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うさし、うさご、うさろくを飼い始めた次の日。ジュエルラビットファームからメールが届いた。
なんでも、ジュエルラビットの宝石が4センチから5センチになったら、もう引き取りたいらしい。
心に留めておこう。
そして、更に翌日。
「清太、私今日はお仕事お休みなの!」
「あ、そうなんだ」
「うん。だから、一通りトレーニングを終えたら、後はもう清太とずっと一緒にいるね!」
「え、いいよ。俺はずっと、部屋でぼーっとしているから」
「だったらその中に、私も混ぜて? 私、清太の妻でしょ?」
「え、うーん。まあ、じゃあ、いいかも」
「やったー、清太と一緒だ!」
でも、ネーリはいつも元気だからなあ。ずっと静かにはしていられないかもしれない。
そう思った俺は、今日は騒がしくなるかもしれない。そう予感した。
一方別の場所では。
「なんですの、これは一体。私、今日はすっごく調子が良いですわ!」
「左様ですか、エレガン様」
「これはきっと、いえ間違いなく、先日買ったジュエルラビットの影響ですわ。まさか一なでするだけで、快眠、意識壮快、通弁の効果があるとは。あの額の宝石の大きさといい、手触りといい、とんでもなく素晴らしいですわ!」
「左様でございますね、エレガン様」
「そうですわ。もっと大きい宝石のジュエルラビットがいれば、私の体調は更に良くなるに違いありませんわ。そして、そんなジュエルラビットを私が手に入れるのは、まったくもって正しいことですわ!」
「しかし、エレガン様。あの宝石9センチジュエルラビットは4億もしたのですよ。これに更に大きい宝石のジュエルラビットを求めたら、更なる出費が予想されますが」
「何を言ってるのイーニエ。更に良いものを求める。それがセレブの脳細胞というものですわ。4億や十億くらい、ぽっと出せて当然。何より私は、もっと大きい宝石のジュエルラビットが欲しいのですわー!」
「左様でございますか、エレガン様」
「では早速、ジュエルラビットファームがいかにして宝石9センチのジュエルラビットを手に入れたか調べなさい。その後は、その秘密を横取りよー!」
「はい。エレガン様」
「おーっほっほっほ。おーっほっほっほっほ!」
改めて、引きこもり部屋。
「ああ、今日はメスの臭いもするー。まあいいけどー。ちょっと憂鬱ー」
「清太ー、もっとなでろー」
「くんかくんか。清太の足の裏かぐの、やめられないなー」
俺はウサギ三羽を交互になでながら、ネーリの好きなようにされる。
「えへへー。清太にぴったりくっついちゃうぞー。あー幸せ。私やっぱり、清太大好き!」
まあネーリはご機嫌みたいだから、いいか。
しばらくそうしていると、唐突に知らない声が聞こえてきた。
「ごめんくださーい。金持ちの訪問ですー」
「ちょっとイーニエ、その態度の悪い挨拶はなんですの!」
「まあまあエレガン様。本当のことではございませんか」
「やり直しなさいイーニエ、命令です」
「はい。では、ごめんくださーい。道に迷ったんですー」
なんか変な人達が来たみたいだな。
「道に迷ったら、地図アプリを見ればいいよね。私、ちょっと行ってくる!」
「あ、うん」
ネーリが部屋を出た。ネーリが対応してくれれば、いいな。
そう思っていると、ネーリが戻ってきて言った。
「ねえ清太。なんだかお客さん、清太に用事があるみたい」
「え、俺に?」
なんだろう。というか。
「どうしても行かなきゃダメ?」
「んー。引き受けるかどうか私が伝えるだけでいいなら、清太は行かなくてもいいとも思うんだけど、なんか、ジュエルラビットを育ててほしいんだってー」
「ジュエルラビットを?」
なぜ?
「もう育ててるよ?」
「それが、お客さんは清太が育てたうさいちかうさにを買った人みたいでー、もっと大きい宝石のジュエルラビットが欲しいんだってー。それで、清太を頼りに来たらしいのー」
それで俺を頼るって、ウエルから頼まれるならともかく、お客個人がここに来るなんて、一体俺の個人情報の取り扱いはどうなってるんだ。
「それじゃあ、あー、ジュエルラビットを殺して、宝石を取り出さないと誓えるなら、一羽くらい飼ってもいいよって、伝えてくれる?」
「うん、わかった。私、伝えてくる!」
ダッシュでまた部屋を出るネーリ。また家にウサギが増えるのかー。4羽ならギリギリ、育てられるかなあ?
と思っていると、ネーリがまた戻って来た。
「清太。エレガンさんの方が、清太と会いたいって」
「え、なんで?」
「本当にジュエルラビットを上手く育てられそうか、その目で確かめるんだって。なんでも、セレブの自分ならそれができるって言ってたよ」
「わけのわからん理屈だ」
そう言ってしばらく、じっとする。
「ねえ、清太。早くう」
「ど、どうしても行かなきゃダメ?」
「だってお客さん待たせてるしい。それに私も、自慢の旦那様紹介したいし? きゃっ」
「ああ、うん。わかった。それじゃあ、頑張る」
自分から人前に出るなんて、激しく嫌だ。
でも、ネーリがこう言っているし、それに俺のお客さんなら、確かに一度くらいは顔を見ておいた方が良いかもしれない。
しょうがない。行こう。
「うーさーうさ」
「うーさーうさ」
「うーさーうさー」
このウサギ達をもう一度なでてから、行こう。
居間に行くと、そこに金髪女性とミント色髪の女性がいた。
「!」
そして二人共俺を見て、固まる。そして金髪女性が言った。
「な、な、な、あなたっ」
「え、えっと、どうも。清太です」
「清太、私と子作りしなさい!」
ああ、またこうなったよ。
「ダメー。清太は私の旦那様なのー!」
ここでネーリが俺と金髪との間に割って入る。
「お金なら出しますわ。一億でどうですの!」
「お金の問題じゃなーい! 清太は私のー!」
「あら、ネーリさん。対価を払ってもオスを独占し続けるのは、法律で禁じられていますよ。こんなところで逮捕されてもよろしいのかしら?」
え、そうなの?
