異世界へようこそ

ホタル

文字の大きさ
上 下
66 / 83
2章

失いたく無いもの3

しおりを挟む
ミズキとジンがこの部屋にきて、3日が経った。

この3日でミズキの背中の傷は跡形も無く消えた。

封魔の黒真珠が体の隅々まで浸透している。

ジェリドはこれで良かったと思っている。
女の子の身体に傷なんて無いにこした事はない。

目が覚めたミズキは傷が薄皮一枚で繋がっていた事に驚いていた。

2日目には、完全に傷は消え跡形も無くなっていた。

更に3日目には傷口が引きつる痛みも無くなっていた。

流石にミズキはジェリドを疑いだした。

こんな事有り得ないと。

「ジェリドさん何したの?」
目が座ったミズキが訝しげにジェリドを問い詰めてきた。

どうやらミズキはダリルや他の連中より俺を疑っている様だ。

背中の傷が治ったのだから気にする事は無いのにと思って、ジェリドはミズキに笑って薬を飲ませたと言ったら、ミズキは素直に信じてきた。

そして『ありがとう』とか『お薬高かったでしょう?』とか言って、何度もお辞儀をして、久し振りにミズキの屈託のない笑顔が見られた。


ダリルでは無く、自分に向けられた柔らかい笑顔はジェリドの心を暖かい鎖で戒めていく。

余りの心地良さに癖になりそうだ。
この笑顔は俺だけのものにしたい。
誰にも取られたく無い。

欲が膨れ上がる。

ミズキをベッドの中でぐずぐずに甘やしたらどんな顔をするだろうか?

そんな表情も見て見たい。

想像しただけで今すぐミズキに襲いかかりそうだ。

下半身が熱を持ち。
視線はいつの間にかミズキが入って行った部屋のドアに釘付けになっていた。

のどがゴクリと鳴る。

この状況はまずい。
非常に不味い状況だ。

頭を振って気持ちを切り替える。

煩悩の塊になる訳にはいかない。

ミズキはまだ怪我人だ・・・怪我人じゃ無くても、護衛の延長でミズキはここに居るだけ。

そうでなければ、今ここにミズキが来る事をダリル、キャサリン、ギルドの連中が黙っちゃいない。

実際・・・黙ってはいなかったが、・・・言いくるめる事は出来た。

『傷を負ったのは自分の責任だからミズキが回復するまで面倒は見る』
早くミズキを休ませたいからと言って、ジェリドはミズキを連れてサッサとその場からいなくなった。

だがキャサリンとミルディンは直ぐにジェリドの跡を追ってきた。ジンを連れて。

ミズキがジンを引き取ったのだから一緒に連れて行けとキャサリンは言って、少しためらって、言いにくそうに「傷が開いただけのミズキにアレを飲ませて、あんたそれで良いの?」と言った。

キャサリンの問いにジェリドは気がついた。ミズキが死にそうになっている事を、キャサリンもダリルも気が付かなかったのだ。

「あれがただの傷が開いただけだと思っていたのか?俺が治癒魔法を使っても傷が閉じなかったんだぞ」

その言葉にミルディンとキャサリンは驚いてミズキの顔を見た。

「そうですね確かにミズキ様はここ最近ご自分の命を粗末に扱っている様に思われましたが・・・一体ミズキ様に何があったのでしょうか」

少し考えた様子のミルディンは頭を振り『やはりわかりませんね。まるで死にたがっている様にしか思えません。死にたがるなんて・・・こんな事・・・』と言ってキャサリンを連れて元来た道を戻っていた。

ミルディンの言葉が気になったが、無茶ばかりするミズキを誰かが守ってやらないとずっと思っていた。

今回だって前々から無理をしていたミズキの体は悲鳴をあげる様に熱があった。

それなのに自分の体の事を考えずにエマを救出に行ったのだ。

挙句に傷が開いて自分の力ではもう生命を維持する事も出来ない。

当然の結果だ弱りきっているミズキの身体に体力などある訳がない。

ミズキの蒼白な顔を見た瞬間、ジェリドは自分の持っているもの全てをミズキに差し出す事を決めた。

ミズキの耳にはジェリドが送った封魔の黒曜石がある。ジェリドの血が混ぜてあったコレをミズキが飲めばジェリドの生命力を分け与える事が出来る。

直ぐにミズキの口の中に無理矢理押し込んで封魔の黒曜石を飲ませるとミズキの顔色が少しずつ戻って来た。

これでミズキは助かる。
希望が確信に変わった。
ミズキをつなぎとめることが出来た事にジェリドはあんどした。

目を覚ました時ミズキにそばにいてやりたい。

そして今度こそミズキの信頼を得たい。

ミズキに再開してからジェリドの一貫した想い。


なけなしの理性を総動員し、なんとか衝動を抑える事が出来た。

ため息をつくと、ジェリドは片手に持っていたグラスの中身を見つめてから一気に呷った。

ジェリドの口から離れたグラスは、カランと中の氷と氷がぶつかる音がした。

「ふぅ」
琥珀色の液体は喉にくる刺激が心地よかった。

今まで家の中で酒など飲んだ事が無かったが・・・これもたまには良い。

ミズキのを作るつまみを肴に飲む酒は心と胃を満たしてくれる。

「・・・」

ジェリドはミズキの入って行った部屋の扉を見つめると顔が緩むのを自覚せずにはいられない。

ずっと続けば良い。

ジェリドは上を見上げて目を瞑った。

ずっと続けばいい・・・。


ジェリドはしばらく目を瞑っていると、ドアが開く音がして音の方へと顔を向けるとさっき寝たはずのミズキが出てきた。

パジャマ代わりのユッタリとした薄桃色のワンピースを着て、眠い目を擦ってドアから出てきたミズキは俺を見るなり

「ジェリドさんなんだまだ寝なかったの?」

ミズキが寝てから結構時間が経ってた様だ。

「結構時間が経っていたんだな、もう寝る」
ジェリドはグラスに残っていた琥珀色の液体を飲み干して、テーブルにグラスを置いた。

「ちょうどいいか」
ミズキはジェリドの向かいに座ると、さっきまで眠そうに目を擦っていたとは思えないほどハッキリとジェリドの顔を見た。

「どうした?眠れなくなったのか?」

「ジェリドさんにお願いがあるの元の世界に帰れる方法を探して欲しいの」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...