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地上に戻った俺達は、そこで丁度人間達と遭遇する。
しかもその人間達とは、俺をさらったあの八人組だった。
「!」
両者、即座に戦闘モードに入る。ただ、何人かの相手は。
「な、美しい」
「きれい」
「ぐふふふふ、ブヒー、ブヒー!」
俺を見て、我を忘れていた。なんか、許せん。
「お前ら、全力でかかれ。こいつら全員金だぜー!」
槍男がそう言って俺につっこんでくる。確か、名前はガーシーだったか。
ふっ。見える。見えるぞガーシー。お前の動きが手に取るようにわかる。前回は遅れをとったが、今の俺は進化モンスターバトルプリンセス。過去とは違うのだよ過去とは。
だが、お前達は八人。こっちは四人。数の差はこちらが不利。となれば、こちらは最初から全力でいくしかない。
ていうか全力であの時の恨み晴らしてくれるわー!
「幻狼遊撃拳、清剣技無空!」
「な、なんだこいつ、ぎゃー!」
哀れ、ガーシーは俺の四連撃をくらって一瞬でこと切れましたよ。フフフ。経験値はありがたくもらっておきますね。
清剣技を人に使うというのはどうかと思うが、こいつらは悪い人間。この際倒すのに手段は問わない。
「な、ガーシーがあんなに簡単に!」
「ほ、補助魔法レベル4オールパワーアップ!」
「ぐふふふふ、妨害魔法レベル6オールダウン!」
女が敵全員のステータスを上げる魔法を、男が俺のステータスを下げる魔法を使ってきた。きっとそうに違いない。だが男の魔法の方は、俺の万全の加護の剣の効果で無意味だわ。女の魔法の効果も、それ程効果は無いと信じたい。ここはとことん戦闘だ。まだ俺の怒りはおさまらん。
さてと。それじゃあ次は、どいつを倒してやるか。よし、決めた。斧男にしよう。
「女の子モンスターを捕まえようとする不届き者達め。命乞いして死ねー!」
まっすぐ斧男に近寄る。隣に拳男もいるが、たぶん二対一でもこっちが余裕そうだ。そんな感じする。
「な、こいつ全然弱くならないぞ、どういうことだ!」
斧男が慌てる。しかし、これ以上こいつらに清剣技を使うのもなんだかしゃくだ。えーっと、こういう時は剣技だったか。
「剣技レベル5、縦横無尽斬り!」
「うわー!」
斧男にダメージが入る。ふふふ、俺は進化したことによって剣技まで手に入れたのだ。
「氷魔法レベル6氷の回転刃」
「氷魔法レベル6氷の回転刃」
魔法使い二人が魔法を放ってきた。だが、バトルプリンセスとなった俺には余裕余裕。
「闇魔法レベル6闇の回転刃、光魔法レベル6光の回転刃」
じゃーん。バトルプリンセスになって覚えたばかりの新魔法も使う。しかも、これからの魔法は手をかざさなくても同時使用可能なのですよ。こちらの目論見通り魔法は敵のとぶつかりあい、対消滅する。
「拳技レベル6サンドバッグ!」
拳男が近づいてきた。俺はその拳の初撃をひらりとかわしつつ、逆に相手のどてっぱらに足裏キックをお見舞いしてやる。
「ぐわー!」
拳男がふっとんだ。よし、今の内に斧男を攻撃だ。
「弓技レベル7壊滅の矢」
と、その時、俺の方に矢が飛んでくる。
「清剣技影光!」
俺はとっさに清剣技を使って、無事矢を切り落とした。ああ、危なかった。やっぱり人数差って手強いな。清剣技を使ってしまったけど、まあこれはこれでよし。気持ちを切り替えて次の攻撃に移ろう。
「なっ」
驚く弓男。ふふふ、驚け驚け。新しくなった俺の力を恐れて死んでいくがいい。
「な、なんだよこいつはあ、ば、化け物!」
斧男が驚いて後退する。だが、逃がさん。
「剣技レベル5縦横無尽斬り」
「ぎゃー!」
ここで、斧男も絶命。すると、弓男が鋭い声で言った。
「撤退だ。死ぬ気で走れ」
その言葉に敵は皆従い、一斉に俺に背中を向ける。
ふむ、逃げるか。まあ、相手は人間だし、これから更生する、なんてこともあるだろう。だが、しかし!