「うぐ、うううっ」
「何、一晩だけです。清太を一晩だけ私の好きにしていただけたら、一億さしあげますわ。これでウィンウィンの関係です」
「ううー!」
ど、どうしよう。このままだと俺、お金のやり取りに使われてしまう。
「エレガン様。私の分も一億出してください」
「イーニエも自腹を出しなさい」
「私の安月給ではとても無理な額です」
「ではお諦めなさい」
「がくり」
「というわけで、どうです。早速今晩、私に清太をよこしなさい」
「ううー、清太ー。どうしようー」
ネーリが俺を困った目で見る。けど、俺にふられてもなあ。
「どうしようって、どうしよう。あ、そうだ。二人は、俺にジュエルラビットを育ててもらいに来たんですよね」
俺がそう確認すると、金髪がうなずいた。
「ええ、そうですわ。正しくは私の依頼です」
「では、それを引き受けるかわりに、今日はもうお帰りください」
「なら、ジュエルラビットの依頼をキャンセルするかわりに、清太をいただきますわ!」
えーっ。なんでそうなる!
「あの、俺にはネーリがいますから」
「そ、その言葉、一度言われてみたい!」
ダメだ。金髪の女性、わけのわからないリアクションしかしない。
「あの、その、ですから」
「ごほん。このエレガンのお誘いを断るというのなら、私にも考えがありますわ。まずジュエルラビットファームの株を買い占めて、もう二度と清太との取引ができないようにひきしめます。そうなったら清太は困るでしょう? さあ、困る前に私と子作りしなさい!」
「え、えーっ」
ジュエルラビットファームの株を買って私情を挟むなんて、できるのか?
い、いいや。ひょっとしたらできるのかもしれない。エレガンはお金持ちっぽいし、何をやるか予想がつかない。
それに、今ジュエルラビットファームの方針が変わったら、俺が育てたウサギ達はどうなる?
ひょっとしたら、やっぱり殺処分、なんてことになったら、辛い。
育てた分、情が移ってるからなあ。
「わかった。じゃあ、一晩だけ、エレガンと一緒にいればいいんだな?」
俺は、しぶしぶうなずいた。
「やったあ! そうですわ、それで良いのですわ!」
「ええ、行っちゃうの、清太!」
エレガンが喜び、ネーリがショックを受ける。
でもきっと、これしか道は無い。
「うん。でも、大丈夫だよ、ネーリ。一晩エレガンと一緒にいて、その間何もしなければいいんだから。俺を信じて」
「うんわかった。私清太を信じる!」
ネーリは一瞬でわかってくれた。
「ふん。男なんて一瞬で落としてごらんにいれますわ!」
「その調子です、エレガン様。さて、それでは、ジュエルラビットの件はいかがいたしますか?」
ミント髪の、おそらくイーニエが俺にジュエルラビットが入ったケースを見せる。
「ああ、じゃあ、それも育ててみます。十センチ以上の宝石ができればいいんですよね?」
「そうですわ!」
エレガンが胸を張る。
「では、どうぞ。どうかお世話、よろしくお願いします」
そう言うとイーニエがケースからウサギを出した。宝石はまだできてないみたいだけど、首に首輪がついている。ちゃんと見分けはつくな。
「さて、それでは清太。一緒に帰りますわよ!」
「え?」
「何言ってるの、エレガン。清太を貸すのは夜の間だけだよ!」
ネーリがそう言う。
「まあそう言わずに。夜が来る前に、もう私の屋敷に案内してもよいのではなくて?」
「ダーメ。絶対にダメー!」
「だそうです。エレガン様。今のところはひとまず、夜を待ちましょう。夕方6時に迎えをよこす。でどうでしょう?」
「うう。それなら、まあいいよ」
あ、ネーリ。それ俺の台詞。
「わかりましたわ。では清太、先に屋敷で待ってますわよ」
「それでは失礼いたします」
イーニエがおじぎをして、二人は帰っていった。
「ふう。何あの人。お金持ちだか知らないけど、私の清太に目をつけるなんて、信じられない!」
ネーリはそう言って、プリプリ怒っている。
「まあまあ、とにかく、帰ってくれたんだから一安心しよう」
「うん。ねえ、清太。今の内に私と子作りしておこう!」
「え?」
「清太はもしかしたらエレガンに誘惑されちゃうかもしれないから、先に私がたたないように、全部清太のを発射しておくの!」
「あ、ああ」
それは、ちょっと、全部発射ってきついのでは?
