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第9章 帝国の魔女
第9章第027話 ロトリー国から出発
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第9章第027話 ロトリー国から出発
Side:ツキシマ・レイコ
「…まったく交流の無かった国との国交開始がこんなに面倒だとは思いませんでした」
用語の定義からすりあわせが必要だとかで。細かいところを話し始めると終わらないとぼやくネタリア外相です。
もろもろの会議も済んで… 済んだと言うより、妥協して打ち切った感はありますが。本国に持ち帰るまでなにも決定も出来ないのですから、そろそろこの辺でと言うことになり。
今日は王都ラスターナともお別れ、船団が待機している港町オラサクに向けて出発です。
前日には盛大に送迎の宴も開いていただきました。
集まったラクーン達には、セレブロさんが大人気でしたね。ハーティーに対する恐怖は語り継がれていまして、もちろん最初は怖がられていましたが。パンダ王の子供達がまとわりつき、次に他の子供達も集まって、あとはモフモフの山となり。
セレブロさんの様な動物を飼いたがる子供が出るのはいつものことなのですが。大人達は、セレブロさんの牙を間近で見た改めて南大陸に対する危機感を固めているようです。
そのハーティーとやらがどの程度魔獣化しているのかは不明ですが。本来野生動物は、飼うのは非常に難しいものです。ハーティーを捕まえようとして、または慣れたと勘違いしてラクーン達に被害でも出れば、悲劇でしかありませんしね。
出発の朝です。王太子の旅立ちでもありますから。今朝も城門に大勢が集まっていて。兵士さん達も整列しています。
パンダ王の末の子供達の、カンカンとランラン。この子たちが別れを惜しんでセレブロさんから離れません。距離が距離ですからね、また来るからと気軽に約束できるものでもないですが。
『「大きくなったら、東の大陸まで遊びに来なさいな。その頃には、もっと大きな船も行き来しているだろうから、安全になっていると思うし」 あと、こちらのレッドさんもよろしくね』
マーリアちゃんの言葉を通訳します。
鉱物資源の交易はほぼ確定ですし。さらには、飛行機が行き交うのも時間の問題でしょう。安全性の担保にはもう少しかかるでしょう。それにレッドさんが着いて行くのなら、さらに安全ですね。
『…わかったよ巫女様。うん、大人になったら小竜神様とネイルコードまで行くよ』
二人と別れのハグをします。
ふと見ると。うちのレッドさんとこちらのレッドさんが、なにか指を合わせています。某SF映画の一シーンみたいですが。数十秒ほどして離れました。
「レッドさん、なにか渡したの?」
多分、接触でなにか高速通信したのだと思いますが。レッドさんに聞くと、なんと私のお父さんのデータを渡したという返答。
え?いいの?とは思ったのですが。スタンドアローンで活動するとき、人にありがちな非論理的判断とその解釈を誤ると、ラクーンらとの関係に齟齬が発生する可能性がある。状況判断の一助とする為に、月島忠文のデータを渡した。…とのこと。
要は、人の考え方…というより、人の気持ちの動き方について参考資料を渡したってことね。ラクーンに適用できるかはまたすりあわせが必要だろうけど。学習する時間はたっぷりあるはずです。
「…何年かかるかまだ分からないけど。定期的に来られるようにいろいろ開発頑張るから。あなたも頑張ってね」
「クー。」
頭をなでてやると。うちのレッドさんと同じように目を細めます。
任務了解…という返答が帰ってきます。素っ気ない感じは変わらないわね。
赤井さんなら、それこそ惑星の裏どころか星間でも楽々通信できるんだろうけど。レッドさん曰く、位置測位システムの一部しか使わせて貰えないそうです。…まぁそういう文明の利器は、この世界の人間に発明させろって事なんでしょうね。