「グフグフ男、お前だけは逃がさないぞ!」
「ぐふ、ぐふふふふ、ぐへ?」
「お前の最低さはよく分かっている。だからここで仕留める。くらえ、トリプルサンレーザー!」
直後、俺が手をかざすと、その先から三本の光の線が伸びて、全部グフグフ男に命中した。
「ぐひゃー!」
そのままグフグフ男は黒焦げになり、倒れ伏す。ちゃんと青白い光も出る。
うん。ミッションコンプリート。全滅させてはいないけど、あーすっきりしたー。
そして、元八人組は死んだ仲間のことをきれいに放っておいて姿を消した。まあ、たぶんこれで良い。もしまた現れても返り討ちにすればいいだけだし、人間を追ってまで殺そうとは思わない。
「ヘロン様。追いますか?」
だから、近づいてきたウエンエスの言葉に、俺は首を横に振った。
「いいや、追う必要はない。けど、倒したやつらからアイテムはもらう。その後は、あいつらが走ってった以外の方向に進もう」
「すごいですわ、すばらしいですわヘロン様。私達がふがいなくもはぐれてしまった間に、そんなにお強くなられたのですね!」
ハールンが言う。俺は親指を見せた。
「うん。いやーバトルプリンセス強いよ。進化できて良かった」
「バトルプリンセス、凄い。進化、凄い。ヘロン様、凄い!」
イーミーが目を輝かせている。うん、そうだろうそうだろう。俺も、まさかあの八人組を一人で返り討ちできる程に強くなれるとは思っていなかった。
「うん。結構凄いみたい。それに、変わったのは純粋な戦闘力だけじゃないようだ。なんでも、主従契約が結べるようになったみたい」
「主従契約?」
ウエンエスが首をひねる。
「それは、どのような力なのですか?」
「それが、まだ使ったことないからいまいちよくわからないんだけど、どうも、仲間契約みたいなものみたい。契約相手は、俺に絶対攻撃できなくなり、命令にも従うようになるみたいだよ」
「それは良い。早速私はヘロン様に主従契約してもらいたいです。それで、私はよりヘロン様に忠誠を誓えます」
ウエンエスがそう言って俺の前でひざまずく。
「あ、ずるいですわウエンエス。ヘロン様、私とも主従契約をかわしてください。これからより一層ヘロン様に仕えますわ!」
ハールンもウエンエスの隣でひざまずく。
「私も、誓う?」
イーミーも遅れて二人の横にくる。そこで俺は両手を出して動きを止めた。
「ああ、イーミー、わざわざ二人のマネなんてしなくていいから。わかったよ。それじゃあ皆と主従契約しよう。まずウエンエスからやるね」
「はい!」
喜ぶウエンエス。俺はウエンエスに手をかざした。
「主従契約」
「おお、ヘロン様の力が体の中に入ってくる。はい。このウエンエス、誠心誠意ヘロン様に仕えます!」
ウエンエスが主従契約を承諾して、俺に従属した。うん、やった感じ、体にあんまり変化はないな。
「ヘロン様。次は私を!」
「ああはいはい。はいハールン、主従契約」
「当然受けいれますわ。ああ、私の身がヘロン様のものになるのを感じる。幸せ」
ハールンはうっとりしている。うーん、俺今男の子(ちんちーん)ないから素直に喜べないなあ。じゃあ次は、イーミーだ。
「で、イーミー。イーミーも、主従契約する?」
「うん。従う。あ、なんだかほわってする。気持ち良い」
イーミーとも契約完了。俺はそこで、主従契約の力を本能的に理解した。
「皆。なんでも従者になった者は、主より高レベルにはなれないらしい。もし同レベルにまでなった場合、取得した経験値は全部主のもの、つまり俺のものになるんだって」
「なるほど。では、現在はヘロン様が最もレベルが高いので、今のところは問題ありませんね」
ウエンエスが立ち上がって言う。ハールンも立ち上がる。
「うん。あと、これが結構重要だけど、主と従者は、スキルを共有できるみたい」
「共有?」
イーミーが頭の上に?マークを浮かべる。
「うん。例えば俺のスキルを三人の誰かが使えるようになって、もしくは皆のスキルを俺が使えるようになるんだ」
「それは凄いですわ。例えば私の回復魔法を、ヘロン様が使えるようになるのですか!」
「うん。たぶんそう」
「そうですか、では、早速私の回復魔法をヘロン様にさしあげますわ!」
「そう。じゃあ、早速共有っと」
俺は念じて操作画面を呼び出し、それをタッチ操作してハールンの回復魔法レベル4を共有する。すると、ハールンの回復魔法レベル4に共有という文字がついて、同時に俺のステータスに回復魔法レベル4共有が増えた。
「この共有っていう文字は、あー、なんだか、普通のスキルよりも弱い効果になるみたい」
俺はそこで、共有の弱点を知る。スキルが弱体化するなら、使い道がないかなあ。
「ハールン、やっぱり回復魔法は、共有しないでハールンに任せよう。その方が効果が高くて良いかもしれないから」
「そうですか。わかりました」
しゅんとなるハールン。これは、ぬか喜びさせたのは失敗だったかな?
「あ、それと、今俺が着ている鎧、回復魔法レベル3が使えるようになるんだけど、誰か装備する?」
「な、なんですって!」
ハールンが仰天する。
「回復魔法か。私は武器を作る以外に魔力を使わないが。イーミー、お前はどうだ?」
「私には、攻撃魔法があるから、いい。魔法が使えるようになるなら、ウエンエスが着るべきだと思う」
「そうか。わかった。では、ヘロン様。私にその鎧をください」
「うん、オーケー」
俺はすぐに鎧を脱ぎ、ウエンエスに渡す。そして俺はすぐに魔力と気合い力で自分の服を作った。
そして、俺は自分で作った服と、ついでにいつの間にか装備していたティアラや靴なんかの性能をステータス画面で確認して、満足した。
「うん。このバトルプリンセスドレスは全攻撃耐性中、魔力気合い力消費減少小。かなり良い服だ。あとバトルプリンセスティアラは、魔法攻撃力上昇中。手袋は、ダメージ上昇中、自動回復小、靴は素早さ上昇中、重量無視、か。流石バトルプリンセス。強い」
「そ、そんなに強いのですか。流石、ヘロン様ですわ」
ハールンが目を丸くする。俺だって結構驚いている。
「そうだ。皆、俺が作った服を着てみないか。そうしたら、皆もパワーアップすると思うんだけど」
我ながら名案だと思う。
「ヘロン様、それはいけません。各モンスターが作る物、特に服は、そのモンスターだけが作り出せる誇り。無闇に誰かに与えるべきではありません」
ウエンエスにたしなめるように言われて、俺は少ししゅんとした。
「そうか。それじゃあ、まずは倒した男達の装備を確かめよう。それで良さそうな装備があったら、皆装備して」
「そうですわね。わかりましたわヘロン様。では、すぐに死体から装備をはがしますわ」
ハールンがそう言って近くにある死体に近づく。
「わ、私はヘロン様からいただいた鎧を着るぞ。ヘロン様が着ていた鎧、はあ、はあ、はあ」
ウエンエスが鎧を身につけて自分の体をだきしめている。そんなに喜んでくれるとは。うれしいけど、なんか間違ってる気もする。
「私もあいつらの持ち物調べるの」
イーミーがそう言って死体へと近づいていく。俺は、さて。それじゃあバトルプリンセスになってできるようになった、二つ目のアイテム生成でもするかな。
「良いアイテムできろー、むーっ」
期待して経験値使ってアイテムを体の中に生み出すと、バトルプリンセスの証が作れた。なんでも、内包時経験値増量大、全ステータス上昇中の効果があるらしい。これは、結構強いんじゃないか?