「ほ、本当にやるの、ネーリ?」
「うん。ほら清太。そうと決まったら清太の部屋にレッツゴー! それともここでヤる?」
「い、いや、ベッドの上いこう」
「うん!」
「やれやれ。なんだか大変なお宅に来てしまいましたねえ」
首輪付きウサギにそんなことを言われながら、俺はネーリに手をひかれ、自分の部屋に戻った。
そして俺は、ウサギ4羽が見守る中、ネーリに体内エネルギーをとことん吸われた。
正直、干からびるかと思った。
「清太様、お迎えにあがりました」
夕方6時きっちりに、迎えの声が聞こえた。
「清太、いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
「清太、いってきますのチュー」
「うん」
ネーリにキスしてから、家を出る。
すると家の前に、ダークブルーの髪色をした女性がいた。
「初めまして、清太様。私はユーフォードライバーのジールです」
「どうも」
「ではこの綱のわっかに足をひっかけて、ベルトをつけて、綱を持ってから、軽く三度引っ張ってください」
「はい」
言われた通りにすると、ロープが巻き上げられてユーフォーへと入れた。
ロープはまたおりて、ジールを迎えに行く。その後はジールの運転でユーフォーが動き、たった数秒でまたおりることになった。
「ここがエレガン様のお屋敷です」
「はい」
やって来た場所は、屋敷、というより夢のようなお城だった。
迎えの車がいて、それに乗って車庫兼ドアまで行く。その後は女性数人に囲まれて、風呂場へ移動させられた。
「まず、全身の汚れをきれいに洗います」
「はい」
「では、私達が洗いますので」
「え、いえ、自分で洗います」
「いけません。全て私達にお任せください」
「えー」
俺は裸にひんむかれた後、力強い女性の手で全身を洗われた。
手足はもちろん、股間や尻の穴までアタックされる。
しまいには肌のいたるところを、お姉さま方になめられてしまった。
「ぺろ、ぺろ。ああ、男って美味しい」
「ちょっと、それ洗ってませんよ」
「いいのです。これは私達洗い係のご褒美のようなものです」
その後熱い薬湯に入り、なんだか甘い香りに包まれてから、高級そうなパジャマに着替える。
そして次に招かれた食堂で、エレガンを見つけた。
「ふふ。やっと来ましたね。こんばんは、清太」
「はい、こんばんは」
「お腹が減ってはいませんか? まずは食事をどうぞ」
「い、いえ。来る前に食べてきたので」
「あら、そうですか。では、後はこれをお飲みください」
俺は白い飲み物をすすめられる。これは、牛乳かな?
「では、いただきます。ごく、ごく、ごく、うっ」
なんだ、これ。何かが変だ。まずくはないが、いろいろな味が混ざっている気がする。
「エレガン、これなんだ?」
「精力剤です」
「せ、せい?」
「オスの生殖機能を強化する飲料です。きっと地球人にも効果があります」
「き、きっとって、もしかして未検証?」
「まあまあ、いいではないですか。それより、どうです。清太。ご気分は」
「う、う!」
なんだ、急に、股間が熱く!
「う、うわー!」
「ふふふ。その様子では、ちゃんと効いているようですね。さあ、それでは清太。私と共に愛の寝室に行きましょう。今夜は寝かせませんわ」
「う、ううう、ううう!」
なんだろう。目の前にいるエレガンが、急に、すっごく魅力的に感じる。
このままでは、いけない!
「え、エレガン。俺、今、凄く変だ。これは、まずい」
「ふふふ。それでいいのですよ。今日は私に、たくましいところを、み、せ、て」
俺はエレガンに手をひかれ、広い部屋に招かれた。
そこでエレガンは俺の首に腕をからめ、至近距離で言う。
「ああ、忘れていましたわ。子作りの前には、キスが礼儀ですわよね。ちゅ」
「ちゅ」
次の瞬間、俺の理性は蒸発した。
そしてその夜、俺はいつの間にか眠った。
朝。
目が覚めたら、なぜか裸のエレガンが俺にだきついて眠っていた。
「う、うわあ!」
とにかく、声をあげて暴れる。するとエレガンを起こしてしまった。
「ふあーあ。おはようございます、清太様」
「あ、あ、あの、エレガン」
「何かしら。ああ、朝食が欲しいのですか? なら早速メイドに用意させますわ」
「ち、違う、とにかく、帰して!」
「え、もう行ってしまわれるのですか?」
エレガンはそう言うと、急に俺にしがみついてきた。
あああ、折角離れたのにい!
「お願いします、清太様。どこにも行かないでください。私は昨夜知りました。私はあなたのもの、あなたの愛の奴隷であるということを。清太様と生きる人生が、私の本当の人生なのですわ。どうか、私を捨てないで」
「そ、それは一時の過ちです。俺はもう、ネーリのところに帰る、帰るー!」
その後すぐ、メイド達によって俺とエレガンは引き離され、俺は無事帰ることができた。
「清太様。エレガン様は純粋なお方です。決して悪い方ではないので、どうかお嫌いにならないでください」
「は、はい。わかってます」
「あと、できれば今、私とも子作りしてください」
「それは、絶対遠慮します」
ジールとそんな話をしながら家まで送られ、俺は玄関でネーリと再会した。
「あ、お帰り、清太!」
「ごめん、ネーリ!」
「え、なんで清太、土下座なんてするの?」
「それは、その、ごめん。俺、たぶんエレガンとしちゃった!」
「ああ、そんなこと。いいよ、清太。気にしないで」
「え、許して、くれるの?」
「うん。だって、女が男を求めるように、男も女を求めるものでしょ。だから、しょうがないなーって」
「あ、うん。ごめん、ネーリ」
「まあ、エレガンにはちょっと嫉妬するけどね!」
「ああ、やっぱりごめん、ネーリ!」
「だから、怒ってないって。けど、私もう仕事に行かないといけないから、行ってくるね!」
「うん」
「行って来ますのチュー。あ、あと、お帰りのチューも!」
「うん。ちゅ、ちゅ、ちゅ」
「きゃ。清太、三回もチューしてくれちゃった」
「本当、申し訳なく思ってるから、その分」
「ありがとう。清太。私、すっごくうれしくなってきた!」
「そっか。それは、良かった」
「それじゃあ私、この怒りを仕事にぶつけてくる!」
「ああ、やっぱり怒ってた!」
「いってきまーす!」
元気に出かけるネーリを見送った後、俺はとぼとぼと自分の部屋に戻って、4羽のウサギをひたすらなでた。
「おー、清太ー。お疲れかー。なんだかいつもより元気がないぞー」
「しかもメスの臭いがするぞー。家にいるのとは違うやつの臭いだー」
「精力剤の臭いもするぞー。さてはしこたまハッスルしたなー」
「うさし、うさご、うさろく。よくわかるね。凄いなー」
「おい、お前、腹減った。なんか食わせろー!」
「ああ、こっちのエレガンから受け取ったウサギも、ええと、名前はリングにしようかな。リングはごはんだね。待ってて、今ニンジン持ってくるから」
「ニンジン、俺もー!」
「俺も俺もー!」
「飯食いたい飯ー!」
「はいはい」
ひとまずは、無心にウサギの世話をすることにしよう。
その後、うさし、うさご、うさろくを引き渡した後、うさなな、うさはち、うさくを与えられた。
「清太様。それではよろしくお願いします」
「はい」
ウエルに頭を下げられ、更にこうも言われる。
「ああ、そうです清太様。清太様が提案されたリラックス効果ですが、無事成果が出ておりますよ」
「あ、本当ですか?」
「はい。現在うささんを飼っているオーハという方が、すぐにスランプから抜け出し、順調に良いタイムが出ていると喜んでいました」
「あ、それは良かったです」
「うさいちとうさにを手に入れた方も、見違えるように体調が良くなったと喜んでいましたよ」
「ああ、それは、知ってます」
「? 何か、あったのですか?」
「あれ、知らないんですか。エレガンがこの前家に来て、俺にジュエルラビットを渡してきたんですよ」
それ以外にもいろいろあったことは、流石に言わない方が良いだろう。
「エレガン様がジュエルラビットを?」
「ええ。なんでも、十センチ以上の宝石が欲しいということでした。ご存じないんですか?」
というか、そちらがエレガンをよこしたんじゃないのか?