実際、船や航空機による大陸間移動ともなれば、船や飛行機と同時に無線の開発も必須だよね。…うーん、モールス信号電信くらいは早期に開発したいけど…通信機開発に付随する共振回路、複素数式、電子電磁に関するもろもろの数学。私も全く触ったことが無い分野ではないのですが。回路設計が必要な部分は全部コンピューター任せだったしなぁ… 何から手を付けたら良い物か。開発を任せるにしても、この辺の開発やら数学の再発明やら。やるべき事は多いですね。
帰りにでもいろいろ計画をまとめましょう。自重しないと決めましたので。はい。
さて。午前中に王都を出発すれば、日が暮れる前に港町オラサクに到着するでしょう。ロトリー国王都ラスターナにはけっこう長いこと逗留しましたが、また来る日まで。
城門でパンダ陛下をはじめとするラクーン達が手を振ってくれます。私達も手を振って。馬車隊は出発しました。
「重量物の積み込みは済んでおります。あとは生鮮品の積み込みですが… ん?」
先に運べる物は、荷馬車にてすでにオラサクに送られています。ボーキサイトの入った樽と、先に積んであったバラストとの入れ替え作業は、私達がオサラクに着いたときには、ほぼ済んでいたみたいですね。
樽詰めのボーキサイトと、ロトリー国で採れる鉱石のサンプルをいろいろと。こちらでは未解明の鉱石でも、ネイルコードや正教国の方で有用性が分かるかもしれません。
あと、硝石ですね。これの持ち出しには、ネタリア外相がロトリー国の重鎮と結構喧々諤々したそうです。火筒はロトリー国の切り札と言える物ですから。ただ、ネイルコードでは蒸気帆船を外国にも売るという方針は決まっています。ロトリー国からすればまだ蒸気機関を陸上輸送や産業に使う考えは出てきていませんが。風がなくても高速に海を進める蒸気帆船は、火筒以上の最新テクロノジーです。また、硝石は西の大陸でもいちおう見つかっています。
当然ながら船を買うにはお金が必要ですし。外貨を入手するには、ネイルコードでは入手が難しい物を輸出品とすることが必須ですし。船を買う為に輸出品を運ぶ手段としての船を手に入れる必要があるわけで。
ネイルコードに帰ったら、資源輸送専用の大型蒸気帆船…いえもう蒸気船ですね。ネタリア外相はこれの建造を提案するつもりです。量産のアカツキには、ロトリー国はボーキサイトや硝石などでそれらの代金を払って購入することになるでしょう。
他にも、農作物のサンプルもけっこう積んでいます。芋類は、ネイルコードで育てられるか楽しみですね。
「あれ? レイコ殿はどちらに? こちらのレディーは…もしかして遭難者を保護されたとか? …え?レイコ殿?」
「あらら…えらい美人さんになって帰ってこられましたね」
「えっ?うそっ? あれ巫女様?」
はい。待機組のみなさんが、大きくなった私を見て驚いています。…このパターン、ネイルコードに戻ったらけっこう続くんだろうな。
水と食料も、セイホウ王国まで必要十二分な食料と水。…消費した小麦と米の代わりに、トウモロコシ粉が積まれましたが。それらを満載して、ネイルコード船団は出航しました。
トウモロコシ粉…タコスくらいしか知らないけど。パンとか麺とか、色々試してみますか。
蒸気圧も十分に上がったところで。帆を上げ、船を横にスライドさせるように離岸させます。こういう動きには、帆はまだ便利ですね。
十分桟橋から離れたところで帆をたたみ、蒸気機関を始動。スクリューを回します。
「おおお! すこいてすね! 風にさからって動いている! 風が無くても進んている!」
ネイト殿下は、桟橋で別れを告げる同胞そっちのけで。船尾から海面をのぞき込んでスクリューが回るのを見てます。
『殿下! 落ちたら危ないですよ!』
南に面した湾なので、雪が降ることは無いそうですが。それでもまだ寒い時期、落ちたら大変ですからアライさんがヒヤヒヤしてます。ラクーンは、頭身のバランス的に人より見た目危なっかしいです。もっともラクーンは、体重あたりの握力は人を凌駕しますから、まず落ちることは無いと思いますが。
六人のロトリー使節は、三隻に分乗しています。この船には、アライさんとネイト殿下が搭乗していて。護衛役のトクスラーさんは別の船なのです。アライさんがその分、気を張っている感じです。