そして、ふと思う。今アイテムを生み出して強い効果が出てきたんだから、もうサキュバスの時に作ったサキュバスイヤリングを体内から取り出して、また新しい物を生み出した方が更に強くなれるのではないか?
よし、早速そうしよう。俺は念じて、体内からサキュバスイヤリングを取り出した。俺の手の平に、サキュバスイヤリングが出現する。
さて、これをそのまま装備してと。ふむ、効果は魅了レベル1付与、素早さ魔法防御力上昇小か。体内にあった時と効果が違うが、まあこういうものなんだろう。というか、やっぱりモンスターを倒した時に得られるアイテムって、こういうことなんじゃ。まあ、いいか。
ところで、どうやら一度体内からアイテムを取り出すと、すぐにはその分のアイテムを作れないらしい。ふむ、結果的には、しばらくの間弱体化かな。まあ、いいや。後でまたアイテム作ればその分強くなれるだろう。
俺は、すぐにサキュバスイヤリングを外す。
「あのー、ところで皆ー。誰かサキュバスイヤリングいるー?」
俺の言葉に、三人が振り返った。
「サキュバスイヤリング、ですか?」
ハールンが言う。
「ヘロン様、いらないの?」
イーミーが言う。
「うん。魅了効果があるらしいんだけど、俺もう魅了レベル5あるからこれ以上いらないし。そもそも魅了いらないし。あ、皆もいらなかったらいいんだ。そうだ、ハールンかイーミー、食べれるよね。食べる?」
「そういう使い方もありますが、しかし、サキュバスイヤリングということは、ひょっとしてそれは、ヘロン様が生み出したアイテムなのでは?」
ウエンエスがそう言ったので、俺はうなずく。
「うん。今体から出したものだけど」
「ヘロン様の物、それは欲しいです!」
ウエンエスがくいついた。
「わ、私も欲しいですわ!」
ハールンもくいついた。
「私も、欲しいかも」
イーミーがくいついた。
「えっとじゃあ、じゃんけんで」
俺がそう言うと、ウエンエスとハールンが首をかしげた。
「ヘロン様、じゃんけんとは?」
ウエンエスが言う。
「何か、勝負事ですか?」
ハールンが言う。
「皆、じゃんけん知らないの?」
イーミーが言う。
「ああ、知らん。何せ私はモンスターだからな」
ウエンエスが言う。
「私もですわ。よろしかったら、教えてください」
ハールンが言う。俺はうなずく。
「じゃあ、説明するけど。何、簡単だよ。グーはチョキに強い。チョキはパーに強い。パーはグーに強い。この三すくみの選択肢を、どれか一つ選んで皆一斉に出すんだ。勝負がつかない場合はまた同じことを繰り返す。そして勝ち残った人がサキュバスイヤリングを手に入れる。いいね?」
「グーはチョキに強い。チョキはパーに強い。パーはグーに強い。なるほど、これで相手と勝負するのですね?」
ウエンエスが両手をグーチョキパーに変えてうなずく。うんうん。どうやらわかってもらえたようだ。
「なるほど、わかりました。これくらいの勝負事なら私にも勝ち目はあります。やりますわ」
ハールンが燃えていた。
「早速、じゃんけんする」
イーミーがグーを見せつける。
「じゃあじゃんけんスタートだ。皆、じゃんけんぽんって言って出すんだぞ。負けがいなかったら、その次はあいこでしょって言うんだ。いいな?」
「はい!」
三人が集まってまずは目でけん制を始める。
「ではいくぞ。じゃんけんぽん!」
結果。
「ヘロン様。私が勝った」
イーミーがそう言ってこちらに寄ってきた。他二人は悔しそうにしている。
「そうか。じゃあイーミー。このサキュバスイヤリングをどうぞ」
「うん」
イーミーは早速サキュバスイヤリングをとると、かけていた眼鏡を外してから装備した。
「ヘロン様、ありがとう。私、すごくすごくうれしい」
「そうか。それは良かった。ところで、イーミーはじゃんけん知ってたのか?」
「うん。前にしたことある」
「へえ」
前って、何があったんだろう?
