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異世界での決意

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帝国ガンドラスを滅ぼして、一週間が経った。
帝国ガンドラスの滅亡は瞬く間に世界中に広がり、俺は新たな魔王の誕生とされていた。ただの虫が魔王なんて、虫魔王かよ!って言ったけどウェルが実際に【蟲魔王】は存在していたってよ。その時に俺はふと、思ったんだ……
「なぁ、ウェル。このまま、自由に世界を見て回る事って、出来ると思うか?」
『はっきり言って不可能だ。俺たちは今、新たなる魔王って言われてるからな。自由に穏便に世界を見ることはもう叶わないだろう。』
だよなぁ。生まれてまだそんなに経ってないんだぞ!?なのに魔王?馬鹿なんじゃないのか!?俺が何をしたって言うだよ!!
「はぁ、ちょっと寝てくる。頭がパンクしそうだ。」
『嗚呼、ゆっくり休んで来い。』
それを言い残し、俺はテントに入り、意識を手放した。

《ウェル視点》
『それじゃあ、質問だ。これから俺たちはどうするべきだと思う?』
「そうですねぇ、カンさんはぁ、現在ぃ頭の整理中ですかぁ?」
『嗚呼、その認識で問題ない。ところで、レーテーはどう考えるこの状況を。』
「そんなのぉ、ウェルさんのぉ、中ではぁ決まってるじゃあぁ、ないんですかぁ?」
『もちろんだ。でも、俺はレーテーとカンの意見を聞きたい。』
「そいうことならぁ。う~ん、そうですねぇ。もういっそぉ、蟲魔王だってぇ、名乗っちゃえばぁ、いいんじゃないんですかぁ?その方がぁ、自分達【蟲魔獣】、より強力な【蟲魔人】からはぁ、好印象だと思いますけどねぇ。まぁ、最終的に決めるのはぁ、カンさんだからぁ、自分はこの辺で意見やめますねぇ。」
レーテーは魔王派か。
確かにレーテーの言いたいことはよく理解できる。でも、カンは人間にこだわっている。それが何故なのかはわからないけど。何故かそんなふうに思えてしまう行動が多々ある。そのカンが、完全に人間の敵対者になるのかどうか。やはり決めるのはカンなんだろう。
それから俺は色々な者たちに話を聞いた。多くの魔王派の意見は戦争に参加した者たちであった。カンの奇怪な能力に気付いたのだろう。それもそうだ、今回の戦争で、カンが出てから傷一つしたものは誰もいなかったからだ。そうまるで、透明な何かで守られているように。それも、絶対に壊れない鎧。自分が一番強いと勘違いしてしまいそうなほどどこを探しても傷はなかった。俺も多くは知らないがカンには何やら不思議な力がある。それも、他の者たちを守る鎧。カンタロスと言う超絶攻撃的な種族でありながら自らを犠牲にして他を守る優しすぎる能力。憧れてしまうし、何よりカッコ良すぎるのだ。まさしく王が民を守るための能力と言っても過言ではない。
このような理由があり、魔王派がとても多い結果となった。しかし、俺はふと、思い出した。魔王である条件を……

《カン視点》
はぁ、決めないと。でも、まだ決めきれない。俺は元人間だ。それなのに、人間の敵対者になるのか?でも、それが嫌なわけではない。俺が嫌なのはウェルやレーテーといった仲間たちの存在だ。俺は昔から、凡人だった。慕ってくれる人もおらず、ただの人間。それがこんなとんとん拍子に魔王という存在になっていいのか……魔王になったことで仲間たちは俺のそばにずっといてくれるのか。俺は一人が嫌だ。昔はそうではなかったのに……今は、今は一人であることが死んでも嫌だ。
なら、決めないと、魔王になるのか、それとも、みんなの期待を裏切って魔王にならないのか………………くそっ!だめだ!考えがまとまらない!俺はどうすれば。俺は………
その時俺のいたところに光が差した。ここは暗幕のあるテントの中だ。光なんて差してこないはず。
『カン。俺はカンの意見を尊重する。君は人間という存在にこだわっている。違うか?』
「!?」
なぜ、どうして………
『俺はカンがこの世界に生まれた時からずっと見続けている。それだからわかるっていうのかな?君はときどき無意識のうちに人間のような行動をする。でも、俺にとって君はカンだ。どんな事情があったとしても、それだけは変わることはない。だから、君には………カンには自由でいてもらいたい。まぁ、それに直ぐに魔王になれるってわけでもないから。』
「え?どういうこと?すぐに魔王になれるわけではない?」
『嗚呼、もちろん。魔王を名乗ることはできるでも、今のカンではまだ【魔王種】(インペラトーレ種)の条件を満たせてない。』
「条件?」
『種族や魔王ごとによって違う条件だから、俺にはわからない。でも、カンにはわかるはずだよ。心の中にいる自分に聞いてみて、そしたら答えが見えてくるはず。』
答えが見える………やってみるか。
「わかった、やってみるよ。」
『よかった。じゃあ俺はそこら辺ウロウロしてるから。』
そういうと、ウェルはすぐに地面に潜り込んでいった。
「俺の心の中にいる俺に聞く………」
俺は深く、深く、呼吸を整え、精神を整え、意識を自らの中に沈み込ませた。