そう疑っていると、ウエルが頭を下げた。
「それは、真に申し訳ありません。どうやらどこかで清太様の情報がもれたようです。当社は個人情報を厳重に管理しているはずなのですが、この度は清太様に大変ご迷惑をおかけしました」
「いえ、そんな、そちらに非がない、わけではないかもしれませんが、謝ってくださるのでしたら、それで結構です」
「おわびに、脱ぎます? 子作りします?」
「いえ、絶対結構です」
「もし今後同じようなことがあれば、私共の方にご相談ください。必ず力になりますので」
「そういうことなら、ありがとうございます。では次は、お力を借りたいと思います」
「はい。それでは、私はこれで」
ウエルは去ろうとしたが、そこで一度止まり、こう言った。
「ああ、そうでした。先程お名前を申し上げたオーハ様ですが、ぜひジュエルラビットを育てあげた清太様に会いたいと言っておられました。もしよろしければ、お会いになられてはいただけませんか?」
「え、い、いいです」
また女性と会って、また何かあったら、いろいろと嫌だ。
「そうですか。ですが、うささんとも会えるチャンスですよ?」
「え?」
「うささんと会うためにも、お会いしてみてはどうでしょう?」
そう言われると、心が動く。
うささんかあ。今どうしているかなあ。元気かなあ。
「わかりました。では、考えてみます」
これで本当に、ウエルが帰った。
うささん、うささんかあ。
どうやら、良い飼い主と出会えたらしい。それは良かった。
けれど、うささんが今幸せなら、別にもう会わなくてもいいのでは?
いや、それとこれとは違うか。それに、うささんが本当に幸せなのかどうかも、会ってみないとわからないし。
オーハかあ。その人もきっと、俺との子作りを企むよね?
いや、決めつけはよくない。よくないけど、今までがそうだったしなあ。
うーん、もう少し悩んでいよう。
夜になっても、まだ悩んでいた。
折角なので、ネーリとも相談する。
「ねえネーリ。うささんと会えるとしたら、会いたい?」
「え、うささん? 会いたい!」
そっか。即答かあ。
「なんでも、うささんの今の飼い主が、俺と会いたがってるんだって。だから、もしネーリもよければ、会う? って」
「そっかあ。でも、その人と都合合うかなあ。私の次の休みが、その人の都合と合えばいいんだけど」
「じゃあ、聞いてみよっか」
「うん!」
俺は折角なので、ジュエルラビットファクトリーにメールを送った。
すると、ご自分でやりとりしてくださいという文と、オーハのメールアドレスが送られてきた。
なので、ネーリの休みの日を指定して、この日会えますか? と送る。
すると、すぐに返事がきて、会えますよ。私の別荘で待ち合わせはどうですか? と返信が。
別荘?