「でも、この眼鏡も、ヘロン様からもらった物。どうしよう?」
「あれ、それはハールンに装備させた眼鏡。まあいいや。じゃあそれは俺が装備するよ。はい、ちょうだい」
「うん」
俺はイーミーから眼鏡を受け取り、装備する。きりっ。
「くう、なぜ、なぜウエンエスとイーミーはヘロン様からプレゼントがもらえて、私だけもらえないのですか、きー!」
ああ、ハールンがあれている。そうか。今のところ、ウエンエスが鎧を、イーミーがイヤリングをもらっていて、ハールンだけ何もあげてない状態なのか。これはいけない。そんな気がする。
「ハールン、そう悔しがらないで。そうだ、それじゃあハールンには、俺のスキルをプレゼントするよ。幻狼遊撃拳と剣技を共有しよう。それで機嫌なおして?」
俺が思わずそう言うと、ハールンは俺を見て目をぱちくりさせた。
「幻狼遊撃拳とは、ひょっとしてレアスキルなのではないですか。いけませんヘロン様、そのような力を私ごときのために共有させて弱体化させるなんて、間違っていますわ!」
「いやでも、俺はもう結構強いし、ハールンにも強力な攻撃手段があれば結構これからの戦いも楽になるでしょ。きっと俺の幻狼遊撃拳と剣技レベル6までを組み合わせれば、強力な攻撃ができるよ。俺はあまり使わないし、ぜひハールンが使ってくれ」
実は、バトルプリンセスになったことで剣技だけでなく、槍技、弓技もレベル6まで手に入っている。まあ、今の所清剣技、時折鞭しか使わないけど、何かあったらそれらの武器も活用するとしよう。
「ヘロン様、そこまでおっしゃられるのでしたら。わかりました、私、必ずヘロン様のスキルを使いこなし、その期待に応えてみせますわ」
ハールンがそう言ってかしずく。
「うん。わかったから、立って」
「はい」
ハールンがすぐに立つ。ふう、慕ってくれるのは良いんだけど、ちょっと敬われすぎだと思う。
「あ、ついでにハールンとイーミーに、俺手作りの剣を渡しておくよ。きっとこっちの方がウエンエスのよりも強いと思うから」
「まあ、剣もくださるんですか、ありがとうございますヘロン様!」
「え、ヘロン様、くれるの。ありがとう!」
二人はこの場で、ウエンエスの剣をぽいっと捨てる。
「こらこら二人共、物を粗末に扱うものではありませんよ」
「はいですわ」
「はーい」
「まったくもう。あ、ところでウエンエス、俺、新しく剣だけじゃなく槍も作れるようになったけど、一緒に作る?」
「いえ、ありがたい申し出ですが、私は遠慮しておきます。ヘロン様のお手を煩わせるようなマネは、あまりしたくありませんので。私は自分のか、もしくはあの死体が持っている槍で満足しておきます」
「そう。わかった。じゃあ、二人の剣を作るよ。むむーっ」
俺は今この場で魔法力と気合い力で剣を二つ作り、テンション爆上がりなハールンとイーミーに剣を渡す。
「はい、できた。これでよし。はい、二人共。あー、それと、もう一つ皆に言っておかないといけないことがあるんだけどさ」
「はい、なんでしょう?」
ハールンが言う。
「なんですか、ヘロン様」
ウエンエスが言う。
「何?」
イーミーが首をかしげる。俺はちょっと言いにくいながらもちゃんと言った。
「なんか、主従契約した皆って、ランキングっていうか、序列みたいなものがあるみたいなんだ。例えば序列1位の人は、下の順位の人に命令することができるみたい。まあ、あんまり序列に差がなければその効果は薄いみたいなんだけど」
「ということは、私がハールンとイーミーの命令を聞く、ということでしょうか?」
ウエンエスが二人を見る。
「私が、ヘロン様以外の命令を聞く?」
ハールンが二人を見る。
「私、ヘロン様以外に何か言われるの嫌」
イーミーがずっと俺を見る。
俺はとりあえず、笑顔で言った。
「まあ、今のところは一位がウエンエス、二位がハールン、三位がイーミーっていうことになってるけど、丁度レベル順だしさ。皆、納得して?」
「ふむ。私がヘロン様一の従者なのですか。なら何も問題ありません」
ウエンエスが言う。
「つまりその順位は、レベル差を変えれば私でも一位になれるということですのね?」
ハールンが燃えていた。
「ああ、まあ。それで皆が納得すればそれでいいよ」
「レベルが高い者に従う。ある意味道理といえましょう。私はそれで、何も問題ありません。二人に無茶な命令をする気もありませんし」
ウエンエスが言う。
「絶対二人よりもレベルを上にする」
イーミーも燃えていた。
「あー、それじゃあ、話はこの辺で終わりにして。早速倒したやつらの装備を確認しようか?」
俺は、この先皆の関係が悪化しませんように。と願いながら、皆と死体の装備を物色することにした。
結果。
俺はグフフ男からアイテム収納リング、槍男から旗印の指輪をいただいた。この収納リングの力でアイテムをたくさん持ち運べるようになり、更に更に旗印の指輪の効果で仲間の攻撃力が常時上がる。俺はバトルプリンセスになったことで、装飾品が二つまで身につけられるようになっている。正に進化ばんざいだ。
他の不要なアイテムは、一応収納リングの中に入れておこう。もしかしたら何かの役に立つかもしれないし。
ウエンエスは槍とか、籠手とか手に入れていた。他の皆も、それぞれ装備をもらう。面倒だからそれらの装備の性能はわざわざ聞いて回らないけど、うん。これで皆、強くなったかな。
「よし。皆、準備は終わったな」
ウエンエスがハールンとイーミーを見る。二人共うなずいた。
「もちろんですわ」
「もうここに、用はない」
「俺も準備できたよ」
「ああ、ヘロン様はわざわざ私ごときに返事などしなくていいのです。では、行きましょう、ヘロン様。どちらへ向かいましょうか?」
「うーん。じゃあ、あっちへ行こう」
俺は勘で歩く方向を決める。でも俺にはスキル幸運大があるし、結構なんとかなるだろう。
「わかりました。ではこれからも、私が先頭を歩かせてもらいます」
「待った。先頭は私が歩く。ウエンエスは私の後ろ」
そこでイーミーが出張った。
「お、お待ちなさい。私だって先頭を歩きますわ。お二人が後ろです!」
更にハールンも主張する。
「何を言っている二人とも。先頭は一番敵と遭遇しやすいんだぞ。この中で一番戦える私が歩くのが当然だ」
ウエンエスが言う。
「私が一番モンスターを倒す。そして、すぐヘロン様の一番になる」
イーミーが言う。
「私だって戦えますわ。ヘロン様からすばらしいスキルと剣をいただいたんですもの。なのですぐにウエンエスのレベルなんて追い抜いてしまいますわ!」
ハールンが言う。
「むー」
「うー」
「きー!」
皆、一歩もゆずらないようだ。なるほど、皆モンスターと戦いたがっているのか。なら。
「それじゃあ、三人で先頭を歩いて。俺は、皆の後ろをついていくから」
「わかりました、ヘロン様!」
三人いっぺんに笑顔を向けられる。
「皆、仲間同士なんだから仲良くね」
「はい!」
そして歩き出す三人。結局横一列に並んだ後、すぐに互いに目をそらしあう。この三人、ちょっと不安だ。
まあ、もうしばらくすればもっと仲良くなってくれるか。まだ仲間同士になって日が浅いんだし、これからに期待しよう。
しかもその人間達とは、俺をさらったあの八人組だった。
「!」
両者、即座に戦闘モードに入る。ただ、何人かの相手は。
「な、美しい」
「きれい」
「ぐふふふふ、ブヒー、ブヒー!」
俺を見て、我を忘れていた。なんか、許せん。
「お前ら、全力でかかれ。こいつら全員金だぜー!」
槍男がそう言って俺につっこんでくる。確か、名前はガーシーだったか。
ふっ。見える。見えるぞガーシー。お前の動きが手に取るようにわかる。前回は遅れをとったが、今の俺は進化モンスターバトルプリンセス。過去とは違うのだよ過去とは。
だが、お前達は八人。こっちは四人。数の差はこちらが不利。となれば、こちらは最初から全力でいくしかない。
ていうか全力であの時の恨み晴らしてくれるわー!