あと。さすがに王族をアライさんだけに任せておけないので。船員さんが一人、付き添っていますが。
「えっ? もしもの時には抱き上げても良いんですよね? 不敬にならないですよね?」
「はっはっは。もちろんそんなことて問題にしたりはしませんよ。いさというときにはお願いしますね」
人の言葉の学習の為か、船員さんを質問攻めにしている気さくなネイト殿下でした。
「いやぁ。刺激的てすな。なるほとお湯を沸かして…」
甲板は寒いですから。機関室を案内します。
今度は機関室で、技師さんを質問攻めにしているネイト殿下です。
「向こうの船に乗ったケルラール、あれもおそらく無効で質問攻めしているとおもう。一番大人しそうに見えて好奇心の塊てすから、あれはそういうのが大好きなのてす」
ケルラールさんとは、黒点観測していた方で。文官のキュラックさんと三隻目に搭乗しています。
ロトリー国は、冶金面での技術発展は今ひとつでしたが。ロトリー国のレイコが長いこと関わっていただけあって、科学に関する知識はなかなかですし。パンダ王陛下と話していて分かりましたが、ロトリー国のラクーン達は知能もかなり高いです。蒸気機関くらいあっという間に理解してしまうでしょうね。
これで東の大陸に鉄がもっと潤沢だったら。ネイルコードよりずっと進歩していた可能性も高いです。剣や槍などの武器が優先のようでしたから。
ユルガルムに鉄鉱石と石炭…炭素質隕石の残骸が豊富なのは、偶然でしょうか? ロトリーの領域にも未発見の鉱床とかあるのかな?
オラサクを出たその日のうちに、セイホウ王国の租借地オーラン島に到着。島への補給物資を下ろして。要員の交代は今回無しですね。
ここで一泊後、帆走と蒸気機関を使って昼間の内は最速で航行して、来るときに通った海峡を越えて大洋に出ます。湾内での夜間航行は危険ですからね。夜も進みたいのでとっとと大洋に出たいところ。
帰り道は、皆の心が逸りますね。この大洋の向こうに、セイホウ王国が。そして、西の大陸とネイルコード王国がありす。
「島が見えるぞ~っ!」
大洋に出て次の日。マスト上に見張りで登っていた船員さんが叫びます。
「海図だと、島はもっと西のはずだが…」
来るときに見た島ですね。航路の目印になりますし、遭難者の有無の確認の為、接近だけはする予定です。
「いや、ちょっと待て。島なのか?あれは? 動いていないか?」
望遠鏡の覗いていたミヤンカ船長。
うーん。海上にごつこつしたものが出ているのは分かるのですが、陸地だとしても波に洗われるくらい低いですね。特に山とか草木があるわけでも無し。動いているのかどうかは、海の上では比較する物が無くてよく分からないですね。
と思っていたら。あっ! 頭がザバンと出てきました。あれは頭?
「なんだあれはっ!」
「ば…化け物だっ!」
この船くらいなら丸呑みできそうな、巨大な歯の無い口。ジンベイザメ?それでも長さは鯨とかの比ではありません。尾まで全部見えているわけではないのでちょっと全長は測りかねますが。数百メートルでは効かない長さ。
「恐ろしくデカいぞっ! 離れる方向に舵を切れっ! 面舵いっぱいっ!」
旗信号で僚艦にも連絡しました。巨大な生物から離れるため、三隻が同時に左へ舵を切ります。
襲ってこないにしても、あのサイズでは起こす波が脅威です。
「あれは浮島ですね。南の大陸への航海で一度見たことかあります。襲ってくることは無かったてすか。…あれは何を食へているんでしょうね?」
と、ネイト殿下。
「大陸からずっと南の海に、島みたいな巨大な魚がいるという話は聞いたことがありますが…」
ネタリア外相は、うわさだけ聞いたことがあるようです。
「浮島ですか… 巨大な生き物の話は、船乗りなら皆が聞いた事はありますが。鯨を誇張したものだと思っていました。まさかこの目で見ることになるとは…」
オレク司令にミヤンカ船長も驚いていますね。
『資源回収海洋周回生物リンコドン ナンバー32769』
レッドさんが教えてくれます。
資源回収生物ですか… 名前から推測するに、海水中の金属元素なんかを漉し取ってるんですかね?しかも番号が三万番台… どれだけ存在する?いや存在してきのでしょう?
