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一学期

境内にて(1)

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 周りの木々のざわめきを五感全てで感じ取り、今のわたしは、元の氏神様を祀る神社に在ることが分かった。
 一呼吸おいてから、目を開く。
 そして、本殿を見、深々と一礼した。

 先ほどの体験は、わたしの人生――まだ11年と少ししか経っていないけれど――が一変するようなものだったのに違いない。
 だって、わたしの右肩には、まだクロがのっているんだもの。
 従って、あの白い霧の中の出来事は、自然とわたしの中でも現実のモノと認識されている。

「り、莉子ちゃん、ソレは……?!!」

 その時、梨香子伯母さんが真っ青な顔でクロを指差した。
 
 う~ん、やっぱり視えているのかな? コレは。

 だけど、お母さんがニコニコしながら、
「あら、莉子ちゃん、葉っぱがついている。フフ、お義姉さん、そんな大げさにしなくても」と言い、やさしくわたしの頭から葉っぱをつまみ上げた。

 え、そっち?! 何だ、葉っぱのことだったの?

 そう思っていると、智也さんから声がかかる。

「ンン、……そうそう、氏神様への参拝の後は、お神札だねー! 梨香子、ちょっと先に弟夫妻と一緒に見ておいで? 色々と、お勧めもあるだろうしね。――良い? しっかりじっくりと、特別なお神札を選ぶんだよ? 何せ本当に久方ぶりのお参りだったのだから」

 智也さん、まるでお神札選びに時間をたくさんかけろと言わんばかりだなぁ~。

 そんな風に思って見ていると、伯母さんは智也さんの言葉にコクコクと頷き、力強くお父さんの腕を引っ張りつつもお母さんにやさしく話しかけ、あっという間にその場から立ち去った。

 その後、智也さんはわたしに向き直り、
「さて、莉子ちゃん、何があったのかな?」と真剣に聞いてくる。

 だけど、そんな風に聞かれても、わたしにはどう答えてよいのかが分からない。
 何となく先ほどの氏神様の件かな? とは思うけど、正直に話せるような内容じゃないよね。
 というか、普通、いきなりあの体験を話しだしたら、頭のおかしい子だと思われちゃうからー!

 智也さんは警戒しているわたしに気がついたのか、「話せないのなら、仕方がないね」と呟くと、おもむろにわたしの右肩へ手を伸ばす。
 伸ばされた、智也さんの左手は、うっすらと青く光っている。
 驚いて固まるわたしを他所に、クロは『何をする~!』とわめきながら、パタパタとちびっこい翼で飛び上がった。

 そのため、智也さんの左手は空を切り、ハッと我に返ったわたしは用心深くそこから一歩後ずさったけれど、今度は非常に驚いた顔のまま、智也さんが固まっていた。

 しばらく固まっていた智也さんだけど、やがてギギーっと音が出るような鈍さでノロノロと動き出し、わたしを凝視し問い質し始めた。
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