メールには別荘の住所も記載されていて、確かに行くことはできる。
ただ、ネーリに相談してから決めよう。
「ネーリ。相手の別荘に招待されたんだけど、行ってみる?」
「うん。そこならきっとうささんとゆっくりできるよ。行こう!」
俺はすぐに行きますと返事。こうしてうささんと再会できることになった。
オーハの別荘に向かう日、家にエレガンとイーニエがやって来た。
「清太様。今日は清太様に会いに来ましたわ!」
「清太様、お時間はよろしいでしょうか?」
「今日清太と私は、うささんに会いに行くの。だから、もう出かけちゃうよ!」
「あら、でしたら私達もそこへついていきますわ」
エレガンの相手をネーリに任せた結果、なぜかエレガンも別荘へとついてくることになった。いいのだろうか。
俺達はタクシーユーフォーに乗って、エレガン達はプライベートユーフォーに乗って移動する。すると森のふもとの閑散とした場所に、プール付きの屋敷があった。
ここが、うささんとオーハがいる別荘か。
別荘を訪問すると、水色のワンピースを着た青髪の女性が笑顔で俺達を迎えた。
「待ってたよ。誰がうささんを育てた人?」
「俺です」
「あ、ステキ。今私、キュンときた。お願い、子作りして!」
「いいえ、それは遠慮します」
「えー!」
やっぱり。というか、まさかこうなるとは。
なんでも、ジュエルラビットの宝石が4センチから5センチになったら、もう引き取りたいらしい。
心に留めておこう。
そして、更に翌日。
「清太、私今日はお仕事お休みなの!」
「あ、そうなんだ」
「うん。だから、一通りトレーニングを終えたら、後はもう清太とずっと一緒にいるね!」
「え、いいよ。俺はずっと、部屋でぼーっとしているから」
「だったらその中に、私も混ぜて? 私、清太の妻でしょ?」
「え、うーん。まあ、じゃあ、いいかも」
「やったー、清太と一緒だ!」
でも、ネーリはいつも元気だからなあ。ずっと静かにはしていられないかもしれない。
そう思った俺は、今日は騒がしくなるかもしれない。そう予感した。
一方別の場所では。
「なんですの、これは一体。私、今日はすっごく調子が良いですわ!」
「左様ですか、エレガン様」
「これはきっと、いえ間違いなく、先日買ったジュエルラビットの影響ですわ。まさか一なでするだけで、快眠、意識壮快、通弁の効果があるとは。あの額の宝石の大きさといい、手触りといい、とんでもなく素晴らしいですわ!」
「左様でございますね、エレガン様」
「そうですわ。もっと大きい宝石のジュエルラビットがいれば、私の体調は更に良くなるに違いありませんわ。そして、そんなジュエルラビットを私が手に入れるのは、まったくもって正しいことですわ!」
「しかし、エレガン様。あの宝石9センチジュエルラビットは4億もしたのですよ。これに更に大きい宝石のジュエルラビットを求めたら、更なる出費が予想されますが」
「何を言ってるのイーニエ。更に良いものを求める。それがセレブの脳細胞というものですわ。4億や十億くらい、ぽっと出せて当然。何より私は、もっと大きい宝石のジュエルラビットが欲しいのですわー!」
「左様でございますか、エレガン様」
「では早速、ジュエルラビットファームがいかにして宝石9センチのジュエルラビットを手に入れたか調べなさい。その後は、その秘密を横取りよー!」
「はい。エレガン様」
「おーっほっほっほ。おーっほっほっほっほ!」
改めて、引きこもり部屋。
「ああ、今日はメスの臭いもするー。まあいいけどー。ちょっと憂鬱ー」
「清太ー、もっとなでろー」
「くんかくんか。清太の足の裏かぐの、やめられないなー」
俺はウサギ三羽を交互になでながら、ネーリの好きなようにされる。
「えへへー。清太にぴったりくっついちゃうぞー。あー幸せ。私やっぱり、清太大好き!」
まあネーリはご機嫌みたいだから、いいか。
しばらくそうしていると、唐突に知らない声が聞こえてきた。
「ごめんくださーい。金持ちの訪問ですー」
「ちょっとイーニエ、その態度の悪い挨拶はなんですの!」
「まあまあエレガン様。本当のことではございませんか」
「やり直しなさいイーニエ、命令です」
「はい。では、ごめんくださーい。道に迷ったんですー」
なんか変な人達が来たみたいだな。
「道に迷ったら、地図アプリを見ればいいよね。私、ちょっと行ってくる!」
「あ、うん」
ネーリが部屋を出た。ネーリが対応してくれれば、いいな。
そう思っていると、ネーリが戻ってきて言った。
「ねえ清太。なんだかお客さん、清太に用事があるみたい」
「え、俺に?」
なんだろう。というか。
「どうしても行かなきゃダメ?」
「んー。引き受けるかどうか私が伝えるだけでいいなら、清太は行かなくてもいいとも思うんだけど、なんか、ジュエルラビットを育ててほしいんだってー」
「ジュエルラビットを?」
なぜ?
「もう育ててるよ?」
「それが、お客さんは清太が育てたうさいちかうさにを買った人みたいでー、もっと大きい宝石のジュエルラビットが欲しいんだってー。それで、清太を頼りに来たらしいのー」
それで俺を頼るって、ウエルから頼まれるならともかく、お客個人がここに来るなんて、一体俺の個人情報の取り扱いはどうなってるんだ。
「それじゃあ、あー、ジュエルラビットを殺して、宝石を取り出さないと誓えるなら、一羽くらい飼ってもいいよって、伝えてくれる?」
「うん、わかった。私、伝えてくる!」
ダッシュでまた部屋を出るネーリ。また家にウサギが増えるのかー。4羽ならギリギリ、育てられるかなあ?
と思っていると、ネーリがまた戻って来た。
「清太。エレガンさんの方が、清太と会いたいって」
「え、なんで?」
「本当にジュエルラビットを上手く育てられそうか、その目で確かめるんだって。なんでも、セレブの自分ならそれができるって言ってたよ」
「わけのわからん理屈だ」
そう言ってしばらく、じっとする。
「ねえ、清太。早くう」
「ど、どうしても行かなきゃダメ?」
「だってお客さん待たせてるしい。それに私も、自慢の旦那様紹介したいし? きゃっ」
「ああ、うん。わかった。それじゃあ、頑張る」
自分から人前に出るなんて、激しく嫌だ。
でも、ネーリがこう言っているし、それに俺のお客さんなら、確かに一度くらいは顔を見ておいた方が良いかもしれない。
しょうがない。行こう。
「うーさーうさ」
「うーさーうさ」
「うーさーうさー」
このウサギ達をもう一度なでてから、行こう。
居間に行くと、そこに金髪女性とミント色髪の女性がいた。
「!」
そして二人共俺を見て、固まる。そして金髪女性が言った。
「な、な、な、あなたっ」
「え、えっと、どうも。清太です」
「清太、私と子作りしなさい!」
ああ、またこうなったよ。
「ダメー。清太は私の旦那様なのー!」
ここでネーリが俺と金髪との間に割って入る。
「お金なら出しますわ。一億でどうですの!」
「お金の問題じゃなーい! 清太は私のー!」
「あら、ネーリさん。対価を払ってもオスを独占し続けるのは、法律で禁じられていますよ。こんなところで逮捕されてもよろしいのかしら?」
え、そうなの?
