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一章

まさか

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 瞬間、僕の唇は柔らかい感触に包まれた。とても冷たくや若い感触に。

 ただ、それだけでは終わらなかった。

 体全身を駆け巡るような激しい鼓動。自然と体にに熱がこもる。どくどくと体を支配されていくような感覚。

 やがて触れていた唇はすっと離れる。それと同時に閉じていた目を開ける。

 僕の世界が綺麗な色に満ち溢れていた。

 赤一色だった世界は見たこともないような色合いを見せる。自分の中の色の概念は崩れ、何もかもが新鮮に満ちていた。こんなに感動的なものだったんだ。

 そんな嬉しくてたまらない僕の前の小香花は

「嘘っ」

「暗い、暗いよ」

 身体の力が抜け、地べたに座り込んでいた。

「小香花?」

「た、助けて」

 懇願するように、縋り付いた。

「どうしたの?」

「色が、色が消えた」

「色が消えたってまさか・・・」

 僕の見えていた世界が変わったのと無関係じゃないはずだ。

「僕のせいで・・・僕のせいで小香花の目の色が消えたのか」

 それしか理由が見当たらない。だとしたら、僕と小香花は何か関係があったのだろうか。

「日南汰、暗いよ。助けて」

「大丈夫だから。落ち着いて。」

 僕は地べたに座り込んでいる小香花の腕を取り、抱え込むようにして再びベンチに座らせた。

「どうして・・・」

「日南汰・・・今、日南汰は何色の服着てる?」

「なんでそんなことを・・・」 

「いいから!」 

 彼女の不安が彼女自身をわからなくしている。

「白いTシャツに紺のカーディガンを羽織ってるけど」

「そっか。元から、水色と青じゃなかったんだね・・・」

「それって・・・」

 もしかして、小香花も・・・

 そう言おうとしていた僕の言葉に被せるようにしてありのままを話してくれた。

「実はさ、ずっと隠してたのはこのことなんだけど」

 小香花の秘密が、言いたくなくて隠していたことが聞かされる。
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