「幻狼遊撃拳、清剣技無空!」
「な、なんだこいつ、ぎゃー!」
哀れ、ガーシーは俺の四連撃をくらって一瞬でこと切れましたよ。フフフ。経験値はありがたくもらっておきますね。
清剣技を人に使うというのはどうかと思うが、こいつらは悪い人間。この際倒すのに手段は問わない。
「な、ガーシーがあんなに簡単に!」
「ほ、補助魔法レベル4オールパワーアップ!」
「ぐふふふふ、妨害魔法レベル6オールダウン!」
女が敵全員のステータスを上げる魔法を、男が俺のステータスを下げる魔法を使ってきた。きっとそうに違いない。だが男の魔法の方は、俺の万全の加護の剣の効果で無意味だわ。女の魔法の効果も、それ程効果は無いと信じたい。ここはとことん戦闘だ。まだ俺の怒りはおさまらん。
さてと。それじゃあ次は、どいつを倒してやるか。よし、決めた。斧男にしよう。
「女の子モンスターを捕まえようとする不届き者達め。命乞いして死ねー!」
まっすぐ斧男に近寄る。隣に拳男もいるが、たぶん二対一でもこっちが余裕そうだ。そんな感じする。
「な、こいつ全然弱くならないぞ、どういうことだ!」
斧男が慌てる。しかし、これ以上こいつらに清剣技を使うのもなんだかしゃくだ。えーっと、こういう時は剣技だったか。
「剣技レベル5、縦横無尽斬り!」
「うわー!」
斧男にダメージが入る。ふふふ、俺は進化したことによって剣技まで手に入れたのだ。
「氷魔法レベル6氷の回転刃」
「氷魔法レベル6氷の回転刃」
魔法使い二人が魔法を放ってきた。だが、バトルプリンセスとなった俺には余裕余裕。
「闇魔法レベル6闇の回転刃、光魔法レベル6光の回転刃」
じゃーん。バトルプリンセスになって覚えたばかりの新魔法も使う。しかも、これからの魔法は手をかざさなくても同時使用可能なのですよ。こちらの目論見通り魔法は敵のとぶつかりあい、対消滅する。
「拳技レベル6サンドバッグ!」
拳男が近づいてきた。俺はその拳の初撃をひらりとかわしつつ、逆に相手のどてっぱらに足裏キックをお見舞いしてやる。
「ぐわー!」
拳男がふっとんだ。よし、今の内に斧男を攻撃だ。
「弓技レベル7壊滅の矢」
と、その時、俺の方に矢が飛んでくる。
「清剣技影光!」
俺はとっさに清剣技を使って、無事矢を切り落とした。ああ、危なかった。やっぱり人数差って手強いな。清剣技を使ってしまったけど、まあこれはこれでよし。気持ちを切り替えて次の攻撃に移ろう。
「なっ」
驚く弓男。ふふふ、驚け驚け。新しくなった俺の力を恐れて死んでいくがいい。
「な、なんだよこいつはあ、ば、化け物!」
斧男が驚いて後退する。だが、逃がさん。
「剣技レベル5縦横無尽斬り」
「ぎゃー!」
ここで、斧男も絶命。すると、弓男が鋭い声で言った。
「撤退だ。死ぬ気で走れ」
その言葉に敵は皆従い、一斉に俺に背中を向ける。
ふむ、逃げるか。まあ、相手は人間だし、これから更生する、なんてこともあるだろう。だが、しかし!