「あ…潜っていくぞ…」
白波を残して、巨大生物は姿を消しました。…赤井さんのサービスだったのかもしれませんね。
雲も少なく晴れた海。波もそこそこ風は追い風。
船団は滑るように、西へ向かいます。
Side:ツキシマ・レイコ
「…まったく交流の無かった国との国交開始がこんなに面倒だとは思いませんでした」
用語の定義からすりあわせが必要だとかで。細かいところを話し始めると終わらないとぼやくネタリア外相です。
もろもろの会議も済んで… 済んだと言うより、妥協して打ち切った感はありますが。本国に持ち帰るまでなにも決定も出来ないのですから、そろそろこの辺でと言うことになり。
今日は王都ラスターナともお別れ、船団が待機している港町オラサクに向けて出発です。
前日には盛大に送迎の宴も開いていただきました。
集まったラクーン達には、セレブロさんが大人気でしたね。ハーティーに対する恐怖は語り継がれていまして、もちろん最初は怖がられていましたが。パンダ王の子供達がまとわりつき、次に他の子供達も集まって、あとはモフモフの山となり。
セレブロさんの様な動物を飼いたがる子供が出るのはいつものことなのですが。大人達は、セレブロさんの牙を間近で見た改めて南大陸に対する危機感を固めているようです。
そのハーティーとやらがどの程度魔獣化しているのかは不明ですが。本来野生動物は、飼うのは非常に難しいものです。ハーティーを捕まえようとして、または慣れたと勘違いしてラクーン達に被害でも出れば、悲劇でしかありませんしね。
出発の朝です。王太子の旅立ちでもありますから。今朝も城門に大勢が集まっていて。兵士さん達も整列しています。
パンダ王の末の子供達の、カンカンとランラン。この子たちが別れを惜しんでセレブロさんから離れません。距離が距離ですからね、また来るからと気軽に約束できるものでもないですが。
『「大きくなったら、東の大陸まで遊びに来なさいな。その頃には、もっと大きな船も行き来しているだろうから、安全になっていると思うし」 あと、こちらのレッドさんもよろしくね』
マーリアちゃんの言葉を通訳します。
鉱物資源の交易はほぼ確定ですし。さらには、飛行機が行き交うのも時間の問題でしょう。安全性の担保にはもう少しかかるでしょう。それにレッドさんが着いて行くのなら、さらに安全ですね。
『…わかったよ巫女様。うん、大人になったら小竜神様とネイルコードまで行くよ』
二人と別れのハグをします。
ふと見ると。うちのレッドさんとこちらのレッドさんが、なにか指を合わせています。某SF映画の一シーンみたいですが。数十秒ほどして離れました。
「レッドさん、なにか渡したの?」
多分、接触でなにか高速通信したのだと思いますが。レッドさんに聞くと、なんと私のお父さんのデータを渡したという返答。
え?いいの?とは思ったのですが。スタンドアローンで活動するとき、人にありがちな非論理的判断とその解釈を誤ると、ラクーンらとの関係に齟齬が発生する可能性がある。状況判断の一助とする為に、月島忠文のデータを渡した。…とのこと。
要は、人の考え方…というより、人の気持ちの動き方について参考資料を渡したってことね。ラクーンに適用できるかはまたすりあわせが必要だろうけど。学習する時間はたっぷりあるはずです。
「…何年かかるかまだ分からないけど。定期的に来られるようにいろいろ開発頑張るから。あなたも頑張ってね」
「クー。」
頭をなでてやると。うちのレッドさんと同じように目を細めます。
任務了解…という返答が帰ってきます。素っ気ない感じは変わらないわね。
赤井さんなら、それこそ惑星の裏どころか星間でも楽々通信できるんだろうけど。レッドさん曰く、位置測位システムの一部しか使わせて貰えないそうです。…まぁそういう文明の利器は、この世界の人間に発明させろって事なんでしょうね。
実際、船や航空機による大陸間移動ともなれば、船や飛行機と同時に無線の開発も必須だよね。…うーん、モールス信号電信くらいは早期に開発したいけど…通信機開発に付随する共振回路、複素数式、電子電磁に関するもろもろの数学。私も全く触ったことが無い分野ではないのですが。回路設計が必要な部分は全部コンピューター任せだったしなぁ… 何から手を付けたら良い物か。開発を任せるにしても、この辺の開発やら数学の再発明やら。やるべき事は多いですね。
帰りにでもいろいろ計画をまとめましょう。自重しないと決めましたので。はい。
さて。午前中に王都を出発すれば、日が暮れる前に港町オラサクに到着するでしょう。ロトリー国王都ラスターナにはけっこう長いこと逗留しましたが、また来る日まで。
城門でパンダ陛下をはじめとするラクーン達が手を振ってくれます。私達も手を振って。馬車隊は出発しました。
「重量物の積み込みは済んでおります。あとは生鮮品の積み込みですが… ん?」