「うぐ、うううっ」
「何、一晩だけです。清太を一晩だけ私の好きにしていただけたら、一億さしあげますわ。これでウィンウィンの関係です」
「ううー!」
ど、どうしよう。このままだと俺、お金のやり取りに使われてしまう。
「エレガン様。私の分も一億出してください」
「イーニエも自腹を出しなさい」
「私の安月給ではとても無理な額です」
「ではお諦めなさい」
「がくり」
「というわけで、どうです。早速今晩、私に清太をよこしなさい」
「ううー、清太ー。どうしようー」
ネーリが俺を困った目で見る。けど、俺にふられてもなあ。
「どうしようって、どうしよう。あ、そうだ。二人は、俺にジュエルラビットを育ててもらいに来たんですよね」
俺がそう確認すると、金髪がうなずいた。
「ええ、そうですわ。正しくは私の依頼です」
「では、それを引き受けるかわりに、今日はもうお帰りください」
「なら、ジュエルラビットの依頼をキャンセルするかわりに、清太をいただきますわ!」
えーっ。なんでそうなる!
「あの、俺にはネーリがいますから」
「そ、その言葉、一度言われてみたい!」
ダメだ。金髪の女性、わけのわからないリアクションしかしない。
「あの、その、ですから」
「ごほん。このエレガンのお誘いを断るというのなら、私にも考えがありますわ。まずジュエルラビットファームの株を買い占めて、もう二度と清太との取引ができないようにひきしめます。そうなったら清太は困るでしょう? さあ、困る前に私と子作りしなさい!」
「え、えーっ」
ジュエルラビットファームの株を買って私情を挟むなんて、できるのか?
い、いいや。ひょっとしたらできるのかもしれない。エレガンはお金持ちっぽいし、何をやるか予想がつかない。
それに、今ジュエルラビットファームの方針が変わったら、俺が育てたウサギ達はどうなる?
ひょっとしたら、やっぱり殺処分、なんてことになったら、辛い。
育てた分、情が移ってるからなあ。
「わかった。じゃあ、一晩だけ、エレガンと一緒にいればいいんだな?」
俺は、しぶしぶうなずいた。
「やったあ! そうですわ、それで良いのですわ!」
「ええ、行っちゃうの、清太!」
エレガンが喜び、ネーリがショックを受ける。
でもきっと、これしか道は無い。
「うん。でも、大丈夫だよ、ネーリ。一晩エレガンと一緒にいて、その間何もしなければいいんだから。俺を信じて」
「うんわかった。私清太を信じる!」
ネーリは一瞬でわかってくれた。
「ふん。男なんて一瞬で落としてごらんにいれますわ!」
「その調子です、エレガン様。さて、それでは、ジュエルラビットの件はいかがいたしますか?」
ミント髪の、おそらくイーニエが俺にジュエルラビットが入ったケースを見せる。
「ああ、じゃあ、それも育ててみます。十センチ以上の宝石ができればいいんですよね?」
「そうですわ!」
エレガンが胸を張る。
「では、どうぞ。どうかお世話、よろしくお願いします」
そう言うとイーニエがケースからウサギを出した。宝石はまだできてないみたいだけど、首に首輪がついている。ちゃんと見分けはつくな。
「さて、それでは清太。一緒に帰りますわよ!」
「え?」
「何言ってるの、エレガン。清太を貸すのは夜の間だけだよ!」
ネーリがそう言う。
「まあそう言わずに。夜が来る前に、もう私の屋敷に案内してもよいのではなくて?」
「ダーメ。絶対にダメー!」
「だそうです。エレガン様。今のところはひとまず、夜を待ちましょう。夕方6時に迎えをよこす。でどうでしょう?」
「うう。それなら、まあいいよ」
あ、ネーリ。それ俺の台詞。
「わかりましたわ。では清太、先に屋敷で待ってますわよ」
「それでは失礼いたします」
イーニエがおじぎをして、二人は帰っていった。
「ふう。何あの人。お金持ちだか知らないけど、私の清太に目をつけるなんて、信じられない!」
ネーリはそう言って、プリプリ怒っている。
「まあまあ、とにかく、帰ってくれたんだから一安心しよう」
「うん。ねえ、清太。今の内に私と子作りしておこう!」
「え?」
「清太はもしかしたらエレガンに誘惑されちゃうかもしれないから、先に私がたたないように、全部清太のを発射しておくの!」
「あ、ああ」
それは、ちょっと、全部発射ってきついのでは?
