僕と彼女

撫でたココ

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花火と彼女

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 空に打ち上げられては四方に輝かしく飛び散り、はかなく散っていく花火。漆黒の夜空に浮かび上がるそれは、綺麗というよりは儚いといった感じがする。

 そんな風に思うのは僕が卑屈だからだろうか。それとも花火大会なのに彼女の1人はおろか友達すらいないのにこんなところにいるからだろうか。

 ただ花火を見たくなった僕は1人でふらっと出かけ、こうして静かなところに腰掛けていた。

「落ち着くな」

 蒸し暑い中に爽やかに吹く風。汗のかいた体にすぅと入っては抜けていく。

「気持ちい」

 やっぱり周りを見て寂しく感じたのだろうか、独り言をつぶやいていた。

 基本的に1人である僕は1人でいることに嫌だと思ったことはない。もちろん趣味の合う友達と話し合ったりしたいと思うけれどその願いは未だ叶っていない。

「もう帰ろうかな」 

 こんなところにいてもしょうがない。そう思って立ち上がり元来た道を引き返そうと、振り返った時だった。

 女の子がすぐ後ろに立っていた。

 白いノースリーブのシャツにすらりと長い足の目立つパンツ。麦わら帽子をかぶった彼女は僕の方を見ていた。

「ひとりなの?」

 振り返った僕にそう問いかける

「ひとりだよ」

 嘘をつくこともなく簡素に返事した。

「つまらないね」

「君は?」

「ひとりだよ」

「つまらないね」

「お互い様」

 そういって少し距離をつめ、再び座るように促される。

「ひとりで退屈じゃない?」

「そんなことはないよ。ひとりの方が楽だ」

「寂しいよ」

「慣れてるし」

「そういう問題じゃないんだよ」

「でも・・・」

 彼女は不意に立ち上がると僕の手を掴み、騒がしい声がする方へと駆け出した。

 たくさん並んだ屋台。これでもかというくらいに人がなだれ込み真夏だというのにおしくらまんじゅうをしている。

 彼女につられその輪の中に入り込む。遠くで見ていた眩しい光の中にいざ入ってみると、思いの外幻想的だった。

「君はわかってないよ」

「なにを?」

「人とつながることは大切なことだよ」

「・・・」

「君は今楽しくないの?こうして2人で歩いてなにも思わないの?」

 そんなことない。僕だって男だし、女の子といればドキドキだってすると思う。現に今、この状況の中でとてつもないくらいに胸は高鳴なっている。

「なんか焦れったい」

「それはよかった」

 今日会った名前も知らない彼女とたくさんのことをした。いろんな屋台を回って、花火もした。嬉しそうな子供達を見て笑ったり、空に浮かぶ雲を見てああだこうだと言いあったり。

 誰かといることがこんなに楽しいなんて。ただ話していることだけでこんなにも満たされるなんて。思ってもみなかった。僕はこの日の中にずっと閉じこもっていたい。そう思っていた。

 だけどそんなことは叶わない。

「もう遅くなったし、そろそろ終わろうか」

「そう、だね」

 引き止める術も見つからず自分から動くことができない。

「また、会えるといいね」

 ひとつ、ひとつだけ聞きたいことがあるんだ。

「最後にひとついいかな」

 僕からの最初で最期の願い。

「いいよ。聞いてあげる」

「名前を教えて」

夏野 花空なつの そら

 僕は彼女に恋をした。
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