「グフグフ男、お前だけは逃がさないぞ!」
「ぐふ、ぐふふふふ、ぐへ?」
「お前の最低さはよく分かっている。だからここで仕留める。くらえ、トリプルサンレーザー!」
直後、俺が手をかざすと、その先から三本の光の線が伸びて、全部グフグフ男に命中した。
「ぐひゃー!」
そのままグフグフ男は黒焦げになり、倒れ伏す。ちゃんと青白い光も出る。
うん。ミッションコンプリート。全滅させてはいないけど、あーすっきりしたー。
そして、元八人組は死んだ仲間のことをきれいに放っておいて姿を消した。まあ、たぶんこれで良い。もしまた現れても返り討ちにすればいいだけだし、人間を追ってまで殺そうとは思わない。
「ヘロン様。追いますか?」
だから、近づいてきたウエンエスの言葉に、俺は首を横に振った。
「いいや、追う必要はない。けど、倒したやつらからアイテムはもらう。その後は、あいつらが走ってった以外の方向に進もう」
「すごいですわ、すばらしいですわヘロン様。私達がふがいなくもはぐれてしまった間に、そんなにお強くなられたのですね!」
ハールンが言う。俺は親指を見せた。
「うん。いやーバトルプリンセス強いよ。進化できて良かった」
「バトルプリンセス、凄い。進化、凄い。ヘロン様、凄い!」
イーミーが目を輝かせている。うん、そうだろうそうだろう。俺も、まさかあの八人組を一人で返り討ちできる程に強くなれるとは思っていなかった。
「うん。結構凄いみたい。それに、変わったのは純粋な戦闘力だけじゃないようだ。なんでも、主従契約が結べるようになったみたい」
「主従契約?」
ウエンエスが首をひねる。
「それは、どのような力なのですか?」
「それが、まだ使ったことないからいまいちよくわからないんだけど、どうも、仲間契約みたいなものみたい。契約相手は、俺に絶対攻撃できなくなり、命令にも従うようになるみたいだよ」
「それは良い。早速私はヘロン様に主従契約してもらいたいです。それで、私はよりヘロン様に忠誠を誓えます」
ウエンエスがそう言って俺の前でひざまずく。
「あ、ずるいですわウエンエス。ヘロン様、私とも主従契約をかわしてください。これからより一層ヘロン様に仕えますわ!」
ハールンもウエンエスの隣でひざまずく。
「私も、誓う?」
イーミーも遅れて二人の横にくる。そこで俺は両手を出して動きを止めた。
「ああ、イーミー、わざわざ二人のマネなんてしなくていいから。わかったよ。それじゃあ皆と主従契約しよう。まずウエンエスからやるね」
「はい!」
喜ぶウエンエス。俺はウエンエスに手をかざした。
「主従契約」
「おお、ヘロン様の力が体の中に入ってくる。はい。このウエンエス、誠心誠意ヘロン様に仕えます!」
ウエンエスが主従契約を承諾して、俺に従属した。うん、やった感じ、体にあんまり変化はないな。
「ヘロン様。次は私を!」
「ああはいはい。はいハールン、主従契約」
「当然受けいれますわ。ああ、私の身がヘロン様のものになるのを感じる。幸せ」
ハールンはうっとりしている。うーん、俺今男の子(ちんちーん)ないから素直に喜べないなあ。じゃあ次は、イーミーだ。
「で、イーミー。イーミーも、主従契約する?」
「うん。従う。あ、なんだかほわってする。気持ち良い」
イーミーとも契約完了。俺はそこで、主従契約の力を本能的に理解した。
「皆。なんでも従者になった者は、主より高レベルにはなれないらしい。もし同レベルにまでなった場合、取得した経験値は全部主のもの、つまり俺のものになるんだって」
「なるほど。では、現在はヘロン様が最もレベルが高いので、今のところは問題ありませんね」
ウエンエスが立ち上がって言う。ハールンも立ち上がる。
「うん。あと、これが結構重要だけど、主と従者は、スキルを共有できるみたい」
「共有?」
イーミーが頭の上に?マークを浮かべる。
「うん。例えば俺のスキルを三人の誰かが使えるようになって、もしくは皆のスキルを俺が使えるようになるんだ」
「それは凄いですわ。例えば私の回復魔法を、ヘロン様が使えるようになるのですか!」
「うん。たぶんそう」
「そうですか、では、早速私の回復魔法をヘロン様にさしあげますわ!」
「そう。じゃあ、早速共有っと」
俺は念じて操作画面を呼び出し、それをタッチ操作してハールンの回復魔法レベル4を共有する。すると、ハールンの回復魔法レベル4に共有という文字がついて、同時に俺のステータスに回復魔法レベル4共有が増えた。
「この共有っていう文字は、あー、なんだか、普通のスキルよりも弱い効果になるみたい」
俺はそこで、共有の弱点を知る。スキルが弱体化するなら、使い道がないかなあ。
「ハールン、やっぱり回復魔法は、共有しないでハールンに任せよう。その方が効果が高くて良いかもしれないから」
「そうですか。わかりました」
しゅんとなるハールン。これは、ぬか喜びさせたのは失敗だったかな?
「あ、それと、今俺が着ている鎧、回復魔法レベル3が使えるようになるんだけど、誰か装備する?」
「な、なんですって!」
ハールンが仰天する。
「回復魔法か。私は武器を作る以外に魔力を使わないが。イーミー、お前はどうだ?」
「私には、攻撃魔法があるから、いい。魔法が使えるようになるなら、ウエンエスが着るべきだと思う」
「そうか。わかった。では、ヘロン様。私にその鎧をください」
「うん、オーケー」
俺はすぐに鎧を脱ぎ、ウエンエスに渡す。そして俺はすぐに魔力と気合い力で自分の服を作った。
そして、俺は自分で作った服と、ついでにいつの間にか装備していたティアラや靴なんかの性能をステータス画面で確認して、満足した。
「うん。このバトルプリンセスドレスは全攻撃耐性中、魔力気合い力消費減少小。かなり良い服だ。あとバトルプリンセスティアラは、魔法攻撃力上昇中。手袋は、ダメージ上昇中、自動回復小、靴は素早さ上昇中、重量無視、か。流石バトルプリンセス。強い」
「そ、そんなに強いのですか。流石、ヘロン様ですわ」
ハールンが目を丸くする。俺だって結構驚いている。
「そうだ。皆、俺が作った服を着てみないか。そうしたら、皆もパワーアップすると思うんだけど」
我ながら名案だと思う。
「ヘロン様、それはいけません。各モンスターが作る物、特に服は、そのモンスターだけが作り出せる誇り。無闇に誰かに与えるべきではありません」
ウエンエスにたしなめるように言われて、俺は少ししゅんとした。
「そうか。それじゃあ、まずは倒した男達の装備を確かめよう。それで良さそうな装備があったら、皆装備して」
「そうですわね。わかりましたわヘロン様。では、すぐに死体から装備をはがしますわ」
ハールンがそう言って近くにある死体に近づく。
「わ、私はヘロン様からいただいた鎧を着るぞ。ヘロン様が着ていた鎧、はあ、はあ、はあ」
ウエンエスが鎧を身につけて自分の体をだきしめている。そんなに喜んでくれるとは。うれしいけど、なんか間違ってる気もする。
「私もあいつらの持ち物調べるの」
イーミーがそう言って死体へと近づいていく。俺は、さて。それじゃあバトルプリンセスになってできるようになった、二つ目のアイテム生成でもするかな。
「良いアイテムできろー、むーっ」
期待して経験値使ってアイテムを体の中に生み出すと、バトルプリンセスの証が作れた。なんでも、内包時経験値増量大、全ステータス上昇中の効果があるらしい。これは、結構強いんじゃないか?
