緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 ザーフェは、ぷりぷりと怒っていた。

「全く、旦那様は、甘すぎます。今日一日やそこら余分に学び舎へ通わせたからといって、この娘に何ら変わりはないのに――いえ、例え今日以外の日だとて、学び舎に通わせて頂いたところで、教養を身に付けることなど不可能、全くの無駄事だというのに――何故、公爵様方がいらっしゃるこの大事な日に、いつも通り学び舎への通学の許可など出すのです!」

 どんなに無教養でとろくさい娘の手でもあった方がましだ、などとぶつぶつ言いながらも、流石に昨日からの疲労が溜まっているとみえて、いつもの迫力はない。
 通常は永遠に続くかと思われる説教じみた嫌がらせのような話も、山積みになっている仕事の前に珍しく早々に切り上げねばならぬようだ。

「ヴィーネ! 仕方ない。いつも通り、今日も学び舎へ行きなさい。旦那様の寛大なお心に沿うよう、しっかり学ぶのですよ。ただし、終わり次第、道草などせずに、直ちに真っすぐ一刻も早く帰ってくるように!」

 悔しさに満ちた口調で、八つ当たり気味にまくし立てた後、ザーフェは足早に去って行った。

――道草なんて、今までしたこともないのに。

 心の中で言い返しつつも、ヴィーネは心底驚いていた。
 今日、この日にいつも通り学び舎へ行かせてもらえるとは、……ヴィーネにとっての休憩時間が取れるとは、思ってもみなかったからである。

 ヴィーネは、緑の、生命の賢者の名と力を受け継いだ者――ルルス随一の学び舎といえど、当然街の学び舎程度では、もはや教わることなど既にない。

 だが、田舎から出てきた取り柄のない無教養な娘を演じている手前、そのことはおくびにも出さなかった。

 ルルスに来て以来、唯一決まった自由時間となる夜に、森の大樹や導師の元へと通い、忙しく過ごしているヴィーネ。
 彼女にとって、週に四度、昼過ぎまでもらえる学び舎での時間は、良い休憩時間そのものだった。

 そして、学び舎では、思いがけない出会いが待っていた。
 それは、ヴィーネにとって大切な存在となった三人の友達――偏見に囚われない自由な魂を持つ、宝石のような内からの輝きを放つ彼らを、今ではヴィーネ自身とても大事に思っている。

 学び舎では、友に守られ、馴染みの導師以外の師には決して気づかれぬよう、最初から最後まで熟睡しているのが、常だった。

(た、助かった――貴重な睡眠時間が取れる。伯父様のおかげ、ね)

 脳裏に、母リーシアよりも色味の濃い金髪と緑の瞳を持った伯父の姿が浮かんだ。
 そして、今の偽りの姿で、初めて挨拶を交わしたときに交わされた言葉も――
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