僕と彼女

撫でたココ

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絵と彼女

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 僕は絵を描いていた。夕日に照らされ真っ赤に輝く無限の空と、風になびきさらさらと音を立てる田んぼの稲を。

 ここは田舎だ。コンビニなんてそうそうないし、お洒落なカフェなんてもってのほかだ。

 だから僕は絵を描く。この風景を残すために。

 すべてのものを真っ赤に染めている夕日に僕はうっとりとしていた。黄昏時。この言葉がぴったりなくらい僕は黄昏ていた。

「残酷な絵ね」

 左から聞こえてきた声に驚いた。こんな誰もいないところに人が来るなんて思わなかったから。だから、なんて言われたのか聞くことを忘れていた。

「なに?」

「残酷な絵ね」

 僕は声の主の顔を見ようという気は不思議としなかった。

「どうしてそう思うの?」

「この時間、すべてのものは真っ赤に染められる。黄昏時。死との境界が垣間見える時間帯だから」

「知らなかったよ」

「だから、そう、残酷な絵」

 か細いその声はどこか助けを求めているように聞こえた。

「でも、僕は時々思うんだ。きっとこの世界には意味のないことはないって。だからこの夕陽は、この黄昏の時間は生と死をつなぎとめる時間なんじゃないかな。死との境界が見えるってことは、向こうもこっちを見ているわけで。死があることで生を実感できる。だから、この夕陽は残酷なものなんかじゃないと思う。」

「おもしろい」

「そうかな」

「うん、おもしろい」

「ありがと」

「綺麗な絵」

「ありがと」

「・・・・・」

 返事は返っこなかった。

 空を見上げると、真っ赤だった世界は静かに闇へと落ちていった。
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