そして、ふと思う。今アイテムを生み出して強い効果が出てきたんだから、もうサキュバスの時に作ったサキュバスイヤリングを体内から取り出して、また新しい物を生み出した方が更に強くなれるのではないか?
よし、早速そうしよう。俺は念じて、体内からサキュバスイヤリングを取り出した。俺の手の平に、サキュバスイヤリングが出現する。
さて、これをそのまま装備してと。ふむ、効果は魅了レベル1付与、素早さ魔法防御力上昇小か。体内にあった時と効果が違うが、まあこういうものなんだろう。というか、やっぱりモンスターを倒した時に得られるアイテムって、こういうことなんじゃ。まあ、いいか。
ところで、どうやら一度体内からアイテムを取り出すと、すぐにはその分のアイテムを作れないらしい。ふむ、結果的には、しばらくの間弱体化かな。まあ、いいや。後でまたアイテム作ればその分強くなれるだろう。
俺は、すぐにサキュバスイヤリングを外す。
「あのー、ところで皆ー。誰かサキュバスイヤリングいるー?」
俺の言葉に、三人が振り返った。
「サキュバスイヤリング、ですか?」
ハールンが言う。
「ヘロン様、いらないの?」
イーミーが言う。
「うん。魅了効果があるらしいんだけど、俺もう魅了レベル5あるからこれ以上いらないし。そもそも魅了いらないし。あ、皆もいらなかったらいいんだ。そうだ、ハールンかイーミー、食べれるよね。食べる?」
「そういう使い方もありますが、しかし、サキュバスイヤリングということは、ひょっとしてそれは、ヘロン様が生み出したアイテムなのでは?」
ウエンエスがそう言ったので、俺はうなずく。
「うん。今体から出したものだけど」
「ヘロン様の物、それは欲しいです!」
ウエンエスがくいついた。
「わ、私も欲しいですわ!」
ハールンもくいついた。
「私も、欲しいかも」
イーミーがくいついた。
「えっとじゃあ、じゃんけんで」
俺がそう言うと、ウエンエスとハールンが首をかしげた。
「ヘロン様、じゃんけんとは?」
ウエンエスが言う。
「何か、勝負事ですか?」
ハールンが言う。
「皆、じゃんけん知らないの?」
イーミーが言う。
「ああ、知らん。何せ私はモンスターだからな」
ウエンエスが言う。
「私もですわ。よろしかったら、教えてください」
ハールンが言う。俺はうなずく。
「じゃあ、説明するけど。何、簡単だよ。グーはチョキに強い。チョキはパーに強い。パーはグーに強い。この三すくみの選択肢を、どれか一つ選んで皆一斉に出すんだ。勝負がつかない場合はまた同じことを繰り返す。そして勝ち残った人がサキュバスイヤリングを手に入れる。いいね?」
「グーはチョキに強い。チョキはパーに強い。パーはグーに強い。なるほど、これで相手と勝負するのですね?」
ウエンエスが両手をグーチョキパーに変えてうなずく。うんうん。どうやらわかってもらえたようだ。
「なるほど、わかりました。これくらいの勝負事なら私にも勝ち目はあります。やりますわ」
ハールンが燃えていた。
「早速、じゃんけんする」
イーミーがグーを見せつける。
「じゃあじゃんけんスタートだ。皆、じゃんけんぽんって言って出すんだぞ。負けがいなかったら、その次はあいこでしょって言うんだ。いいな?」
「はい!」
三人が集まってまずは目でけん制を始める。
「ではいくぞ。じゃんけんぽん!」
結果。
「ヘロン様。私が勝った」
イーミーがそう言ってこちらに寄ってきた。他二人は悔しそうにしている。
「そうか。じゃあイーミー。このサキュバスイヤリングをどうぞ」
「うん」
イーミーは早速サキュバスイヤリングをとると、かけていた眼鏡を外してから装備した。
「ヘロン様、ありがとう。私、すごくすごくうれしい」
「そうか。それは良かった。ところで、イーミーはじゃんけん知ってたのか?」
「うん。前にしたことある」
「へえ」
前って、何があったんだろう?
