緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 この世界の危機に、七人の賢者が立ち上がる――

 光の賢者ルーチェは、光の塔を
 闇の賢者フォンセは、闇の塔を
 水の賢者モーリェは、水の塔を
 火の賢者イグニスは、火の塔を
 風の賢者ヴァンは、風の塔を
 大地の賢者ランドは、大地の塔を
 そして、生命の賢者レオナは、此処緑の塔を建て、星の望む環境を整え、封印した。

 自らの持つ、七つの属性の力をそれぞれ用いて――奇しくもそれは、星を育む胎内の役割を果たす。

 自分達とは時の流れの違う星を見守るため、賢者達は自らの子孫にしるしを残した。
 古の賢者の名を持つ者は、賢者の力と心を受け継ぐ者達――星と世界を見守るための……。

 長い、長い時の中で、星は穏やかに育まれていった――しかし、今や七つの塔の封印された環境は、星を育む胎内となり得なくなった。

――星は、双子星だった……各塔からへその緒の如く一方通行で供給されていたエネルギーは、もはや当初のままでは到底足らず、今や各塔の要人をも巻き込み、無理やり供給されている……。最初に、生きるために必要な緑の力を持つ者達、緑の塔の使者達に甚大な被害を出した理由がこれだ。

 七つの塔を通してこの世界に固定されていた星々は、塔を通してしかエネルギーを供給出来ず、次第に苦痛と悲嘆にくれていった。

(では、この苦痛と悲しみは、星々のもの――?)

 流し込まれた情報の中の何処かで、ヴィーネは理解した。
 しかし、ぼんやりと形作られていくヴィーネの意識めがけて、今度は星々の想いがぶつけられる――

――たすけて、レオナ、たすけて、くるしい……。

 圧倒的な力を持ちながら、未だ生まれ出ていない、赤子のように純粋な意識の苦痛と助けを求める訴えに、ヴィーネの身体はふらりと前に出る。
 生きたいと純粋に訴える巨大な意識の前に、ヴィーネの持つ緑の力が反応する――

 ヴィーネの様子を見て、シリウスは不味い、と舌打ちした。
 彼は風の賢者ヴァンの名を受け継ぐ者――ヴィーネを通して、今回の事態をおぼろげながら理解していた。

(また、意識を引きずられているのか? 此処が緑の塔の継承の間だとすると――――ヴィーネの母君は、近づくなと警告した。間違いなく、鍵は、継承式だ。……賢者の名を継ぐ者は、継承式によって礎となることを誓う。私はこの国や世界の礎と解釈していたが、まさかそれは、古の星と封印の礎ということなのか――? ならば、あれは、古の星? 星の暴走がこの事態の原因か?! ――唯一、継承式を免れた、緑の賢者ヴィーネ=レオナ。あれに、ヴィーネを近づけてはならない!)

 ディンもまた、左腕を強く掴み、ヴィーネをこの場に留めようとする。

(やばい、やばい感じがする……! うなじが逆立つ、この感じ。絶対に行かせない!)

「駄目だ! しっかりしろ! ヴィーネ! 君の持つ緑の力を注ぎ込むだけでは、解決にはならない! 長達の二の舞になるぞ!」

「ヴィー! あっちへ行くな! ヴィー! 俺達と一緒にルルスへ帰るんだろう?!」

 シリウスとディンが必死に呼びかけ、ヴィーネの身体をこの場に押し止める。

 その声がヴィーネの意識に届いたとき、ふっとヴィーネの意識は星の同調から離れた。

(わたしは今、何をしようとしていた――?)

 ヴィーネの視点から、新たにこの事態を考える余裕が生まれる――

(このままでは、駄目だ。このままでは、塔も星も世界をも巻き込んで、崩壊してしまう――――星の望む環境が変わった。塔の封印を開放し、新しく星と世界を繋がなければ――)

 そこに考えが至った途端、珠がその方法を指し示す――母リーシアのいるところこそが、緑の塔と星を繋ぐ接点であり、古の封印のある処だ、と。

 認識するや否や、今まで両手で持っていた珠を手放す――球は緑に輝きながら、真っすぐに母リーシアのところまで引き寄せられていった。

 珠がリーシアの元に届くと同時に、リーシアの目が開く――絡み合う、緑と青の視線。

 リーシアが軽く頷くと、ヴィーネは声高に叫んだ。

「ヴィーネ=レオナの名において、古の封印を開放する!」
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