緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 ヴィーネは目を覚まし、寝台からゆっくりと起き上がった。
 ここ数日の間、ずっと休んでいたおかげで、体調もだいぶ元へ戻ってきているのが分かる。

(そろそろ身体を動かさないと……)

 床に足を着けると、もう馴染みとなった何とも言い難い衝撃が広がっていく。
 そして、着替えをして身支度を整えるのと同時に、扉が叩かれた。

「どうぞ」と応えると、扉からリアスが入って来た。

「顔色は、――悪くはないな。だが、起き上がるのには、まだ早いのでは?」

 両手に朝食を抱え、心配そうにヴィーネに声をかけてくる。

「いいえ。これ以上、寝台の上ばかりにいるのもちょっと……。この部屋からは、出ません。少しずつ、身体を動かしたいの。疲れたら、また寝台に戻ります」

「そうか。……分かっているだろうが、無理はしないように」

 ヴィーネは軽く頷き、リアスから朝食を受け取ろうと腕を伸ばしたが、リアスは首を振り、手早くいつものように側机へ朝食を並べた。

「食事は食べられるだけで良い。が、食後の薬湯は――」

「はい、残さず必ず飲みますね」

 少しおどけて続けたヴィーネにリアスは少し目を見張ったが、やがて柔らかく微笑んだ。

「本当に、体調は良さそうだ。……良かった」

 いつものようにすぐには立ち去らず、何か言いたげにこちらを見つめるリアスの珍しい様子に、ヴィーネは首を傾げた。

「どうかされましたか?」

「実は――いや、朝食が冷めてしまうな。……また後程、話に来よう」と踵を返したリアスをヴィーネは引き留める。

「朝食を御済でないのなら、良かったら一緒にいかがですか? ……御済なら、お茶だけでも。話はその時でいかがでしょう?」

 リアスは少し考えたが、「お茶を頂こう」との答えにヴィーネは椅子を勧め、お茶を注ぎ、腰かけたリアスに差し出した。
 そして、自分はもう一脚に腰かけ、朝食を食べ始める。

 その様子をしばらくリアスは目を細めて見守っていたが、頃合いを見計らって、やがて口を開いた。

「無理は禁物だ。禁物なのだが、……公爵から、珠の話は聞いただろうか?」

 唐突な話の流れに、ヴィーネは戸惑う。

(珠? 珠って、母様から頂いた珠のこと? ……わたしの身体に気遣ってもらいながら、事後報告と今後の大まかな予定は少しずつ聞いてはいるけれど、珠って一体?)

 また首を傾げたヴィーネに、事の次第を察したリアスは、肩を落とした。

「そうか……。分かった。まだ、その時ではないのだろう」

 そう言ってお茶を飲み干し、席を立ったリアスに、ヴィーネはどういうことなのかを問う。
 そして、その答えを聞いたヴィーネは目を見開いた。





「シリウス様、そろそろヴィーネ嬢の処へ行かれますか?」

 ガイが声を潜め、聞いてきたのを機にシリウスは頷き、立ち上がった。

 辺りには書類が散乱している。

 緑の塔、並びに都の復興を推し進めるための応援部隊が到着し、数日が過ぎていた。
 まずは荒れた都の治安を維持または回復させ、戻ってくる人々を上手く受け入れられるよう、役割と指示系統を分けた小隊を編成し、事にあたらせた。
 そのうえで、同じく緑の塔から回復途中の患者の受け入れが出来るように、塔の隣の学校を整えさせる――やること、考えなければならないことは多く、シリウスはいつも忙しかった。

 加えて、今は各六つの塔への通達並び対策にも取り組み、毎日忙しく過ごしているシリウスにとって、日に日に生気を取り戻していくヴィーネを見舞う時間は、心の支えであり、何よりの励みにもなっていた。

 それが分かっているガイは、シリウスに休息を取らせる意味でも、頻繁に声をかけている。

 しかし、ガイと連れ立って部屋から出ようとしたシリウスは、いつの間にか側へと近づいていた導師達一行に呼び止められた。

「お急ぎのところを悪いのじゃが、少し聞いても良いかのう?」 

「何ですか? 導師。出来れば、手短に願います」

「わしらは一応、リアスから薬草採取の手順の合格が出たのじゃ。出来れば、すぐにでもこれからルルスへと向かいたいと思っておるのじゃが……」
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