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君が恋しい6
しおりを挟むマリアは宿の薄暗く人気の無い食堂のテーブルの上にあるリンゴをジッと見つめたと思ったら『いただきます』と言ってリンゴを手に持ってカブリと一口齧った。
齧った瞬間から顔が歪む。
余りの酸っぱさに目元に涙が溜まり、カルバンへの恨み言がマリアの口から溢れる。
「叔父様のバカ」
確かに寝てしまった私が悪いのだが、起こしてくれても良いのではないかと思う。
叩き起こされた位で怒ったりしない、だって夕食を食べ損ねるよりは良い。
夕飯を食べ損ねた今よりは絶対に良い。
大事な事なので二度と言います。
だって私は物凄くお腹が空いている !
喉が渇いて目を覚ますといつのまにかベッドの中にいた。ご丁寧にモーフが肩まで掛けてあった。
きっとカルバンがベッドに寝かせてくれたのだ。
風邪をひかない様にと肩までしっかり毛布3枚を掛ける徹底ぶり。
おかげで喉がカラカラで汗だくで気持ちが悪い。
着替えるとマリアは一息ついた。
「本当に叔父様は過保護なんだから・・・」
秋と言ってもまだ夏と言えるくらいの気候で朝晩寒くなって来ているとはいえ毛布3枚を掛けなくっても・・・私が汗をかいて風邪を引く可能性を考えなかったのでしょうか?叔父様?
体の熱が抜けない。マリアは回りを見渡して、誰もいないのを確認するとブラウスのボタンを胸元まで外して涼をとった。
これで少しはマシか。
それにしても暑い。
私が脱水症状で倒れたら叔父様のせいですよ!きっちりと責任を取ってもらいます。
「はぁ」
ーーー本当にお腹空いた。
ーーー喉が渇いた。
ーーー暑い。
空腹は最大の調味料とは言いますが、物には限度があった事に今気がつきます。
目が覚めたマリアは食べ物を探しに食堂まで来たは良かったが、食べ物が何一つ無かった。
強いて言えば、食堂の奥の棚の上にリンゴが一個があっただけだった。
マリアはそのリンゴを手に取るとテーブルの上にリンゴを置き!頂きますと言ってテーブルの上に置いたリンゴを手に取って齧った。
叔父様、起こして欲しかった。何て思うのはお門違いだと思うけど、食べ物の恨みは根深い。
「叔父様のバカ!」
マリアの口からもう一度呪いを込めたマリアのぼやきが部屋の中に響いた。
お腹が空いているのでリンゴをもうひと齧りしたいのですが、いかんせん手がリンゴまで行かない。
決して手が短い訳では無いのですよ。
食欲が・・・出ない。余りの酸っぱさにもうひと齧り出来ないんです。
リンゴを食べるのを諦めたマリアは食堂の勝手口から風を入れようと食べかけのリンゴを持って勝手口のドアを開けた。
「ーーーす・・ごい・・」
マリアは無意識に呟いた。
そこは別世界へと繋がっている様な世界。
ここの女将の趣味だろうか?
小さな中庭は各部屋からは死角となっていて小さな箱庭空間があった。
箱庭の中央には井戸があり勝手口の所から小さな色取り取りのミニ薔薇が箱庭全体を囲む様に生い茂っていた。
薔薇の美しさに気を取れていたが良く見ると、薔薇の他にもスミレやスズラン、桔梗にラベンダーも咲き誇っていた。
然も今日は満月。
月の明りが一層この空間を引き立てていた。
だが残念な事に萎れかかっている薔薇もあった。
そういえばここの女将はギックリ腰だったとカルバンから聞いたのを思い出した。
マリアは井戸から水を汲み桶と柄杓で植物に一通り水を撒くと、月の光が葉や花びらについた水滴に反射して更に幻想的な空間になった。
「まっ!こんなもんか」
マリアも満足げに頷くと箱庭の小さなベンチに座って水の入った桶の中に足を浸した。
「気持ちいいーーー」
火照った体から熱が急速に引いていく。
深く傷付いた心を癒してくれる様に水を吸った花々は柔らかく香りを放ち出した。
まるで慰めてくれてる様。
マリアは目を閉じる。
時折、涼しい風がマリアの頬を撫でる。
大丈夫、私は大丈夫。
昔の仲間の名前を聞いても動揺せず笑えた。
これからは誰にも頼らず生きていこう!
クロードの事さえなければ私は笑って過ごせる。
叔父様に心配をかけずにすむ。
実の両親の事はどうする事も出来ない。
ならば出来るだけ笑って生きていける様に努力しよう!
そうしよう!
嫌な事は忘れて一から出発しよう。
そお言う事で、まずはお父様を脅して現金を調達しましょうか?
私!お父様の弱み結構握っているんですよね~。
実家の勝手口の鍵の在り処は知っているのでアリスを起こさなくても大丈夫!
深夜でも構いません。早速実家に帰りましょう。
マリアは、手紙を残して宿を去ろうと宿のドアを開けるとクロードが目の前に立っていた。
どれくらいの時間が経っただろうか?
クロードは呆然と立ち尽くしていた。
もちろんマリアもちろん驚いて立ち尽くす。
「こっ、こんばんはクロード」
引きつった声で最初に言葉を発したのはマリアだった。
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