先に運べる物は、荷馬車にてすでにオラサクに送られています。ボーキサイトの入った樽と、先に積んであったバラストとの入れ替え作業は、私達がオサラクに着いたときには、ほぼ済んでいたみたいですね。
樽詰めのボーキサイトと、ロトリー国で採れる鉱石のサンプルをいろいろと。こちらでは未解明の鉱石でも、ネイルコードや正教国の方で有用性が分かるかもしれません。
あと、硝石ですね。これの持ち出しには、ネタリア外相がロトリー国の重鎮と結構喧々諤々したそうです。火筒はロトリー国の切り札と言える物ですから。ただ、ネイルコードでは蒸気帆船を外国にも売るという方針は決まっています。ロトリー国からすればまだ蒸気機関を陸上輸送や産業に使う考えは出てきていませんが。風がなくても高速に海を進める蒸気帆船は、火筒以上の最新テクロノジーです。また、硝石は西の大陸でもいちおう見つかっています。
当然ながら船を買うにはお金が必要ですし。外貨を入手するには、ネイルコードでは入手が難しい物を輸出品とすることが必須ですし。船を買う為に輸出品を運ぶ手段としての船を手に入れる必要があるわけで。
ネイルコードに帰ったら、資源輸送専用の大型蒸気帆船…いえもう蒸気船ですね。ネタリア外相はこれの建造を提案するつもりです。量産のアカツキには、ロトリー国はボーキサイトや硝石などでそれらの代金を払って購入することになるでしょう。
他にも、農作物のサンプルもけっこう積んでいます。芋類は、ネイルコードで育てられるか楽しみですね。
「あれ? レイコ殿はどちらに? こちらのレディーは…もしかして遭難者を保護されたとか? …え?レイコ殿?」
「あらら…えらい美人さんになって帰ってこられましたね」
「えっ?うそっ? あれ巫女様?」
はい。待機組のみなさんが、大きくなった私を見て驚いています。…このパターン、ネイルコードに戻ったらけっこう続くんだろうな。
水と食料も、セイホウ王国まで必要十二分な食料と水。…消費した小麦と米の代わりに、トウモロコシ粉が積まれましたが。それらを満載して、ネイルコード船団は出航しました。
トウモロコシ粉…タコスくらいしか知らないけど。パンとか麺とか、色々試してみますか。
蒸気圧も十分に上がったところで。帆を上げ、船を横にスライドさせるように離岸させます。こういう動きには、帆はまだ便利ですね。
十分桟橋から離れたところで帆をたたみ、蒸気機関を始動。スクリューを回します。
「おおお! すこいてすね! 風にさからって動いている! 風が無くても進んている!」
ネイト殿下は、桟橋で別れを告げる同胞そっちのけで。船尾から海面をのぞき込んでスクリューが回るのを見てます。
『殿下! 落ちたら危ないですよ!』
南に面した湾なので、雪が降ることは無いそうですが。それでもまだ寒い時期、落ちたら大変ですからアライさんがヒヤヒヤしてます。ラクーンは、頭身のバランス的に人より見た目危なっかしいです。もっともラクーンは、体重あたりの握力は人を凌駕しますから、まず落ちることは無いと思いますが。
六人のロトリー使節は、三隻に分乗しています。この船には、アライさんとネイト殿下が搭乗していて。護衛役のトクスラーさんは別の船なのです。アライさんがその分、気を張っている感じです。
あと。さすがに王族をアライさんだけに任せておけないので。船員さんが一人、付き添っていますが。
「えっ? もしもの時には抱き上げても良いんですよね? 不敬にならないですよね?」
「はっはっは。もちろんそんなことて問題にしたりはしませんよ。いさというときにはお願いしますね」
人の言葉の学習の為か、船員さんを質問攻めにしている気さくなネイト殿下でした。
「いやぁ。刺激的てすな。なるほとお湯を沸かして…」
甲板は寒いですから。機関室を案内します。
今度は機関室で、技師さんを質問攻めにしているネイト殿下です。
「向こうの船に乗ったケルラール、あれもおそらく無効で質問攻めしているとおもう。一番大人しそうに見えて好奇心の塊てすから、あれはそういうのが大好きなのてす」
ケルラールさんとは、黒点観測していた方で。文官のキュラックさんと三隻目に搭乗しています。
ロトリー国は、冶金面での技術発展は今ひとつでしたが。ロトリー国のレイコが長いこと関わっていただけあって、科学に関する知識はなかなかですし。パンダ王陛下と話していて分かりましたが、ロトリー国のラクーン達は知能もかなり高いです。蒸気機関くらいあっという間に理解してしまうでしょうね。
これで東の大陸に鉄がもっと潤沢だったら。ネイルコードよりずっと進歩していた可能性も高いです。剣や槍などの武器が優先のようでしたから。
ユルガルムに鉄鉱石と石炭…炭素質隕石の残骸が豊富なのは、偶然でしょうか? ロトリーの領域にも未発見の鉱床とかあるのかな?