「でも、この眼鏡も、ヘロン様からもらった物。どうしよう?」
「あれ、それはハールンに装備させた眼鏡。まあいいや。じゃあそれは俺が装備するよ。はい、ちょうだい」
「うん」
俺はイーミーから眼鏡を受け取り、装備する。きりっ。
「くう、なぜ、なぜウエンエスとイーミーはヘロン様からプレゼントがもらえて、私だけもらえないのですか、きー!」
ああ、ハールンがあれている。そうか。今のところ、ウエンエスが鎧を、イーミーがイヤリングをもらっていて、ハールンだけ何もあげてない状態なのか。これはいけない。そんな気がする。
「ハールン、そう悔しがらないで。そうだ、それじゃあハールンには、俺のスキルをプレゼントするよ。幻狼遊撃拳と剣技を共有しよう。それで機嫌なおして?」
俺が思わずそう言うと、ハールンは俺を見て目をぱちくりさせた。
「幻狼遊撃拳とは、ひょっとしてレアスキルなのではないですか。いけませんヘロン様、そのような力を私ごときのために共有させて弱体化させるなんて、間違っていますわ!」
「いやでも、俺はもう結構強いし、ハールンにも強力な攻撃手段があれば結構これからの戦いも楽になるでしょ。きっと俺の幻狼遊撃拳と剣技レベル6までを組み合わせれば、強力な攻撃ができるよ。俺はあまり使わないし、ぜひハールンが使ってくれ」
実は、バトルプリンセスになったことで剣技だけでなく、槍技、弓技もレベル6まで手に入っている。まあ、今の所清剣技、時折鞭しか使わないけど、何かあったらそれらの武器も活用するとしよう。
「ヘロン様、そこまでおっしゃられるのでしたら。わかりました、私、必ずヘロン様のスキルを使いこなし、その期待に応えてみせますわ」
ハールンがそう言ってかしずく。
「うん。わかったから、立って」
「はい」
ハールンがすぐに立つ。ふう、慕ってくれるのは良いんだけど、ちょっと敬われすぎだと思う。
「あ、ついでにハールンとイーミーに、俺手作りの剣を渡しておくよ。きっとこっちの方がウエンエスのよりも強いと思うから」
「まあ、剣もくださるんですか、ありがとうございますヘロン様!」
「え、ヘロン様、くれるの。ありがとう!」
二人はこの場で、ウエンエスの剣をぽいっと捨てる。
「こらこら二人共、物を粗末に扱うものではありませんよ」
「はいですわ」
「はーい」
「まったくもう。あ、ところでウエンエス、俺、新しく剣だけじゃなく槍も作れるようになったけど、一緒に作る?」
「いえ、ありがたい申し出ですが、私は遠慮しておきます。ヘロン様のお手を煩わせるようなマネは、あまりしたくありませんので。私は自分のか、もしくはあの死体が持っている槍で満足しておきます」
「そう。わかった。じゃあ、二人の剣を作るよ。むむーっ」
俺は今この場で魔法力と気合い力で剣を二つ作り、テンション爆上がりなハールンとイーミーに剣を渡す。
「はい、できた。これでよし。はい、二人共。あー、それと、もう一つ皆に言っておかないといけないことがあるんだけどさ」
「はい、なんでしょう?」
ハールンが言う。
「なんですか、ヘロン様」
ウエンエスが言う。
「何?」
イーミーが首をかしげる。俺はちょっと言いにくいながらもちゃんと言った。
「なんか、主従契約した皆って、ランキングっていうか、序列みたいなものがあるみたいなんだ。例えば序列1位の人は、下の順位の人に命令することができるみたい。まあ、あんまり序列に差がなければその効果は薄いみたいなんだけど」
「ということは、私がハールンとイーミーの命令を聞く、ということでしょうか?」
ウエンエスが二人を見る。
「私が、ヘロン様以外の命令を聞く?」
ハールンが二人を見る。
「私、ヘロン様以外に何か言われるの嫌」
イーミーがずっと俺を見る。
俺はとりあえず、笑顔で言った。
「まあ、今のところは一位がウエンエス、二位がハールン、三位がイーミーっていうことになってるけど、丁度レベル順だしさ。皆、納得して?」
「ふむ。私がヘロン様一の従者なのですか。なら何も問題ありません」
ウエンエスが言う。
「つまりその順位は、レベル差を変えれば私でも一位になれるということですのね?」
ハールンが燃えていた。
「ああ、まあ。それで皆が納得すればそれでいいよ」
「レベルが高い者に従う。ある意味道理といえましょう。私はそれで、何も問題ありません。二人に無茶な命令をする気もありませんし」
ウエンエスが言う。
「絶対二人よりもレベルを上にする」
イーミーも燃えていた。
「あー、それじゃあ、話はこの辺で終わりにして。早速倒したやつらの装備を確認しようか?」
俺は、この先皆の関係が悪化しませんように。と願いながら、皆と死体の装備を物色することにした。
結果。
俺はグフフ男からアイテム収納リング、槍男から旗印の指輪をいただいた。この収納リングの力でアイテムをたくさん持ち運べるようになり、更に更に旗印の指輪の効果で仲間の攻撃力が常時上がる。俺はバトルプリンセスになったことで、装飾品が二つまで身につけられるようになっている。正に進化ばんざいだ。
他の不要なアイテムは、一応収納リングの中に入れておこう。もしかしたら何かの役に立つかもしれないし。
ウエンエスは槍とか、籠手とか手に入れていた。他の皆も、それぞれ装備をもらう。面倒だからそれらの装備の性能はわざわざ聞いて回らないけど、うん。これで皆、強くなったかな。
「よし。皆、準備は終わったな」
ウエンエスがハールンとイーミーを見る。二人共うなずいた。
「もちろんですわ」
「もうここに、用はない」
「俺も準備できたよ」
「ああ、ヘロン様はわざわざ私ごときに返事などしなくていいのです。では、行きましょう、ヘロン様。どちらへ向かいましょうか?」
「うーん。じゃあ、あっちへ行こう」
俺は勘で歩く方向を決める。でも俺にはスキル幸運大があるし、結構なんとかなるだろう。
「わかりました。ではこれからも、私が先頭を歩かせてもらいます」
「待った。先頭は私が歩く。ウエンエスは私の後ろ」
そこでイーミーが出張った。
「お、お待ちなさい。私だって先頭を歩きますわ。お二人が後ろです!」
更にハールンも主張する。
「何を言っている二人とも。先頭は一番敵と遭遇しやすいんだぞ。この中で一番戦える私が歩くのが当然だ」
ウエンエスが言う。
「私が一番モンスターを倒す。そして、すぐヘロン様の一番になる」
イーミーが言う。
「私だって戦えますわ。ヘロン様からすばらしいスキルと剣をいただいたんですもの。なのですぐにウエンエスのレベルなんて追い抜いてしまいますわ!」
ハールンが言う。
「むー」
「うー」
「きー!」
皆、一歩もゆずらないようだ。なるほど、皆モンスターと戦いたがっているのか。なら。
「それじゃあ、三人で先頭を歩いて。俺は、皆の後ろをついていくから」
「わかりました、ヘロン様!」
三人いっぺんに笑顔を向けられる。
「皆、仲間同士なんだから仲良くね」
「はい!」
そして歩き出す三人。結局横一列に並んだ後、すぐに互いに目をそらしあう。この三人、ちょっと不安だ。
まあ、もうしばらくすればもっと仲良くなってくれるか。まだ仲間同士になって日が浅いんだし、これからに期待しよう。
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