『やっと、来やがった。まったく、遅いんだよ。やぁ、やっと会えたな。カン』
そこには俺と瓜二つの俺がいた。
『お前を通して全部見せてもらったから、はっきり言うぞ?』
「嗚呼。」
『お前マジで何やってんの?魔王になるならないで迷ってんじゃねぇよ!本当の俺ならそこは迷わずに魔王になるだろうが!それが俺達だろ?なのに、自分の本当の気持ちに蓋をして、いじいじいじいじ、気持ち悪りぃ!お前を信頼してくれているあいつらに失礼だ!分かったか!?』
その言葉を聞いた時俺に電流が走った。実際に走ったわけではない。ただ電流が走ったかのような感じがしたのだ。
「そうか、そうだよな。なんであんなところで迷ってたんだ?」
『嗚呼、マジでなんで迷ってたんだよ。』
「なんでだろうな。ところで、ウェルに言われたんだが俺の魔王になる条件は後どんぐらいあるんだ?」
『そうだな。まぁまず、クリアしたものから一つ一つ言っていくぞ。
【伝説の目覚め】クリア
【蟲の信頼】クリア
【人類虐殺】クリア
【国落とし】クリア
【蟲の救世虫】クリア
【無死の英雄】クリア
【蟲の統帥】クリア
【愚王抹殺】クリア
【大物狩り】クリア
これでクリアしたものは終了だ。あとはクリアしてないものだな。
【四徨王の目覚め】未達成0/4
【四徨王との信頼】未達成3/4
【四徨王・地徨王】未達成0/1
【四徨王・隱徨王】未達成0/1
【四徨王・贒徨王】未達成0/1
【四徨王・武徨王】未達成0/1
【四徨王の絆】未達成0/4
【魔王宣言】未達成0/1
の条件クリア計9の条件未達成計8の全部で17。わかった?』
「ちょっと質問だ、この【四徨王】ってなんだ?」
『わかりやすく言うと、魔王には【四天王】なる魔王直属の精鋭がいるだろう。ゲームにも。立ち位置的には四天王と同じ。まぁ、四徨王は名の通り、【王の器を持ちながら自由に彷徨い、魔王に従う忠実な四匹の蟲】だな。』
「と言うことは、この四徨王っていうのは、俺の絶対的な味方という認識で良い?」
『まぁ、その認識で問題ない。』
「それなら、この四徨王の条件クリアで俺の魔王種への条件クリアで良いのか?」
『嗚呼、精々頑張ってくれ。』
それを言い残すと、俺は現実の世界に意識を持ってかれた。

「よし、もう決めた。俺は魔王になる。そして、ここを俺と仲間たちの過ごしやすい世界に作り変えてやる。」
そうと決まれば、決意した俺は、ウェルと会い、レーテーと会い、最後にスローに会い、俺はみんなに伝えた。
話の伝達は驚きを隠せないほど速かった。
「俺はこれより、蟲たちの王【蟲魔王】となる!俺の目指す道はただ一つ!俺たち蟲魔獣、蟲魔人の自由な世界である!それを邪魔するものどもはこの俺が蹴散らしてくれる!ここに新たなる魔王の誕生を宣言する!!」
「「「オォォォォォォォォォォ!!」」」
みんなの叫び声が森中に世界中に響き渡る。その叫びが消えたその一瞬にある声が流れ込んだ。
《【全ての蟲達の王】が誕生しました。人類は王の抹殺を、蟲たちは王の下へと。これより、【魔王覚醒者物語/蟲魔王物語/蟲魔王覚醒】が始まりました。》
なんだこれは?どういう事だ?
「ほほ、久しぶりに聴いたねぇ。この声」
「スロー、この声を知っているのか?」
「これは、【世界の声】お主のような【物語覚醒者(ストーリーかくせいしゃ)】が出た時や、世界の危機を知らせてくれるものでな。これを最後に聞いたのは、そうそう、お主の先祖が神に喧嘩を打った時だな。」
いやいやいや、マジで何してんの俺の先祖。
「それにしても、また厄介なことになりそうだな。」
俺は不安と期待を胸に抱きつつ、未来へと歩みを進めた。
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