オラサクを出たその日のうちに、セイホウ王国の租借地オーラン島に到着。島への補給物資を下ろして。要員の交代は今回無しですね。
ここで一泊後、帆走と蒸気機関を使って昼間の内は最速で航行して、来るときに通った海峡を越えて大洋に出ます。湾内での夜間航行は危険ですからね。夜も進みたいのでとっとと大洋に出たいところ。
帰り道は、皆の心が逸りますね。この大洋の向こうに、セイホウ王国が。そして、西の大陸とネイルコード王国がありす。
「島が見えるぞ~っ!」
大洋に出て次の日。マスト上に見張りで登っていた船員さんが叫びます。
「海図だと、島はもっと西のはずだが…」
来るときに見た島ですね。航路の目印になりますし、遭難者の有無の確認の為、接近だけはする予定です。
「いや、ちょっと待て。島なのか?あれは? 動いていないか?」
望遠鏡の覗いていたミヤンカ船長。
うーん。海上にごつこつしたものが出ているのは分かるのですが、陸地だとしても波に洗われるくらい低いですね。特に山とか草木があるわけでも無し。動いているのかどうかは、海の上では比較する物が無くてよく分からないですね。
と思っていたら。あっ! 頭がザバンと出てきました。あれは頭?
「なんだあれはっ!」
「ば…化け物だっ!」
この船くらいなら丸呑みできそうな、巨大な歯の無い口。ジンベイザメ?それでも長さは鯨とかの比ではありません。尾まで全部見えているわけではないのでちょっと全長は測りかねますが。数百メートルでは効かない長さ。
「恐ろしくデカいぞっ! 離れる方向に舵を切れっ! 面舵いっぱいっ!」
旗信号で僚艦にも連絡しました。巨大な生物から離れるため、三隻が同時に左へ舵を切ります。
襲ってこないにしても、あのサイズでは起こす波が脅威です。
「あれは浮島ですね。南の大陸への航海で一度見たことかあります。襲ってくることは無かったてすか。…あれは何を食へているんでしょうね?」
と、ネイト殿下。
「大陸からずっと南の海に、島みたいな巨大な魚がいるという話は聞いたことがありますが…」
ネタリア外相は、うわさだけ聞いたことがあるようです。
「浮島ですか… 巨大な生き物の話は、船乗りなら皆が聞いた事はありますが。鯨を誇張したものだと思っていました。まさかこの目で見ることになるとは…」
オレク司令にミヤンカ船長も驚いていますね。
『資源回収海洋周回生物リンコドン ナンバー32769』
レッドさんが教えてくれます。
資源回収生物ですか… 名前から推測するに、海水中の金属元素なんかを漉し取ってるんですかね?しかも番号が三万番台… どれだけ存在する?いや存在してきのでしょう?
「あ…潜っていくぞ…」
白波を残して、巨大生物は姿を消しました。…赤井さんのサービスだったのかもしれませんね。
雲も少なく晴れた海。波もそこそこ風は追い風。
船団は滑るように、西へ向かいます。
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これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
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