「ほ、本当にやるの、ネーリ?」
「うん。ほら清太。そうと決まったら清太の部屋にレッツゴー! それともここでヤる?」
「い、いや、ベッドの上いこう」
「うん!」
「やれやれ。なんだか大変なお宅に来てしまいましたねえ」
首輪付きウサギにそんなことを言われながら、俺はネーリに手をひかれ、自分の部屋に戻った。
そして俺は、ウサギ4羽が見守る中、ネーリに体内エネルギーをとことん吸われた。
正直、干からびるかと思った。
「清太様、お迎えにあがりました」
夕方6時きっちりに、迎えの声が聞こえた。
「清太、いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
「清太、いってきますのチュー」
「うん」
ネーリにキスしてから、家を出る。
すると家の前に、ダークブルーの髪色をした女性がいた。
「初めまして、清太様。私はユーフォードライバーのジールです」
「どうも」
「ではこの綱のわっかに足をひっかけて、ベルトをつけて、綱を持ってから、軽く三度引っ張ってください」
「はい」
言われた通りにすると、ロープが巻き上げられてユーフォーへと入れた。
ロープはまたおりて、ジールを迎えに行く。その後はジールの運転でユーフォーが動き、たった数秒でまたおりることになった。
「ここがエレガン様のお屋敷です」
「はい」
やって来た場所は、屋敷、というより夢のようなお城だった。
迎えの車がいて、それに乗って車庫兼ドアまで行く。その後は女性数人に囲まれて、風呂場へ移動させられた。
「まず、全身の汚れをきれいに洗います」
「はい」
「では、私達が洗いますので」
「え、いえ、自分で洗います」
「いけません。全て私達にお任せください」
「えー」
俺は裸にひんむかれた後、力強い女性の手で全身を洗われた。
手足はもちろん、股間や尻の穴までアタックされる。
しまいには肌のいたるところを、お姉さま方になめられてしまった。
「ぺろ、ぺろ。ああ、男って美味しい」
「ちょっと、それ洗ってませんよ」
「いいのです。これは私達洗い係のご褒美のようなものです」
その後熱い薬湯に入り、なんだか甘い香りに包まれてから、高級そうなパジャマに着替える。
そして次に招かれた食堂で、エレガンを見つけた。
「ふふ。やっと来ましたね。こんばんは、清太」
「はい、こんばんは」
「お腹が減ってはいませんか? まずは食事をどうぞ」
「い、いえ。来る前に食べてきたので」
「あら、そうですか。では、後はこれをお飲みください」
俺は白い飲み物をすすめられる。これは、牛乳かな?
「では、いただきます。ごく、ごく、ごく、うっ」
なんだ、これ。何かが変だ。まずくはないが、いろいろな味が混ざっている気がする。
「エレガン、これなんだ?」
「精力剤です」
「せ、せい?」
「オスの生殖機能を強化する飲料です。きっと地球人にも効果があります」
「き、きっとって、もしかして未検証?」
「まあまあ、いいではないですか。それより、どうです。清太。ご気分は」
「う、う!」
なんだ、急に、股間が熱く!
「う、うわー!」
「ふふふ。その様子では、ちゃんと効いているようですね。さあ、それでは清太。私と共に愛の寝室に行きましょう。今夜は寝かせませんわ」
「う、ううう、ううう!」
なんだろう。目の前にいるエレガンが、急に、すっごく魅力的に感じる。
このままでは、いけない!
「え、エレガン。俺、今、凄く変だ。これは、まずい」
「ふふふ。それでいいのですよ。今日は私に、たくましいところを、み、せ、て」
俺はエレガンに手をひかれ、広い部屋に招かれた。
そこでエレガンは俺の首に腕をからめ、至近距離で言う。
「ああ、忘れていましたわ。子作りの前には、キスが礼儀ですわよね。ちゅ」
「ちゅ」
次の瞬間、俺の理性は蒸発した。
そしてその夜、俺はいつの間にか眠った。
朝。
目が覚めたら、なぜか裸のエレガンが俺にだきついて眠っていた。
「う、うわあ!」
とにかく、声をあげて暴れる。するとエレガンを起こしてしまった。
「ふあーあ。おはようございます、清太様」
「あ、あ、あの、エレガン」
「何かしら。ああ、朝食が欲しいのですか? なら早速メイドに用意させますわ」
「ち、違う、とにかく、帰して!」
「え、もう行ってしまわれるのですか?」
エレガンはそう言うと、急に俺にしがみついてきた。
あああ、折角離れたのにい!
「お願いします、清太様。どこにも行かないでください。私は昨夜知りました。私はあなたのもの、あなたの愛の奴隷であるということを。清太様と生きる人生が、私の本当の人生なのですわ。どうか、私を捨てないで」
「そ、それは一時の過ちです。俺はもう、ネーリのところに帰る、帰るー!」
その後すぐ、メイド達によって俺とエレガンは引き離され、俺は無事帰ることができた。
「清太様。エレガン様は純粋なお方です。決して悪い方ではないので、どうかお嫌いにならないでください」
「は、はい。わかってます」
「あと、できれば今、私とも子作りしてください」
「それは、絶対遠慮します」
ジールとそんな話をしながら家まで送られ、俺は玄関でネーリと再会した。
「あ、お帰り、清太!」
「ごめん、ネーリ!」
「え、なんで清太、土下座なんてするの?」
「それは、その、ごめん。俺、たぶんエレガンとしちゃった!」
「ああ、そんなこと。いいよ、清太。気にしないで」
「え、許して、くれるの?」
「うん。だって、女が男を求めるように、男も女を求めるものでしょ。だから、しょうがないなーって」
「あ、うん。ごめん、ネーリ」
「まあ、エレガンにはちょっと嫉妬するけどね!」
「ああ、やっぱりごめん、ネーリ!」
「だから、怒ってないって。けど、私もう仕事に行かないといけないから、行ってくるね!」
「うん」
「行って来ますのチュー。あ、あと、お帰りのチューも!」
「うん。ちゅ、ちゅ、ちゅ」
「きゃ。清太、三回もチューしてくれちゃった」
「本当、申し訳なく思ってるから、その分」
「ありがとう。清太。私、すっごくうれしくなってきた!」
「そっか。それは、良かった」
「それじゃあ私、この怒りを仕事にぶつけてくる!」
「ああ、やっぱり怒ってた!」
「いってきまーす!」
元気に出かけるネーリを見送った後、俺はとぼとぼと自分の部屋に戻って、4羽のウサギをひたすらなでた。
「おー、清太ー。お疲れかー。なんだかいつもより元気がないぞー」
「しかもメスの臭いがするぞー。家にいるのとは違うやつの臭いだー」
「精力剤の臭いもするぞー。さてはしこたまハッスルしたなー」
「うさし、うさご、うさろく。よくわかるね。凄いなー」
「おい、お前、腹減った。なんか食わせろー!」
「ああ、こっちのエレガンから受け取ったウサギも、ええと、名前はリングにしようかな。リングはごはんだね。待ってて、今ニンジン持ってくるから」
「ニンジン、俺もー!」
「俺も俺もー!」
「飯食いたい飯ー!」
「はいはい」
ひとまずは、無心にウサギの世話をすることにしよう。
その後、うさし、うさご、うさろくを引き渡した後、うさなな、うさはち、うさくを与えられた。
「清太様。それではよろしくお願いします」
「はい」
ウエルに頭を下げられ、更にこうも言われる。
「ああ、そうです清太様。清太様が提案されたリラックス効果ですが、無事成果が出ておりますよ」
「あ、本当ですか?」
「はい。現在うささんを飼っているオーハという方が、すぐにスランプから抜け出し、順調に良いタイムが出ていると喜んでいました」
「あ、それは良かったです」
「うさいちとうさにを手に入れた方も、見違えるように体調が良くなったと喜んでいましたよ」
「ああ、それは、知ってます」
「? 何か、あったのですか?」
「あれ、知らないんですか。エレガンがこの前家に来て、俺にジュエルラビットを渡してきたんですよ」
それ以外にもいろいろあったことは、流石に言わない方が良いだろう。
「エレガン様がジュエルラビットを?」
「ええ。なんでも、十センチ以上の宝石が欲しいということでした。ご存じないんですか?」
というか、そちらがエレガンをよこしたんじゃないのか?
