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深夜の獣魔の森の入り口に、バルパドス国の聖騎士が10名が一人の女を囲んでいた。
「これは、これは、魔王の娘アイラ、こんな夜更けにこんな場所で何をしているのですか?」
ゆっくりと、聖騎士たちの間から顔を見せたのは勇者デボネア・バルパドスだった。

無理やり獣魔の森まで連れてきたのは、デボネアではないか?まるでアイラが逃げてここまで来たかのような言い方にアイラはムッっとしたが何事もなかったかのように無表情にデボネアを見上げた。
アイラの冷め切った瞳には、勇者と呼ばれているバルパドス国の第二王子デボネア・バルパドスが映っていた。

騎士達の持つ松明の明かりが勇者の顔を照らすその姿は、とても勇者とは呼べる趣では無かった。
その顔は、残虐な彼の心の内を表しているように歪み、頬にある真新しい傷は、プライドの高い彼の顔をさらに醜くしていた。

何の感情を浮かべないアイラに苛立ち、フンと鼻を鳴らして、すぐに何か良いことを思い出したかのようにニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。

「良い事を思い付いたよ。鬼ごっこをしようか?お前が逃げ切ったら、助けてやるよ・・・そうだなぁ~!お前が逃げた1時間後に、ここに居る精鋭の騎士10名を、その後30分したらこの獣魔を10匹離すよ。良かったね、これで、君は自由の身だ!それに、この傷のお礼もしたいしね」
勇者デボネア・バルパドスは頬の傷をさすりながら、女を見下していた。


獣魔の森で、騎士10名と獣魔10匹を振り切り、自由の身になれる事なんて、女の身で出来る訳無いのはここにいる全員が知っていた。知っていて、あえて勇者は言っているのだ。

デボネアの言葉にアイラは気丈に振る舞ってはいるが、足の震えは止まる事を知らない様にガタガタと小刻みに震えている。
そしてアイラの着ている服は、元は上品なデザインのふんわりとした白いワンピースだったのだろうが、今では両袖とスカートの一部がが無惨に引き千切られ、更に柄と思われていた模様は血が滲んで、酸化し赤茶のシミになっていた。それは、かろうじて服にと呼べる代物。

アイラは鉄の鎖に両手両足を拘束され、鉄の首輪には、リードの様な鉄の鎖が付いている。
その姿は、良く見ても家畜の様だった。

ここまで蔑まれる覚えはなかった。

アイラの住んでいた国は異形の者達が多い、人とは違うというだけで人間に迫害にあって流れてきた者が多かったからだ。
そんな異形の者たちを自分の国民にして、土地を与え、教育を施していたアイラの父は、アイラの自慢の優しい父親だった。

アイラの父をはじめ、歴代の温厚な魔王のおかげで、アイラの住んでいた国は平和だった。天災があっても魔剣ぺ二テンスの加護によって国は栄えていった。

その魔剣ペニテンスに目を付けたのは隣国のバルパドス国だった。

魔王が天災を引き起こしバルパドス国の土地を腐らせていると言って国民を先導してアイラの住んでいる国に攻めてきて、アイラを人質に父まで嬲り殺された。

優しい父をあんなむごい殺し方をしなくても・・・・。

とうとう我慢ができなくなったアイラは叫んだ。

「殺せ!!」

「化け物の分際で、人間の言葉を発するな!汚らわしい」
デボネアは手に持っていた鎖を引っ張ると、アイラは勇者の前で跪く様に前に倒れ込んだ。

「良いざまだなぁ~、魔王の娘アイラよ早く魔剣の在処を教えろ!そして俺に命乞いをしたら、飼ってやらない事もないぞ!」

「一思いに殺せ、お前などに!お前などに!施しは受けぬ!」
泥の付いた顔でアイラは顔だけを勇者に向けて叫んだ。


「フン、面白くもないバカな女だ、愛玩動物ぐらいしてやったものを、その女の鎖を解け」
勇者が言うと騎士の一人が、アイラの両手両足を拘束していた鉄の鎖を外し、アイラの背中をどんと押した。

「さあ、走れ!走れ!!走らないと、この聖騎士達に嬲り殺されるぞ、それともこの獣魔に、腸を食いちぎらせようか?あははははは、走れ!走らないとお前の父親のように、生きたまま獣魔の餌にしてやるぞ!!ははははははは!」

アイラの目の前で魔獣に生きたまま腸を食いちぎられる父を思い出した。
一瞬にしてアイラの頭の中は恐怖がよみがえった。

怖い!怖い!怖い!
あいつらこそ、バケモノだ!!

アイラは死に物狂いで走った、もともと道なんてない場所だったので何度も何度も転んでは、起き上がり、肺が悲鳴を上げても走っていた。アイラはここが何処か分からないくらいに、遠くへと言う思いで走った。
走っているうちに、雨がザアザアと降りだしてアイラの体力と体温を奪っていく。

もう、死んでしまおうかと思った時に、目の前に眩しい光が近寄ってきた。
アイラは魔獣に殺されるんだと観念した。

最初から分かっていた事だ・・・・。

逃げ切れるはずがない事を・・・・・。

「お父様・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」意識がと切れその場に崩れるように倒れた。






「・・・おい、・・・・おい、大丈夫か?おい、しっかりしろ」

だ・・・れ・・・助けてくれるの?・・・私を・・・助けてくれるの?・・・。

光の逆光で、顔が見えない・・・でも助かったの?わたし・・・。

ありがとう、ありがとう、助けてくれてありがとう。
涙が、一粒こぼれたが、雨でその涙は簡単に消え去っていった。
震える手を、抱きかかえている男の顔に触れた。冷たかった指先が、じんわりと暖かくなっていく。
男も安堵したように、笑ってるように思えた。

良く、男の顔を見ると・・・・・。
アイラを抱きかかえていた。男は・・・・憎い!怖い!!勇者デボネア・バルパドスだった。

憎しみと恐怖で、体が硬直した。
「殺すなら、一思いに殺せ!!」叫んで、そしてまた意識が切れた。

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