いのね」
「(まあな)エッレキュ」
「強いだけじゃなく、私達を助けてくれる。本当に、ありがとう。あなたはもしかして、神様の使いなの?」
「(別にそんなんじゃねえよ)エッレエレキュー」
むしろ、神様にすがりつきたい側の者です。お願いだから、人の姿に戻して、元の世界に戻して。まあ、今この子を放っておくわけにはいかないんだけどさ。
少女の魔力が回復するまでの間、俺は現れるモンスターを倒したり、少女と話をしたりする。
そうしているとまず、最後にやられた少女が目を覚ました。
「ここは、う、いたっ。足が、やられてる」
「あ、気がついた、スフィン。もう大丈夫よ。ここは、エレキュウが守ってくれてる。私の魔力が回復したら、皆も起こして、村に帰りましょう」
「エレキュウが?」
少女、スフィンが俺を見た。
「(よっ)エレッキュ」
「野生のモンスターが、人を守ってる。こんなこと、ありえるのね」
スフィンが俺に手を伸ばしたので、俺は近づく。すると、やさしくなでられた。
「あのアカトカゲの群れを、この子が一人で倒したの?」
「うん。すごかったわ。一度に囲まれてやられても、電気ショックで返り討ちにしたの。このエレキュウ、とっても強い」
「でも、すごくボロボロね。たった一人であの数をやっつけるなんて、すごく勇敢よ、エレキュウ」
「(それ程でもある)エレッキュ」
スフィンの手は、すぐに俺から離れる。ちょっとだけ笑顔になったスフィンは、しかしすぐに深刻な表情をして少年二人を見た。
「それにしても、オルツとヨデム、黒焦げじゃない。あれでまだ生きてるの?」
「うん。やっぱり、この辺りのモンスターはまだ小さいから、致命的なダメージを受けにくいんだと思う。それでも、絶体絶命だったけど。もう、しばらくは森の奥へ行けないわね」
「ええ、そうね。強いモンスターを倒せても、生きて帰れないんじゃ意味がない。しばらくは修業のし直しね」
「うん。私も、それがいいと思う」
「それに、私もまた戦えるかどうか」
スフィンが下を向く。
「スフィン、もしかして、自信がなくなっちゃった?」
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