そう疑っていると、ウエルが頭を下げた。
「それは、真に申し訳ありません。どうやらどこかで清太様の情報がもれたようです。当社は個人情報を厳重に管理しているはずなのですが、この度は清太様に大変ご迷惑をおかけしました」
「いえ、そんな、そちらに非がない、わけではないかもしれませんが、謝ってくださるのでしたら、それで結構です」
「おわびに、脱ぎます? 子作りします?」
「いえ、絶対結構です」
「もし今後同じようなことがあれば、私共の方にご相談ください。必ず力になりますので」
「そういうことなら、ありがとうございます。では次は、お力を借りたいと思います」
「はい。それでは、私はこれで」
ウエルは去ろうとしたが、そこで一度止まり、こう言った。
「ああ、そうでした。先程お名前を申し上げたオーハ様ですが、ぜひジュエルラビットを育てあげた清太様に会いたいと言っておられました。もしよろしければ、お会いになられてはいただけませんか?」
「え、い、いいです」
また女性と会って、また何かあったら、いろいろと嫌だ。
「そうですか。ですが、うささんとも会えるチャンスですよ?」
「え?」
「うささんと会うためにも、お会いしてみてはどうでしょう?」
そう言われると、心が動く。
うささんかあ。今どうしているかなあ。元気かなあ。
「わかりました。では、考えてみます」
これで本当に、ウエルが帰った。
うささん、うささんかあ。
どうやら、良い飼い主と出会えたらしい。それは良かった。
けれど、うささんが今幸せなら、別にもう会わなくてもいいのでは?
いや、それとこれとは違うか。それに、うささんが本当に幸せなのかどうかも、会ってみないとわからないし。
オーハかあ。その人もきっと、俺との子作りを企むよね?
いや、決めつけはよくない。よくないけど、今までがそうだったしなあ。
うーん、もう少し悩んでいよう。
夜になっても、まだ悩んでいた。
折角なので、ネーリとも相談する。
「ねえネーリ。うささんと会えるとしたら、会いたい?」
「え、うささん? 会いたい!」
そっか。即答かあ。
「なんでも、うささんの今の飼い主が、俺と会いたがってるんだって。だから、もしネーリもよければ、会う? って」
「そっかあ。でも、その人と都合合うかなあ。私の次の休みが、その人の都合と合えばいいんだけど」
「じゃあ、聞いてみよっか」
「うん!」
俺は折角なので、ジュエルラビットファクトリーにメールを送った。
すると、ご自分でやりとりしてくださいという文と、オーハのメールアドレスが送られてきた。
なので、ネーリの休みの日を指定して、この日会えますか? と送る。
すると、すぐに返事がきて、会えますよ。私の別荘で待ち合わせはどうですか? と返信が。
別荘?
メールには別荘の住所も記載されていて、確かに行くことはできる。
ただ、ネーリに相談してから決めよう。
「ネーリ。相手の別荘に招待されたんだけど、行ってみる?」
「うん。そこならきっとうささんとゆっくりできるよ。行こう!」
俺はすぐに行きますと返事。こうしてうささんと再会できることになった。
オーハの別荘に向かう日、家にエレガンとイーニエがやって来た。
「清太様。今日は清太様に会いに来ましたわ!」
「清太様、お時間はよろしいでしょうか?」
「今日清太と私は、うささんに会いに行くの。だから、もう出かけちゃうよ!」
「あら、でしたら私達もそこへついていきますわ」
エレガンの相手をネーリに任せた結果、なぜかエレガンも別荘へとついてくることになった。いいのだろうか。
俺達はタクシーユーフォーに乗って、エレガン達はプライベートユーフォーに乗って移動する。すると森のふもとの閑散とした場所に、プール付きの屋敷があった。
ここが、うささんとオーハがいる別荘か。
別荘を訪問すると、水色のワンピースを着た青髪の女性が笑顔で俺達を迎えた。
「待ってたよ。誰がうささんを育てた人?」
「俺です」
「あ、ステキ。今私、キュンときた。お願い、子作りして!」
「いいえ、それは遠慮します」
「えー!」
やっぱり。というか、まさかこうなるとは。
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